普通の国との条約
「お久しゅうございます。お父様」
娘はどうやら無事の様だ。尋問どころか新しい服まで用意して貰っているとは。
「今は挨拶はいい。情報を頼む」
「私の憶測が入る部分もありますが報告させてもらいます。ダンジョンマスターの名前はエバノ。彼はダンジョン内ではほぼ無敵です。食事から人に至るまで創造出来ます。能力には制限がある様ですが注意が必要です」
ダンジョン内ではほぼ無敵。それは来た時に分かっている。
分かっては居たが人を創造するとは・・・。
制限があるというのも気休めに過ぎないだろう。
「為人はどうだ。かなりの知性と礼節を持っていたように感じたが」
「話を聞くところによると王族、それに近い地位を有していたようです。彼は守護者と呼んでいますが、ダンジョン内の生物は皆が彼の記憶を元に創られており、爵位を有している者も居ります。目的は国の再生かと思われます」
・・・ヴェデッテが情報を知りすぎている。
一日二日でそこまで知れるだろうか。嘘の情報を教えられてる可能性があるな。
だが彼が高いレベルの教養を持っているのは確かだ。
強い個体も居ると言うのは頭の隅に置いておこう。
「そもそもダンジョンマスターというのは何だ。高い地位に居た彼はどうやってダンジョンマスターになった?」
「彼は当初血塗れの服を着ていました。時間が無く着替える暇が無かったのでしょう。血の跡を見るに瀕死か、既に死亡していてもおかしくありません。そこから回復するとは到底思いませんのでソコで転機が訪れたのでは無いでしょうか」
生き返ったとでも言うのか。
そんな事が出来るのは神の御業としか言いようが無い。
ダンジョン内でダンジョンマスターは神に等しいが、果たして繋がりがあるのだろうか。
扉がノックされ、飲み物が運ばれて来た。
□
畔木 鴎side
流石だ。ほぼ確信に突き当たっている。
ヴェーデの偽の情報もあまり信じていない様に見える。
彼女も彼女でとんでもない。
冷や汗をかいている俺とは大違いだな。
俺もそろそろ行くとしようかな。
「話は済んだかな?」
「エバノ様のご配慮により無事、娘と再開を喜ぶ事が出来ました」
「やはり親子だったのか。顔が似ている」
鑑定で名前は丸分かりだ。
咄嗟のことなのに表情に出てない辺り流石だな。
「で、話の本題なんだが。俺は冒険者ギルドの連中に話を持ち込んだと思うのだが、提携をしているのかな?」
「完全な提供はしておりませんが、国の方から幾らか融資をしていましてね。私共と致しましてはエバノ様とのお話を更に大きな物としたいと考えております」
「そういうことか。私としては別に異論はない。このまま進めても?」
「ええ、どうぞ」
後ろ盾は大きいに越したことは無いからな。
相手方を味方に付けられるかどうかは俺の仕事だ。頑張るとしよう。
「私から求めるのは、主に外部の情報、自身の身の安全。ダンジョン内の治外法権。そちらの意見を聞こうか」
「ノーマリー王国の意見としては、兵の戦力増強にこのダンジョンを使わせて頂きたいと思っています。勿論、命を掛ける物でなく、訓練としてです。その他には、ダンジョン外への侵攻を禁止して頂きたい」
この国でのダンジョンの立ち位置が分からないので、何をふっかけられるかと思っていたが大丈夫そうだな。
治外法権について何も言わないのか?
「訓練はコチラとしても歓迎したいところだ。侵攻で無ければ外に出ても良いのかな?それと何時から来るのだろうか」
「それは大丈夫です。その際は護衛をつけさせて頂く事になると思いますがご了承ください。兵は一ヶ月後ぐらいでよろしいいでしょうか」
「それで構わない」
今の所利害が一致している。
互いに不可侵。情報の共有。そんな所か。
「では、互いに不可侵という事で。治外法権について何か質問は?」
「我々はダンジョンを一つの国として扱わせて頂きます。ダンジョン内での事はダンジョン内の法で裁くのが妥当かと。限度はありますが」
まぁ、問題は無いな。
「一つお願いがある。出来ればこれも私からの要求に足してもらいたい。それは、現在私はある組織に組みしているという事だ。気に入らないが、組織のルールという物に従わなくてはならない場合もあるだろう」
コレが聞いてもらえれば、俺からは何も無い。
DMOが俺が抱える唯一の欠点だ。
「そこで国からの支援をお願いしたい。詳しく言えば、組織から独り立ちするための物資の支援だ。支援を受けている間は、それなりの物を対価として送らしてもらう。この話には多大なリスクがある。断ってくれても別に構わない」
「組織というのはどのような規模なのでしょうか」
「ダンジョンは確認されているだけで何個ある?」
「確か、200程だったと」
「ならその3/4。150が入っている。王国にダンジョンは幾つあるのか」
「王国が保有するダンジョンは10です。エバノ様のダンジョンを除くと、ですが」
DMOが足を引っ張るな・・・。
