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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
四章 魑魅魍魎
33/145

シュヴァルツヴァルト

 フランメの鎧を脱ぎ、動けないリーグナをフランメに担がせてレイ達と合流すると何故か怒られてしまった。

 どうやら苦戦しているフリをしていたのが悪かったらしい。

 お陰でレイが泣きながら抱きついてきたのでプラマイゼロだろう。どちらかと言えばプラスだが。


 レイのダンジョンは俺のダンジョンに『五階層』、『六階層』として合流した。

 ダンジョンの統合はダンジョンマスターの意思一つで自由に行えるらしく、何の問題もなく一つのダンジョンとなった。『五階層』、『六階層』の主導権はレイにあるが、俺でもある程度は操作出来る。その分MPが掛かることも知った。


 そして今。

 帰ってきて、リーグナで遊んでから寝ようとしていたのだがレイが俺を尋ねてきた。


 「で、何の用だ」


 自室へと移動し、彼女へ問いかけると思わぬ答えが帰ってきた。


 「エバノ様、私を抱いていただけませんか?」

 「・・・頭がおかしくなったのか?」

 「強い者に従うのは当たり前です。ましてやそれが命の恩人なのです。強い血を後世に引き継げ、なおかつ私も嬉しい・・・のです」


 最期の方は尻すぼみになっていたが、彼女が言いたいことは分かった。


 「妻になると言うことか?」

 「・・・私でよろしければ」

 「それなら覚悟しとけよ」

 「何をでしょうか?」

 「戦闘後の俺は、結構Sが入るらしい」

 「S?ですか?」


 「サディストの事さ」と答え、レイを手元へ引き寄せる。リーグナ、命拾いしたな。

 レイならば、ダンジョンマスターならば寿命で死ぬことはそうそうないだろう。容姿も悪くないし、性格も短期間ではあるが、ある程度分かってきた。


 解かれた薔薇色の髪が布団に拡がり、シーツに血の染みを作り出した。


 □


 今は何時だろうか。

 昨日、もう今日か。今日は深夜にレイと遊んでから二人とも直ぐに寝てしまった。


 「・・・昼か」


 懐中時計を確認してみれば正午の手前といった頃合だった。

 寝返りをうち隣を見てみれば安らかに眠るレイが居た。乱れた韓服とピンク色の髪が扇情的で可愛らしい。

 ねちっこく攻める俺に呆れることなく最後まで付き合ってくれたのだ感謝して当たり前だろう。


 「レイ、起きて」

 「んっ・・・?、ん~~」


 彼女は寝ぼけているのか抱きついてきた。

 唇を奪い、しばらくすると覚醒してきたようで、蕩けた顔をしながらもしっかりと言葉を紡いだ。


 「おはようございます・・・旦那様」

 「おはよう。ところでその旦那様ってどうにかならないか?」


 惚気話を続けながら起き、自室から出るとギフトが控えていた。


 「パペル殿がいらしてますが」

 「少し待ってもらえ、風呂に行ってくる」

 「かしこまりました」


 レイと共に浴場で臭いを消し、応接間へと急ぐ。レイは応接間の前で待機してもらい扉をノックして開ける。

 パペル殿とヴェーデが居たので、何事か話していたのだろう。大体想像はつくが。


 「すまない。待たせてしまったな」

 「いえ、お構いなく」


 社交辞令も程々に本題に移る。


 「エバノ様のご要望であった、服と綿花、食糧と家畜をお持ち致しました」

 「ご苦労だったな。コチラも準備は出来ている。物資は何処に置いてあるんだ?」

 「草原の、確か『四階層』でしたか、そちらに」


 『四階層』に向かうと馬車が4台止まっていた。

 ライトアーマーに混じって人の姿も見れる。鎧をつけているのを見るに護衛を兼ねて騎士を連れてきたのだろう。


 「1台目が衣類、2台目に綿花、3台目、4台目には食糧を積んであります。家畜は既に放たれている様ですね」

 「確認した。鏡を持ってくる」


 『人宮一体』を使い、鏡を全て『四階層』に降ろす。

 ダンジョンマスターの能力で創れる事が分かってから鏡の枚数も増え、丁度1000枚になっている。装飾は俺の感性なので信用出来ないが、人並みにはあるはすだ。


 「ぴったり1000枚あるはずだ。確認してくれ。それと鏡だけでは些か少ないかと思ったのでな、少量ではあるが特殊金属も用意した」


 そう。フランメが『脱皮』を行っていたのだ。

 俺は気づかなかったのだが、戦闘後に脱皮したようだ。

 量で言えば人一人分ぐらいの大きさはある。

 3/4(よんぶんのさん)は俺達で使うとして、残りは渡してしまおうと思う。


 「バルバから話しは聞いております。感謝いたします」

 「この位安いものだ。ただ、加工には気を付けろよ」

 「もちろん、承知しておりますとも」


 リストのチェックと荷降ろしに時間が掛かるようなのでココは彼等に任せるとしよう。

 俺とパペル殿は応接間へと戻り対談を続ける。ヴェーデは荷降ろしの監督に就くようで、ここには居ない。


 「俺のダンジョンを国をとして認めるという話しだが領地はどこから何処までなんだ?聞くところによると森の近隣に開拓村を出しては失敗しているようだが」

 「お耳がお早いようでコチラとしても助かります。エバノ様の領地についてですがこの森全てという事に決まりました。ですが薬草などを取りに来た村人や冒険者には寛大なご配慮をお願いいたします」

