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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十二章 激甚災害
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認めたくない

続けて短くて申し訳ないです。


現在、閑話の題を募集しております。感想、メッセージ、Twitterの方で教えていただけるとありがたいです。

Twitter→ @silver-hat1126

 「すまない、後で話しがある」


 戦争についての会議が終わると同時に、俺はスタージュに声を掛けた。見るからに嫌そうな表情をされたが、彼も何かしら思う事があるのだろう。渋々ではあったが話しをすることになった。

 場所は対談室。会議室の小さい版みたいな部屋だ。2人で会話をするのであれば丁度いいぐらいの大きさだろうか。それよりもちょっと大きい気もするが誤差の範囲内である。ラウンドテーブルを間に挟んで椅子が2つだけという簡素なものだが、色々と目移りするよりかは全然構わない。

 月明りとロウソクの炎の揺らめきとが場を埋め尽くす中、切り裂くように鋭い言葉がスタージュの口から洩れた。


 「それで何の用だ」


 会議をしていた時とは打って変わり、スタージュは荒々しい口調に変わる。ならば俺も丁寧に話す必要も無い。場を纏めていた糸が切れたように、そこからは言葉の応酬が続く。

 急に呼び出されて怒っているのか何なのか、いまいち読めない表情の彼に要件を伝える。


 「俺を殺そうとしたのは誰の指示だ」

 「殺す?何を言っている。言いがかりは大概にしてほしいな」


 しらばっくれているのか、本当に知らないのか。まぁ、後者では無いのは確実だ。アマンダから得た情報はクローフィを通して俺に入ってきている。スタージュは確実にこの件に関わっている筈だ。


 「アマンダ殿から聞いた限りでは、どうも、二流の商人に唆されたとか?」


 俺の言葉に反応したのを誤魔化すためか、彼は腕を組んで見下す様に視線を投げて来た。


 「何を言っていると言ったはずだ。私には全く身に覚えがないな。これ以上いちゃもんをつけるようなら、帝国の前にシュヴァルツヴァルトが地図から消えることになるぞ?」

 「脅しのつもりか?・・・ふっ、ハハハ!所詮は何も知らんガキか」


 言葉を言い終わる前に大きな音がソレを遮った。音の発生源を一瞥すると、顔を真っ赤にしたスタージュがラウンドテーブルを叩いていた。


 すまん、すまん。あまりにも無知なものだったから、つい笑ってしまったよ。そんなに顔を赤くするもんじゃないぞ、まるで猿のケツじゃないか。


 「精々、国に帰って驚くがいい」


 その頃にはもうお前の味方は居なくなっているだろうがな。あぁ、ノーマリーが領域内じゃないのが残念でたまらない。驚く顔を写真に撮って額縁にでも飾ってやりたいのに。脱糞の絵の様に後世を笑わせてくれる良い題材だと思うぞ。


 拳を強く握るスタージュに背を向け、笑いながら部屋から退出する。

 今日はもう遅い。ルーチェが部屋を用意してくれているから休むとしよう。


 □

  スタージュ・プリンケプス・ミニマ・ノーマリーside


 あああ!何なのだアイツは!私の邪魔ばかりしおって!

 そもそも、何故アイツが生きておるのだ!暗殺を任せたアマンダは確かにノーマリーに戻って来て、「暗殺は成功した」と言ったのだぞ!?それなのにどうして生きている!


 「まさか、アマンダが嘘を・・・」


 言葉を口に出してみれば、それはすんなりと私の喉元を通って行った。急速に冷える頭に、思考速度が上がる。

 シュヴァルツヴァルトに行っている間にアマンダが何かされた、もしくは秘密を握られたと仮定しよう。仮定という酷く曖昧なものだが仕方があるまい。まずは考えねば・・・。


 エバノが生きている時点でアマンダが嘘をついているのははっきりとしている。そして、エバノが去り際に放った言葉。「精々、国に帰って驚くがいい」。これから考えるに、既に王城にはアイツの手の者が入り込んでいるのだろう。いつから?数は?そんな、とりとめのない考えが頭をよぎっては消えていく。

 相手はダンジョンマスターなのだ。私はダンジョンマスターの情報を持っていないし、エバノ自身の事だって分かりはしない。考え方を変えるべきだ。そうすれば、打てる手は見えて来る。