「それが同時に襲ってきた場合勝算はあるのか?無いならこの話は終わりだ」
「我が国は中規模程度の国ですが、その程度で敗れはしません。それに他国との繋がりもあります。単にダンジョンと言っても経営が下手なお方も居るようですし、問題はありませんね」
「そうか、まあ、決めるのは諸君だ。私からは以上だ。これ以上の要求はしない」
DMOの件はどうにかなりそうだな。
脱退できるのであればさっさとしたいものだ。
後は王国側の意見をどれだけ通すかが話題になるはずだ。
「戦闘訓練についてだが、どれほどの数が来るのだ?街からも離れているし費用も掛かるだろう」
「週に1回ほど。10人ほどを、と思っているのですが」
「その程度なら構わんよ」
議題に上がったのは全て話し終わっただろうか。
まとめに入るとしよう。
「まとめに入ろうか。ダンジョンと王国は不可侵。週に1度ほどダンジョン内にて先頭訓練を行う。ダンジョン内では王国の法を一切適応しない。何か依存は?」
「特にありません」
「この場で決めてしまうのか?国に持ち帰っても構わんぞ」
「私に全権を委ねられておりますので構いません。組織に入られているのは予想外ですが、その件も了承しましょう」
契約書でも書こうとしたのか、羊皮紙を取り出したので一応止めたのだが、この場で決めてしまうようだ。
DMOの件は要求を呑んでくれて助かった。コレが原因で断られる可能性が高かったからな。
2組の羊皮紙にそれぞれが同じ内容の文を書いて交換。互いに署名をする。
日本語と何か知らん文字(技能のお陰で読めはする)の契約書が出来上がった所で話は終わりだ。
「本日はどうするのだ?泊まるというのなら用意をさせるが」
「では、その様にお願いしたい」
『一階層』に客間でも作るか。まとめて作ればその分楽になる。
ギフトに客間へと案内をさせる。
部屋数には余裕があるので、幾つか繋げて一つの部屋として扱う。
石畳なので無愛想かと思い、お高いカーペットを敷いたりと、色々手を加えて入るがどうだろうか。
因みに全員が同じ部屋の方が良いとのことだったので部屋を分けてベットを3つ置いてある。
MPに関してはマナフライとクローフィ様々である。
少し休んでMP回復に努めるとしよう。
□
パペル・カルタside
ダンジョンマスター、エバノとの対談が終わった。
ダンジョン同士の組織があるのは初耳だが、冒険者ギルドからダンジョン内での報告は受けている。
更に、ダンジョンマスターが居るとなればその様な想像は容易い。
ダンジョンから襲われるにしても、出入口に岩でも積んでやれば出て来れなくなる。
エバノ殿はこの件に関して、イイ顔をしていなかったので目の上のたんこぶだったのだろう。
恩を売れたのなら良し、そうでなくとも物資の支援で儲けさせてもらうとしよう。
階段を上り、客間へと案内された。
いい部屋なのだが、やはり窓が無いのがな。
ダンジョンマスターというのは閉鎖空間でも平気なのだろうか。
部屋で一息ついていると扉がノックされた。
従者が戻ってきて、風呂があるので入られてはどうかと言われた。と、報告してきた。
長旅で疲れた体には丁度いいだろう。念のための着替えも持ち合わせて居る。
従者を連れて風呂へと向かった。
到着した部屋は、今までとは一風代わった部屋だった。
説明によるとココで衣服を脱ぎ、奥の浴槽へと向うようだ。
コレが文化の違いと言うやつか。
普段は従者に洗わせているのだが、私自ら洗わねばならぬ様だ。
服を脱ぎ奥へと進む。
ソコには先程言葉を交わした男が立っていた。
「コレはエバノ様」
「内のダンジョンは俺以外は女性しか居ないのでな。俺が説明させてもらう。風呂場で敬語は要らんぞ、話し合いは終わったんだ」
そう言うと先に進み出した。
従者と顔を合わせ、彼の後に続く。
公私混同はしないタイプか。
私としては遣りやすいので良いのだが。
「コレは何だ」
「シャンプーだ。それで髪を洗う。間違っても目に入れるなよ?入った場合はお湯で流せ」
ふむ。彼の実演を見る限りこの液体はかなり泡立つようだ。
おおっ、コレは凄いな。
石鹸も我々が使うものとは別物だ。
一通り洗い終われば、案内されたのは外が見えるという浴槽。
地下で外側見えるなど有り得ないのだがどういう事なのか。
「コレは・・・」
「月が、白い・・・」
従者も思わず声が出る。
私が生きてきた中で月が白いなど、そんな事は一度も無かった。
月は普通、淡い青色のハズだ。
「月がどうかしたか?」
「私が知る月は淡い青を・・・」
従者が口を滑らしたのを慌てて止める。
この大陸で白い月は有り得ない。そうなれば地図にも無い未知の大陸から来た可能性がある。
警戒して当然だった。
「あぁ、ココでの月はそんな色なのか。オレのの出生を疑っているんだろう?話してやるから湯に浸かれよ。体が冷えるぞ」
ダンジョンマスターの出生の秘密。
私はとんでも無い場面に鉢合わせで居るのかもしれない。