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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十二章 激甚災害
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笑った亡骸

 次に向かうのはルーチェの所だ。昨日、亜人を強化するだのしないだのを言っていた件を詳しく聞きたい。

 確か、魔道具を創ればいいんだっけか。


 彼女は『大聖堂』に居るようなのでそこまで歩く。地上に出るわけなんだが、リープアーマーはこのまま連れて行っても大丈夫なんだろうか。リープアーマーを初めて見る奴は居ないから驚きはしないだろうけどさ、軽くホラーだろうなとは思う。鎧なんだし着れないのかね。鎧を分解したらHPが無くなるとかだと困るから、できる限りしたくないんだが。


 「どうかしましたか?」

 「いや、リープアーマーの中に入れないものかと思ってな」


 俺の視線が照れくさいのか、ありもしない頭部を手でかく真似をする死霊騎士。やけに人間臭いな。俺はそんなものを求めて創ったのではないと信じたい。実際に他の鎧はこんな事はしない。


 「他の鎧も同じ事をしているのを見ますけど」


 ・・・少なくとも俺の前では。リープアーマーも俺の前ではしっかりとする様に。

 結局、鎧は着れなかったので、『調和』を使っての合体となった。見た目の変化としてはリープアーマーの鎧を着ただけだ。鎧姿の俺を見て他の守護者が戦争かと騒いでいたが、カッコイイから着てたって良いじゃないか。正直、ブーツも窮屈だしな。見た目装備万歳。


 そうしているうちに『大聖堂』に到着した。『金鳥宮(きんちょうきゅう)』に全員泊らせたはずだがルーチェはどうしてここにいるのだろうか。


 「ルーチェ様、おはようございます」

 「おはようございます」

 「あら、エバノ様。おはようございます」


 『大聖堂』内の泉で沐浴をしていた彼女に声をかける。丁度、水地から上がってきたらしく、白い衣装が肌に張り付いていた。この泉は別に暖かくないし、季節的には冬真っ盛りなんだが体調を崩したりしないだろうな。温風を当てて乾かしておけば風邪は掛からないかな?っていうか天使が風邪になるってどうなんだろうか。それこそ神のなんたらで回復してもらえるのか?


 「昨日の亜人の件で来たんですけど、出直しましょうか」

 「そのままで大丈夫ですよ」


 俺が大丈夫じゃないんですけど。取り敢えず着替えてもらわなくては困る。

 現在進行形で乾かしてはいるのだが、レイの視線が痛くてだな。ルーチェに乾いたら来るように伝え、『大聖堂』の奥で待つ。各守護者のステンドグラスが飾られている所だ。守護者が増えたからステンドグラスの数も多くなった。前紹介した時は誰まで居たかな・・・。時間を潰すのにちょうどいいし、最初から説明していくとしよう。恐らくだが細部が変わってきている。


 黒い生地に薄い黒のラインが入ったズボンにYシャツと赤いベスト。靴はブーツを履き、腰には赤い長剣を提げた俺。

 その隣に居るのはレイで、薔薇色の髪を乱れさせながら紅いドレスを広げて舞を踊っている。

 城を背後に、マナフライの発光を受けるギフト。

 防壁の前にピンボールの様に並ぶ、マインとライトアーマー。

 大きな宝石が付いた杖に群がるワーカーバットと、杖を持つクローフィ。

 桜吹雪の中を妖精と一緒に馬に乗って歩くリェース。

 方陣が輝くマントを着たアクル。

 両端に半分ずつチルアーマーの鎧があり、足元にはガーゴイルが控えている。その中央にはブリッツ。

 上から水が流れてきている大聖堂の前にフロントガードと共に並ぶスキアー。

 魔法の渦を胸に抱くように丸くなっているガブリエナ。

 大樹の枝にハヤブサ、フロウと腰かけるのはシュテル。


 個人が判別できるのはこのぐらいだろうか。紹介していない守護者もステンドグラスの何処かには居ると思うのだが、細かすぎて判別することが出来ないのだ。『金鳥宮きんちょうきゅう』は色合いで分かる。従業員は流石にアリ程にしか見えないが。

 そうして待っていると、ようやくルーチェがやって来た。服は完全に乾いているようで、その手にはいつの間にかタオルが握られていた。


 「お待たせしました」

 「いえ。それほどではありません。・・・本題に入りましょうか」


 本題。亜人たちに魔道具を渡して強化するというアレだ。

 まず、亜人を強化してどうするのか。どこまで強化するのかが議題になってくる。


 「亜人を強化してどうするのか。要は目的ですね。それは人類に試練を与えることです」

 「試練、ですか・・・」


 ルーチェの言にレイが俺を見て呟く。「良き隣人であれ」。それを理解するには手っ取り早いかもしれないが、いささか強引な気がしないでもない。


 「今の季節は冬です。オーク等の群れが現れでもすれば、人が食べる食料が無くなるのではないでしょうか」

 「それに関しては問題ありません。今回、亜人の群れを誘導するのは帝国方面ですから。多少は他にも流れるかもしれませんけど、帝国の隣接国は強い兵が多いですし」


 それ、隣接国の中に教国が入って無いから言えるのでは?

