お帰りなさい、旦那様
思わぬところで縛りプレイが始まった。今は数で押している状況だ。
戦いは数だよ兄貴。ビ〇ザム級のレヴィアタンが使えない以上は数で押すしかない。かろうじて支援系の天使の能力は使えるので、人魚とエルフが頑張ってくれている。
この距離での数の暴力。それはまさしく暴風雨とでも言えるものだ。剣、槍、盾、矢、魔法。僅かな隙間にねじ込むように飛んでくるソレ等がスワイヴを襲う。
「うッ・・・!!」
天使の能力を封じたって、流石にこの数を捌き切る事は出来なかったのだろう。彼女は僅かに身をよじるが、容赦なく攻撃が身体を突き破る。血飛沫を立ててその場に崩れ落ちるスワイヴ。だがそんなものは関係ないとばかりに日緋色金の剣や槍が突き立てられ、『火魔法』で炙られる。その光景は焚殺される魔女の様。神を裏切ったスワイヴには丁度いい殺され方だろう。
やっぱり数は偉大だ。天使の能力が無くたって俺には守護者が居る。・・・それにしても、天使の能力より強いってどうよ。俺の基本的な戦い方はディアとフランメを纏っての突貫だから『調和』に慣れないうちはこんなものかもしれないが。
まぁ、何にせよ『原初の2人』の片割れ、スワイヴは死んだわけだ。
「まだ敵が居るのか?」
「マスターを殺したダンジョンマスターが居る筈です」
俺の質問に答えるのはギフト。
彼女の声に変化は無いが、普段よりは距離が近いような気がする。そんな彼女の頭を撫でて俺は船内へと踏み込んだ。
残念ながら死んだことに関しては記憶が無いので分からないが、俺を殺した奴がまだ居るらしい。ソイツの守護者が箱舟を護っていた事からこれは確定。それで、問題は箱舟の何処に居るのかという事になってくる。恐らく十中八九、操縦室だろうけどな。
「カモメ様、前に出過ぎですわ」
そう言って俺の前に出るマイン。色々な種族を収容するためか通路は広くなっている。彼女の更に先にはアーマー系が隊列を組み、船内を進んでいく。
マインもギフト同様に距離が近い。俺の前を歩いてるから近いと邪魔でしかないんだけどな。・・・まぁ何も言うまい。
クローフィもいつの間にか俺の隣に来ているし、彼女たちだけでなく、他の守護者達も俺との距離が近いような気がする。いや、もうこれは気のせいとかそんなものでは無くて、意図的に俺に近づいて来ている。
「お前ら近すぎるぞ。・・・正直邪魔だ。動けん」
スワイヴが思っていたよりも簡単に死んで拍子抜けだったのも分かるが、いささか気が緩み過ぎではないだろうか。
まだ戦闘の最中だろうに。俺はまだ死にたくないんだ。・・・もう2度も死んでるとかそう言う事ではなくてだな。
「さっさと終わらして帰るぞ」
いくら通路が広いと言っても、ものには限度というものがある。盾を構えて魔法を打っていれば相手は殲滅できるし、スワイヴが居ない今『神憑り』も自由に使う事が出来る。
俺達が負ける理由はありはしない。
そして、そんな俺の考えは現実となる。
ファインの分身体を使っての鳥海戦術によって操縦室の場所は直ぐに割れた。後は叩き込みをかけるのみ。
「・・・その必要は無いよ」
突撃を仕掛ける前に操縦室の扉が開いた。
すぐさま守護者に囲まれた人物。彼は白髪が生え、肌は黄色い時の月の様な色をしていた。
年老いた老人の様な箇所が多数存在するが、彼自体は老いを感じさせない体格、雰囲気を持っていた。
「誰だ・・・? 想像は付くが」
「死にゆく者に名乗る資格などありはしない。・・・私としては君に会うのは2度目だ。さぁ、一思いに殺すがいい」
「まだ死ぬと決まった訳では無いだろう?」
俺がそう言えば、彼は寂しく笑った。
「スワイヴが死んだ今、私に対抗策は無い。醜く抵抗するのは最初だけで十分だ」
ダンジョンマスターだったのなら生前があるはずだし、彼の場合は月での人生がそれにあたるだろう。
俺には月での出来事は分からないが、見た目通りの人生経験を積んでいると思う。そんな彼から見ても現状は絶望的。もはやどうしようもないようだ。
「船は既に止めてある。この戦いは終わりだ」
マインが俺に剣を手渡した。自分で終止符を打てという事か。
「管理する者が居なくなったDMOは機能しなくなる。悪いが後始末をしてもらう事になる」
「あぁ、分かった」
「それと、最後に覚えておいてほしい事がある・・・」
短く区切って言を紡ぐ。
「お前らダンジョンマスターは神が、私たちはスワイヴが。互いを牽制するために呼んだ存在だ。結果は見ての通りだが。・・・・・・要はあれだ、ダンジョンマスターの血を絶やすなよ」
その通りではあるか。
モワティエの気持ちが変わっていないのならダンジョンマスターは俺とレイ、デピエミックの3人だけとなる。
たとえ3人でもボチボチやってくことにするよ。
「さらばだ」
横に剣線が引かれ、彼の首が宙に舞う。思い出したかのように頭部を失った体は倒れ、血だまりを作っていくの少しの間眺める。
名も知らないダンジョンマスターの目には光る何かがあったように見えたのは気のせいではないだろう。彼の故郷である月はどんな場所なのだろう。行けたとしても酸素が無いか。
気が赴くままに血だまりを勢いよく踏み、血が跳ね返ったのを一瞥して箱舟を後にする。この後も首を刎ねないといけないと思うと気が気でない。
彼の言う通り箱舟は止まっていて、そこではレイが待っていた。
「ただいま、レイ」
ただいまシュヴァルツヴァルト。
ご愛読ありがとうございました。
三化月先生の次回作にご期待ください。
というわけで当初の目標は達成し、一段落がつきました。
伏線や裏設定が未だに多くある『ダンジョンと共に往く』。今後も続けていくかどうかは未だ決めていません。
やる事は山ほどあるのでまだまだ続けられますが、他の物語を書いてみたいなと思ってみたり。
『ダンジョンと共に往く』を書き始めた時に決めた事に、「更新中は他の小説を書かない」というのがあります。これは活動報告にも出したので最初から読んでくれた人は知ってるかな?
まぁ、そんな事があったので他の物語を書きたいな、と思ったわけです。
せっかく海の階層が出来たのに水着回が無いぞ!
Twitter作った翌日に終わりかよ!
とツッコミどころは満載ではありますが、ひとまずここで完結とさせていただきます。
終わり方が下手くそすぎてスッキリ出来なかった方は申し訳ありません。
そして、ここまで読んでいただきありがとうございました。
楽しかったです。