懸念
お久しぶりです。
2日に1回とはいかないかもしれませんが、更新を再開していきたいと思います。
書き貯めがあるうちは今までの更新速度と同じです。
詳しくは活動報告の方にあげますので時間がある方はどうぞ。
俺達の短い様で長い戦いは終わった。俺からすれば数日の出来事であるのだが、守護者からしてみれば1ヶ月の間に起きた出来事であるらしい。
らしいというのは、俺の記憶が戻らないがための表現だ。俺が死ぬことになる戦闘に関しての記憶が抜けているのである。かもめが意図的に消したのかもしれないし、俺が思い出したくないだけかもしれない。
まぁ、実際はそんな事はどうでもいい。死んだ時の記憶なんて無い方が良いに決まっている。最初の記憶も消してくれないですかね?そんな事が出来るとは思えないが。
それで、シュヴァルツヴァルトに戻った俺達が何をしているかというと、俺の復活祭をしている。
場所は、レイが舞を踊った場所だ。『金鳥宮』の広場な。
シュヴァルツヴァルトの面々だけでは飽き足らず、その場に居た天使達をも巻き込んでの随分と騒がしいものになってしまった。これが守護者だけだとお通夜の様に静かになってしまうので、これはこれで丁度いいのかもしれない。
「旦那様、杯が空いてますよ」
「あぁ、ありがとう」
髪を垂らしながら静かに徳利を傾けるレイ。彼女の顔は僅かに赤らんでいるように見える。随分と飲んだみたいだな。
俺はあんまり強くないのでチビチビと飲んでるんだが、到底この身体が酔うとは思えない。何がどこまで出来るのかも調べて行かなければならないだろうし、忙しくなりそうだ。
調べ物といえば、俺を殺そうとしていたノーマリーの連中が居たな。あれはどうなったのか。今はそんな事を聞ける雰囲気ではないし時間が出来た時に聞けばいいか。
一旦レイの座敷から離れ、守護者達に声を掛けていく。女性が多いので役得である。ギフトには睨まれたが、コレはコレで・・・。
最後にシディの尻尾をモフれば次は天使達へと挨拶に行く。やっぱ最初はルーチェだろうか。
「お久しぶりですね、エバノ様」
「ご無沙汰しています」
挨拶も程々に話しのすり合わせを始める。俺の身体の事であったり、天使の階級だったりと色々話すことがある。
「それでは主天使については分からないと?」
「ええ。ですが、ダンジョンマスター、つまり私が熾天使になった事で主天使の枠は他の種族に渡ったと考えています」
ルーチェは何事かブツブツと考えていたが、やがて納得したのか1つだけ頷いた。
勝手に頷かれても俺が分からんのだが。そんな俺の心の内が分かったのか、彼女は説明を始める。
「次の主天使は獣人の中から生まれるでしょうね」
「それはどうして?獣人だけでなく亜人も考えられるのではないですか?」
「いえ、亜人に天使の階級が与えられることはありません」
そんなに亜人は冷遇されてるのか?亜人と呼ばれる存在を見た事無いから何とも言えないが。
「エバノ様も亜人を見た事がある筈ですよ」
「えっ・・・。すみません、心当たりが無いのですが」
「そうですね。一般的にはオークやオグルが亜人だと言われています」
マジか。普通に殺してたわ。サーチ&デストロイとまでは行かないが、襲ってくれば殺す位の簡単な気持ちで殺していた。
確かにオークが言葉を話していたけど、まさかアイツらが亜人だとは思わなかったな。別に殺しても問題ないよな?
「では何故に亜人には天使の階級が与えられないのでしょうか」
「人間への罰のため、ですよ」
それは何でも人への罰であるのだとか。
コレを示す「よき隣人となれ」という言葉があるようだが、要は互いを争わせて更なる成長をしましょうね、という事だ。人間主体で考えると、神は未だに我等を見放さなかった、みたいな感じだが、亜人側に立ってものを考えてみるとたまったものでは無い。
「亜人が「繁殖」と「自然」を司るのもその為です」
「なんとも損な役回りですね・・・」
「というわけで、ここは1つ彼等の力を底上げしてあげましょう」
は?
というわけで、で入れる様な話しじゃないと思うんですけど?俺の頭がおかしいんですかね?
「あの・・・」と隣で空気のように控えていた何処の誰だかも分からない騎士に助けを求められるが、無常にも彼は首を横に振るだけだった。クソッ、この狂信者め!
