『第三階層』 森の守護者
「お父様行ってらっしゃいませ」
「ノーマリー王国の今度のさらなる発展を願って」
ヴェーデと共にダンジョン入り口までやって来ている。
どうやら外に別の部隊が待機しているようだ。入り口は階段なので馬が入りにくいのか。
今度直しておこう。
「感謝する。また会おう」
そう言ってパペル殿は従者を連れて去っていった。
俺は『謁見の間』へと戻り、『三階層』創造へと移る。
『三階層』を創ればMPが無くなるので、ギフトに気絶したら自室に運ぶ様に頼んでおく。
『三階層』
規模 : 2km四方の正方形×高さ30m
内見 : 肥沃な大地
消費MP200
創造しますか?
«はい» «いいえ»
«はい»を選択。そして意識が途絶えた。
□
「来れた・・・」
気が付けば神域(仮)に居た。
二回目だが、呼ばれる条件が分からない。
夜に寝たわけでも無いし、守護者を創った覚えもない。
王国と交渉したが、どう関係するというのか。
スルスルスル・・・
「ッ!」
足音!?違う。何かを引きずるような音だった。
蛇か?生き物はココに居ないはずだ。前回来た時に探索はしてある。
辺りを見回すが、俺以外の生き物の姿は見えない。
その時、背後から俺の首に手が回される。
チラリと顔を動かさずに確認すれば、ソコには雪のように白い指があった。
驚くよりも先に安堵が顔を出した。
何故かは自分でも分からない。
例えるなら、そう。親に抱かれた子供のような安心した気持ち。
俺が考えている間にも指は身体をなぞる様に歩を進め、心臓部に両手が重なった。
「・・・落ち着いているのね」
首筋に吐息が掛かり、鳥肌が立った。
声は思っていたよりも近く、互いの体温が分かるほど。
落ち着いた澄んだ声。それだけで相手が人間では無い何かだと悟る。
「・・・、お初にお目にかかります」
何か言わなければ。そう思い口を開いてみるものの言葉が見つからない。
最終的に出てきたのは、どうでもいいような挨拶だった。
他に何か無かったのか。
「慌てなくても大丈夫。貴方の言葉は届いてるわ」
「貴方が応えてくれるなら、私もソレに応えましょう」その言葉と笑い声を残して、場は霧に包まれた。
□
・・・暑い。
ダンジョン内は適温で一定になっているのに、どうしたんだろうか。
掛け布団を押しのけ、ベットから降りる。
ふと、目に入った鏡を覗く。目尻の辺だろうかソコが赤くなっていた。
指で取れないか擦ってみても変化は無い。
変化は目尻だけでなく爪にも現れていた。目を擦っている時に気がついたのだが、爪の根元が赤くなっている。
何が起こったのか・・・。
名前 : 畔木 鴎
種族 : 主天使
HP200
MP200
・証
ダンジョンマスター
DMO所属ダンジョンマスター
・技能
異世界言語[熟練度10.00]☆
支配域鑑定[熟練度10.00]☆
支配域創造[熟練度10.00]☆
守護者創造[熟練度10.00]☆
人宮一体[熟練度2.16]
まて、一旦落ち着こうか。
HP、MPが増えてる。階層が増えたからか?
まあ、ラッキー。
『ダンジョンマスター』に付属する技能が軒並みカンストしてる。元からこうだっただろうか?
付与系の技能は制限が掛かっていた気がする。
これは、『ダンジョンマスター』の証は関係なくて俺自身の技能と言うことか?
分からん。
あえて飛ばしたのだが、種族。
主天使・・・?
結果。分からない。
鑑定してみようか。
・種族 : 主天使
神界における第4位の地位にある天使。
『統治』『支配』の技能を持つものが、この種族に進化することがある。
説明を読む限り、種族的に進化したということか。
神の最後の台詞。『貴方が応えてくれるなら、私もソレに応えましょう』
コレが神の力だと言うなら納得もいく。
進化はそれで納得するとして、『ダンジョンマスター』系の技能はどうなったのか。
技能が重なれば、上位互換になるのは確認している。
これ以上の技能が無いのかもしれない。
一回、証『ダンジョンマスター』の技能を技能の欄から除けてみるが、変わらずに技能には『支配域鑑定』『支配域創造』『守護者創造』の表示がある。
付与では無くて、 自身の能力として付いたのは分かったが、技能が重ならない。
MP消費削減→MP消費半減のようにならないという事だ。
・・・考えていても仕方ない。放っておこう。
今の時刻は10時半。『三階層』でも見てこよう。
『三階層』は農業、林業用に創った階層だ。
擬似的な太陽にフカフカな地面。土の善し悪しなんて分からないので、農業用の守護者を創ろう。
・自身で創造
・ジャンル選択[陸]
・造形[人型(女)]
・細部設定 技能『土魔法』『時魔法』『農業』『MP消費削減』『MP増加』『水魔法』『林業』
消費MP116
・創造しますか?