 「筆と紙を用意しろ。護衛の中から1番馬の扱いが上手い者に届けさせるように」


 私付きの人間に顔も見ずに告げた。

 さて、何をどう書けば挽回できるのか・・・。盛り返さなくとも、逃げの一手だとしても、その時に私が生きていれば望みはある。裸の王だとしても私が王であることには変わりないのだから。

 私がエバノを暗殺しようと思ったのは、国が抱えていた商人に言われたからというのもあるが、もちろん私にも理由がある。妹であるアマンダを渡すのが気に喰わないし、父上がアイツを気にかけているのが嫌だ。そもそもとして、アイツとは出会いからして悪かった。そこに暗殺の話しが来たものだから頷いたのだが・・・まさかこうなるとは思ってもみなかった。


 幾ばくか思考の中、思いついたのは、私に暗殺を勧めた男を裏切るという事だった。言う分には簡単な事ではあるが、失うものが多すぎる。コレを考えるだけでロウソクは随分と短くなってしまった。それほどに最終手段なのだ。

 手引きした男は国のお抱え商人だ。繋がり、信頼、金。少し考えただけで失うものが出て来る。しかし、私はやらねばならない。


 手紙のあて先は騎士団長だ、彼ならば上手く動いてくれるに違いない。

 罪などでっち上げなくても、突けば埃が出る体。いや、これだと強引すぎるか。王の私の証言でも少し弱い・・・、待てよ、証言させるに最適な人間が身近にいるではないか。

 私はエバノにアポイントメントを取った。直ぐに使いが帰って来て、了承の返事が返ってくる。よし、一歩目は悪くない。後は、私がどれだけ立ち回れるかだ。




 わざわざ対談室を使うまでも無いと、エバノの部屋へと押しかける。彼の護衛の騎士に止められたものの、確認をしてくれているようだ。寡黙で優秀な配下ほど使えるものはいない。

 騎士に案内されてエバノの部屋へと入った。・・・私の部屋と相違点は無い。まぁ、当たり前か。


 「こんな時間に何の用だ?」


 今の彼の印象は、落ち着いている、だろうか。昼間、普段とは違う空気を纏っている。例えばそう、まるで他人の様だ。

 少しして自身が黙り込んでいたことに気づき、慌ててつつもユックリ、ハッキリと言葉を告げる。


 「・・・私の負けだ、それは認めよう。完敗だ、素晴らしい程に完敗した」


 呟く様に語る私に、エバノは何も言わない。一応は聞いてくれるという事か。


 「そこでだ。私としては勝者にわざわざ苦労と手間を掛けさせるのは申し訳が無い」


 彼は私が何を言いたいのか分からないだろう。だがそれでかまわない。私も分からないのだから。

 目を合わせて、塗りつける様にユックリと、その場の勢いに飲まれて、しかし思考は止めずに思いを述べる。


 「ここに一通の手紙がある。中は私の手書きの告発文だ」

 「それが何か?」


 来た。話しに加わった。背中に冷や汗をかきながら、無理矢理表情を張り付けた。

 ここからが交渉だ。


 「一筆、『貴殿は私を暗殺しようとした、誠に遺憾である』とお願いしたい。後処理は私の方で」

 「それでは俺にうまみが少ない」


 言葉を遮ったエバノに、「賠償は無論出すとも」と頬を引きつらせて答える。


 彼は口をひし形にして空気を吐き出し、何度か瞬きをして答えた。


 「分かった、それでいいだろう。・・・私の方も元より苦労しかない案件だ。今後私を狙わないと確約できるのであればソレで飲んでやろう」

 「あぁ、助かる」


 私は彼に羊皮紙を手渡す。大丈夫だろうか、バレないだろうか、そんなどうでもいい心配をしてしまう程に私の手は震えていたに違いない。私は恐ろしかったのだ。怖かったのだ。この、身体の震えを知られるのが、指摘されるのが。それでどうなるかなどは考える余地は無く、ただ恐れていた。

 シュヴァルツヴァルトの王、エバノ・シュヴァルツヴァルト。昼間とは違う、どこか捉えどころのない彼は虚無を背負っているかのようだった。

エバノ「眠いだけ」

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