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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十一章 捲土重来
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三化月

 モワティエのダンジョン、『仙人の庭』を潜ったすぐ近くの場所にそれぞれの軍勢が布陣していた。

 地上へと続く途中で待ち構えるシュヴァルツヴァルト、天使連合に対して、わずかに浮遊した箱舟の甲板に並ぶ不死者達。

 個々の守護者の力量を平均して競った場合、シュヴァルツヴァルトに軍配が上がるだろう。だが、総合的に見た場合はムーンノートの守護者が圧倒してしまう。それだけ復活するというのは厄介な事なのだ。敵を倒すための魔法だって、ただ消費MPが高いだけでは駄目なのだ。魔法にもよるが、相手が丁度死ぬように調整してやらねば無駄にMPを消費してしまう。現に、エバノが放った『破魔の十矢アポロン』も消費MPに見合うほど敵を殺せているわけでは無い。

 その点、レイが考える魔法というのは今回の敵には相性が良い。


 「『雷の雨チェンダー・ライトホース』」


 無数の稲妻が音も無く飛来し、箱舟の甲板に立つ守護者を焼いて行く。降り注ぐ雨は生の亡者を打ち抜き、その数を順調に減らしていく。

 しかし、ダンジョンマスター同士の戦いと言うのはそれほど甘いものでは無い。骨の内と外とをひっくり返したような表皮を身に纏った巨大な鳥が何処からともなく現れ、雷に愛されているかの様に稲妻をその身に引き付ける。

 それを見たレイはすぐさま魔法を中断し、次の手を考え始めた。馬に跨って指揮を執る彼女の隣にはモワティエが立ち、先程現れた守護者の技能構成を告げていく。


 「『全魔法吸引』、『全魔法吸収』、『MP譲渡』」


 魔法が効かないのであれば仕方がない。物理で殴りに行こうではないか。

 戦場は空中へと早変わりし、土埃を立てながら竜が空へと昇っていく。その中で竜よりも早く敵陣めがけて飛んでいく影があった。影を注視してみれば、それがファインの群れであると分かる。

 『分身』を使ってネズミ算の様に増やしてくファインに相対するは、悪魔の様な出で立ちの守護者。左脚は黒山羊、腰からは鞭の様な尻尾が伸び、背には光を吸収するような黒い翼が生えている。彼等は自らの翼で空中に飛び上がると、ファインの群れへと突撃をかけた。

 互いの守護者が交差するたびに幾数の破裂音が辺りに響く。これだけを聞いたのであれば、体格で劣るファインが負けてしまっている様に思うかもしれないが、実際はそんなことは無い。無残にも盛大な音を立てながらその身を散らしているのは分身体であり、本体は安全な所から状況を見ているのだ。

 その状況といえば、少しずつだがシュヴァルツヴァルトが優勢になっている様に見える。MPが無くなったことによって地に落ちていく悪魔に対し、MPさえあれば幾らでも『分身』を作れるファイン。

 くちばしだけを血に染めた烏は悠々と空を旋回し、本体へとMPを譲渡しては敵に突っ込んで破裂音を響かせる。


 ファインの後を追うようにやって来た竜たちも負けてはいない。爪で引き裂き、牙で砕く。尻尾で叩き落とし、ブレスで焼く。

 怪獣映画も真っ青なほどの暴れっぷりを見せる彼等であったが、箱舟に近づくほどにその足取りは重くなり、地に降りる竜さえ現れ始めた。

 原因は箱舟から聞こえてくる歌。『神憑り』を使った状態のエバノでさえ身体の重さを感じるほどに強力なデバフは、竜の身体を地面へと落としてく。


 コレに対処するのは地上の部隊。今までほったらかしだったものの、彼等が何もしていないかと聞かれればそうではない。地にひれ伏す悪魔をしっかりと処理し、箱舟へと向かっていたのだ。

 彼等の仕事はここから始まる。


 「『神憑り』」


 声を上げたのは力天使にんぎょ

 難局にある善人に勇気を与えて鼓舞する事によってその者本来の力を引き出し、更に底上げを行う。その名の通りの技能を持ち合わせたのが力天使。


 力天使にんぎょの声に合わせてエルフの魔法部隊が魔法を唱え、宙に水の道を作りだす。ソレに力天使を先頭として人魚たちが飛び込み、その姿を人のモノから人魚のそれへと変えていく。耳の真下にはエラが浮き上がり、腰から下は魚へ。

 自由自在に水中を泳ぎ回る彼女たちを先導するのは一対の翼の生えた人魚。十二単に似た衣装は水を吸って重い筈なのに、それを感じさせない程スイスイと泳ぐその姿は幻想的であった。

