普通の国の紙
ゆっくりと目を開ける。
そこには見慣れたダンジョンの姿。俺の心の内には安堵と同時に落胆があった。
あの場所は夢だったのだろうか。
現実に起こった出来事だとして、何がトリガーになったのだろうか。
昨日の変化をまとめる。
午前
1.俺を頂点とした階級制度の導入
2.マインの創造
3.マナフライを6体創造
4.マインがライトアーマーを3体創造
午後
1.マインがライトアーマーを3体創造
2.クローフィの創造
ぱっと見た感じでは守護者の数が関係しているのだろうか。
一日目の守護者は5体。
二日目の守護者総数は19体。
一気に増えたが、どれが基準なのだろう。
例えば数が関係しているなら、10体か15体か。もっと中途半端な数かもしれない。
人が来る予定なので守護者数に関してはチマチマ検証出来ない。
要するにいつも通り行動しろと言うわけか。DMOの目が何処にあるかは分からない。神の事は秘密にするべきだろう。
・・・臭いがキツいので風呂を創ろう。
場所は、そうだな。二階層で問題無いだろう。食堂の反対側に場所を取るか。
脱衣場に浴槽等を設定していく。
水源に関しては、使用時に創造で使ったMPとは別にMPを消費すればお湯が張れる。コレを男女で2組設計。
MP消費は各30。俺のこだわりとしては露天風呂が出来るように設定した。
地下なので、普通外は見えないのだが、擬似的な物を創った。
大きさも確保してある。露天風呂の他に、温度が違う2つの風呂も設置した。
風呂場だけ完全な日本だが、誰に言われようとコレは譲れない。
ベットで寝ている三人を起こして風呂に連れていく。
主より起きるのが遅い守護者はどうなのかと思ったが、ソレを言うと反撃を喰らうので黙っておく。
「でだ、普通に男湯に入って来るなよ」
露天風呂でゆっくりとしていたのだが、普通に守護者達が入ってきた。
どこかデジャブを感じずには居られない場面だ。
「恥ずかしがるような間柄では無いでしょうに」
「そうですわ。折角なのですから四人で入った方がよろしいに決まっています」
ギフトとマインがそう言って俺の両隣に陣取り、クローフィが俺の上に座る。
「クローフィ邪魔だ」
「私の場所が無いので仕方ないのです。分かってください」
寄ってくる三人を叩き出して入り直す。
風呂は今度から一人で入ろう。そう固く決意した。
この露天風呂は空が見えると言ったが、設定上は夜空だ。日が昇ることは無い。ずっとこのまま。
気を抜くと寝てしまいそうだ。上がるとしよう。
後でヴェーデにも入りに行かせるか。誰かお供を付けとけば入り方は分かるだろう。
(風呂から出たら食堂に来るように)
連絡を入れたのでそのうち来るだろう。
三人ともまだ風呂に入っている様なので俺がヴェーデを迎えに行くとしよう。
ドアをノックしてヴェーデを顔を合わせる。
服にシワが寄ってるな。一着位なら用意できるし、朝食後に渡すか。
今日の朝食は豚汁に白米だ。箸を使わなくてはいけないが、俺がコレを食べたいので頑張って慣れてくれ。
朝食後にヴェーデに風呂を勧め、ギフトに付き添いを頼んだ。
そのあいだにマナフライからMPを回収して福を購入する。
俺の目測で服のサイズを選んだので合うかは分からない。その時はあたらしく購入するだけだ。
マインがライトアーマーを更に3体創造して少しした頃。
時刻は11時18分。2回目の侵入者の来訪だ。
名前 パペル・カルタ
種族 : ヒト
HP124
MP115
・証
伯爵『カルタ家頭首』
・技能
剣術[熟練度2.48]
速筆術[熟練度8.72]
馬術[熟練度6.32]
カルタ?ヴェーデの父か。
と言うことは話し合いに来たのか?
