戦いの終わり
森林から覗く視線にルーチェが気づいたのは、粗方の魔物が片付いた時だった。木々の隙間から連合軍を見つめる、6つの視線。森林に現れた魔物を片付けたために、こうして姿を見せたのだ。
「あれは・・・、エバノ殿の・・・?」
今まで倒してきた魔物とは違ったその姿に、彼女の頭に浮かんだのは1人のダンジョンマスター。彼ならこの戦いの全てを知っていてもおかしくはない。少なくとも、この戦争は彼の掌で起こっている事なのだろう。
まばたき1つで3つの頭を持つ巨大な犬は消え去り、場には静寂が広がる。ルーチェはため息を吐き、腰の抜けた軍隊へと指示を出す。
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エバノ・シュヴァルツヴァルト
ケルベロスの報告と、領域内の情報を纏めたものをかもめから受け取った俺は思わず肩をすくめる。いや、だってルーチェ怖すぎだろ。何があったらあんなに魔法を乱打出来るのだろうか。ケルベロスは最後の方しか言葉を拾えてなかったから何が起こったかまでは分からないし、レクタングル国内は俺の領域じゃないから詳しくは分からない。けどアレは余程許せない事があったのだと見えた。
位は忘れたが天使のエルフも居たし、そっち関係か?フェーデが居なかったのは何か理由があるとみて間違いないから、俺の考えも外れてはないと思う。本当にあの場に居なくて助かった。・・・それにしてもフェーデっていつも損な役回りだよな。南無。
と、まぁ、こんなことがあったのだが、その頃の俺はスタージュ相手に1人で睨めっこをして眠気を我慢していた。
戦争3日目。
北の帝国軍は残り少ないだろう魔物を率いて戦線を維持しているのだが、それが崩されるのも時間の問題だろう。今回の戦争の軸である魔物が殆んど居なくなった今、帝国軍に出来るのは精々が戦線の維持だけ。まぁ、維持していても南からの騎馬隊によって退路は断たれるから、逃げるなら今の内に逃げた方が良い。とは言っても俺の声は向こうには届かないので、大人しく死んでもらおう。
ルーマンドの森に配置したシュヴァルツヴァルト魔物部は既に回収を終えているので連合軍だけでの殲滅となるが、数の上で勝っているので大丈夫だと思う。
さて、騎馬隊を見送った俺は、だいぶ暇を持て余している。というのも、ノーマリーのお偉いさん方はこれから先、帝国領へと攻めるのかどうかで随分と長くしているのからここには居ないのだ。もしこの先を攻めて国土が増えることになっても、自前で全てのモノを創れる俺はたいして嬉しくはない。まず、シュヴァルツヴァルトだけで手一杯だ。下手な利権なんか貰っても欠片も嬉しいとは思わない事は間違いない。
北は『果てしない渓谷』に、それ以外はノーマリーに囲まれたシュヴァルツヴァルトが、ノーマリーの西にある国の国土を得られるとは思わないので、俺が手に入れるモノは土地以外の何かである可能性が高いのは考えれば簡単に分かる。だからこそ俺は要らないと言ってるのだが、兵を全く出さない訳にもいかないのが連合の悪い所か。戦える人間が手元にあるっていうのもこうなった原因なのだが、そこはとやかく言っても変わらないので早々に諦めることにした。
戦う事になるかもしれないのにこんなに放任主義者みたいなのはどうしてか、そう聞かれれば俺はこう答える。ノーマリーが攻めて国土を増やしたとしても、ソレを維持するだけの力が彼等には無い、と。
俺が今居る砦は、とても守りに向いた地形にある。イメージとしては、凹を逆さまにしたような地形だと言えば分かりやすいと思う。もっと言えば四国の南方面。つまり、|帝国(西)側に攻めれば攻めるほど、孤立しやすく、また敵に襲われやすい。
王が変わり、新体制となって日が浅いノーマリーには戦争をするだけでやっとだろう。現に、戦争が始まる前に国内が纏まっていないのは見させてもらった。シディを最初に匿っていた某貴族様もついでで殺されたみたいだし、今は下手に動いて手元をお留守にしている場合ではない筈だ。
功績を上げて国内を纏めよう!とか考えているんだったら笑ってやるんだが。何かその光景を考えただけで楽しくなってきた。まさか、まさかな。
・・・簡単にフラグを立ててみたのだが、どうやらそう上手くは行かないらしい。もの凄い長い会議から戻って来たスタージュが口にしたのは、現状維持―——この場で待機するという言葉だった。分かり切っていたこの言葉を聞くのに、俺が待った時間は3時間。いや、むしろ3時間でよく終わったというべきか。
騎馬隊の話の時もそうだ。各々が勲章と功績を求めて場を難しくする。守護者の有用性と、人間の無能さが分かり、幾ばくかの時間を失った。とても有意義な時間とは言えないモノだったが、考え自体は面白かった。守護者の解説が無ければ全くついていけなかったけど、経験としては今後も必要になってくるだろう。
何事も起こらず、砦に籠って戦争の4日目を迎えた。ここまでくれば誰もが戦争の勝利を確信し、空気も緩んでくる。そうなってくると馬鹿がウチの守護者に絡みだし、犠牲者の数を少しずつ増やしていく。俺に直接的には関係ないとはいえ、スタージュには予め抑えるように言ってるんだがな。
伝書鳩らしき鳥が情報をやり取りできる唯一の手段となっているのだが、何となく北の情報も分かる俺としては終戦モードに入っている。帝国側も打つ手が無くて重要都市の防衛に切り替えたようだし、このままなぁなぁで戦争が終わる筈だ。帝国は完全に負けたわけでは無いし、連合軍も攻め切った訳では無い。互いにしばらくの間兵士を常駐し、冬の訪れとともに戦争も完全に終わる。
そう考えれば中々に感慨深い。砦にも愛着が湧いてきた頃だ。シュヴァルツヴァルトもガチガチに固めてやろうか。今ある国の上に橋みたいなのを創って構造を複雑にさせてやりたい感はあるんけど、レイに相談なしには決められないからなぁ。取り敢えず案だけ出して様子見ってとこだな。
短いですがキリが良いので切らせてもらいました。物書きを始めてもう少しで1年と4ヶ月が経ちますが、どうしても切り方が上手くならない・・・。
さて、長かった戦争が終わり、蛇足とも言える二部にも一応の区切りがつきました。一部でいう位置づけだと、アバビム戦辺りに相当します。
このまま続けるかですが、最近の文字数から見て分かる通り、だいぶ失速してきてます。更新速度も落ちてきていますし、私としてはこのまま続けるのも見苦しいかなと思っています。
書きたいものは一部で全て書けているので、私的には『ダンジョンと共に往く』は既に終わった話しであり、私はその後を覗き見ている感覚です。
なので取り敢えず完結とさせていただき、私の気が向けばまた姿を見せるかもしれません。
私事という勝手な理由で申し訳ありませんが、ここまで私の妄想に付き合っていただいた方々、本当にありがとうございました。




