ヴェデッテの野望
月は白じゃ無いのか。
いきなりの情報不足だ。
カルタ殿も警戒している様に見える。
「あぁ、ココでの月はそんな色なのか。オレのの出生を疑っているんだろう?話してやるから湯に浸かれよ。体が冷えるぞ」
だが、契約は成立した。
それならば俺自身の事を話した方が良いだろう。
従者とカルタ殿が湯に浸かってから口を開く。
「恐らく、この星で月が白い場所など何処にも無いだろう。では俺が何処の誰なのか。そう思うのは普通だ。ソレに対する答えは、違う星と言うしか無いだろう」
「違う星?月や太陽と言ったようにか」
驚きながらも返答してくるのは流石だな。
「夜空に光っているのがあるだろう?あれは全て太陽と同じようにひかりを放っている星だ。その星よりも遥か遠くに俺がいた星がある」
「どうやってこの星まで来たのだ。魔法を使ったのか?」
「俺の星に魔法は存在しない。俺自身もどうしてココに居るのかは分からない。気が付いたら居たとしか言えない」
この星には魔法があるから人単体でも空を飛ぶのは可能なのだろう。
天文学はどれ程進んでいるのだろうか。知識をひけらかしたい訳じゃないで、理解しているなら切り上げるのだが。
「この星に神はいるのか?」
「教会はあるし逸話も残されている。存在していてもおかしくは無いと思うが」
「俺の星に神は居ない。自然環境でさえもある程度ならばコントロール出来る。信仰はあるがそれも怪しいものだ。だが、この星に神が実在するならば俺はその存在によって移動させられた事になる」
異世界物でよくある、中世ヨーロッパ風の時代背景であるならば神が居る可能性はある。
中世ヨーロッパは5世紀からだったはず。イエス・キリストの寿命は分からないが、何か手掛かりが残されているかもしれない。
「教会は王国程では無いが権威を持っている。外でこの話はあまりオススメしないな」
「そうか、そうしておこう」
教会と関わる機会もありそうだが、王国側としては好ましくないと言うことか。
「血塗れの服を着ていたそうだが?」
「それは馬の2倍位の速さで走る乗り物から子供を庇った時の血だ。確かにその時に死んだはずなんだが、」
「気が付けばダンジョンに居た、と」
「そういう訳だ。ダンジョンマスターの能力は組織の奴に教えられた。てっきり俺を移動させた神か何かの使いだと思っていたが、最後に商人だと言われてな。言外に脅されてこのザマだよ」
おっと口が滑りすぎたか。
そろそろ上がるとしよう。
「風呂から上がれば食事にしよう。従者も連れてこいよ」
そう言い放ち浴場を後にした。
□
食堂には俺、パペル殿、ヴェーデ、従者2人が座っている。
夕食はオムライスにサラダだ。
守護者達には別室で食事を取ってもらっている。
支援して欲しい物資のリストを後ほど送ることを約束し、解散となった。
「お疲れ様です」
「全くだよ」
玉座に座り、溜息を吐く。
だが、仕事がまだ終わっていないので寝るわけにもいかない。
物資のリストを書いて置かねば。
やはり必要なのは衣服。
食料も技能便りでは駄目だろう。MPを他のことに使いたい。
武具類も必要になってくる。
言い出したらキリがないな・・・。取り敢えず書いて行くが。
対価としては、鏡を贈ることになっている。
物資が届くまでにDMOで購入しておくわけだ。脱退するのは物資が届いてからでも遅くは無い。
今日は疲れた。大人しく寝るとしよう。
□
夢を見ることも無く目を覚ました。
パペル殿達は既に起きていた。荷物を纏めているようだ。
『ヴェデッテお前は残るか?』
『確かに情報が不足していますし、いいかも知れませんね』
・・・おいちょっと待て。会話を盗み聞きしていたら、不穏な会話をしているのを聞いてしまった。
連れ帰ってくれ。頼むから。食費が馬鹿にならんから。
『待遇もよろしいですし、お料理も美味しいです。何と言ってもあのお風呂が、また』
『私も入ったが確かに中々良いものだったな』
お風呂もMP使うんですー!後生だから帰って。
『何ならエバノ様に夜這いしてみたらどうだ?』
『優しいですし地位も私より上です。申し分無いお相手ですよね』
『我が家も安泰だな。ハッハッハ』
おいこらパペル!笑ってんじゃねぇぞ!?
