戦力増強
パペル殿と話しを煮詰め終える頃には、既にいい時間になっていた。
ダンジョンに来る人数が増えたために食堂も増築されている。夕食をとる間中、レイの機嫌を伺っていたが別に怒っている様子は無かった。
夕食後に時間を作りレイと二人きりになった。
彼女はどうして呼ばれたのか分からないようで、首をかしげて思案顔だ。
「私、何かいたしましたか?」
「いや、そんな用件で呼んだんじゃないんだ。今日の事で少し謝りたくてな」
「今日の事?」
どうやら本当に分からないようだ。
「パペル殿との会話に夢中でレイのことを忘れてたんだ。長い間待たせてすまなかった」
誠意を込めて頭を下げる。
彼女から驚いたような空気が感じられ、返事が帰ってきた。
「あ、いえ、あの程度でしたら待って当然ですし、大事なお話しをされていたのでしょう?」
「それはそうだが・・・」
「であるのならば私から言うことはありません」
出会った時から思っていたのだが、レイは何処かの姫だったのではないだろうか。
対応や礼儀作法も非の打ちどころがないし、服装もきちんとしたものだった。俺が血塗れのシャツだったのを思えば、自然死か病死したと考えるのが妥当であろう。
少し話しが逸れたが、それなりに高貴な人物である事に違いはない。
「そうだ。一緒に考えて欲しい事があるんだ」
法律も一人で決めるよりは二人の方が捗るだろう。日本のものを基準にすればいいのか、王国や教国のものを基準にすればいいのか分からない。意見を聞くものもいいな。
□
翌朝。
ある程度決まった法案を持ってパペル殿と話しを続けていく。今日はレイも参加だ。彼女にも意見を求めたのだから参加する資格はあるだろう。
「エバノ様、この法律は流石に・・・」
パペル殿が渋面で告げたのは、犯罪者に対する処罰についての項目。
そこには『犯罪をおかしたものは全て死刑』と書かれている。これには俺も流石にやりすぎかと思ったが、犯罪をおかさなければいいだけの話しである。
「今の所人が入る予定もないんだ、構わないだろう。それに絶対的な秩序というのはわかりやすくていい」
「・・・そうですか。では、次にこれですが」
納得いかない様だが、それ以上口出しはしてこなかった。
昼前頃には一旦の終わりを見せた。元となる法律があるのでこの短時間ですんだのだ。
「騎士の派遣についてですが、本日から練習させていただくことは可能でしょうか?」
「構わないぞ」
以前話していた、週に一度の騎士との練習試合。それを今日から行うようだ。
未だに武芸技能の熟練度が5を超えているのはブリッツとギフトだけだ。
守護者は人間と違い、熟練度が上がるのが早い気がする。守護者創造から一月も経っていないのに若手の騎士と同等かそれ以上。クレイドルの従者として来ていたブレネンの年齢は18だったはずだが、それでも熟練度は2だった。明らかに成長速度が違う。
数がいないのが難点だがな。
パペル殿を連れて『四階層』へと向かった。
そこでは麒麟と騎士を乗せた馬とが速さを競い合っていた。騎士がいくら鎧を脱いでいるからと言って麒麟に勝てるとはと思わないのだが、盛り上がっているようなので放っておこう。
練習試合をする騎士達は鎧を着始めた。
競馬でも金をかけていたようだが今回もどちらが勝つかで騒いでいた。
守護者には全員戦闘用の甲冑を渡してある。武者が着るような鎧だ。籠手には念入りに筋金を入れたし、動きやすいように調整もしてある。
西洋鎧は素材を叩いて伸ばして作られているが、武者鎧は違う。一つ一つが重く、硬く作られているが、その分動きやすいように出来ている。うちのダンジョンのアーマー達には中に人が居ないから関節部が自由に動き回れるが、ギフト達はそうもいかない。
木剣を持って対峙し、戦闘訓練がはじまった。
見たこともない鎧にどう攻めた事かと様子見をしていたが、武者鎧はよく見れば穴だらけだ。動きやすさを重視してあるのもあるが、肩当など、捲られれば弱い部分も多い。
「エバノ様、騎士たちがあの鎧について話しをお聞きしたいようなのですが、よろしいでしょうか」
「なんなら付けてみるか?」
試合をしている間、騎士とパペル殿が何事か話しているなと思っていたがこの事か。
生産コストは低価なので一つくらいくれてやってもいい。
騎士達の前に歩いていき、甲冑を創る。
「戦闘で使われているのと同じものだ」
着方で悩んでいるようだが、それは俺も体験した。鎧を真っ直ぐ着用するにはしっかりと調整をしなければならないのだ。
まぁ、精々頑張ってくれや。
俺の現在のMPは23,327。2万3千と少しだ。
万、というのを見るのは初めてで少し驚いている。
これらはリーグナ戦で手に入れたMPだ。武具を創るのに幾らか消費したが、それも誤差に過ぎない。
MPは戦力の増強に費やす積もりだ。
現在、地上部を含め、階層は全部で7つ。『一階層』は橋とエレベーター。『五階層』、『六階層』はレイの階層である事を考えれば、階層は4つ。
『大聖堂』51体
スキアー、ハヤブサ×50
『二階層』88体
ブリッツ、フランメ、ガーゴイル×8、チルアーマー×3、シールドアーマー×15、スナイプアーマー×45、インプ×15
『三階層』87体
ギフト、マイン、クローフィ、アクル、マナフライ×15、ライトアーマー×48、ワーカーバット×20
『四階層』27体
リェース、妖精×10、馬×15、麒麟
戦闘時に期待できるのは以上挙げた253体。
多いように聞こえるが実際には少なすぎる。ダンジョン系の小説では大抵が短時間でこの数ぐらいは用意出来る。誰だ30話以上掛けてるやつ。
それは置いておくとして、ダンジョンの広さに対して守護者の数が少ないのだ。
なので有り余るMPで一気に守護者を増産しようと言うわけだ。
・ジャンル選択[死]
・造形『鎧』
・細部設定 技能『剣術(ブースト+40)』『身体能力強化』『物理耐性』『連携』『光魔法』『闇魔法』
消費MP95
・創造しますか?
