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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
五章 力戦奮闘
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早朝の霧は考えと同じく

 その日の夜。俺は初めて神と会った場所に来ていた。いや、呼ばれた、と言う方が正しいのかもしれない。

 何時もは俺の背後から姿を見せていた神が、今回は目の前に居たからだ。


 「アバビムとは誰ですか」

 「・・・その件については申し訳なく思っているわ」

 「質問に答えてください」


 神もアバビムと同じ様に俺の話しを聞かないのか、と怒りの炎が燃える。

 それを感じ取ったのか、彼女は口を開くとアバビムについて話し始めた。


 「かつて楽園があったの・・・。どんな生き物も互いを攻撃せず、平和に暮らせる世界が。・・・アバビムとスワイヴもそこに居たわ。彼等に私は言ったの、『生命の樹』の果実を食べなさい、と」


 『生命の樹』は俺の技能にもある。樹になる果実を食べると、不老になり、寿命で死ぬ事は無くなる。つまりは不老不死になれる果実だ。


 「だけど蛇に唆された彼等は『知恵の樹』の果実を食べてしまった・・・。知恵の果実は禁断の果実とも言われていて、食べると全ての善悪を知ることが出来るの。・・・死んでしまうけれどね」


 『生命の樹』と対になる能力だろうか。

 だがこの話し、どこかで聞いたことがあるような気がする。


 「『知恵の樹』の果実を食べた彼等は、次に『生命の樹』の果実に手を伸ばした・・・。このままじゃ死んでしまうもの、当然よね。後からその事を知った私は2人を地獄へ追放し、唆した蛇には地を這いずる様に罰を与えた・・・」


 神は深呼吸すると、また話し出した。


 「・・・私はこんな事が二度と起きないように世界のステージを下げたの。それにより『知恵の樹』も『生命の樹』枯れ、生き物は寿命に縛られるようになった。でも、・・・アバビムは現世に居た。地獄は霊魂だけを捕らえるから肉体が独りでに動く事は無いはずなのによ」


 思い出した。この話し、アダムとイヴじゃないか?

 俺の知ってる話しでは、アダムとイヴは『生命の樹』に手は出してないはずだ。少しズレているがエデンの園の話しと似ている。


 「逃げたということは有り得ないのですか」

 「・・・地獄は場所ではなくて概念なの、それを抜け出すなんて不可能に近いわ。地獄より強い概念を生み出すか別の方法を考えないと」


 地獄は神が創った概念であり、破壊は不可能。

 となると、どうやって抜け出したのか。別の方法を考えると言ったって・・・いや、『知恵の樹』の果実を食べているのならば、脱出の方法も知っているんじゃないか?

 それならば何らかの条件が合えば抜け出せる。

 霊魂を呼び寄せる方法、俺はソレを知っているかもしれない。


 「・・・何者かによる召喚。それならば脱出は可能ですか?」

 「可能だけれど、それでは術者が居ないわ。・・・神に近い能力を持った生き物なんてアバビムとスワイヴの他に居ないもの」

 「蛇はどうです?」


 首を傾げる神に続きを語る。


 「アバビムとスワイヴが両方の果実を食べた時、2人を唆した蛇も居たはずだ。それならばその蛇が果実を食べていてもおかしくは無い」

 「少し待って・・・」


 慌てた様子で周囲を見渡し始める神。その頬に一筋の汗が流れた。


 「居ない・・・」

 「まさか、」

 「居ないのよ・・・蛇が!転生輪廻(てんしょうりんね)で魂は(まわ)ってる筈なのに・・・」

 「どういうことですか?」

 「・・・転生輪廻で廻ってる筈の魂が見えないということは、その魂が無くなっているか、私の手を離れている事の現れ」


 神の手を離れる。それは、独立した存在の誕生を意味しているのではないだろうか。

 アバビムとスワイヴが果実を食べた事に後から気付いたのも、アバビムが地獄を抜け出して現世で活動していたのも、神の支配下に彼等が居ないからではないか。

 それならば『束縛の魔眼』が効かなかったのも頷ける。


 「・・・ルーチェが貴方のダンジョンに来るわ」

 「ルーチェ?・・・知らない名前ですが」

 「グラキエス教国、教皇ルーチェ・クルイロー。座天使にして、現世最高位の天使。階級は貴方の一つ上よ」


 教国のトップが天使なら権力天使が居た理由になる。俺の建国をあっさり認めたのもその為かな?


 「彼女と協力してアバビムを倒してくれるかしら。・・・もちろん私に出来ることはさせてもらうわ」

 「こちらからお願いする所ですよ。アバビムには随分大きな借りが出来ましたから」

 「じゃあ、目を閉じて・・・」


 神が右手で俺の(まぶた)を撫でた。

 再び俺が目を開けると、いつの間に戻ったのか『謁見の間』の玉座に腰掛けていた。


名前 : 畔木 鴎 (エバノ ・ シュヴァルツヴァルト)

種族 : 主天使

HP200

MP4975


・証

エデンの監視者

シュヴァルツヴァルトの主


・技能

剣術[熟練度2.01]

 支配域掌握[熟練度10.00]☆(支配域鑑定 + 人宮一体)

 矛盾(ほこたて)[熟練度10.00]☆(支配域創造 + 守護者創造)