ヴェーデにはおかえり願おう。そうしよう。
「朝食にする!!誰かアイツらを呼んでこい!」
大声で叫んでしまったので、守護者達が何事かと慌てて駆け寄ってきた。
一旦心を落ち着かせて再度、朝食だと伝える。
食堂に到着し、席に付く。
今日はそうだな・・・もうフレンチトーストで構わないだろう。
そんな事よりもどうやってお引き取り願おうか。
答えが出ないままパペル達が食堂に来てしまった。あんな奴に殿は付けてやらない。
「おはようございます。エバノ様」
「ああ、おう。・・・よく眠れたか?」
「それはもう。エバノ様のお陰です」
どうしよう。表情が引きつってる感覚がする。
「あまり顔色が優れないご様子。ダンジョン内の者が慌てておりましたが、何かあったのですかな?」
「いや、少しな。気にするほどでもない」
お前のせいだよ!と、言ってやりたい。・・・言えないが。
さっさと朝食にしよう。疲れる。
フレンチトーストを出した後は、出発の日程の話を聞いた。
どうやら朝食を食べ、荷物の整理ができれば直ぐに出発する様だ。
「ソコでお話しがあるのですが」
「ものによる」
「ヴェデッテをしばらくの間このダンジョンで住まわせていただきたいのです」
・・・出た。もう嫌だ。寝直したい。
「扱いはどうすればいい。食客でいいのか?」
「大切にして頂ければ私としては充分です」
どうしよう言葉に含みを感じる。
「期限は?」
「話が物資の一陣が届くまでというのはどうでしょうか。互いに情報が不足しておりますし、物資にも色をつけさせて貰いますが」
「・・・分かった。好きにしてくれ」
要は俺が手を出さない、出されなければいいわけだ。
守護者を誰か付けておけば安全だろう。
決して物資に目が眩んだわけじゃない。
「見送りをさせてもらいたいから、準備が出来れば守護者の誰かに声を掛けてくれ」
「かしこまりました」
物資のリストを渡し、部屋へと案内させようとするとヴェーデから声が掛かった。
「お父様はお先にお部屋にお戻り下さい。エバノ様、少しお時間よろしいでしょうか」
「構わないぞ」
パペル殿はそれを聞いてニッコリと笑った後、大人しく部屋に戻って行った。止めろよ。
それにしても何の用だろうか。念の為クローフィを呼んでおこう。
「で、何の用だ?」
席に座り直し、机に片肘をつく。
ヴェーデは一つタメを作ってから話し始めた。
「ありがとうございました」
「それは何の礼だ?礼を言うのはむしろ俺の方なんだが」
「私が何かしましたでしょうか?」
「俺の名前を言わなかっただろ?ダンジョン内の会話は全て俺に聞こえる」
パペル殿とヴェーデを引き合わせた時、彼女はオレの本名を名乗ることは無かった。
ナイス機転だ。
「では、そのー、あのお話は・・・」
「なんでもヴェーデが夜這いをしてくれるんだろ?」
ヤケが入ってないことも無いが、会話を楽しむ。
ヴェーデは顔を赤くして俯いている。
未然に防ぐつもりだが、こんなので本当に夜這い出来るのだろうか。
「歳は?」
「え?」
「お前の歳だよ。何歳だ」
「今年で18ですが、それが何か」
「俺は何歳に見える?」
「私と同じか、少し下。でしょうか」
「外見上はな。実際はそれより歳を食ってる。それに合わせて俺は寿命では死なない」
もし仮に俺が婚約でも結婚でもしたとしよう。
そこで起こる問題は寿命の差だ。
俺は若い姿のまま。一方、相手は老婆。
そんなのは嫌だ。俺の心が耐えられない。
「そういうわけでお引き取り願いたい。歳は同じようにとっていきたい。他の相手を探すんだな」
席を立ち食堂を後にする。ヴェーデは外で待機していたクローフィに任せよう。
『謁見の間』に戻り玉座に座る。
いい加減自室を作ろうかな。鏡を大量購入してもいいんだが、どうしたものか。
現状で買えるだけ鏡を購入して、マナフライでMP回復。『謁見の間』から自室に行けるよう部屋を創る。
自室にベットを移動して、机と椅子を購入。これで作業は一旦終了だ。
『三階層』をまるまる生産施設として創造するか。まぁ、MPとの相談だな。
『三階層』
規模 : 2km四方の正方形
内見 : 肥沃な大地
コレで消費MPは200。
階層が増える毎にコストが+100されるのだろう。
創れない事も無い。見送りが終われば創っておこう。
農業、林業に関する知識は技能が補ってくれる。木の苗は買うとして、育つまでに時間が掛かり過ぎるのが難点だな。
特殊フィールドとして設定できないだろうか。
魔法で成長速度を早められるならそれでいいんだが、専用の守護者を創らないといけない。
創る気ではあったんだが、人数とコストが心配だな。
(出立されるようです)
ギフトから連絡が入った。
見送りに行くとしよう。