使者は遅れて現れた。
……。
…………。
いつの間にか寝ていた様だ。
謁見の間に変化は無い。本当にココは何処だろうか。
そもそも、謁見の間という名称で合っているのかすら怪しい。
見知らぬ地で目が覚めたら、神か美少女が居るというのは迷信だったようだ。
そういう物を望んでいるわけでは無いが、如何せん一人と言うのは、寂しい。
□
睡眠から目を覚まして一時間程だろうか。実際はもっと長いかも知れないし、短いかも知れない。
些細な事はいいとして、ある変化が起きた。
隠し扉が無いか念入りに探した後、玉座で座っていた俺の目の前で魔法陣の様なものが現れたのだ。
すわ何事かと体勢を整えたが、それは杞憂で終った。
「お初にお目にかかります。私、ダンジョンマスター様の説明役を任せて頂いております。アブラムという者です。以後お見知りおきを」
魔法陣から現れ、アブラムと名乗ったのは男性だった。
整えられた頭髪に、魔法使いが着るような白いローブを着ている。右手には彼の肩ほどもある杖を持っていた。独特な意匠は風が抉っていったような躍動感を感じさせる。
突然の事で驚いているが、俺だって社会人だ。
挨拶を返さなくてはならないだろう。
「アブラムさん、何分この場所の勝手が分からないものでこの様な恰好ですが、そこは許していただきたい。私の名前は 畔木 悠 と申します。よろしくお願い致します」
因みに今の俺の格好は俗に言うスーツ姿である。事故の時に着ていた物そのものなのか、千切れていたり血だらけだったりと、何処ぞの遭難者の様になっている。
「では、畔木様。お話を進めさせて頂いても宜しいでしょうか」
「ええ、構いません」
「それでは。……率直に言わせて頂きますと畔木様はお亡くなりに成られました」
「……でしょうね」
この回答にアブラムさんは驚いた様な顔をした。
何故そこで驚く。アブラムさん側が死んだ俺をどうこうしたのなら、推測出来る回答だと思うんだが。
「何か、ありました?」
「いえ、畔木様が大変落ち着いていらっしゃるので……。亡くなられた方は、死亡直前と今の記憶とでパニックなられる事が多いものですから。その他にも、死んだ事を知らない、認めないというパターンもありますが」
「そうでしたか。生憎私は時間がありましたので落ち着く事が出来ました」
「時間があった。との事ですがどういう事でしょうか?」
アブラムさんが理解出来て無いようなので、軽く今までの事を話した。
話していく内に彼の顔が青白くなって行くのだが大丈夫だろうか。
その後、軽く状況の答え合わせに入った。
どうやら、彼は俺が謁見の間に来てから直ぐに出向いたと思っていたようだ。
コチラからしたら2~3時間程は経過していると思う。そう説明すると、綺麗な土下座をカマしてくれた。
白い服装も相まってお寿司のシャリの様だ。と、思ったが口には出す米。米だけに。
…………と、まぁ。以下はアブラムさんの話のまとめだ。
この場所は俺のいた場所、地球とは違う星(所謂異世界)なのだそうだ。
この世界は、剣と魔法の世界の様だ。その世界で何をすれば良いのか、という話になって来るのだが、ダンジョンマスターとして活動すればそれで良いらしい。
ダンジョンのマスター。と言うことで、自らが創り出した領域を支配していればそれでお仕事は終わりだ。
よく聞くように冒険者が一獲千金を狙ってやって来るので撃退もしくは撃破しろ、という事だ。
ここでアブラムさんとの会話冒頭に戻るのだが、彼はダンジョンマスターの説明役として俺の元にやって来た。
コレは、ダンジョンマスター管理機構(通称DMO)という組織のお仕事だそうだ。
この組織は主にダンジョンマスターのサポート役として活動している。ダンジョンを経営するに当たり、必要な物資の販売等を取り扱っているようだ。
アブラムは説明が終われば本部に帰ると言っていた。
無事チュートリアル部分が半分まで終わり、実技の段階に移る。
実際にダンジョンを創ると言うわけだ。
その前に、『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』と言う様にアブラムさんに俺のステータスを表示して貰った。
霧の様なものが集まり、目の前に半透明の金春色のウィンドウが形成された。