 食料創造[熟練度7.11]

 火魔法[熟練度2.76]

 土魔法[熟練度1.25]

 神憑り

 生命の樹

 束縛の魔眼


・支配域掌握

支配域を自身の思い通りにする事が出来る。

限定的な概念を生み出す事が出来る。


矛盾(ほこたて)

『支配域掌握』と連動しており、『支配域創造』、『守護者創造』により矛と盾の役割を果たす。


 新しく増えたのは2つの技能。

 待ちに待った複合技能だ。領域内という限定的な能力ではあるが強い事に変わりはない。


 「『畔木 鴎を傷つける行為は行われない』」


 例えば、俺がこんな概念を領域に用いれば、領域内では俺は傷つかないという事になる。

 解除して本命の概念を告げる。


 「『アバビム、スワイヴと関係のあるものは領域内に入れない』」


 この概念も上位の生物に通じるかどうかは分からない。だが、気休め程度にはなる。

 詳しくは明日だ。俺の2つ上、智天使が来るからその時に作戦を練らせてもらおう。


 □


 翌日の早朝は霧が出ていた。俺達が苦労しておこしたこの霧が今は忌々しく感じる。


 騎士達を森の縁まで見送らせ、フェイクが拠点にしていた砦を改修した。それに伴って森の北部には3重の壁を張り巡らせてアバビムへの防備を固める。

 『支配域掌握』のお陰か、支配域を弄ってもMPの消費は無くなった。武具等の創造も恩恵を受けている。


 智天使が来る前にアバビムをどう殺すか考えてみよう。

 まず、俺自身が殺すことは絶対に不可能である。『束縛の魔眼』は効かないし、身体能力でも負けているからだ。

 次に守護者はどうだろうか。これが一番有効そうな気もする。単体では勝てなくても数の暴力や戦略を駆使すれば勝てないことも無い。

 そして、座天使。そもそも俺が座天使の権能を知らないのでどうしようもない。


 二つ目の案がマトモだが、フェイクが『催眠術』で言っていた人口の飽和。この話しが真実であれば数の有利も無くなる。

 アバビムは配下を操って爆発するような奴であるし、コチラが不利になるだろう。


 爆発の対処法としては遠距離からの攻撃だろうか。銃器を持ち出せば集団でも殲滅は容易に行える。魔法があるのだから使い方次第ではより強力にもなるのは明らかだ。

 銃となると『鉱物精製』、『火魔法』辺りの技能だと考えられる。『火魔法』で飛ばさなくても『風魔法』、『雷魔法』を使えば代用は可能。

 他にも、大量の刃物を振り回す、水を撒いて感電させる。どちらも集団戦では大きな戦果を期待させる。


 いっそのこと、『爆発無効』を付けるか。それよりも他の技能を幾つか入れる方がいいのか?


 一つ一つ思い浮かんだものを紙にメモしていく。

 アイデアは浮かんで来るものの、そのどれもが集団戦に対する物ばかり。アバビムを殺せる様な物ではない。

 ダンジョンは守りは強いが、他のダンジョンに攻めようとすると能力は激減してしまう。相手のダンジョンでは自身の能力は効果を発揮しないし、構造は相手の思うがままだ。


 レイの様に第三者のダンジョンでの戦闘ならばまた違うのだろうが・・・。

 ん?ならばどうしてレイは苦戦していたんだ?ダンジョンの構造を変えれば幾らでも籠城出来たと思うが。


 「レイ、少しいいか?」

 「なんでしょうか旦那様」

 「お前がリーグナに襲われていた時のことだが、どうしてダンジョンの構造を変えなかったんだ?」

 「たしか、変えようとしたんですけど全く変化しなかったんです」


 変化しない?そんな馬鹿な事があるのか?DMOが何かをしていた様な痕跡は無かったんだが。


 敵対関係にあるダンジョンにダンジョンマスターが侵攻すると構造を変更出来なくなると仮定すれば、能力が拮抗していると考えるべきだろう。

 フェイクと俺の技能が反発したような現象が起こったのかもしれない。


 「戦、ですね・・・?それも大きな」

 「そうだ」

 「私も参加させて下さいませんか」

 「駄目だ。今回は生死が掛かってる。お前に死なれたら俺が困る」

 「それならば私も同じ事です」


 胸に右手を添え、力説するレイ。彼女の強い瞳が俺を捉える。

 ギフトの両脚が無くなっただけで俺の心は荒んでしまっている。その上、レイに何かあれば俺は狂ってしまうかも知れない。その時に俺が生きていればだが。


 「旦那様が私を死なせたくないと思っているのと同じ様に、私も旦那様を死なせたくありません。ならばこそ、傍に置いて頂きたいのです」


 それは確に、そうかもしれない。

 今は少しでも戦力が欲しい。彼女の守護者が加われば少しは楽にはなるだろう。


 「いいか、来るのは良いが俺達に護衛は着かない。何かあっても自分の身は自分で守れよ」


 笑う彼女に背を向け、ダンジョンに溶ける。

 『人宮一体』が『支配域掌握』と成っても感じる、ダンジョンが俺に語りかけて来るような感覚。それは、俺の心を静める緩衝材となっていた。

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