砦の吸血鬼
MP2337(+2150)→4487
翌日の朝食の場。
食堂での食事も人数が増えたことにより賑やかに・・・は成らず、黙々と食器を動かす俺と守護者達。
これは俺が命令した訳では無いのだが、ギフト、マイン、クローフィ、アクルがちょっと煩かったので注意したらこうなってしまった。
その分、食後には全員が席について話し出すのが定着していった。俺はソレを聞くのが好きだし、守護者の意見を聞くのもダンジョンマスターとして正しい行為だろう。
「エバノ様。昨日のオークの件を報告致しますわ」
これはマインからだ。普段はカモメ様と呼んでくるのだが、今は騎士達も居るのでエバノ様になっている。
「オークを無事、全滅いたしました。コチラの損害はゼロ。巣穴に捕えられていた職人らしき人物を保護しているのですが、彼等はどういたいましょうか」
「ご苦労だった。そうだな。職人は騎士達が帰る時に連れて行って頂きたいのだが。よろしいか?」
「かしこまりました」
それは朝から『人宮一体』で確認出来ている。
騎士からの了承も得られたので職人の件に関しては大丈夫だろう。
「スキアー、今後は南の森を重点的に探索してくれ。探索終了後、領域を広げる」
「かしこまってござる」
後はオグルの報告だが、コレはフクロウしか知らないのでこの場では話さなくても構わないだろう。敵に気取られないようにするためにも無駄な警戒は避けるべきだろう。
話しが終わったので解散。
『大聖堂』へ行くと、天井からフクロウが飛んできて、肩へと停まった。
フクロウからの報告によると、森の中にある砦跡地にオグルが入っていくのが分かった。追っていたオグルの他にも、二体一組で行動しているのだろうペアが出たり入ったりとしている。
拠点はココで間違いないようだ。
「分かった。ありがとう」
フクロウに天井に戻るように伝え、どう動くかを考える。南の森を完全に掌握してから攻勢に出た方が良いものだろうか。
現在のMPはオークから回収したMPが合わさり、4487だ。南の森を領域に収める分のMPも残して置かなければならないので、守護者を創るにしても考えなければいけない。
MP4487(+700)→5187
マナフライからMPを貰い、どんなタイプの守護者を創るかを考える。相手が偵察を出しているので、出来るだけ全体を同時に攻撃したい。それも、敵にバレずに。
・ジャンル選択[死]
・造形『霧』
・細部設定 技能『隠密』『気体操作』『毒精製』『風魔法』
消費MP63
・創造しますか?
«はい» «いいえ»
・名称『ミストーカー=デス』
完全にネタ名称である。
ミスト + ストーカー = ミストーカー
我ながら素晴らしいネーミングセンス()をしていると思う。
霧自体の消費MPが10だったので低MPで創ることが出来た。『気体操作』が消費MPの半分以上を占めているが必要な技能だと思うので外すことは出来ない。
ミストーカー=デスを30体創造。
MP5187(-1890)→3297
身体が霧なので、条件を整えて戦う事になるだろう。魔法があるので霧ぐらいは発生させられそうだ。
ミストーカー=デスはまだ存在を知られたくないので適当なアーマー系の中で待機してもらおう。
□
午後は南の森を領域に取り込んだ。
オークが上位の魔物であったようで他の魔物から特に反抗は無かった。狼やゴブリンを見かけたが、支配者が変わったのが分かるのか、攻撃はしてこなかった。
MP3297(-500)→2797
南の森攻略が終わったので、次は北の森の砦だ。
俺の技能で領域内に暖かい空気を生み出し、『風魔法』を使える守護者達が北の森へと流す。
ソレを何度か繰り返す。後は冷やすだけで霧が出来る筈だが、もし出来なければ『火魔法』と『水魔法』で無理矢理生みだそう。
北の森が領域内なら俺だけで霧を出せるんだが、不用意に北の森に行きたくない。
南攻略の際に余ったMPで更にミストーカー=デスを30体創造。
MP2797(-1890)→1907
そういえば霧って直ぐに出来るのか?夜に霧が出たら作戦実行に移ろう。
□
夜が近づいてきたので、昼とは違い、冷たい空気を北へと送る。
保険として魔法で霧を生み出し、それらも流していく。魔法で生み出した霧は自然現象のソレよりも地表に長く留まる。因みに『火魔法』と『水魔法』だ。
魔法による霧が北の森を覆い尽くそうとしている頃、俺は領域を増やしながらミストーカー=デスを30体連れて北へと向かっていた。
今回の戦闘は俺とコイツらだけで行う。ほかの守護者は、計画自体は知っているかもしれないがいつ実行するのかは知らないからな。
『支配域創造』により、敵の位置を把握して迂回する。目標はオグルの拠点の砦だ。