 力天使が水面に顔を出し、天使達の集団へと視線を向けるのと同時に、エルフの青年が口を開いた。


 「『神憑り』」


 彼もまた天使であり、階級は能天使。

 力を与えるのが力天使であれば、能天使の力とは何か。それは、あらゆる能力の源たる原理と同一化することとされている。

 今回彼が同一化させたものは『反響』と『増幅』。この2つの対象を取り入れ、同様の傾向を取り入れ、己の身体に対象と同様の傾向を示させる。


 人魚達の合唱は能天使エルフを通してその効果範囲と威力を増大し、味方に祝福を、敵には災いをもたらす。


 □


 神の空間を走り回っている途中で元の場所に戻された。あそこに居る時は夢を見ているような感じだ。現実の俺は寝ているのに、走っている感覚が抜けないままに戻された為に意に反して身体が反応してしまう。

 ダンジョンは相変わらず光を失っていて、一寸先も見通せない。だがダンジョンマスターの能力が戻ったのか、ダンジョンの隅々までを把握できている。やはり神の元に呼ばれた為に何か変化があったのだろうか。


 今居るのは『四階層』。水晶墓地―――であるはずなのだが・・・。

 能力で確認できるのは、複雑怪奇に入り組んだ迷路。俺でも無傷は少し難しいという難易度になっているソレを一先ず無視し、後ろに控える水晶を目の前に据える。


 「やっぱり俺だよな・・・」


 能力が戻った瞬間から見えていたのだが、やはり受け入れがたい。ココは水晶墓地。普段通りであれば死体は地中に埋めるのだが、守護者達がそんな事をするとは思えない。すなわち、水晶の中に俺が居るという事は、俺が死んでいるという事の証明でもある。

 最悪なのは、死んだ時の記憶が無い事だ。死んだ原因が分からないから対策が立てられないし、守護者達の動きが読めない。現にシュヴァルツヴァルトには人っ子一人確認することは出来ないのだ。何かが動き始めていると考えるべきであろう。

 何処に行ったのか。何をしているのか。それによって俺の動きも変わってくる。

 取り敢えずは今の俺に出来る事を確認しよう。


名前:畔木 鴎

造形:『魔力人形マジカルドール

HP400

MP400


・証

ダンジョンマスター


・技能

人宮一体[熟練度0.00]


 随分と懐かしい表示だ。技能は消えて熟練度もリセット。どうしようもなくて逆に笑えて来るよ。

 まぁ、人間じゃないって事だけでも分かれば十分だ。天使ですら無いようだし剥奪でもされたのだろうか。以前よりも初期値的にはHP、MP共に高くなってるから文句はないが、神から見放された感じがしてどうも座りが悪い。さっきまで神の間に居たのだから完全に見放されたわけでは無いだろうが。


 『人宮一体』は使えるようだし『謁見の間』にでも行くかな。現状じゃ他に行く場所も無いだろう。


 技能熟練度が低いせいか『謁見の間』に飛ぶのも遅く感じる。

 本当にアイツ等は何処に行ったんだ?玉座に座りながらそんな事を考える。どうせ敵討ちだとか言って出てったんだろうなー。何となく分かるわ。

 水晶墓地を確認してみても死体に俺が追加されただけで守護者の姿はない。俺だけが死んだと仮定するとシュヴァルツヴァルト全軍は過剰戦力の様な気がしないでもないが、敵の戦力が分からない事には何とも言う事が出来ないな。

 俺も行った方がいいんかね。足手まといになるだけな気もする。


 「・・・力が欲しいですか?」


 暗闇の中突然に光が戻り、思わず手で目を覆う。

 どこからともなく現れては悪魔の様に声をかけて来るのは神。生憎ながら眩しくて姿は見えないものの、俺が声を間違える筈がない。


 「欲しいですけど、法外な見返りを求められそうなので遠慮しておきます」

 「フフっ、そんなこと言わないでください」


 神は小さく笑うと続けて言った。


 「確かに法外かもしれませんけど・・・、効果は絶大ですよ?」


 溜めてそう告げた神は、首を傾げている様に感じた。どこか悪戯を仕掛ける様な雰囲気を感じる。眩しくて直視できないのが惜しい。

 しかし見えなくたって、もちろん俺の返答は決まっている。


 「そう言う事でしたら喜んでお受けしましょう」


 俺だってただ死んでるだけでは無いからな。死んだ人間が弔い合戦に参加してもおかしくは無いだろう?

 自然と2人の笑いは重なり、自分の身体に熱が入って来るのを黙って受け入れる。


 「それじゃあ、後は分かりますよね?」


 神の問いかけに呼応して口を開く。


 「光あれ!!」


 その瞬間、シュヴァルツヴァルトに光が戻り、誰も居ないダンジョンを照らす。

 さぁ、この寂しい国の住人を迎えに行ってこよう。あ、その前に指輪を回収しないと。


 「締まりませんね」


 分かってるんで言わないでください。

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