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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十一章 捲土重来
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萌える天使

 力天使にんぎょと合唱団が歌い、能天使エルフがソレを味方に届ける。

 彼女たちの澄んだ歌声はムーンノートの守護者の声を完全に押し返していた。幾ら守護者の方が数が多いとは言え、相手が天使ではいささか分が悪い。

 それにより状況は一変した。地に伏せた竜が立ち上がり、相手の守護者が地面に膝をつく。

 思うように動けない彼等に容赦無く飛んでくるのは、日緋色金ヒヒイロカネやじりに取り付けられた矢。アサルトの背に乗った弓兵達の攻撃だ。箱舟に這いつくばる彼等よりも上空に居るために威力も上がり、甲板に血の華が咲く。運悪く体内に矢の一部が残った不死者は復活に時間が掛かり、更に状況を悪くしていった。


 「『神憑り』」


 追い打ちを掛ける為に技能を使ったのは大天使ホビット

 「使者の長」、「卓越した使者」を意味する大天使の技能、それは、戦意の喪失。

 懐から取りだしたベルを彼が鳴らせば、透き通った音が響く。それは力天使にんぎょの旋律に合わさり、能天使エルフを介して効果範囲を広げる。

 ベルの音を聞いた敵対者は次々に武器を放り投げ、抵抗することなく横たわり始めた。


 そんな絶好の機会をレイが逃すはずも無く、地上部隊は甲板へと足を向ける。

 ブリッツが『拘束の魔眼』で箱舟の動きを止め、『土魔法』が使える守護者で道を箱舟へと繋ぐ。しかし月の代物には効果が薄いのか、『拘束の魔眼』は直ぐに解けてしまった。

 箱舟が障害物である道を破壊しながら前進を続けるなか、甲板に到達した守護者の数は少ない。魔法等を使い自身で飛べる者等は比較的見かけることは出来るものの、アーマー系で登ってこれたのはルーンフェンサーやライトアーマーといった魔法が使えたり、軽量型だけである。それでも戦意を失った相手であれば過剰戦力もいいところ。ムーンノートの守護者達は次第に数を減らしていく。


 ソレを見たムーンノートは新たに守護者を創造しようとするが、スワイヴはそれを止め、船内で大人しくしておくように告げた。ムーンノートは何か言おうとしたものの、結局何も言うことは出来ずに彼女の背中を見送った。


 「邪魔してくれるじゃない」


 戦意を失った者の処理をしている甲板に声が上がる。

 扉を開ける音も出さずに現れたスワイヴに守護者が警戒を示し、少しずつ距離を開けていく。彼等が無理に戦う必要は無く、ファインの『分身』にでも様子を見させればいいからだ。


 蒼のドレスに身を包んだスワイヴが動くと同時に守護者は甲板から飛び降り、フロウや竜の背に乗って空中へと逃げる。そこにファインの分身体が少しでも時間を稼ごうと攻撃を仕掛けた。

 しかし聞こえてきたのは分身体が砕け散る音のみ。僅かなMPさえ回収する事は叶わず、守護者達の警戒を一層高める。


 「さぁ、暴れてきなさい・・・」


 分身体を破壊した者の正体。それは黒と白の縞模様が入った巨大な猫。もはや虎やライオンと言った方が近い気もする程に目つきは凶暴で、鋭く伸びた牙が並ぶ。目は赤く充血し、高さは3m程。

 スワイヴが指示を出せば弾けるように甲板を飛び出し、驚異的な跳躍力をもって竜を1体叩き落す。叩き落された竜はそれ以降動くことは無く、即死したことが窺える。


 「『剛体』、『雷魔法』」


 地上に降りた猫を素早くモワティエが『鑑定』してレイへと伝える。

 『剛体』とはどんな力を加えても変形しない物体の事だ。分かりやすく言えば、『破壊不能オブジェクト』だろうか。いくら攻撃を加えても傷つくことは無い。『剛体』が作用しているのは体毛と身体の一部だけだが、それだけでも十分に脅威である。


 猫が次に狙ったのは人魚。力天使にんぎょは自身と大天使ホビットの技能が猫には効いていない事に驚きながらも回避行動に移るが、猫の方が圧倒的に速い。

 人魚の1人を捉え、素早く水の道に腕を伸ばす。しかし次の瞬間には猫は飛び下がり、『剛体』の毛を打ち鳴らして自身の狩りを邪魔した者を威嚇する。猫の前に陣取るのはレヴィアタン。人魚の為に作られた水の道を利用しての救出劇であった。

