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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十四章 堅甲利兵
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獣人の天使

 森林の手前に敷かれた布陣の中。そこで、ルーチェはとある人物を探していた。正確に言えば、主天使を、だ。エバノが死んだことにより主天使の席は空白となっており、当時の彼女は心当たりがある人物に声を掛けて回った。結果として答えは全く分からなかったのだが、ダンジョンマスターが熾天使の席に着いた事により、その謎も解ける。

 次の主天使は獣人から。それさえ分かっていれば、探すのは比較的簡単となる。戦争がこの時期に始まったのも、彼女にとっては都合が良かった。主天使の技能で悪さをしていればそれとなく噂が流れて来るだろうし、そうでなくとも力の使い方を知るための時間を取ることが出来る。また、戦争なのだから参加していてもおかしくはない。ましてや、建国したばかりの獣人だ。主天使として認められる能力を有した人物が国に残っているとも考えにくく、戦場へ出向いている可能背が高い。

 ルーチェにとって人間と天使を見分けるなど、鑑定系の技能を使うまでも無い程に簡単だ。意識していなくとも、視界に入れば分かる。更に彼女の傍にはフェーデも控えているため、見つけるのも時間の問題であった。




 戦争が始まって2日目。今日も今日とて、森林での小競り合いが続く。初日にやられてばかりだった帝国の獣人達も策を練り、この日は連合国の方が犠牲が多く出た。夜になれば森林に住む野生動物に襲われることもあり、陣に戻ったからと言って決して安心できる環境ではない。獣かと思っていたものが獣人であり、それなりに痛手を喰らってしまうのも珍しいことでは無いのだから。

 この日はルーチェ、フェーデ、両名共に主天使を見つけることは出来ず、明日へ引き継ぐ。念のために確認した一般兵の中には居なかったため、やはり上位者であることが予想される。アポイント無しに会えるのが戦争時の強みでもあるので、日を改めて窺う事となる。


 戦況が大きく動いたのは3日目の昼。南での戦いをつづった書状を持った伝書鳩、この大陸ではディーレと呼ばれる鳥が北の帝国軍にやって来てからだ。南部の帝国軍の敗走はとうてい信じられるものでは無かったが、こうして書状が来ているのだから真実なのであろう。この情報に確信が持てた軍上層部は、3日めにして切り札を切ることになる。


 まず初めに、森林から小鳥が居なくなった。次に小動物が姿を隠し、大型の生き物は出来るだけ早く遠くへと逃げようと行動を始めた。それにいち早く気付いた獣人達は何事かと視線を彷徨わせるものの、帝国の無慈悲なる刃は味方すらも躊躇することなく、森林を侵食していった。獣人のことを味方と認識している人間が帝国にどれだけいるのか、その問いに答える人間は存在しないが。


 木々をへし折り、痛快な音を立てて森林を進撃する幾つもの影。その時点で異変に気付いた冒険者により緊急撤退の狼煙が上がった。けれど、陣地に帰って来れた冒険者はほんの一握りだ。彼等は皆、森林の浅い場所で活動をしていた者達である。

 その様子を見ていた連合国は大慌て。手に持っていたものを投げ出し、急いで森林の入り口まで駆けだしていく。もちろん、ルーチェやフェーデといった指揮官クラスの人間だって同じだ。この騒ぎの中、戦線を組み立てるのは簡単なことでは無いく、いち早く行動し、兵達をリードしてやらねばならない。


 確実にピンチと呼べる状況で、ルーチェは主天使に会えるのではと思っていたのだが、どうやらそれは無事に叶ったようだ。


 「ルーチェ殿!我々も戦列に参加を!」

 「いえ、戦列は事前に決まっているのでこの状態で入るのは難しいでしょう」

 「では我々は・・・」


 ラフラインの女王であるジャンナがルーチェに走り寄って、戦闘の状況を打破しようと参加を望むが、事前に決まっている列に入るには時間も猶予も無い。ルーチェが「そうですね」と答えようとした時だ。ジャンナの後を追いかけて走る、獣人が居た。顔をしっかりとは認識できないほどの距離があったにも関わらず、彼女の中では確信があった。あの人が主天使だ、と。

 その正体とはジャンナの妹である。彼女の名前はベアトリーチェ・ラフライン。兜をかぶっているためにその容姿の説明としては漠然なものになってしまうが、かつてエバノが彼女と顔を合わせた時は、鼻筋の整った顔立ちと評したジャンナに似ていると感じていた。ルーチェもその会場に居たために挨拶回りとして声を掛けたのを覚えているものの、その時のベアトリーチェは下手ではあるが一生懸命なサポートという印象を受けている。到底、主天使が務まるようには思えない。しかし、神が彼女を選んだのは確か。であれば、ルーチェから何かを言う資格は無いのだ。


 「・・・そうですね。敵の正体が分からない事には動けませんから、このまま待機しておいてください。情報が入り次第、また指示を出します」

 「くっ、口惜しいが仕方ないか。・・・分かった待機しておこう」


 後方へと下がっていくジャンナとベアトリーチェ。何やら聞こえてくる声に耳をすませば、急に飛び出したジャンナが妹からお小言を貰っているようである。あのような光景を見ればベアトリーチェは主天使っぽく見えなくも無いかもしれないが。


 さて、大切なこととはいえ、主天使にばかり気を配っている訳にもいかない。未だに森林の中から敵の情報を持ち帰る人間はいないのだ。兵はそろそろ配置が完了しようかという頃であり、今襲ってこられるとまともに受けきれるとは思えない。冒険者を襲う謎の相手が森林を抜けるのが先か。それとも、兵士が軍列を組むのが先か。いざとなれば離れた場所で『神憑り』を使うのも惜しくはないと考えるルーチェは、背に変な汗をかいていた。




 帝国側のルーマンドの森、エバノが設置した転移陣の付近では、シュヴァルツヴァルト魔物部が姿を見せ始める。エバノが魔物には魔物で、といって設置した転移陣ではあるが、森林の様な障害物が多い場所では活躍の機会が少ない守護者が多い。戦後の環境を考慮しないのであれば木々を薙ぎ払って敵を倒しにかかるものの、エバノがそれを望んでいないために彼等に木々を薙ぎ払うという選択肢はそんざいしない。

 であればどうするかというと、活躍できる者がひたすらに頑張るのである。運が悪いことにその任を帯びたのは、フロウとケルベロス。気休め程度にインプが『気配察知』役として、フランメがケルベロスの生体アーマーとしてくっついているが、活躍の場はないかもしれない。

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