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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十四章 堅甲利兵
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踊れ鉄の旋風

 シュヴァルツヴァルト、左翼の第一列が帝国の右翼と刃を交えた。

 ルーンフェンサー、ライトアーマーの混合である第一列から第三列。『剣術』の熟練度もそうだが、この場の様に敵味方が多数いる場合、練度がモノをいってくる。不測の事態にどう対処するか。意識の切り替えこそが大切なんじゃないだろうか。


 例えば、急に土埃で視界が潰れたら?


 ルーンフェンサーが起こした土埃。いきなり起こった予測外の出来事は、帝国兵を驚かせるのに十分であった。追い打ちを掛ける様に土埃を裂いて現れるのは炎の槍。それらはルーンフェンサーの数だけ、つまりは、200もの魔法が彼等の目の前に突然現れた。


 帝国兵は目をめいいっぱいに開き、兜からは死への恐怖が漏れ出す。逃げ出した者は味方の槍に、恐怖に耐えた者は渦巻く炎に貫かれる。唯一救われたのは、腰を抜かし、惨めに地面を舐めた者だけ。だがそれも、ほんの一瞬の安寧でしかない。

 穴が開いた土埃の壁から、無慈悲の化身と化した鎧達が現れたのだ。我先にと飛び出さず、隊列を乱さずに死を告げに現れた彼等は、倒れた者を踏み潰し、剣を突き立ててはMPを回収する。そこから放たれるのは、終わりなき死へと続く魔法。敵を殴れば殴るほどMPは回復し、魔法は精細を取り戻す。至近距離から放たれる魔法になすすべも無く命を散らす帝国兵。至近距離から大砲レベルの攻撃を喰らえば、それも仕方の無い事ではある。


 しかしながら、押し寄せる死の波の勢いは次第に衰えていく。何が起こった訳でも無いのに、魔法の数は減って行き、帝国兵に押されていく。それを好機とみなした指揮官により次第と勢い付いて行く帝国兵だが、その実、俺が後退の指示を出しただけである。

 戦争の空気は掴んだ。簡単な進め方というのも分かった。一先ずは引いて次の作戦に移るとしよう。元より、ある程度数を減らせれば砦に戻る手はずだったのだ。予定が少し早くなったというだけで、さしたる違いはない。

 右翼の方もマインに師事を出して後退を始めている。ノーマリー側の指揮官ともある程度上手く出来ているようでなによりだ。



 後退が完了した。

 シュヴァルツヴァルト、ノーマリーの連合軍は砦内へと。トハン帝国兵は、俺達が設置した馬返しの辺りまで前進している。スタージュに聞いてみたのだが、初日はコレで終わりのようだ。恒例では一ヶ月ほどかけて戦っていくので、休める時には休んでおかねばならない。生憎、最高指導権は俺には無くスタージュが持っているからそんなに強く言えないのがつらい所だ。だから勝手に行動するんだけどな。本当はやっちゃ駄目だぞ?

 右翼から何人も死人が出たようだが、守護者は重症が出ただけで死人は出ていない。鎧型の守護者は致命傷でもない限り鎧のパーツを交換してやれば死ぬことはないので、俺の領域内では一撃でやられない限り死なないということになる。まぁ、マインが上手く指示を出して負傷者は直ぐに下げてるみたいだから、俺が動く必要もなさそうだな。


 夕食は初日ということもあって、それなりのモノを食べられた。スタージュに上の者は別のものを用意していると言われたが、丁重にお断りして、シュヴァルツヴァルトの守護者全員で集まって食事を取ろうと思っている。ここだけは何を言われようと譲る気は無い。

 それに、今日は全く動いてないからそんなに食べなくても大丈夫だ。守護者達は自分の食事を分けようとしてくるが、命令して自分で食べる様に言ってある。相変わらず鎧系は何処に食料が消えているのかは謎のまま、夜の食事は終わった。



 食事が終われば嫌がらせの準備だ。これは俺の独断での作戦なので、ノーマリーの兵は興味津々といった様子。スタージュが嗅ぎつける前に準備を済ませてしまおう。


 まず、手のひらサイズの石を油に浸した紙で包む。それをロープで結べば準備は終わり。投げる時になったら紙に火をつけてやればいい。『火魔法』持ちは火付け役である。それじゃ、始めますか。


 「点火!・・・構え――――!!」


 火が付くとともに、ロープが回される。赤い軌跡を描きながら回転する石は、鋭い音を立てながら勢いを増していく。砦の防壁に描かれる、1,000もの赤い輪。彼等の足元には次の弾を持った鎧が控え、次弾にも余念がない。


