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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十四章 堅甲利兵
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思わぬ再開

 元気よく挨拶をしてくるノーマリーの兵に挨拶を返し、鎧達に敬礼で返す。鎧は言葉が話せない、というか口が無い。そのくせ食事は取れるんだから本当に謎だ。もう1回中身を確認しておくか?いや、何か怖いからいいや。


 階段を登って防壁に立った。そこから見た景色は、以前見た時とあんまり変わっていなかった。違う点と言えば、帝国兵が前進しているという事だけ。まぁ、そりゃそうだよな。火をつけてるとはいえ所詮は石だ。ほんの少しだけ燃え広がっているように見えるけど、そんなに被害もでなかったんだろう。

 見た感じ、あちらさんも朝食を取っている様だ。槍の1つでも投げてやりたいところではあるが、果たして届くだろうか。熾天使になったから身体能力は向上してるんだけどな、人形に身体能力って意味が分からないものの、神的な何かが働いているのは確かなので魔力の上位互換的なモノだと勝手に思ってるんだが。仮に神的な何かを神的エネルギーと呼ぶとして、神的エネルギーはダンジョンにも結構働いているような気がするからこういうのは気になってしまう。シュヴァルツヴァルトの浮島なんかが代表的だな。

 そんな話しは今はいいか。気軽に扱えるような力じゃないのは考えるまでもない。


 「部屋戻るか。疲れてるだろ?」

 「それよりも、マスターの朝食を取りに行かせます」

 「携帯食料で済ませると言ってるだろうに」

 「食べれる時に食べておかないと後で困りますよ?」


 最後はギフトに押し切られて食べることになってしまった。そのために部屋ではなく、給仕所に向かう。

 もう全員が起き出してる時間帯か。正規兵はもちろん、徴収兵や冒険者の姿も大分増えてきている。

 徴収兵は一応の装備を配備されてるみたいだけど、ボロくさくて仕方がない。言葉にすると、親父から譲り受けたカビが生えた革鎧だろうか。油なんか使ってちゃんと調整すればもう少し使えない事もなさそうだ。流石にこの数の装備を揃えるのは難しいんだろうな。

 冒険者はグループによってマチマチだな。青い布を腕に巻いて帝国側の冒険者と区別がつくようにしているのは分かるんだが、防具の素材とかはさっぱり分からない。見ただけで分かったら、それこそ武具屋並みの目利きを持っていることになる。領域内なら鑑定が使えるから、俺にそんなのは必要ない気もするが。


 「お、旦那じゃないか」

 「ん?」


 ギフトと食事を取っていると、後ろから声が掛かった。俺の事を旦那と呼ぶような知り合いはいないと思うんだが。そう思って振り返ってみれば、身に覚えのない男が立っていた。知らない人間だが、近くに他に人は居ないしコイツが声を掛けたのだろう。彼の後ろには2人の男女が控えている。


 「すまないが、どこかで会ったか?」


 俺の言葉に彼は後ろの2人に振り向き、ギフトはそれとなく俺に近寄って来た。鎧達も地味に密度を増してる様な気もする。流石に警戒し過ぎじゃないか?


 「あれだ、レクタングルの薬屋で会ったと思うんだが」

 「あー、会った気もするな」


 頭をかきながら申し訳なさそうに答える彼。いや、仕方ないだろ?一々、人の顔なんか覚えてねぇよ。

 ここに居るって事は戦争に参加してるんだろうが、俺に何か用があるのか?シュヴァルツヴァルトに冒険者ギルドは存在しないから、俺はその辺に関わってないんだけどな。


 「んで?何の用だ」

 「知ってた顔が居たから声を掛けただけだ。見た感じ正規兵でもないし、旦那も冒険者か」

 「何か勘違いしてるみたいだが、俺は冒険者じゃないぞ?」


 まぁ、鎧を着てないから冒険者に見られても文句は言えないか。俺のことが分からないというのは少し悲しいが。昨日の騒ぎを知ってるなら俺の事を少しでも知っててもおかしくはないとは思うが。せめて服装だけでも伝わっててほしかった。俺と言えばコレ、みたいな。それは流石に高望みし過ぎだろう。


