催眠術にて
フェイクside
私の名前はフェイク。楽園を追われた一人。
楽園での生活は楽しかった。でも、人数が増え過ぎたから一部を地上に降ろす事になった。
家族は神の領域の拡大の手助けが出来るなんて大変な事だと喜んでいたけれど、私は捨てられたんだと思った。
私の家系は神の血が濃いらしくて、護衛を付けてくれた。
怖がりな少年ルードと、ルードの幼なじみだと言う少女ラミの2人。2人共、大人達に捨てられた事が分かっていないのか、すごく笑う。
私もお姉ちゃんが居なければ捨てられることは無かったのに・・・・・・。
神の領域を抜けると、洞窟の中に出た。薄暗くて何も見えないし、 ドドドドドッ! と、大きな音もする。
ルードはラミに抱きつき、ラミはルードを庇うように覆い被さる。2人が静かになった事で音が鮮明に聞こえる様になった。
洞窟の壁に手を付きながら歩いていくと、水の壁に道を阻まれた。どうやら滝の裏側みたい。
意を決して滝へと歩を進めた。水の奔流にもみくちゃにされて水上に出ると、そこは緑が綺麗な森だった。
そういえば護衛はどうなったのだろうかと振り向いてみれば、バタバタと2人が浮き上がってきた。2人を引っ張って、腰まである水の中を歩く。
岸に上がって滝を見てみると、洞窟の中で聞いた音が出るとはとても思えない。反響でもしていたのかな。
□
森での生活は大変だ。水はあるけど、食べるものが少ない。
魔法があるから動物にあえば食事にはありつけるけど、子供3人が見つけられるような動物は小鳥が精一杯。
それでも少しずつ山を降っていくと、古い石造りの建物が見えた。
安全かどうかなんで森での生活で疲れていた私には考える暇もなかった。
思いっきり扉を開けると、目の前に居たのは太った人間の様な髭がたくさん生えたバケモノ。
見たことの無い生き物を前に、私は腰を抜かして後ずさる。
ゴガァァァ!!
低く、重い声と共に私へと迫る腕に死を覚悟しました。
その時、バケモノの顔に何かがぶつかり、顔をあらぬ方向に曲げた。
ユックリと後ろを振り向くと、ラミが手を前にかざしていた。涙で目は充血し肩で息をしているが、私は彼女に救われた。
私の方が歳上なのに情けない。
その思いが私の中に芽吹き、2人を絶対に守ってあげようと思った。
初めて生き物に襲われた恐怖は中々抜けなかったけれど、襲ってくると分かれば私の心持ちも変わってくる。
バケモノを倒しながら建物の中心地へと向かった。
今までは使う機会が無かったけど、私の力は知っている。神が教えてくれたから。
「『偽りの楽園』」
神の血が濃くなると、子供が神の能力の一部を持って産まれてくる事がある。
私のもそれの一つ。
この能力の中に居る生物は、術者とソレに伴う者を襲わなくなり、言うことは聞いてくれる様になる。
神の劣化なので何度かけ直さなければいけないけれど、私にはそれで十分だった。
しばらくして、森に変化が起きた。
南の方に変な建物が出来たみたい。友達になった髭モジャに見てきてもらうと、豚さんが人間と会っていたみたい。
でも豚さんは死んだらしい。
私は怖くなってもう一度偵察を出した。
男の大人と女の大人が2人で歩いていて、穏やかな顔をしていた。
その男の人が来た。髭モジャさんは死んだみたいで動いてくれない。
家の中の髭モジャさんも動かない。男の人は居ないのにどうして?
急いでルードとラミを部屋の奥に隠して入り口を注意深く観察する。何かが燻る様な違和感を感じた。
火球を飛ばしてみると違和感は消えた。
これが家の中で髭モジャさんを殺した犯人?
そして、男の人が来た。
男の人は背中から翼が生えていた。神から聞いたことがある。
天使とは敵対してはいけない。
でも、もう遅い。私は壁にぶつかり、お腹を抉られて・・・諦めた。神の意思に反した私が悪いのかもしれない。
神に捨てられた私達は何かしたのかな?
明日もあります。
次回は2,500程の字数です。
短いですがご了承ください。