 また自らも中空に巨大な水の玉を無数に作り、有利な環境になるように整えていく。


 意識が地上に向いた時、その近くで大きな音が鳴った。

 何事かと目を向けてみれば、そこには叩き落された竜が居た。その竜の上には猫が鎮座し、周囲を恨めしそうに眺めている。2体目の登場に場が凍る。・・・ただ1人を除いて。


 「モワティエ、あの猫は『状態異常無効』を持っていないという事でいいのかい?」

 「・・・間違いない。両方とも持って無い」


 その一言にデピエミックの顔が歪む。

 ピンチをチャンスに。ここにきて彼の出番が回って来た。状態異常特化の彼からしてみれば、ただ固いだけの奴など餌にすぎない。ネギを背負ったカモである。


 デピエミックは小さなネズミを2体創造すると、レイにファインの分身体を貸してくれるように話しをつける。後は簡単だ。分身体の背中にネズミを乗せての特攻。

 猫も分身体に向かって攻撃を繰り出すものの、如何せん的が小さすぎた。素早く攻撃を避けた分身体は猫の口の手前でUターンし、ネズミを猫の口内へと投げ捨てる。ネズミを体内に取り込んだ猫は少しした後に痙攣し始め、汚らしく唾を飛ばして死んでいった。

 窮鼠きゅうそ猫を噛む。いや、ネズミは猫に食べられる運命なのだ。窮鼠猫に喰われる。これが正しいだろう。


 デピエミックが自身の思わぬ功績に頬を緩めたのも束の間。直ぐに『状態異常無効』が付いた猫が新たに現れたのだ。こうなってしまっては彼に出来ることは無い。肩を落としながら邪魔にならないようにすごすごと後方へと帰って行った。


 新たに現れた猫。問題なのはその数だろう。10や20では歯止めが効かないであろう数の群れを成して甲板から飛び上がってくるのだ。竜は叩き落されないように気を付けるだけで精一杯であり、地上の事を心配している場合ではない。

 地上も地上で大慌て。レヴィアタンがその巨体さ故に何体か纏めて相手取っているが、彼女だけでは到底手が足りない。地面を泥沼に変化させたりして動きを封じているためにどうにかなっているものの、その間に箱舟は地上を目指して進んでいく。

 被害が出ていないのが唯一の救いだ。だがこのままでは勝負に勝って試合に負ける様な物である。箱舟自体を攻撃しようにも、箱舟が月からこの星に来れた事から分かる様に軟な攻撃ではびくともしない。まさに打つ手なしの状態。

 そこに1体の人形が現れた。


 □


 神に空間を繋げてもらってモワティエのダンジョンに来たはいいものの、どうやらシュヴァルツヴァルトが押されている様だ。守護者だけでなく、色々と種族が揃っているみたいだしゲームで言えば最終戦闘ってところだろうか。

 人魚と小人、・・・あとはエルフ?翼が生えてるのを見るに、彼等も天使なんだろう。俺の領域じゃないから『鑑定』が出来ないのが惜しいな。技能構成を覗いてみたかったんだが。


 んじゃま、俺も参戦しますかね。


 「『神憑り』」


 技能を発動すると、今までにない解放感が身体中を満たした。今まで見ることが出来なかった魔力線が見に見える位置にまで浮かび上がり、マグマの様な輝きを放つ。俺の背からは3対6翼が生え、意思1つで自由に動かすことが出来る。

 もう分ると思うが、俺が神から貰った『力』、それは、天使の力だ。主天使の位は俺の死と同時に失われたらしいので、階級は別のものになっている。

 その階級とは『熾天使』。1番上の位の天使であり、その身体は神への愛と情熱で燃えているという話しは聞いた事があるのではないだろうか。

 確かに、マグマの様に輝いている魔力線のせいで俺の身体は燃えている様に見えない事も無い。


名前:畔木 鴎

種族:『熾天使』

造形:『魔力人形マジカルドール

HP800(+400)

MP800(+400)


・証

ダンジョンマスター


・技能

人宮一体[熟練度0.00]

聖火魔法[熟練度10.00]☆ 付与

聖雷魔法[熟練度10.00]☆ 付与

調和[熟練度10.00]☆ 付与


 随分と強化されたわけだが、この力にはある欠点がある。神が言っていた、「法外な見返り」という奴である。実際は法外では無かったのだが、感じ方は人それぞれであり、俺は結構堪えた。


 「旦那様!?その姿は一体・・・」


 俺に気付いたレイが叫ぶ。その声に釣られて守護者達も驚いた表情でコチラを振り返ってはその動きが固まる。

 そう、その問題とは・・・、2翼で頭を、2翼で身体を隠していることである。精神年齢がそれなりの俺からしてみれば中二病が再発してしまったようで何とも恥ずかしい。能力は良いんだよ、能力は。精神的なダメージが酷いだけで。

 翼で隠している筈なのに前は見えるわ、身体を隠してる翼が少しだけ邪魔だしで何とも言えない。強いんだけどな。

 まぁ、それはともかく、前線を押し返しましょうかね。どうせあの箱舟を止めればいいんだろ?


 「『調和』」


 この技能は以前使ってた奴が居たな。さて、俺の場合はどう変化するのか。

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