夜空を駆けろ
何事も無く砦に到着した俺達は、ノーマリーの兵と合流し、戦いに向けて戦場を整えていく。
土の槍を敵陣に向けて生やしたり、土を掘り返して塹壕を掘ったりと、やらねばならない事も多い。戦争が始まる前に疲れさせるわけにはいかないので、1日のスケスジュールはユックリと進んでいく。
こうして、戦争開始まで残り一ヶ月を切った。
最終的にこの砦に集まって人数は、1万近いだろうか。シュヴァルツヴァルトがそのうち半分を占めていて、ノーマリーが3千とちょっと。残りはオーラルフットの兵糧を運ぶ人達だ。料理人や娼婦の姿もチラホラ見かけるので、ちゃんと数えればもっと多いのだろう。生憎、俺が知っているのは報告が上がっていた兵の数だけだから、その辺りはスタージュの管轄である。
話しによれば、もうほとんど戦争に参加する人数が変動することはないようだ。冒険者がどうなっているのか気になって聞いてみたら、既に隊列に入っているとのこと。彼等は金で雇われており、傭兵との違いはない。そもそも、魔物専門が冒険者、何でも屋が傭兵と別れているので、ほぼ同じと言ってもいいと思う。
トハン帝国側の戦力は8千ぐらい。スパイというか、密偵が居るようで、こちらの兵数に合わせようと日に日にその数を増やしている。流石にこれ以上増えられるのは俺としても良くは無いので、今日から手を打たせてもらう。戦闘開始前だが、バレなきゃ関係ない。戦争は既に始まっているのさ・・・!
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日は沈み、月が顔を出した。
月明りが刺す森を、俺とギフト、そしてスキアーが音を立てないように歩く。場所は砦の北。『果てしない渓谷』の端っこ。
彼女達2人はこの前に俺が創った装備だが、俺はお助けマントを着ているだけだ。俺はシュヴァルツヴァルトの王として来ているために、そんなに長く外出は出来ない。そのために、この作戦に俺は関われないのだ。
10分もすればその場で止まり、いよいよ作戦が始まる。
(始めるぞ)
念話に帰ってくるのは、ユックリとした頷き。
お助けマントを地面に敷き、転移陣を起動させる。この時に周囲に光が漏れてしまうのだが、こればかりはどうしようもない。周りに人の気配は無いようだし、このまま進ていく。
今回、転移陣で呼んだのはブルーダだ。黒いミイラの様な容姿をした、総勢10体の守護者。両方の腰には剣帯に繋がれた剣があり、今にも解けていきそうなほどに薄い布を身に纏っている。
(帝国側の戦力を減らすのが目的だ。ここから帝国領に入り、出来る限り兵士の数を減らしてくれ)
指示を出したと共に闇の中を駆けていった守護者達を見ながら、俺も砦への帰路につく。そのすがらに頭の中に浮かぶのは、このたいりくの地図。正確な形ではないものの、頭で考える分には申し分ない。
獣人が殲滅された場所はもう少し北の方で、そちらはまだ視界が開けているのだが、この辺りは森が続いている。だからさっきみたいな作戦を出したん出したんだけど、あれは良かったんだろうか。普通の衣装を着せて潜入させた方が良かったのではないか・・・?いやいや、後悔は結果が入ってきてからだ。帝国側の拠点は野営地みたいなものだからから、この作戦を立てたんだ。もっと自信を持て。
自分で作戦を出して置いて、自問自答なんてカッコ悪い。俺らしくも無いな。初めての戦争で緊張してるのかもしれない。いままでも戦争以上に重要な場面はあった筈なのに・・・、違いはなんだ?突発的じゃないから?それもあるかもしれない。いままでは急に来て、緊張する間もなく戦って来た。だから、ここまでちゃんと準備して戦うのは初めてのことになる。でも、だからってこんなことで悩んでいては先が思いやられてしまう。
何の気も無しに振り返ってみれば、そこにあるのは木と虫のさざめき。蒼い月に照らされた夜の森。眺めていれば、それだけで吸い込まれてしまいそうな感覚。急にギフト達のことが心配になって、肌に寒気が走った。それは、何かが起こるぞと、俺に警告をしているような、そんな気がした。
・ジャンル選択[死]
・造形『馬』
・細部設定 技能『身体能力強化』『物理無効』『半霊体』
消費MP108
・名称『トランスホース』
MPが足りなくて一気に12体創造とはいかないが、そこはファインを呼んで事なきを得た。ブーストをかけたMPが抜ける前に急いで創った。
脚が半ばから透明になった、灰色の馬はユラユラとたてがみを揺らし、白い瞳で俺を俺を見つめて来る。
小さな声で「頼むぞ」と呟けば、甲高いいななきを上げて蒼い空を駆けていった。
これでいざとなっても大丈夫だろう。何も起きなければいいのだが。
俺の方も気を付けておくとしよう。
時間の流れが遅い。戦争が始まるなら始まるでさっさとやってほしい。その方が気が楽だ。