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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十四章 堅甲利兵
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種族とは

 森林の上をケルベロスが移送されていた。フロウの爪にフランメが引っ掛かり、ケルベロスの胴を囲うように吊るす。ブラブラと宙を揺られるワンちゃんという絵面は緊張感とはかけ離れているが、彼等は至って真面目である。インプもフロウの後ろから羽を動かしながらついて来ているものの、上下にユラユラと動いているその姿は、あまり怖いものでは無い。


 シュヴァルツヴァルト魔物部が敵と戦闘を開始したのは、帝国の魔物が森林を超えようとしていた少し前だった。敵と間違えられて攻撃されるのを防ぐために、あまり前線に出て行くのはよくない。連合国も貧弱では無いのだ。ここは任せても構わないだろう。

 判断は一瞬。投げ捨てられるように森林へと放り出されたケルベロスは身体のクッションを利用して華麗に着地し、『嗅覚強化』、『気配察知』によって得た情報を頼りに地を蹴りだした。


 帝国が呼び出した魔物、それは異質な容姿をしていた。

 カンガルーの脚に、豹の身体、頭部の両端から生える角は牛を連想さる。強靭な顎と牙を持つ茶色の異形。その数は100であまり多くは無いが、未だ発展途上の技術である。教えるには相手を選ばねばならぬし、教える側の人間も多くはない。そう簡単に使える様な魔法でも無く、どうしても使用者は限られてしまうのだ。

 されど、100もあればこの場の制圧には事欠くことはない。邪魔者さえ入らなければ。


 冒険者をものともしない魔物は、数瞬の間にケルベロスの手によって肉片へと姿を変えて行く。前へ前へと兎の様に飛び跳ねる魔物の群れを一体ずつ、確実にほふる。魔物の血によって既に『嗅覚強化』は意味をなしてはおらず、頼れるのは『気配察知』のみ。だが、守護者の強みとはここから先にある。

 上空に適当な間隔を開けて並ぶインプから送られる、『気配察知』による敵の進路や位置情報。これだけで圧倒的精度を誇るレーダーの完成だ。いくら魔物に機動力があろうと、木々を簡単に登れる柔軟な四肢があろうと、未来予測を通り越した守護者の魔の手から逃れることは許されない。


 跳躍と同時にフロウに身体を攫われ、仲間へと華麗なダイブをしていく魔物は、止めを刺そうと戻って来たフロウに目玉を一突き。その状態でクチバシを開けば、スライムを踏み潰した様な独特な音が鳴り、小さな血の飛沫が上がる。頭蓋はひび割れ、脳味噌は原型をとどめないほど掻き回された。ふと頭を上げたフロウはクチバシに粘着性の強い血の橋を掛けながら、次の目標へと飛びさっていく。


 ケルベロスの『毒精製』は強力なモノとなっている。それはエバノの知識によってそうなっているのだが、気になった人は調べてみるといいかもしれない。

 知識によって毒の精製場所は口内、唾液となっているために使い勝手はさほど良くはないものの、代わりと言っては何だがその効果は絶大だ。少しでも傷口に唾液が付着すれば、毒によってその命を終わらせることだろう。




 シュヴァルツヴァルトが奮戦している中、北側の連合国はさほど上手くは立ち回れてはいなかった。槍衾やりぶすまによって幾らか数は減らせたのだが、同じ場所ばかりを攻撃されては破られてしまうのは分かり切っていたこと。しかし他の場所を手薄にしては、次にその場所を狙われるのも分かっている。下手に軍を動かす事も出来ず、軍列に喰い込まれてしまった連合軍。あわや戦線崩壊かと思われたその時、魔物の勢いが止まった。

 連合軍が盛り返したわけでは無く、文字通り魔物の動きが止まったのだ。宙に浮かんだまま活動を停止した魔物に目を奪われる兵士達。されど、その視界はすぐさま赤に包まれる。

 赤の発生源を振り向いて確認すれば、顔を少し歪ませたルーチェが掌を地面を水平に向けていた。彼女は隣に居たフェーデに何言か伝え、前線へと歩を進めていく。


 「主天使の権能をこんな人間が多くいる所で・・・、後始末を誰がすると思っているのですか・・・。やはりエバノ殿が主天使であるべきでしたね」


 誰にも届かぬ声で呟くルーチェは前へと歩を踏み出し続け、ついには最前線へとたどり着いた。『火魔法』、『光魔法』が神により統合されて生まれた『聖火魔法』の火種を片手に揺らめかせる姿は、聖女と呼ぶには無理があるようにも思えるが、どちらにせよ、そろそろ年齢的にもその名前は返上しなくてはならない。


 彼女は怒りを身に纏い、自己強化魔法と智天使となった事によって強化された反射神経を目に、止まった敵から屠っていく。誰もが距離を置き、周辺が空白地帯へと変わって行こうとした時だ。1人の冒険者と1人の森人エルフが彼女へと近づいて行った。


 「ルーチェ様!エバノが居るのか!?」


 最初に声を掛けたのは冒険者。リアスである。彼は森林の浅い所で活動していたため、早期に部隊へと合流できた。普段組んでいるパーティーも皆無事であり、指定の場所で待機していたのだが、魔物登場、ルーチェの独断によって作戦どころではなくなったので彼がやって来たのだ。


 「微力ながら加勢させていただきます。私は付いていけてないですけど、フェーデが向かっているでしょうし」


 次に、『能天使』の権能を持つ森人エルフの青年が声を掛けた。作戦通りであれば、彼の出番は後ろの方で適当に魔法を打って終わっていた。しかし、状況が状況なだけに天使の彼が出て行かない訳にもいかない。状況を理解こそ出来ていないモノの、何となく状況は分かる。見た感じ、主天使が暴走しているのだろう。

 実際、彼の考えは現実とは少し異なる。主天使であるベアトリーチェは暴走などしておらず、自らの意思によって『束縛の魔眼』を使っている。だが、ベアトリーチェが独断だ、暴走だと言われるのは、彼女が他の天使を知らないからである。神には会ったが、別段、何かを言われたわけでは無いのだ。天使のコミュニティがあるなど知らず、その在り方もあまり理解できていない。

 ルーチェ達天使側が接触出来なかったというのにも悪い部分があるが、何時の時代も数は正義であり、この場ではベアトリーチェが悪だ。


 「では、さっさと殺して説教をしますか」


 そう言って魔法を両手に灯すルーチェ。リアスは仲間の元へと戻り、『能天使エルフ』は手に茨の鞭を持つ。

 無表情に、淡々と。仕事をこなすのに感情は要らない。


 「教国のトップなのですから、説法ではないでしょうか」

 「そうですね・・・、口が滑りました」


 森人エルフは口元に微笑みを浮かべ、茨の鞭を無造作に振り抜いた。ズタズタに引き裂かれた、血の横筋。

 戦争であるはずのに、たった2人の人間によってフィールドは支配され始める。事の発端が主天使であるのを考えれば、主天使の仕事は一応やれているのだろう。意図して起こった結果ではないとしても、効果はしかりと現れる。天使に選ばれる条件には、周囲に一定以上の影響力がある、というのがあり、ソレは無意識下でも姿も見せなければならない。

 動かなければ効果を示せないのは不完全な代物だ。神はそこに居るだけで意味があるのに、下僕である天使に意味が無いのか?たった10人で大陸を回せると?笑止。神ほどではないにしろ、天使も影響を振りまく。種族にも託されたモノがあり、数が揃えば影響が出て来るのだ。つまり、亜人が少ない現環境は出生率が下がるのである。

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