支配域を増やしていくと、何か、弾かれるような感覚があった。
何度試しても支配域を広げようとする力が進まない。拮抗して消滅するような感じだ。
おそらく砦の主の技能に『支配域創造』と似たようなモノがあるのだろう。ということは、俺の存在が今のでバレたと考える方がいいだろう。
「作戦変更だ。ミストーカー=デスは敵に攻撃せず砦へと向かえ」
領域を広げるのを止め、砦へと向かって走る。
ミストーカー=デスは戦闘を行わずに砦へと向かわせ、敵に俺だけしか居ないと思わせようという魂胆である。
砦の主から指示を受けたのだろうオグル達が集団で襲い掛かってくるが、種族的な身体能力にものをいわせて腕を振るう。『人剣一体』で俺の思考を読み、アイリードが腕から飛び出る。
灰色の脳漿が飛び散り、目玉が飛び出す。対処が難しい時には『火魔法』で敵を焼き、時間を稼ぐ。『土魔法』は、魔法の発動面である地面に視線が行ってしまうのでこういう時には使いにくい。
俺もオグルを適当にあしらいながら砦へと到着した。
既に戦闘は始まっているようで、砦内には無傷のオグルが倒れていた。ミストーカー=デスの毒が効いているようだ。
「・・・ッ!」
その時、身体に電流が流れた気がした。何かが落ちていくような喪失感。何が起きたのか・・・。
呆然としているとミストーカー=デスが俺の周りに集まってきた。・・・その数は29。
「あと一体はどうした」
聞きたくなかったが、聞かないわけにもいかない。
帰ってきた返事は、先行したミストーカー=デスは敵の魔法により死亡した、ということ。
確かに砦の中では霧は薄らとだが目視は可能だ。だが、何も出来ずに死ぬなんてありえないだろう。相手はオグルだと思っていたが、もっと格上なのかも知れない。
「お前達は下がっていろ、俺が殺る」
敵がオグルだろうが、そうじゃなかろうが、そんなものは関係ない。何であろうとも地獄を見せてやる。
守護者が死んだのは初めてだが、すこぶる機嫌が悪い。俺が増長していたのが原因だが、少しぐらい八つ当たりしたって構わないだろう。
「『神憑り』」
その言葉と共に背中から一対の翼が生えた。身体は驚く程に軽く、羽になった気分だ。
足取り軽く(実際には飛んでいるが)ミストーカー=デスが死んだ場所の近くまでやってきた。そこは重厚な扉で仕切られており、この先にボスが居るのだろう。
両手で扉を押すと音を立てて勢いよく開き、・・・俺に向かって火球が走ってくる。
俺に着弾するかに思えた火球だが、ディアの『魔法全反射』により跳ね返る。
「なんで!?」
火球の向こう側で甲高い声が聞こえた。この声は人間か?火球を避けるために上へと飛び出した影を目で追うと声の主の正体が分かった。
紅い瞳にコウモリの翼、少し尖った犬歯。
飛んでいるために身長は分からないが、160は無いと思う。
「ヴァンパイアか」
ヴァンパイア。クローフィの様な模倣ではなく、本物の吸血鬼。
金色のロングヘアーに挑発的な態度でコチラを伺う少女は、紛れもなく人外だった。
「天使がなんでココに!?」
「お前が俺を見張っていたからだ」
「じゃあ、あのダンジョンは、まさか・・・」
「ご名答。じゃあ、正解の御褒美をあげようじゃないか」
状況が飲み込めていない彼女に微笑んで、一言。
「死ね」
今さっき出てきたばかりの翼は俺の思い通りに宙へとはばたき、瞬く間に距離を詰める。少女の首を片手で掴み、ホバリング・・・しようと思ったのだが、どうやら出来ないようで高度が落ちていく。仕方ないので背後の壁へと向かって投げつてやる。少女は ドンッ!! と音を立てて床へと落下した。
「・・・カホッ・・・、ゲホッ、ゲホッ」
血反吐を吐きながらも立ち上がろうとする少女に『束縛の魔眼』を掛け、背後へと移動する。
解除と共にコウモリの翼膜にアイリードを突き立てていく。
止めて。刺して。止めて。刺して。止めて刺して止めて刺して止めて刺して止めて刺して止めて刺して――
羽が千切られた布の様にズタボロになった少女は、ガタガタと震えながら紅い瞳に涙を浮かべる。
「なんで・・・、私が、どうして・・・」
「どうしてか教えてやろうか?」
綺麗な金髪を掴み、無理矢理俺へと顔を向かい合わせる。シャックリの様な悲鳴を出した少女に今の俺はどう映っているのだろうか。
「俺の配下を殺したからだ」
「あやまっ、謝るから――」
謝罪の言葉を言う前に脇腹にアイリードを突き刺し、抉る。
声にならない悲鳴が響くが『束縛の魔眼』で抑え、ディアに肉体の補完を頼む。
束縛を解き、問いかける。
「吸血鬼ってさぁ、再生するの?なぁ?」
が、悲鳴が酷くて話しにならない。
回復魔法でも使えれば良いんだが・・・。