「エバノ様は魔道具を作ってくれるだけで構いませんから」
「マジですか・・・」
あれ、おかしいな。熾天使は天使の階級で言えば1番上だった気がするんですけど。
こんな智天使は嫌だ。
他にも天使達と2言3言交わし、しかるのちに宴会は終了。彼等は『金鳥宮』で何泊かすれば帰っていくだろう。
流石にココに天使が固まっているのは色々と都合が悪い。俺のではなくて、この星の都合が。
そうしてその後、俺が懸念していた事態が起こってしまったのである。
そう、それは性事情だ。酒に酔ったレイに押し倒されそうになったのをどうにか自室へと移動させたはいいものの、ヤれるのかどうか自分自身でも分からないのだ。
かもめの作り込みに掛かっているので不安しかないが、やってみなければなにごとも始まらない。
エバノ・シュヴァルツヴァルト、突貫します!
・・・もしかして俺も酔ってる?まさかな。
□
翌日、身体に心地よい重みを感じて目が覚めた。目を開けずに頬に手を当ててみれば、それは人の手の様だった。どんな布も、どんな清流さえも勝てないような、肌触りの良い柔肌。
ゆっくりと意識を覚醒しながら手を撫でていると、その手が俺の指を絡めとった。薄らと目を開けると、そこには優しく微笑むレイの顔があった。
「おはようございます、旦那様」
「んん・・・、おきてたのか」
レイに身体を起こしてもらいながら、頭を振って意識を完全に覚醒させる。
結果から言うと、出来るには出来た。俺の遺伝子なのかどうか分からないが、かもめを信じるしかない。神のみぞ知る。
『・・・信じて励みなさい』
ふぁ!?きっと疲れてるんだ・・・きっとそうだ。神がこんな所で介入してくるはずがない。どうせなら先の戦いで出てきてほしかった。
頭を振って気持ちを切り替え、すべきことを尋ねる。
「何かやらないといけないことってあったか?」
「ふふっ、一緒に回りましょうか」
風呂入ってからな。嬉しいんだけど、ちょっと臭う。俺も、レイも。
□
まずは、昨日聞けなかった俺を殺そうとした人間について。アマンダを従者にしているクローフィとシディに話しを聞く。場所は『謁見の間』。
「エバノ様が死んだという情報を何処から手に入れたのか分かりませんが、派手に動いているらしいですね」
「どこのどいつだ」
「ノーマリー王国のお抱え商人の様です」
なるほどな。王族に繋がりがあるのも納得だ。
目的についてだが、どうして俺が邪魔だったのだろうか。俺は商人じゃないから考えが分からんな。
「んで?何が目的なんだ」
「他の商人が力を得るのが気に食わなかったのでは?商業に関しては知識がありませんから、何とも言えませんが」
そうなんだよな。理由が分からない。俺を殺して何の意味があるというのか。商業についてはレイに任せっきりだったからな・・・。これなら少しぐらい関わっておけば良かった。
「例えばですけど、その商人は今までグラキエス教国方面の貿易を1手に担っていたのでは無いでしょうか」
口を開いたのはレイ。
それならまだ納得出来るか?確かにシュヴァルツヴァルトは通行税を掛けてないから、教国へは行きやすいが。
「ノーマリーの西側は帝国。『果てしない渓谷』が北に陣取っています。そうなると東から北に行くしかありませんよね?教国に行くにはオーラルフットを通らなくてはなりませんから税金も馬鹿にならない筈です」
「・・・なるほど」
誰かの領に入る毎に税金を払っていたのでは売上も無くなってしまう。それにシュヴァルツヴァルト側の『果てしない渓谷』は魔物の間引きもしっかりやってるからな。時間の節約にもなるし、金も掛からない。今まで東の方で売上を上げていた商人としてはたまったものでは無いか。
「取り敢えず、それで仮定するとしてだ。暗殺出来るのか?」
「そこは僕に任せてください」
シディに任せておけば大丈夫なのだろうが、やはり不安は拭えない。シディがノーマリーから戻ってきてるからな・・・。1回かけた魅了がどうなっているのかが分からないというのも不安の原因の1つではある。
「シディなら出来ると信じてはいるが、クローフィもついて行ってくれないか?打てる手は多い方がいい」
ついでだしクローフィも行っとくか。そう思っての発言だったが、結構いい案じゃないか?
シュヴァルツヴァルトの護りは過剰な程にあるんだし大丈夫だろ。
「そう言って、また貴方は・・・」
「大丈夫です。私が旦那様についてますから」
「そういう事でしたら私は何も言いませんけど、護衛はちゃんと付けてくださいね」
「ええ、もちろん」
俺の知らない所で話しが進むのはどうにかならんのか。お陰でシディの尻尾にあり着けているんだが。
皆が皆、俺が死ぬ事を恐れすぎじゃないだろうか。もし俺が死んだ時に暴走されてしまっては困る。前回がそうだったように、他国を巻き込んでしまってはシュヴァルツヴァルトというブランドを落としてしまう。既に落ちてしまっているのは分かっているものの、2度とこのような事が起きない様に手を打つ必要があるだろう。
さて、次にやる事はなんだ?護衛にデュラハンのリープアーマーを増やしながら次の場所へと移動を始める。