 「ッて――――――!」


 放たれる火弾。それを見たノーマリー兵からは驚きの声が上がる。そりゃ、勝手にこんなこと始めたら驚きの声の1つも出したくなるわな。


 1回打てば俺の掛け声の出番は終わりで、マインに引き継ぐ。俺のこの後は、石を油紙で包む裏方作業に移る。誰の目にも映らないように弾作成用に集まった守護者に囲まれながら、手をギトギトにして弾を作る。慣れて来るとだいぶ楽しいんだけどな。どこかに理解者はいないだろうか。


 夜空に線を描きながら飛翔する線の落下点を見る暇も無く、弾に火が灯され、回転を始める。

 残念ながら俺は結果を直に見れないので、最後に結果だけを確認させてもらう。嫌がらせが第一の目的だから、戦果はそんなに期待していない。精々が寝にくい夜を過ごしてもらえたらと思っているぐらいだ。


 ・・・・・・ん?

 アーマーナイトに服を突かれて振り返ってみれば、遠目にスタージュの姿が見えた。後ろに人を連れて慌ただしく走ってきている。様子を見てた誰かから話しを聞いたんだろうな。そろそろ潮時か。まぁ、もう十分だろ。


 (スタージュ来たから片付けて撤収)

 (分かりましたわ)

 「エバノ殿ーー!これはどういうことかーーー!」


 野営をしている喧騒の中、声が聞こえる距離にまでやって来たので、俺も見つかる前に部屋に急ぐ。俺の姿は鎧達が隠してくれているので、そうそうバレることもあるまい。明日は早朝から暴れ回る予定だから、睡眠はしっかりととらねば。

 じゃあな、スタージュ。いい夢見ろよ。




 今の時間は午前3時。昨日寝たのが21時ぐらいだから睡眠時間としては申し分ない。

 それで、こんな時間に起きてどうするのかという話しだが、今回も独断でやっちゃうのだ。すまんなスタージュ。


 今回は遂に、レイから預かっている彼等の出番だ。彼女も思い付きであんなモノを創らないでほしい。いや、それが悪いとか言ってるわけでは無いんだ。創る分にはいいんだが、事前に言ってもらわないと俺も対処に困る。それでどうしようもなくなって、曖昧な返事をするから、レイも調子づいてしまう。

 そのことで砦へと向かう道中にブリッツからお小言をもらってしまったので、流石に強く言っていかないと駄目なのか、と思ったり。ブリッツから言われるのは本当にヤバイ。ついつい甘くなってしまうのを本格的に直していかねば。


 気を取り直して向かうのは、砦の北側。トランスホースに乗って戻って来たギフト達と合流し、50体の象を召喚する。スキアーが『調教術』を持っているので彼女にこの場を任せて、俺達は砦へと戻る。帝国兵の戦列が伸びた所を叩ければ最高なんだけどな。そんなに上手くいかないのは分かっているけど、想像はしてしまう。こうなったらいいな、とかそんな感じで。


 さて、砦に戻って来たわけだが。


 「・・・何をやってるんだ?」


 幾つもの鍋が火にかけられるその様子は、あまりにも戦争とはかけ離れている様に感じた。料理をしている訳でも無いし、油を熱している訳でも無い。鍋の中身が油なら、敵に掛けるんだろうな、と思うけど、見た感じ油ではなさそうだ。


 「ギフトは分かるか?」

 「そうですね。アレは水です」


 水?ただの水なんか熱してどうするつもりだ。お湯を掛けるつもりなら、油の方が良いと思うんだが。油の取り方が分からないって訳じゃないだろうし、全く意図が分からない。俺の知識が正しければ、油は紀元前から使われていた筈だ。この大陸の文明度ならあってもおかしくはない。


 「亜人が減ってしまって在庫が少なくなっているのではないでしょうか」

 「動物油を使ってるのか・・・。植物油とか魚油は、いや、亜人が多くいるから量採れる動物油を使うのか?」


 こんなことなら『金酉宮きんちょうきゅう』で食料品も見ておけばよかった。マーゲンの作ってくれる食事が上手すぎて見る気もなかったんだけどな。この大陸の事をもっと知りたいなら身近なことから情報を得ていくしかないのか。流通について知っていけば大型船が無い謎も分かるのかもしれないな。


 「防壁に登るぞ。状況の把握をする」

 「朝食はどうしましょうか」

 「携帯食料で済ませる」


 昨日の火弾の成果を見れてないので、一目だけでも確認しておきたい。領域の映像として見るのと、自分の目で見るのとではまた違う。帝国側の配置も頭に入れておかないといけない。象を活かすも殺すも俺次第だ。

油に関する記述は簡単に調べただけなので結構適当です。

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