 「それは分かっているさ」


 金は必要無いので国境税など発生しない。自由に出入りさせてやろう。開拓村が幾つも無くなっている様な森に来ようだなんていう物好きは居ないだろうしな。


 周辺の地理も聞いた。

 森の西側には国境を守るための砦や村、東にはニェーバの街、北東には王都がある。

 南東には港街があり、ニェーバの街から砦までの迂回路として使われる。森を通れば近道になるのだが、身の危険があるために普段は通らないようだ。


 「建国にあたり、我がノーマリー王国とグラキエス教国とが賛同しています。周辺国家も連絡を待つばかりですが、教国が賛同してくれているので悪い返事は来ないでしょう」

 「グラキエス教国・・・確か騎士の中に混じって挨拶に来ていたな」


 フェーデとか言う権天使が来ていた事を思い出す。何もせずに帰って行ってしまったが目的はコレだったのか?


 「グラキエス教国は我が国から見て北にあり、教国の周りには幾つかの小国が固まっています。小国は連合を組んでいる場合が殆どですね」

 「ノーマリー王国は連合を組んでいるのか?」

 「もちろんですとも。教国周辺の国の中で言えば上の下程ですが、だから言って強いわけではありませんから」


 ノーマリー王国が連合を組んでいるのはそうする必要があるからだろう。大国が近くにあるのか?

 教国は名前を聞くだけでは戦争はしないイメージがあるが、ココではそんなことも無く、普通に戦争に参加するらしい。王国と教国は良好な関係を築けているようでなによりだ。


 小国群は大国から身を守るために王国、教国に身を寄せているのか。

 出来れば俺もこの連合には参加しておきたい。戦争する場合に何も知りませんでしたとは言いたくない。とすれば、ある程度敵の情報は必要になってくるだろう。


 「俺の国も連合に入る事は可能か?」

 「可能でしょうね。戦力が増えるのはもちろんの事、教国と浅くない繋がりがあると分かれば仲良くしようとするのは目に見えています。望むのであれば我々も働きかけますが、どういたしますか」

 「すまないが、よろしくお願いする。今度礼として何かまとまった量を贈らせてもらおう。金以外でな」

 「承りました。それで話しを進めるとして国の名前を決めなければならないのですが」


 名前か・・・。考えもしなかったな。

 俺のダンジョンに何か呼び名があればそこから持ってくるのもアリかもしれないが、対人は経験が無いに等しいし知名度も少ないだろう。

 取り敢えず聞いてみるか。


 「そうだな、王国では我々の事を何と呼んでいるんだ。すまないが案が浮かばなくてな」

 「安直で申し訳ないのですが、『森のダンジョン』と呼ばせて頂いています。エバノ様以外に国内の森林にダンジョンがありませんので、どこの森かと聞かなくても分かるというわけなのです」

 「この森は何て言うんだ」

 「『バーチャル大森林』と呼ばれています」


 バーチャル?意味は虚像だったか。

 聞いてみたはいいものの、いまいちピンとこない。


 名前から考えてみよう。畔木 鴎・・・。

 鴎は海鳥であるし、やはり畔木から何か・・・。


 そう考えていると念話が入った。相手はギフトだ。なんだ?と思って対応すると、国の名前を考えてくれていたようだ。


 (シュヴァルツヴァルトといのはどうでしょうか)

 (どういう意味なんだ?)

 (ドイツ語で『黒い森』という意味です。マスターがいる森なのでどうかと思ったのですが)


 畔→黒

 こういうことか。他にいい案も浮かびそうにないし決定で構わないだろう。

 パペル殿は直ぐに決まるとは思ってもいないようでマーゲンが淹れた紅茶を飲んでいた。


 「国名は『シュヴァルツヴァルト』だ」

 「かしこまりました」


 ティーカップを机に戻し、何事か紙に書いてから話しは法律について進んでいった。


 「法律についてですが、これに関しては後日教えていただければ構いません。・・・コチラが王国の法律。もう一方は教国のものです」

 「ああ、助かる」


 守護者だけで国を作るのであれば法律など意味を成さないのだが、形だけでも整えておく方がいいだろう。

 お手本も渡してくれたのだし、そう困ることは無いと思う。


 「そうだ、すまないが紹介したい人物がいるんだ。ここに呼んでも?」

 「構いませんよ」


 手早く書類を片付けるパペル殿を見てから、俺は内心凄く焦っていた。

 紹介したい人物とはレイの事なのだが、存在を思いっきり忘れていたのだ。時間を確認してみれば、彼女を放置してから3時間は経っている。

 怒っていないだろうかという心配をよそに扉は開かれた。


 「お初にお目にかかります。レイ・ルーラーと申します」

 「ノーマリー王国より参りました、パペル・カルタです。本日はよろしくお願いいたします」


 穏やかに挨拶は終わったが、心の内は大荒れだ。一見、普段と変わらないのが拍車を掛けているのかもしれない。


 レイは俺の隣へと腰を降ろすとパペル殿に説明を促すようにと視線を向けてきた。

 怒ってないのか?ビクビクしながらもなんとか言葉を捻り出す。


 「彼女は訳あって助けたダンジョンマスターだ」

 「ええ、バルバから報告を受けております」

 「そうか、彼等には良い働きをしてもらった。今回は彼女の顔を見せときたかっただけだ。時間を取らせてしまってすまなかったな」

 「いえ、そんな事はありませんとも」


 これにてレイの出番は終了。

 すまない!テンパって何を言えばいいのか全くわからなかったんだ!

 後で怒られるのを覚悟してパペル殿と話し込んでいった。

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