他に侵入者は二人。男と女だ。武芸系の技能は持っていないようだしその可能性が高いか。
(戦闘準備に入れ。侵入者は恐らくヴェーデの父親と思われる。向こうから攻撃されない限り攻撃はするなよ)
連絡を取りつつ、通路を走る。
角を曲がればライトアーマーが9体控えていて、俺とともに移動する。
ココにライトアーマーが居るという事は、マインがヴェーデを迎えに行ったのか。
パペルさんが通るルートを制限して一本道を作り上げる。『一階層』では壁が動いて1本の通路を作っているのだから驚きだろう。
通路に先に大広間を繋げて、そこで待機しておく。
パペルさんの後ろにギフト専用の通路を作り、背後を取る。
クローフィにはライトアーマーと共に俺のそばにいてもらおう。
マナフライからMPを回収し、散開。広間を壁で仕切れば逃げ道は作れる。
パペルさん達がやって来た。ドアが一人でに開き、本来拒むべき侵入者を自ら招いた。
「お初にお目にかかる。ダンジョンマスターをしているエバノだ。用件を聞かせて頂きたい」
「ノーマリー王国より参りました。パペル・カルタと申します。本日はエバノ様より対談の機会を頂きたく思い参上しました」
取り敢えず話は聞こうという感じか?
好戦的で無いのはありがたい。
「そうか、遠い所ご苦労だったな。話の場を整えてある。付いてきていただきたい」
もちろんその様な場所は創ってないので今から突貫作業だ。
二階層の食堂の隣に増設。
そんなに広くなくても構わない。装飾は勿論アリ。
高級そうなソファとテーブルを購入して設置。
コレが限界か。仕方あるまい。
部屋に到着し、席に着く。
偉い人から座るものだが、今回は俺が最初だ。
「早速話し合いをしたいところだが、約束通り人質の開放を行うとしよう。貴殿らも長旅で疲れているだろう。席を外すから少し休むといい」
(マイン入ってこい)
合図を出せば、扉がノックされ、ヴェーデを連れたマインが現れた。
「それでは失礼する」
ソレを見届けると部屋を後にし、『謁見の間』に入る。
玉座に腰を下ろし、『映像情報』から会話の盗み聞きを行うと同時に、クローフィからMPを受け取る。
そうだ、レモンアイスティーでも届けてやろう。
□
パペル・カルタside
これはどういう事だ。壁が一人でに動いているのか?
コレがダンジョンマスター・・・だと言うのか。
「パペル様これは・・・」
「ダンジョンマスターの力だろうな。凄まじい探知能力だ」
従者が言葉を洩らす。それも仕方ない事だろう。
ダンジョンに入った途端にコレだ。
ダンジョン内は自由自在。伊達にマスターを名乗ってはいないか。
通路を歩いていくと扉を見つけた。
ココに来て初めての扉だ。この先に何があるというのか。
扉が一人でに開いた。
中には11人。騎士が9人、女性と男性が1人ずつ。
事前情報でダンジョンマスターは男だと知らされている。
となると中心にいる彼がダンジョンマスターか。若いな。歳は17程か。
「お初にお目にかかる。ダンジョンマスターをしているエバノだ。用件を聞かせて頂きたい」
「ノーマリー王国より参りました。パペル・カルタと申します。本日はエバノ様より対談の機会を頂きたく思い参上しました」
名はエバノか。
礼儀正しくていいじゃないか。ダンジョンマスターと言うからどんな人外が出てくるかと身構えていたというのに。
ダンジョンはかつてから存在は確認されていたし、我が国にも幾つか存在している。
だが、ダンジョンマスターなる者が居るというのは初めて知った。
大事な初コンタクトだ。互いに情報が不足している。
私の娘が何も言っていなければ、だがな。
「そうか、遠い所ご苦労だったな。話の場を整えてある。付いてきていただきたい」
準備がいいな。このダンジョンは出来て3日。
正直、そこまで揃えているとは思っていなかった。
一つ階層を降り、案内されたのは細かい内装が施された部屋だった。
ほぉ。絵画等は無いが、いい部屋じゃないか。
座る順番を確認する様なタメがあった。
どこでその様な知識を得たのだ。荒削りだが、貴族の様な教養を受けた後がある。
「早速話し合いをしたいところだが、約束通り人質の開放を行うとしよう。貴殿らも長旅で疲れているだろう。席を外すから少し休むといい」
人質の開放だと?
少しタイミングが早いな。有利な条件を約束させてから開放した方が良いと思うのだが。余裕があるのか。
何にせよ情報を整理するいい機会だ。
私達に情報を握らせたのが運のつきだ。