再開太陽の神々の持ち物
『四階層』に降りて内心で座天使を嘲笑ってた後に、ターバンを巻いた冒険者風の男性と話す機会があった。
一心不乱に剣を振っていたので目に付いたのだ。
「よお。騎士の中に一人だけ異質に見えたが何か理由があるのか?」
声を掛けると彼は剣を振るうのを止め、俺に振り返った。
「もうじき俺の国で戦争が起こる。だが、教皇はここに居る。だから俺も居る」
「教皇に戻ってきて指揮をとって欲しいのか」
「そうだ。そのためには強敵とやらを倒さなくてはいけない」
この男、話しが早くて助かるな。
それにどこか懐かしく感じる。何処かで会った訳もないので俺の気のせいだろうか。
「お前、名前は?」
「鳴滝 弘貴。しがない冒険者だ」
そう言ってターバンを外した男性は黒髪だった。男の瞳は茶色だが、俺だって茶色だ。
もしかて日本人か?
「今度はそっちの番だぜ」
「畔木 鴎だ。事態は最悪だが歓迎するよ、日本人」
名前 : 鳴滝 弘貴 (リアス)
種族 : 人間
HP125
MP105
・証
レクタングル王国 ユニックの街 冒険者
・技能
弓術[熟練度4.97]
剣術[熟練度6.40]
棍術[熟練度3.33]
槍術[熟練度6.01]
盾術[熟練度4.19]
武器能力付与[熟練度10.00]☆
武器を手広く使うようだな。どれも一人前の熟練度だ。
・武器能力付与
武器に自身が体験した事のある武器の能力を付与する。
能力が付与された状態の武器は『武器能力付与』の技能を持っていないと能力を発揮できない。1本だけ武器の能力を自身に付与する。
この技能は強いな。概念を武器に上乗せ出来るのだから、技能の中でも上位の部類にあたるのではないだろうか。
「凄いな、どの技能も熟練度が高いぞ」
「鑑定が使えるのか!?教えてくれないか!!今まで鑑定持ちに会った事がないんだ!」
「お、おう」
鑑定結果が書かれた紙を創り出し彼に渡す。
ワクワクしていた彼の表情は、紙を見ると更に輝いた。
「これってユニークスキルだよな!?よっしゃあ!!」
俺が守護者に『武器能力付与』を付けようとしたが、下位の能力と思われる『付与魔法』ぐらいしか出てこなかった。
ユニークスキルで間違いないだろう。スキルと言うより技能なのだがな。
「間違いなくユニークだと思うぞ」
「そうか、ほんとありがとな!いやー、やっぱり、成長を感じ取れてこその異世界だと思うんだよな」
一理あるな。ゲームなんかでもパラメータが上がるのを見守っていくのは楽しいし、その気持ちは分かる。
しかしヴェーデの時もそうだったが、人は魔法を除けば『○○術』という技能を多く持っている気がする。
守護者だとそうでもないが、もしかして技能取得に制限が掛かっているのか?
まぁ、考えてもしかたないか。
「そういえば、1本だけ武器の能力を自身に付与できると思うんだが、それはどうなってるんだ?」
「ん?あー、それは多分コレだと思うぜ」
ナルセが右手首を一周回すと、1本の剣が出現した。
うーん。自身に付与というか、体内に収納というか。でもこの剣ってアレだよな。
「これ、リピードリーじゃないか?」
リピードリーは、俺がやっていたゲームのものだ。
両手で持っても余裕がありそうな柄に、160cm程の片刃の刀身で、刃の部分は湾曲を抑えたフランベルジュの様になっている。
「良く分かったな。もしかしてやってたのか?」
「エバノって名前でやってたな。本垢のワールドは14だ」
「エバノか・・・どっかで聞いたことある名前だな」
ワールドはゲームで言うサーバーのことだ。
つまり、俺は14鯖の住人になる。
「お前のキャラ名は何て言うんだ?」
「俺か?俺はリアスって名前だった。ワールドは同じだな」
「俺、お前と同じクランに居たかも。『アトリビュート』って言うんだが」
「何処かで聞いたと思ってたらお前だったのか。毎年実家のホタル見に行ってた」
「そうそう」
まさかの知り合いだった。
ボッチでプレイしていた俺をリアスが誘ってくれて、そこからクランにも入った。
もうやれないのが惜しいなぁ。
ナルタキから、今後はリアスと呼ぶように言われたのでそうさせてもらう。俺もエバノと呼ぶように言っておいた。
