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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十三章 永垂不朽
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謝罪のケーキ

 シュヴァルツヴァルトにある城の一室。そこで、アクルは机に突っ伏していた。


 「ん――――――――」


 ここはギフトに与えられた部屋だ。特に飾り気があるわけでも無く、生活に必要なモノだけが綺麗に並んでいる。だが、これは別に彼女だけに限った話しではない。守護者は皆がこのようにしているのだ。違いがあるとすれば、己が使用する武器や防具が置いてある程度だろうか。

 そんな部屋の主であるギフトは、顔を腕に埋めてうめき声をあげるアクルを眺めていた。彼女自身、目の前に居るアクルをどう対処したものか分からずにいたからである。珍しく部屋にやって来たかと思えば一直線に机に向かい、無言で椅子に座っては声を出す。それは楽しいのかといいたいのを堪えるのに必死だったのだ。


 「カモメのバカ―――!!」


 突如上体を起こし、両腕を天井へと掲げるアクル。彼女の中に何が溜まっているのかは分からないが、叫んだそのままに、ギフトに言葉を飛ばした。


 「カモメが私にだけあたりが強いんだけど」


 何だ、そんなことをわざわざ相談しに来たのか。ギフトはそう思うと同時に、まるで当たり前であるかのように『人宮一体』で剣を呼び寄せ、その切っ先をアクルへと向ける。肩を上げて驚くアクルへといい笑顔を向け、ギフトは呟く。


 「それを私に相談するのはいいですが、マスターの侮辱は感心しませんね」

 「えっ、あ、ごめんなさい・・・。そんなつもりじゃなくて」

 「分かればいいんです」


 冷気の様なプレッシャーに自身が覆われたかのような感覚。アクルの口から出た言葉は、ギフトを怒らせるのに十分すぎるほどであった。けれど、ギフトとて本気で怒っている訳はない。彼女もまた、アクルが言っている事には思う事があったからだ。

 憤怒は鳴りを静め、部屋に残るのは気まずい静寂。ただそれを感じているのはアクル1人であり、ギフトは素知らぬ顔で剣をしまった。


 アクル。彼女は、シュヴァルツヴァルトにおいて重要な役割を果たしている割にはエバノからの褒賞が少ない守護者である。彼女が展開している方陣によってシュヴァルツヴァルトは外敵からの直接の転移を受けることが無く、『金酉宮きんちょうきゅう』には冷凍設備が搭載された。守護者を転移させる『お助けマント』作成にも一役買っており、1番働いている守護者といっても過言ではない。この場がダンジョンであるからこそ床や壁は壊れないが、本来であればこのような場所にも『方陣魔法』というのは作用させることが出来る。


 では『方陣魔法』とは何か。それを簡単に説明しよう。

 魔法を発動させるには、体内のMPを押し出し、目指す形に向けて形を整えていかなければならない。その過程を図で表したのが、俗に言われる魔法陣である。その魔法陣をモノに刻めば、それは『方陣魔法』となる。通常の魔法と違うのは、己のMPを使うか、空気中を漂っている魔力を使うかでしかない。ここが『方陣魔法』の利点だ。方陣の維持にだけMPを使うために、長期間にわたる魔法の行使を可能にしたのだ。


 閑話休題。

 要は何が言いたいかというと、アクルはシュヴァルツヴァルトに張ってある方陣の維持の為にMPを使っているということだ。技能の熟練度が中々上がらないのもそのためで、彼女自身は常日頃から魔法の特訓をしている。エバノがその辺を失念しているためにサボり魔だと思われがちだが、そんなことは無いのだ。


 そんな彼女がクローフィが居ないからとギフトの所にやって来てまで愚痴を零すのは、先日の『大聖堂』での一件を引きずっているためだ。

 アクルはただ、エバノに笑ってほしかった。別に悪気は無く、その場にいたリェースとメラニーも喜んでくれるのではと思っていた。しかし蓋を開けてみればどうだろうか。エバノは笑ったか?いや、笑わなかった。それが彼女の後ろ髪を引っ張っているのだ。


 「素直に謝ってみてはどうですか?3人で一緒に。・・・確か、スキアーも居ましたから4人ですね」

 「んんん」


 器用に頭を机に乗せたまま天井を向くように反転したアクルは、ふと、言葉を発した。


 「どうして知ってるの?その場にいなかったんでしょ?」

 「マスターより頂いた技能がありますので」


 済まし顔でそう答えるギフトに、「制限ってなんだっけ」と呟くアクル。結局答えは出ないまま、彼女はそんな疑問と共にギフトの部屋を後にした。


 次に彼女が向かったのは、メラニーの場所だ。メラニーはメイドとして創られた存在ではあるが、常日頃からエバノと共に過ごしているという訳でも無い。ダンジョン領域内で彼女が出来ることはエバノも出来ることであり、尚且つ彼女よりも早いためである。そのために、城壁内に設置された庭園の手入れなどが彼女の普段の仕事だ。


 「先日の、ですか・・・」


 メラニーを捕まえたアクルは、ギフトと同じ様なことを彼女に聞いていた。ベンチに腰かけた両者の間をしばらく静寂が漂う。アクルがじれったそうに体を前後にゆすり始めると、メラニーは問いに答えた。


 「それでは陛下に謝罪をしに行きましょう」

 「・・・うん」


 心のどこかで、その言葉が返ってくるのが分かっていたのだろう。声量は小さいながらも、しっかりと頷くアクル。どんなに悩んでいたって、最終的には謝るしかない。否定したかったその事実は、ギフトとメラニー、2人に言われたことですんなりと受け入れられた。


 となれば、後は簡単だ。リェースとスキアーを探して、一緒に謝ってもらう。

 1人よりも2人で。2人よりも3人で。3人よりも4人で。赤信号、皆で渡れば怖くないを地で行く彼女たちであった。


 □


 俺の部屋で仲良く頭を下げる4人。言うまでもないと思うが、リェース、アクル、スキアー、メラニーの4人だ。正直、あの時の事は俺も悪く思っていたので謝罪自体はすぐに受け入れたのだが、その後がいけなかった。

 俺とかもめとで食べていたホールケーキが結構余っていたのでお詫びにと振舞ったら、どうしてケーキがここにあるのかと聞かれて、隠れて甘味を食べていたのかと逆に怒られたのだ。誕生日は静かに大人しく祝いたい俺としてはここで俺が歳をとったことをいう訳にもいかず、言い訳に必死だった。


 最終的に彼女たちとの隔たりは消えたように思えたので、それはそれで良かったのではないだろうか。

 『大聖堂』に居る人達ともこう上手くいってくれたらいいのだが。

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