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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十二章 激甚災害
118/145

消えた群れ

短いです。

申し訳ありませんが、キリが良いので切らせてもらいます。

 トハン帝国東部。そこでは、死の臭いが充満していた。何かが燃える様な、腐った様な、溶けた様な。ありとあらゆる戦場の臭いをごちゃ混ぜにしたような、濃厚な死の香り。風が臭いを巻き上げ、少しした後には疫病の元になるであろうことは誰の目にも明らか。しかしながらその場に人影は無く、死肉を漁りに来た動物すら見つけることは出来なかった。

 この場では、つい先ほどまで戦闘が起きていた。亜人と、帝国軍との戦闘である。エバノが亜人に渡した魔道具により群れの規模は格段と大きなものになり、正面からぶつかりでもしようものなら一瞬のうちに肉塊へと変わってしまうような、そんな数になっていた筈なのだ。ならばどうして亜人の姿すら見えないのか。どちらか勝った方の姿があってもおかしくは無いのではないか。戦闘が終わってから少しばかり時間は経っているものの、とても人間が撤退できるような時間は経過していない。であれば答えは簡単だ。そう、人間が関わっていない。おのずと答えはこうなってくるのではないだろうか。


 スワイヴによってもたらされた『空間魔法』は、現在でも帝国の魔法研究者によって解明、研究がなされている。それでも異星の座標は分からなかったのだが、彼等は、1つ大きな発見をした。遠隔での召喚者の操作、これの方法さえ分かってしまえば後は召喚するだけだ。幾度にも及ぶ実験の数々。何が出来て、何が出来ないのか。得意な事は何で、苦手な事は何か。そうして、エバノが実験を大幅に進める場所を与えてしまった。彼自身はそんなことは微塵も思ってはいないだろう。しかしながら、帝国が得た情報というのは大きなものだった。もちろん、その情報はエバノも持っているのだが、モノの捉え方というのは人によって変わるものだ。

 ここで得た情報によって、帝国は戦争をする事を決めた。スワイヴによる無意味な戦争、エバノによる一週間にも渡る雨によって確かに国力は低下した。しかしながら、帝国にはそんなものを気にしなくても構わないような祝福を持っている。アブラムを覚えているだろうか。DMOの人間の彼だ。『創世記』にもその名が出て来る彼は、今ある国の基盤を築いた人間と言っても過言ではない。

 視線が届く限りに彼の群れは繁栄する。彼が持っていた祝福は子らへと受け継がれ、今この時にこそ輝く。いくら神からの祝福があるとはいえ、当然、戦争をするには準備が必要になってくる。人は簡単には移動できないものであるし、食料だって節制しなければ貯まるものも貯まらない。

 トハン帝国皇帝、ルッツ・アーダルベルト・イーゴン・トハン、その人は宣誓した。「来年の9月に戦争を始める」。これにより帝国内部は戦争に向けて激しく動き出し、周辺国はそれに合わせて準備を整えていく。


 □


 日にちは少し空き、場所はグラキエス教国首都。そこでは同盟を組んでいる7つの国の王、又は代表者が今回の戦争についての話し合いを始めていた。


 グラキエス教国

  ルーチェ・クルイロー

 ノーマリー王国

  スタージュ・プリンケプス・ミニマ・ノーマリー

 オーラルフット王国

  ギャレット・ルイーナ・ベスティア・オーラルフット

 ラフライン王国

  ジャンナ・ラフライン

 レクタングル王国 

  ワイアット・ウィル・キャメロン・レクタングル

 ルーマンド

  トゥイ

 シュヴァルツヴァルト

  エバノ・シュヴァルツヴァルト


 それぞれが円卓に着き、戦争での動きを確認していく。

 ノーマリーの新王スタージュは、死んだと思っていた俺が生きていたことに驚いていたが、他国の王が居る前で騒ぐ訳にもいかず、渋々席に着いた。それを見た俺はと言うと、大事になる前に暗殺を進めた方が良いなと、そう思っていた。当初は黒幕だけを殺すつもりであったが、酷いようであれば王であろうと容赦するつもりは無い。




 会議室にルーチェの声が聞こえたかと思うと余所からツッコミが入り、それについて他の人物がフォローを入れる。基本はコレの繰り返しだ。


 その国土の殆んどが平地のオーラルフットが基本的に兵糧を担っているのだが、それだけでも幾つもの質問と怒号が飛び交う。

 運搬ルートはどうするのか。何処の国にどれだけまわすのか。街道を整備しなくてもいいのか。どれだけの時間が掛かるのか。1つ1つ挙げていけばキリが無い。


 シュヴァルツヴァルトはそこら辺を気にしなくてもいいから楽ではあるものの、会議に参加しない訳にはいかない。まぁ、俺が参加できる話題と言えば「兵の受け入れ」ぐらいだろうか。いままでは『果てしない渓谷』に阻まれていたグラキエス教国とシュヴァルツヴァルト。その2ヵ国に道が出来た事により、兵の行き来が迅速に行えるようになったのだから、一応は考えておく必要がある。可能性は全て考え、検証し、問題を修正する。


 スタージュ以外は何度も経験してきたことであり、俺も現代知識を持っているためにどうにか話しについてこれている。だが、『果てしない渓谷』の南側面の殆んどを占めるノーマリーの王が新王だという事もあってか、どうしても時間が掛かる。アルト殿は息子に王位を渡すタイミングを間違えた。せめてこの場に来てくれていればどれだけ助かった事か。彼の秘書が頑張ってはいるのだが、彼自身の性格も相まってか上手くいていないようだ。

 となれば当然シワ寄せが来るわけで。それは隣国の俺の責任となる。


 「エバノ殿には南の戦場の指揮を執ってもらいます」

 「何だと!!あのような国より私の国の方が大きく、屈強ではありませんか!!」


 早速ルーチェにスタージュが噛みついた。だがそれも、「スタージュ殿はまともに戦場を知らないでしょう」の言葉で黙り込む。スタージュは戦場に立ったことはあった筈だが、確か、俺が雨を降らして折角晴れ舞台をおじゃんにしたのだったか。それに、シュヴァルツヴァルトはノーマリーより弱くはない。


 「分かりました。今回も南が耐えて北が押し込む、そういう戦術の様ですからしっかり守りますよ」


 頷く俺にスタージュの視線が刺さるが、努めて無視を決め込む。何か話したいことがあるのならこの後に来るんだな。厄介事の臭いしかしないが、ここらへんで処理しておかないとクローフィとシディの仕事が増えてしまう。手助けだと思って胃に穴を開けるとしよう。人形だから穴なんか開かないが。

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