リアスとゲーム談義で話しが盛り上がり、「もう出来ないけどな」の一声で互いに落ち込んだ。
その後は、俺が考えた守護者の案を聞いてもらい、欠点や美点を教えてくれた。俺よりも長くこの星に居るせいか、俺のゲームでのなんちゃって戦術とは違い、実用的なものが多かった。
□
砦への視察も行った。
構造はそのままだが、外見は一新してある。それに合わせて城壁も作ってあるので、以前のようなボロい外見とは大違いだ。
「アバビムの拠点はココから見えるあの山脈です。詳しい場所は分からりませんが、小さな滝の裏に洞窟があり、そこにダンジョンを創っているようです」
「果てしない渓谷ですか・・・、また面倒な場所ですね」
「そんな名前なのですか」
果てしない渓谷。ノーマリー王国、グラキエス教国との間に存在し、それは帝国まで続いているらしい。
南にノーマリー、北にグラキエス、西に帝国がある。
『果てしない渓谷』のお陰でノーマリー王国は帝国への防御箇所が少なくなり身を守れ、グラキエス教国は帝国との直接的な接触を避けれている。それだけでなく、隣接する国々は自然の恩恵を受ける。
全長もさることながら、果てのない自然の恩恵が『果てしない渓谷』の語源となったようだ。
「この中を探すのは骨が折れるのでは?」
「それは鳥を使おうかと思っている。大体の場所は把握してるから後は数で調べられる」
フェーデの質問に答え、周囲の人間の顔を見ていく。質問があればこの場で答えようと思ったからだ。
「砦に兵を置かないのか?」
これはリアスからの質問だ。
確かに守護者を何体か置いておいた方がいいかも知れないな。概念と崩れない壁で守られているが、実際に攻められると安全とは言い難い。
「そうだな、何体かは置いておこう」
「それと、堀と柵を作らないか?」
「ちょっと待ってくれ。堀を作るのはいいが場所を整えないといけない。柵は直ぐにでも創れるぞ」
現在、森の切れ目に壁を張ってあるだけで、遠回りすれば森の中には入れる。もし堀を作るとすれば森全体を囲わなくてはいけなくなるだろう。
「森全てを覆う事は出来るが、生物が居るから難しいな」
「それもそうだな・・・養えはするんだろ?」
「環境は自由に変えられるから飢えることはないだろうが、増えすぎると困る。人を襲う魔物も居るんだ」
こんな、俺とリアスのやり取りを横で聞いていたルーチェがとんでもない事を言い始めた。
「全て殺してしまえばいいんじゃないですか?」
「それは、倫理的にどうかと思うんですけど・・・」
生物が邪魔なら殺してしまえばいいじゃない。
・・・発想が恐ろしい。コイツ、ホントに教皇であってるのか?俺が夢を見すぎているのだろうか?
隣を確認するとリアスが口を開けて驚いていたので、俺の感性は普通らしい。
「教皇様は頭のネジが飛んでるらしい」
「言ってることは合理的なんだが・・・」
日本人2人でコソコソと話し合っていると、今度はフェーデが口を開いた。
「森全てを覆わなくてもいいのでは?森の中に防壁を建てると視界が悪くなりますが、エバノ様は領域に侵入者が来れば分かるのでしたよね」
「それはいい考えかもしれない」
流石だ。どこかのアホ天使とは大違いだな。
ルーチェが何か言わないうちに壁を創ってしまおう。
防壁で囲うのは北の森だけだが、南の森は殆ど手付かずなので構わないだろう。
砦が円の上側にかかるようにして丸い防壁を創った。
南の『大聖堂』方面にも砦を建てて、森の道から入れるようにする。ちなみに、二つの砦の構造は全く同じだ。
防壁の中にいる生物は壁の外に押し出す事で無益な殺傷は避ける。
森を出て人間を襲われても困るので、砦外の森を豊かにした。具体的には、木の実等を増やして生態系のピラミッドを維持出来るようにした。上手くいくかは分からないが、何もしないよりはマシだろう。
さて、砦防衛の守護者だがどうしたものか。
現在のMPは7075。ダンジョン創造初期以来のマナフライ総動員だ。
夜の川であの光景を見たかった。今度、レイとリアスを誘って見に行こうか。ギフトにも見せてやりたいな。
俺が一番好きな景色を。