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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十二章 激甚災害
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導く者

 今、俺の目の前に一振りの剣がある。その剣は俺にとってとても大切で、常に肌身離さず持っていたものだ。

 そして、その剣を持って俺の目の前に立っているのはレイ。彼女は悲しそうな、申し訳なさそうな、そんな表情を浮かべていた。



 モワティエの見送りを終えた後、レイから渡されたのは、反応が無くなったアイリード。コレを渡されたとして、記憶が無い俺はどうすればいいのだろうか。「お疲れ様」、と笑って声をかければいいのだろうか。訳が分からないままに泣けばいいのだろうか。・・・俺には分からない。

 俺に唯一出来たのは、行き場を失った感情を持て余し、曖昧な表情で受け取る事だけだった。


 「あの・・・、旦那様」

 「あー、いや、すまない。少し1人にさせてくれ」


 アイリードとレイが無関係であることは俺が1番分かっている。だから俺は何も言えないし、こんな無様で情けない表情を晒すことしかできない。

 敵討ちは俺の知らない所で、ましてや俺の手で終わらせてしまった。このどうしようもない感情は何処に持っていけばいい?

 『調和』は俺の意識しないところで解除され、かもめによって自室へと飛ばされた。


 ベットに腰かけると押し寄せてくる、焦燥感と不安。2つの大波がぶつかり、跳ね返ることで更に大きな波となって俺を襲う。

 ・・・取り敢えず俺に出来ることは何か。アイリードの復帰だ。そうだ。見た感じの傷は無いんだ。何か方法がある筈だ。完全には死んでいない筈だ。だからこその復帰なのだ。考えろ・・・、俺はどうやって生き返った。誰が生き返らせた。


 「・・・かもめ」


 まともには聞こえないような、か細い、今にも消えてしまいそうな声。それでも俺の声に彼は応えてくれた。部屋の隅に置かれた開発初期型の人形がぎこちない動きで動き始めたのだ。

 糸の切れた操り人形の様に不安定で、油が切れたブリキ人形よりもぎこちない、ソレが口を動かす。その言葉は胴体とは違って、とても滑らかだった。


 「やったのは魔力線による記憶の移行だよ。魔力パターンを同調させて、脳にある記憶を別の媒体に移す。今のかもめの状態を分かりやすく言うとすれば、劣化コピーだ」

 「そんなことは分かってるんだよ。俺はどうすればいいんだ」


 煽る様なかもめの言葉に焦る気持ちを抑え、あくまで冷静に答える。

 俺の状態なんか考えれば誰でも直ぐに答えに行きつく。死んだ人間を生き返らせるのに代償が無い訳が無い。記憶が無いのだって副作用みたいなもんだろ。

 俺が知りたいのはそんな事じゃないんだ。どうすればアイリードが復帰出来るかどうかであって、俺の事なんてどうだっていいんだ。

 答えはまだか。さっさと言わないか、かもめ。


 「魔力パターン。それさえ合えば彼女とのリンクがまた出来るはずだ。時間は掛かるだろうけどね」

 「・・・言いたい事は分かった」


 一息ついて、言葉を返す。そしてその後に深呼吸をする。

 落ち着いたか?一先ずは安心だ。アイリードの復帰は可能だと確信を得たからな。


 俺も今の心理状況では上手く説明出来ないが、かもめが言いたい事は分かる。魔力パターン。魔力パターンが大切なんだ。俺とアイリードの間にもう一度ラインが繋がればいい。それさえ分かればもう大丈夫だ。

 レイにも悪いことをしてしまった。謝りに行くか。


 『人宮一体』でレイの元まで飛べば、彼女は先ほどと同じ場所に立っていた。所在なさげに立つ彼女に、俺の方から声を変を掛ける。


 「取り乱してすまなかったな」

 「いいえ。旦那様のは正しい反応です」


 何度か首を横に振ったレイは続けて言った。


 「何が起こったのか分からず、どうしたいいのか分からず、ただ静かに困惑の色の隠せないでいる。旦那様はそんな表情をしていました。それはまるで・・・、過去の私を見ているよう」