名前 畔木 鴎
種族:ヒト
HP100
MP100
・証
ダンジョンマスター
・技能
異世界言語[熟練度10.00]☆
人宮一体[熟練度0.00]
「コレは強いのか」と、聞くと「普通です」と、返ってきた。コレで普通か。俺的には弱くてしょうがないのだが。
「次にダンジョンの護りについてご説明させて頂きます」
技能の欄にはソレらしきモノが書かれていないのでどうするのか興味がある。
ダンジョンの護り。やはりモンスターが定番だろうか。罠はDMOの方で売ってそうなものだが。
「証の欄にあります、『ダンジョンマスター』をタップしてください」
・証
ダンジョンマスター
ダンジョン領域の支配者に贈られる証。
技能『支配域鑑定』『支配域創造』『守護者創造』の付与。
・技能
支配域鑑定
領域に存在するモノの鑑定をする事が出来る。
支配域創造
MPを消費し、領域を創造する事が出来る。能力により消費MPが変化する。
守護者創造
MPを消費し、領域を守護する守護者を創造する事が出来る。
「『守護者創造』の技能を使うのでしょうか」
「正解ございます、畔木様。『ダンジョンマスター』に含まれる技能ですので、技能の欄には表示されてはおりませんが任意で表示する事も可能です」
任意で表示出来る。との事なので技能欄に追加しておこう。
「それでは『守護者創造』を試して参りましょう。この技能は畔木様のオリジナルの守護者を創造する事も可能で御座います。今回は初の技能行使ですので守護者リストをご参考に守護者の創造を行ってまいりましょう。技能により創造した守護者は食料を必要と致しませんので生態系を気にする必要もありません」
守護者リストは、DMOに所属する他のダンジョンマスターが創造した守護者のリストで、このリストに登録出来れば恩恵があるようだ。特許の様な物だろう。
リストには[地][海][空][死][他]の五つのジャンルに、[名称検索][詳細検索]の二つの検索方法、[ソート]があった。
主要となる守護者は自分で創ってみたい。となれば簡単に創造出来るものの方が良いだろう。
[ソート]機能を使い、[低コスト]順に並び替える。[消費MP/登録者]のようだ。
・蚊[3/デピエミック]
・ネズミ[3/デピエミック]
・ハエ[3/デピエミック]
・毒小蜘蛛[4/デピエミック]
・蛭[5/デピエミック]
・大ネズミ[7/デピエミック]
・ラウドリーバード[13/リーグナ]
・
・
・
「低コストではデピエミック殿の守護者が多いようですね」
「デピエミック様も本日ご登録頂きましたダンジョンマスターでございます。詳しくはお話できませんがコレはコレで強みというモノがございます」
なるほど、魔力が高ければ高い程良いという訳では無いのか。
彼が登録した守護者を見るに、領域に水辺があるのは分かる。コレでは登録者の領域が何となく分かってしまうな……自分で登録する際には気を付けよう。
俺は何を召喚するべきだろうか。
「ラウドリーバードと言うのはどの様な守護者なのでしょうか」
「この守護者は主に偵察用として創造されております。守護者名をタップして頂くと詳細がご確認できますので活用して頂ければ幸いです」
「すいません。ありがとうございます」
用途は偵察用か。名前にバードと入っているのでジャンルでいえば[空]の部類だな。
俺が居るのは室内なので、このまま拡張をして行くとすれば鳥は外観的には会わない。
俺は最終的に『毒小蜘蛛』を選んだ。
低コストで他に良さげなものが無かったのだから仕方ない。
毒小蜘蛛
2mm程の小蜘蛛。
毒を持っており、噛まれると発熱、吐き気の症状が現れる。
創造しますか?
消費MP4
«はい» «いいえ»
目の前に『毒小蜘蛛』の詳細が出た後、守護者のデモ全体像が映る。
「この守護者で構わなければ«はい»をお選びください」
構わないので«はい»を選択する。
それと同時に床に直径5cm程の淡く光る方陣が現れた。光は直ぐに収まり、方陣があった場所には守護者の姿が・・・
「……見えない」
伊達に2mmでは無いと言うことか。立ったままでは確認出来ない。
小型の守護者はナンチャッテ休憩ポイントにソッと配置するのが良さそうだ。