 「いつから砦に居るんだ?」

 「今日、今さっき来たところだ。っていうか冒険者じゃないのか」

 「あぁ。それは、その内わかるさ」


 残念だが話しは終わりだ。時間だ。王が遅れる訳にはいかないので少し早いがここでお暇する。

 また時間が出来れば彼等とも話しをしてもいいかもしれない。冒険の話しを聞いてみたい。俺は種族的にそういうのはあんまり出来ないからな。そういえば、リアスも戦争に参加しているのだろうか。アイツは王家となにやら繋がりを持っているみたいだから参加していてもおかしくはない。

 北の方では戦いが始まっていないので、不用意に動けないのが痛い所だ。


 「じゃあな。また会おう」

 「旦那の時間取らせて悪かったな。また後で」

 「・・・そうだ。戦争が終わればシュヴァルツヴァルトに行くといい」


 首を捻る彼を残し、俺は防壁へと歩いて行った。マインからの念話によれば、スタージュがもう少しで防壁に到着するらしい。なんでも、兵士達が急に慌ただしく現場を整理し始めたから、とても分かりやすいとのことだ。それを聞いて社会人時代を少し思い出し、小さく笑った俺は金の鎧を身に纏った。


 2日目の戦いの始まりだ。





 防壁に登った俺は、スタージュや指揮官達と簡単な打ち合わせを始めた。あんまり細かく決めても戦いが始まれば連絡をしている暇なんか殆どないからな。適当なぐらいがちょうどいい。


 「・・・気を付けてほしいのは正門への魔法の集中砲火だ。それ以外ならしばらくは耐えられる」

 「分かった。―——『土魔法』で地面を掘ってきたりはしないのか?そうすれば防壁なんて関係ないぞ」

 「魔法で地盤を固めてある。それを崩すとなるとだいぶ非効率だ。結界もあるから、地中からの攻撃というのは考えにくい」


 どうやら見えない所で色々と手をかけているようだ。地中を進むのはいい考えだと思ったんだがな。

 砦に引きこもってからは、右翼、左翼は関係ない。戦力が均等になるように割り振られていく。基本となるのは魔法や弓での攻撃で、前衛職は雑事に回るらしい。剣はある程度近づかないと当たらないし、まさか、自分の武器を投げる訳にもいかないだろう。妥当と言えば妥当だな。


 「それで?俺達は何をすればいい」

 「私やエバノ殿は見ているだけだ。現場の指揮官が勝手に上手くまわしてくれる」

 「ただ見ているだけというのもな・・・」

 「何のために民が居ると思っている。仕事を奪ってやるな」


 自然とやることを聞いてしまったが、スタージュは何をしなくてもいいと言う。このまま見ているというのも手持ち無沙汰であるものの、王としては教育を受けている彼の方が上だ。であるならば、ここは静かに見ているとしよう。

 マインや鎧達にはノーマリーの兵と協力して上手くまわしてほしい。俺は動けないからな。何かあれば念話を入れてもらえればそれで構わない。


 「スタージュ殿はいつまで続くと思う」

 「この様子だと早くて一ヶ月、遅くて三ヶ月。冬に入れば戦争の勢いは一旦止まるだろうから、精々が二ヶ月程度ではないだろうか」


 今から二ヶ月といえば11月の頭か。こちらが押し切るまで北が持つかどうか・・・。いや、持ってもらわないと困る。どれだけ早く攻め切れるかどうかがカギだ。相手も馬鹿じゃないから、タダでやられるわけでは無いし、当たり前に抵抗もしてくる。

 初日は上手くいったが、そろそろ守護者が死ぬことも覚悟をしていかねばならない。戦争を無傷で切り抜けられるはずが無いのだから。今までが上手くいっていただけだ。


 「スタージュ様、エバノ様。砦内にお下がりください」

 「分かった」


 ノーマリーの兵が俺達を呼び、防壁から降りる様に告げる。たとえ流れ弾にでも当てたくないのだろう。

 さて、そろそろ始まるようだ。俺は状況を確認出ず、指示を出せないので、象と共に待機しているスキアーには別の奴に指示を出してもらう。適任としてはマイン辺りか?そこら辺は勝手に決めてくれ。


 兵士に案内されてやってきたのは、炊事場の近く。ここに何かあるという訳ではなく、安全かつ、兵に姿を見られているからという理由だ。サボってるわけでは無いよ、というささやかなアピールらしい。本当は何もしていないんだが。

 ときたま自国について話してそれっぽい雰囲気をかもし出してはいるものの、基本はどうでもいい話しをしている。


 銅鑼の声と共に空気を震撼させる声が上がり、俺に戦いの開始を告げた。

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