 突然話し出した彼女が何を言いたいのか、それが俺には全く分からない。

 話しを進めてくれと言うように、ゆっくりと瞳を閉じ、また、同じだけの時間をかけて瞳を開く。瞳を開けた時、レイは俺へと歩いて来ていて、頬へとその手を伸ばしていた。


 「どうしてでしょうね・・・」

 「何が言いたい」

 「こんな時なのに、旦那様が愛おしくて仕方ありません」


 直接伝えられた愛の言葉に恥ずかしくなり、彼女の手の平から逃げる様に顔をそむける。弱気な顔に惹かれると面と向かって言われて喜ぶ人間は居ないだろう。

 横目にレイの顔を確認してみれば、彼女は寂しく笑っていた。

 そうだ、アイリードが助かる事を伝えるんだった。本来の目的を忘れてどうする。


 「さっき分かったんだが、アイリードは元に戻る。あー、なんだ。悪かったな」

 「・・・それを早くいってください。恥ずかしいではありませんか」


 服の袖口で口の端を抑えるレイ。

 それよりも、彼女は何を言いたかったのだろうか。湿っぽい雰囲気だというのは分かるのだが、如何せんそれ以外は俺には分からない。


 「すまない、俺にはレイの気持ちが分からない」

 「旦那様はもう少し女心を勉強してください!」


 いや、女心と言われてもだな。それは一生男には分からないものじゃないか?

 俺に背を向けて歩き出す彼女に呆れ顔を向ける。すると彼女が急に振り向いたので、呆れ顔が見られないように慌てて顔を戻す。


 「な、なんだ」

 「これはもう罰を受けてもらわないと困ります」

 「罰!?・・・まぁ、簡単なものなら受けてもいいが。あんまり難しいのはやめてくれよ」


 そう告げるや否やレイはその顔を喜色に染めた。彼女は嬉しそうでなによりだが、俺は逆に不安が募っていく。夫婦であるのが唯一の救いだろうか。

 胸に秘めた不安を余所に、彼女はその要求を口に出した。


 「私が満足するまで旦那様の服を着せ替えさせてください」


 彼女が望んだのは俺を着せ替え人形にする事だった。それならそれでいいんだが、本当にそれでいいのか?もっと何かあるだろうに。服の着せ替えだなんて事に使わなくても何時でもその位ならしてやるぞ。


 「これでいいんです。さぁ、移動しましょう」


 俺の手を引く彼女に、俺は笑いを返した。


 

 レイに連れてこられたのは、城にある衣装部屋。ダンジョンマスターの能力を駆使して幾つもの衣装を揃えたこの部屋は、この星の何処の仕立て屋も作れないだろう出来になっている。

 この星の今の年代が分からない事には地球と対比させるのは難しいが、キリスト的存在が出てきていない事からかってに紀元前だと思っている。実際の所は魔法や魔物の素材があるから中世ヨーロッパかもしれない。俺達が知っているの元になったものは中世の前からあるから一概には言えないが。話しがズレたが、俺から見たこの星のファッションは少々ボロくさい。生地もそうだし、色合いもなんか微妙だ。

 偉そうに言ってるが、ここにある服の大半を創ったのはレイだ。俺はゲームやら小説やらのキャラクターの衣装を適当に創っては守護者にここが違うと直されている。


 さて、着せ替え人形となっている俺なのだが、今は白を基本としたコーデをされている。

 白いズボンに赤い編み上げブーツ。首元を締め付ける、学ランにも似たロングコート。ロングコートの端々には銀緑色の輝くが見える。この星の鉱石であるヴェルジェンド鉱を使っているのだろうが、俺からしたら何処かの一角獣にしか思えない。

 一見すると軍服を思わせる様なその姿を見て、レイはしきりに頷いていた。


 「何か頷く要素があるか?俺は自分に白が似合わないと思うんだが」

 「旦那様は黒いイメージがありますから取り敢えず逆の色を着せてみたのですが、似合ってると思いますよ?」


 名前が畔木くろきなんだし黒くてもいいと思うんだがな。国名も黒い森シュヴァルツヴァルトだし。

 黒は他の服に合わせやすいからついつい選んでしまう。ファッションに興味が出て来たオタクとかが黒ばっかりなのも同じ理由だ。なお、俺の偏見である。白は白でヤンキーが着てるイメージがあったりする。


 「他にもありますから着てみてください」

 「いつ終わるんだ・・・」


 ピッシリとした服を着てるから誤解されているかもしれないが、俺はユッタリとした服の方が好きだ。1番の理由としては楽だから。仕事中はしっかりと決め、休みはゆっくりと休む。自分の中でオン、オフが決まっていると何かとやりやすかったりとする。

 中性的な服が色合いだとか色々と好きなんだが、身長が高くなるとサイズが無いんだよな。

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