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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十四章 堅甲利兵
141/145

競うは屍

300ほど少ないです

 魔法で起こる雷は基本的に無音である。その姿が見えているのだから空気抵抗には勝っていると思うのだが、特有の破裂音は聞くことが出来ない。

 だがこの場には、それを上回る大きな音で満ちていた。


 「—————ッ!!」


 悲鳴と怒号。決してこの音を途切れさせてはいけないと心に刻み付け、目に映るモノを無心で切り付ける。もはや、細かく見ていられる様な余裕は持ち合わせてなど居なかった。

 麒麟が駆け、視界が変わる。まぶたを開けた時の一瞬の光景を焼き付け、そこから何か動くモノがあれば腕を動かす。もはや無意識下での動きだ。一々深くまで切り付けるには麒麟を止めなければならないので、ひっかける様に剣先を動かしては細かく切り裂いていく。予想以上に突撃と剣の組み合わせは悪かったみたいだ。次からは槍を用意しておくとしよう。


 トハン帝国の崩壊した戦列に突撃を敢行してしばらく。鎧を踏み抜き、肌を焼いてと動いていると、目の前に象が近づいて来た。単純化された俺の目には灰色の何かにしか見えなかったのだが、ここまで来ると存在にも気が付く。俺が言う前に進路を変更した麒麟は勢いを止めることはないものの、確実に勢いは削がれた。

 ガブリエナめ、左に行ったのは象に邪魔されないためか。まぁ、このまま負けてやるつもりもないけな!


 □


 ガブリエナside


戦場の左翼側、帝国側から見れば右翼側。そこでは1匹の竜が暴れていた。自身の身長ほどもある白い翼をはためかせて低地を飛翔する姿は、まさしく竜人。

 『火魔法』により生み出された5つの火の玉を螺旋状に回転させ、さながら彗星の様に突撃をする。麒麟の紫電とは違うものの、これはこれで強力な魔法の盾である。勢いそのままに右翼の中心近くまで躍り出た彼女は、身に纏っていた火の玉を右手に集めて放った。地面に一筋の焦げを残しながら敵を薙ぎ払う魔法に口の端を釣り上げながら、ガブリエナは次の魔法の準備進めていく。


 しかしながら、帝国兵もそこまで虚弱ではない。帝国側の左翼は象によって慌てふためいているが、右翼はそこまで慌てているわけでは無いのだ。よって、右翼とはエバノよりも数を殺すことが出来るという簡単な問題ではなく、実行には、見合った実力が必要となってくる。

 ガブリエナにそれを成すだけの力があるかと問われれば、十二分にあると答えよう。更に、彼女にはMPブーストも掛かっている。2千、3千の雑兵など、取るに足らない。


 土壁を用いてのサンドイッチ。

 突風に伴うかまいたち。

 足元を泥状化させ、自重による歩行阻害。

 鎧の関節部の冷却及び固定。

 集団感電。


 何も、己1つで全てを殺す必要は無い。せっかく目の前に有り余った人材が居るのだ。彼等に同胞を殺してもらえばいい。泥となった地面で一度ひとたび転べば、起き上がる苦労は計り知れない。

 この大陸の戦争において、今回の様に大規模な布陣を敷く時。左翼は強く薄く、敵を破れるように。右翼は固く厚く、耐えきれるように。普通であれば、全てがこのような布陣となる。彼女が居るのは敵の右翼であり、最も防御が厚い場所である。装備は必然的に重くなり、当たり前のように金属部分も増えていく。

 一般的な全身鎧の重さは40㎏。そのような重さで、果たして立ち上がることが出来るのだろうか。


 答えは否。


 後詰めの騎士に踏まれ、鎧はヘコミ、内臓は圧縮される。地に伏した仲間を踏んだことで、不安定な足場は更に危険度を増す。ガブリエナを眼前にして倒れた仲間を助ける余裕を持ちあわない彼等は、まるでドミノの様に積み重なっていくのだ。