 何か毎年やってるよ、みたいな雰囲気で話しが進んでるんだが、本当に話しに乗っていいものか。


 「私が来る前はどうやって亜人を強化していたのでしょうか」

 「魔道具を彼等に投げてですね・・・、頃合いを見計らって天使達が裏で数の調整をしてました」


 わざとらしく首を傾げて話すルーチェ。それやっていいのはもっと若い娘だけだぞ。

 それにしても、勿体ないことを・・・。魔道具って高いんだろ?それなのに投げつけるってどうよ。俺が創った隠密マントを欲しがってた冒険者に渡した方が有益な使い方をしてくれそうなんだが。

 天使達にしたって毎年こんなことで呼び出されてたんじゃ堪ったものじゃないだろう。毎年お疲れ様です。後で天使達にどんな魔道具を創ればいいか確認しに行こう。ルーチェだけだと暴走してしまいそうだ。ストッパーであるはずのフェーデは何処に行ったのだろうか。権天使なんだから権力者の暴走はちゃんと抑えてもらわないと困るな。


 ・・・さて。次の用事だが、これをするにはレイには退出してもらわないといけない。別に居ても良いものの、見ていてあまり気持ちのいいモノではないだろう。モワティエを殺すのだ。彼女だって見物人なんて望まない筈だしな。

 そう言うとレイが頷いてくれたので、俺はモワティエのダンジョンへと転移した。


 「よう」

 「待っていた」


 地上まであと1歩と言ったところで止まっていた方舟。その甲板に彼女は立っていた。

 マントとゴーグルを外したモワティエは俺の前まで歩いてくると、(うずくま)るようにして俺に首を差し出す。

 俺も今更彼女に何かを言おうとは思っていない。死にたいなら殺すだけだ。

 アイリード、・・・ん?反応がない。どこに行ったんだろうか。

 仕方ない。MPを消費して武器を創るか。そうして創り出したのは、ハルバードにも似た斧。熾天使の身体能力にものを言わせ、高く、高く振りかぶる。


 「お疲れ、モワティエ」


 その言葉と同時に、空気を裂いて斧の切っ先が彼女の首筋に当たる。

 皮膚を破り、骨を断つ、鈍い反応。甲板にぶつかって感じる振動を反芻(はんすう)すれば、遅れて吹き出る赤の奔流。

 満ち足りた感覚が俺を襲うのは、モワティエのダンジョンが俺の支配下に置かれたからだろうか。丁度いいことにココに生物は存在していない。潰してしまうおう。

 モワティエの2つに別れた亡骸を拾い上げ、胸に抱きとめれば、崩壊の始まりだ。


 「見てみろよ、モワティエ。なんとも綺麗じゃないか」


 聞こえはしない事は分かっているが、言葉に出さずにはいられなかった。

 崩落する夜を写した樹は光を反射し、星のパウダーを地上に振りかけているように見えた。

 ひび割れ、陥没した地面に小川が引き寄せられ、虹の橋が踊る。

 光り輝く木はその身を更に輝かせ、表皮が剥げていく。

 方舟は光の粒子に包まれ、ゆっくりと空気に溶けていった。


 俺の所に崩落が来ない内にシュヴァルツヴァルトに転移。短い間の崩落だったが、その光景を俺は忘れる事は無いだろう。ただ単にその景色が綺麗だったからではなく、彼女、モワティエの事を忘れないために。

 『水晶墓地』に行けば、そこにはレイとエピデミックが居た。彼女達はモワティエが死にたがっていた事は知らないはずだが、俺が死んでいる間に何かあったのだろうか。ただ言えるのは、何のために居るのかなど、聞く必要も無いということ。言葉が無くても俺達の中には何か通じるモノがあった。

 俺の死体が納められた水晶の横に新たに水晶を創り、その中にモワティエだった者を埋める。彼女に付着していた血は今までそこになかったかのように消え去り、俺の服に血が付いているのを不思議に感じさせた。

 首に頭部を重ね、視界を防いでいた髪を掻き分ける。憑き物が取れたかのような、そんな安らかな表情を浮かべていた。


 一時は難攻不落の迷宮と化していた『水晶墓地』。俺が戻ったことで元の姿を取り戻したその場所には、満開の花々が咲き乱れていた。

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