«はい» «いいえ»
・名称『リェース』
農業、林業を専門とした守護者を創った。
魔法があれば一人でも管理出来るだろう。難しければ追加で。
「・・・おはよう。ご主人」
「おはよう、リェース」
少し眠たげなダミ声が帰ってくる。
身長は他の守護者より、一回り低い。
身長順で並べてみれば、
ギフト = クローフィ > マイン >> リェース
と、なる。
俺とギフトが同じくらいでクローフィがちょっと低い。それよりマインが5cm程低くて、リェースが頭一つ分低い。
数字で表すと150cm位だろう。
服を買おうとしたが少しMPが足りないので、リェースの容姿を説明しよう。
身長に関しては先程言ったとおりなので割愛。
胸元まであるエメラルドグリーンの髪に、眠たげな瞳。
所謂幼児体型である。
そろそろかな?
MPも回復したし服を買おう。
黒の生地に薄い黒のラインが入ったズボン、Yシャツ。
靴は、底に鉄板が入った厚手のブーツ。
ここまでは俺も含めて同じ服装だ。
俺は赤いベスト。他の守護者は、黒いノースリーブジャケットを着ている。
リェースには深緑と黒を混ぜたようなノースリーブジャケットを買う。
役割が分かり易くなるし、大事な役職なので、この位の優遇はいいだろう。
「守護者リェースを公爵、『第三階層統括公位』に任命する。『三階層』に所属している他の守護者はリェース卿の指示に従うように」
爵位によって付与された技能は『指揮』と『支配域鑑定』。
リェースの支配域は『三階層』だけなので『三階層』では鑑定が使える様になる。
・公爵『第三階層統括公位』
『三階層』の統括者。
ダンジョンマスターには及ばないが、『三階層』に関する権限を持つ。
『三階層』に存在する守護者一体につき、HP、MPが5追加される。
技能『指揮』の付与。ダンジョンマスターの技能を一つ付与(付与不可能な物もある)。
付与された能力は成長せず、制限が掛かる。
苗や食物の種を購入したいが、昼時が近いのでMPは温存しておく。
リェースの紹介もしたいし、早めに集まるとしよう。
(少し早いが食堂に集まってくれ)
((かしこまりました(わ)))
『三階層』が機能するようになれば、この馬鹿にならないMP消費も浮く。期待しよう。
食堂に移動すると、先に四人が集まっていたので自己紹介に移る。
「彼女はリェース卿だ。爵位は公爵、『第三階層統括公位』だ」
「ん、よろしく」
簡単な挨拶を済ませば、ヴェーデから質問が飛んできた。
「畔木様、何か変わられました?こう、威厳があるというか、神々しくなった様に感じるのですが」
「主天使になったから、その影響だろう」
赤い目尻を指摘されると思ったのだが違うようだ。
ギフトに、爪が汚いので洗ってきてください。とか言われるかと思ってたんだがなぁ。
それは置いておくとして、ヴェーデが凄い顔をしている。
口を大きく広げ、鯉のようにパクパクしている。
「ヴェーデ?おーいヴェーデ」
「はっ!・・・失礼しました」
「主天使がそんなにおかしかったか?」
「いえ、そうでは無いのですが・・・」
ヴェーデの話を聞いたものを要約する。
王国に存在する教会にも徳を積み、種族的に進化している人物は居るようなのだ。
だが、進化している人物はそこまで多くは無いようで、最高位でも智天使が一人だけとの事。
天使の階級は9(ここの)つあり智天使は上から2番目だそうだ。で、俺の階級は上から4番目。
俺のこの階級はかなり高いらしく、教会の介入は避けられないとの事。
どこに教会信者がいるか分からないから、漏れてしまうのも仕方ないだろう。
「遅れたが、食事にしよう。腹ペコだ」
会話をしていて遅れたが、お昼時は既に過ぎている。
俺の腹が持たない。