 圧死?溺死?焼死?さぁ、好きなモノを選びなさい。「最強」の彼女の手で、命の灯は1つ、また1つと握りられ、消えていく。

 ガブリエナは勝ちを狙いに行くのみ。自らの創造者でさえ、欲の対象の範囲内であった。




 エバノ、ガブリエナが散々掻き回した戦場に遅れて走って来た援軍。これにより静かに終わりを迎えた両者の戦い。結果はガブリエナの勝利で終わったのだが、エバノは特に何も感じてはいない。彼女が勝手に勝負を吹っ掛けて、勝利した。エバノはガブリエナが嬉しそうにしているからこそ、負けを恥じることはないのだ。守護者の功績はその主の功績であり、スタージュが言っていたように現場の人間が上手くまわしてくれれば、それは己の元に戻ってくる。

 シュヴァルツヴァルトの圧倒的攻撃性、英雄的活躍は周知され、後に物語を彩っていく。例え今ではなくとも、100年後、200年後にはただの記録が伝説へと昇華されているかもしれない。


 □


 象による奇襲、俺とガブリエナによる突貫により、トハン帝国は南側の戦線を維持出来ずに自国領へと後退した。皇帝は昨日の時点で帝都に下がっていたために姿は見られなかった。亜人が居れば敗走のすえに野盗と化した兵士は直ぐに死んでしまうのだが、残念なことに亜人の数は減少している。撤退していったのが帝国領だから俺等には関係ないが、今後の帝国は少しばかり治安が悪くなるんじゃないだろうか。


 場所は変わって砦の中。俺とスタージュに、指揮官が何人も集まった部屋では、戦争の被害の結果が報告されていた。


 「———ポーションはおよそ木箱500個分が在庫となっており、食料の備蓄は三ヶ月ほどの余裕が。武器については在庫の一割の使用であったため、この場では省略させていただきます。続いて戦死者、行方不明者の報告でありますが、本日、午後の戦闘を除き、両者の数は合計1,078人になります。内訳につきましては、別紙に死因と合わせて記録してありますので参照のほどをお願いします。防壁の損傷ほとんどなく―――」


 右から入っては左へと抜けていく数字の羅列を適当に流しつつ、大事そうなことは簡単にメモに箇条書きにする。

 ノーマリーが他国の兵と組んで戦争を行うのはこれが初めてであり、ノーマリー指揮官等もまた、対応に困っていた。シュヴァルツヴァルトが持ってきたモノをそのまま砦の在庫として保管していいのか。戦場の整備、砦の補修は誰が、どれだけの金を出すのか。言い出せばキリが無い。ここで曖昧な対応をしてしまうと変な前例を作って後で困るから、ここはしっかりと集中して手元を動かしていく。

 話しの内容はこれだけではない。北の援軍にどれだけの兵を回すのか。進行ルートは?最短であれば帝国領に入り、『果てしない渓谷』に沿って北へと進まなければならない。北に援軍を送るなら、帝国に援軍の後ろを取られないように別の舞台が要る。ならば砦の備蓄を3つに分ける?それは砦が籠城できなくなるから駄目だ。ではどうしよう。こんなことも会話に入ってくるため、一時も気を抜くわけにはいかない。

 考えては没に、考えては没に。繰り返す事何十回。話し会いは、深夜2時に一旦の最善を見つけ出した。


 籠城を考えて食料は砦にあるものの、部隊を分けての行軍をするにはいささか数が足りない。保存状態も行軍中はどうしても悪くなり、何が起こるかが分からないために予備も持って行く必要がある。これが食料庫から悲鳴を上げさせているのだが、進路上にある町の1つで疫病が広がっているので食料の確保は望めないのだ。

 帝国領からの北の戦線に参加するのを諦め、シュヴァルツヴァルトから教国、レクタングルへ向かうルートも考えはしたものの、『果てしない渓谷』を横断するのに馬車は使うことは出来ない。なので、食料を満足に持つことが出来ず、この案も没へ。

 最終的に選ばれたのが、馬を使った少数精鋭による行軍である。少数とは言ってもその数は3桁にまで上るため、北側の連合軍の受け入れ態勢が整わないままに行くことは出来ず、数騎での先行が必須となる。帝国には異星の魔物が居るために十中八九失敗するのは分かっているのだが、こちらも対処法を仕込んであるので俺から何かを言う事はなかった。別に守護者以外の奴が死のうがどうでもいいからな。

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