«はい» «いいえ»
・名称『フロントガード』
コイツを100体創造。23,327(-9,500)→13,827
彼等は『大聖堂』の戦力で、『光魔法』、『闇魔法』を付けているのは視界を奪うためだ。アーマー系の強みとして、光によって視界が左右されないというのがある。目がないから当たり前なのだが。
目が見えない状態で『連携』しつつ『魔法』を撃ってくる鎧が100体。果たして対処出来るだろうか。弱点は目がある他の守護者と協力出来ない点だが、それは些細な問題だ。
・ジャンル選択[死]
・造形『鎧』
・細部設定 技能『剣術』『氷魔法』
消費MP67
・創造しますか?
«はい» «いいえ»
・名称『チルアーマー』
13,827(-3,350)→10,477
ブリッツのお供でお馴染み(?)のチルアーマーを50体。
ブーストしていないのは、コスト的な問題もあるがブリッツが自分で育てたいと言っているからである。HPやMPが低くてもそれを技量でカバーしてこそだ、と聞かないのだ。俺的にはべつに構わないし、彼の意思は尊重する。
・ジャンル選択[陸]
・造形『ガーゴイル』
・細部設定 技能『身体能力強化』『物理抵抗』
消費MP68
・創造しますか?
«はい» «いいえ»
・名称『ガーゴイル』
10,477(-3,400)→7,077
ガーゴイルも同じく50体創造する。ガーゴイルは『二階層』の廊下にでも座らせておく。
一気に殲滅する方が楽でいいが、それでは味気ないだろう。『大聖堂』は何かって?知らんな。
『三階層』にはどんな守護者を追加しようか。名持ちしか居ないので判断に迷ってしまう。
技能名が『守護者創造』なので技能の後付けは出来なさそうだしなぁ。
『四階層』まで来られたら俺は死んでると思うので『四階層』の守護者を作るわけにもいかないし。
リーグナの魔物を真似してみるか。
ケンタウロスは最低でも100必要で、ミノタウロスは200。コスパが悪すぎる。アイツ、こんなの使ってるから負けるんだよ。
最終的にはMPを全て費やして1体の守護者を創る事にした。秘密兵器的なヤツである。
・ジャンル選択『空』
・造形『竜人』
・細部設定 技能『威圧』『格闘術(ブースト+100)』『硬化』『再生』『身体能力強化』『物理抵抗』『魔法抵抗』『火魔法(ブースト+100)』『風魔法(ブースト+100)』『土魔法(ブースト+100)』『氷魔法(ブースト+100)』『雷魔法(ブースト+100)』『HP増加』『MP増加』 才能(ブースト+100)
消費MP1,281
・・・すまない。正直、7千も使いきれない。
取り敢えず創造しておく。
・名称『ガブリエナ』
ガブリエナは竜人だ。軽度のケモナーには悪いが、人間的要素は二足歩行しかない。
顔も思いっきりドラゴンである。爬虫類である。
全身は赤みがかった白の甲殻で覆われていて、手、足共に鋭い爪が生えている。背中からは彼女の身長ほどの高さのある一対の翼が優雅に風を受けていた。
蛇の様な瞳に、額には甲殻と同じ配色の一本角。顔は全体と比べて小さく、その分首が伸びている。ほっそりとした首はそれだけで神秘的だった。
逆三角形の様な形の頭部。その口元には鋭い歯が見える。
「俺は言いたいのだ。耳や尻尾を生やしただけで擬人化とは言わないと!それならせめて人間の耳は外してくれ!俺もケモナーだ!擬人化が悪いとは言わない。むしろ好きだ!だからこそ中途半端な擬人化は・・・」
俺の心の叫びはガブリエナが止めるまで続いた。
MP7,077(-1,281)→5790
・ジャンル選択[陸]
・造形『人型』
・細部設定 技能『鍛冶術(ブースト+100)』『身体能力強化』
消費MP171
・創造しますか?
«はい» «いいえ»
・名称『シュタール』
最後に、創り忘れていた日緋色金を加工するための鍛冶師(女性)を創造した。必要な機材を教えてもらい、ダンジョンの一室にそれらを作っていく。
「何を作ればいいの?」
「そうだな。性質的に鎧は難しいから武器で何か頼むよ」
「分かった。デザインに希望があれば入れるけど?」
「お前に任せる」
シュタールはアクルとはまた違った、明るい女の子の様な口調で話す。
デザインについて聞かれたが、俺としては使えればなんでもいい。
ガブリエナはド〇クエJOKERのディアノーグエースを白くして一本角を生やしたような感じです。