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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十一章 捲土重来
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それぞれの道のり

 モワティエの祖先が創ったダンジョン。そこでは絶賛箱舟の氷を削り取っていた。

 幾重にも張った罠は文字通りのゾンビアタックによって打ち破られ、どうやっても力技で突破できないものは地道に攻略方法を探された。

 それにより箱舟がある階層まで到達され、封印を解こうと箱舟を覆う氷を削っているのである。


 ダンジョンの制御権を『不死者のダンジョン』のマスターが持っていればこんなことをする必要が無いのだが、モワティエが未だにこの場所のダンジョンマスターであるためにこのような回りくどい真似をしなければならないのだ。


 そしてついに、箱舟を縫いとめる幾つもの鎖全てが地面から解放された。未だに船体には氷が付いているものの鎖が外れてしまえばあとは楽だ。箱舟は人が操作する必要は無いからである。

 船内をいくら拡張しようとも、月に住まう種族を雄雌両方とも乗せようとすれば大きさが足りない。操作できる者の数が少ないために自動操縦の機能は必須であった。


 箱舟の行先は月。順調に長年の目的を達成しようとしているムーンノートの表情は笑みで歪み、彼の同行者も嬉しそうに見える。


 「スワイヴ、私達の目標ももう少しで完遂する」

 「そうね。どうせならアバビムも一緒に連れて来たかったものだけど・・・」


 悲しそうな表情で答えるのはスワイヴ。ムーンノートの同行者であり、DMOの創始者でもある。

 スワイヴが1人物思いにふけり始めるのを横目に眺めながら、ムーンノートも思考を走らせた。



 つい先日守護者と戦闘を行ったダンジョンマスター。彼は中々に強かった。真面目に正面からぶつかり合えば負けていたのはコチラかもしれない。やはりダンジョンマスターの強さは、いかにMPを増やせるかによって決まる。

 DMO所属のダンジョンマスター達も彼の様に強ければここまで苦労しなかったのは想像に容易い。結局、たった1つのダンジョンを落とすのに幾つのダンジョンが犠牲になったのか。いまさら数えるのも馬鹿らしい。

 その点で言えばスワイヴが言うようにアバビムが居ないのは不便ではある。アバビムにも野心というものがあれば、あの時手を貸すのもやぶさかでは無かった。そもそも、アイツは何故にDMOに所属していないのか。対の存在とも言えるスワイヴが始めた組織であるのだから、入っていてもおかしくは無いものだが。

 2人の事情に私は詳しくない。これ以上の考えは無意味だろう。


 「さあ、出発しようか」


 私達と守護者を乗せた箱舟は船体に付いた氷を弾きながら地上へと向かう。

 竜の攻撃には気を付けなければならないが、そちらは守護者に任せておけばいい。奴らは所詮は駒に過ぎないのだから。


 □


 冷たい何かが頬を撫でる感触に目が覚めた。何度か瞬きをして焦点を合わせれば、俺が居る場所に見当がついた。

 そこは石造りの部屋に石柱が立ち、豪華な装飾がなされている。


 「これは、神の間・・・?」


 1つ、呟いた声は帰ってくることは無い。普段は神が居る筈なんだけどな。

 しばらく周囲を散策するが、神が現れる事も無ければ、俺が元居た場所に戻る事も無い。こんなにも神の空間に居るのは初めてだ。


 暇だからと色々と試すものの、やはり魔法も技能も使えないし、身体も重い。不思議に思って左腕を撫でてみると、ある事に気が付いた。俺の左腕に何も着いていないのだ。ギフトが着ていた服どころか、指輪も無くなっている。よくよく見てみれば普段着ている服と色が違う。気持ち赤く染め上げられたかな?程度の変化だ。

 爪も完全に赤に染まっている。・・・・・・ん?


 「これ俺の身体じゃ無いじゃん」


 指の形、肉の付き方、しわ。そのどれもが俺が知っている自分のモノとは違っている。

 通りで魔法も技能も発動しない訳だよ。身体が違うんだから動かし方も変わってくる。

 これってかもめの素体か?それなら魔力線が体内に組まれているから身体を動かせば反応して線が光ると思うんだが、見た感じ光っていないようだ。

 俺の知らない所で改良でもしたのか?そもそもコレが人形だとして何で動いてるんだ?人形にMPなんて物は無いから、それ以外で動いてると思うんだが。


 取り敢えずこの身体に慣れない事には始まらない。

 戻れないし走るか。倒れたら倒れたで動力が何か分かるだろうし、神も現れるかもしれない。


 □


 シュヴァルツヴァルトにはモワティエのダンジョンへの転移陣が開き、その方陣の前には守護者達が1mmの狂いも無く整列していた。

 静かに。静かに。そこに居る誰もが口を開かず、緊張した空気が場を支配している。

 本来関係ない筈の天使や、その同行者ですら知らず知らずのうちに生唾を飲み込むような、鋭く冷たい気配。この階層の今の天気は晴天。雲一つないというのにどこか肌寒い。


 これがダンジョンの本来の姿。

 どこまでも冷徹に。どこまでも残酷に。如何にして感情を削ぎ落して命を刈り取れるか。それだけを追求した完成系がそこにはあった。

 アーマー系の守護者の鎧がダンジョンの光を反射し、前後左右の鎧質を鈍く映す。それは鉄で出来た湖を見ているようだ。


 そんな集団を率いるのはレイ・ルーラー。天使の階級を持たないような小娘ではあるものの、誰もそれに異を唱えようとはしない。皆分かっているのだ。何か文句を言えば周囲に居る守護者に殺されると。

 ココに居るのは戦いのプロフェッショナル達だが、数の母数からして違う。本当に自分が必要なのかと疑問に思うほどに、守護者が負ける様子を想像できない。これが主を失ったダンジョンだと?主が居る頃よりも恐ろしいではないか。なるほど。この世のバランスを司るだけの事はある。


 「・・・シュヴァルツヴァルト、およびその他大勢の諸君。この場に居る全ての者にまずは感謝を」


 それは普段のレイの口調では無かった。底冷えする様な低い声。その声を聴くだけで肌は粟立ち、内臓が縮むような深いな感覚を覚える。

 声がどこまでも響いて行くのは彼女のダンジョンが手伝っているだろう。


 「今回の目的は敵性生物を殺す事。失敗は許されない」


 彼女の口から出るのは命令。決して撤退を許さない、絶対の命令。

 死ぬまで戦え。這いつくばってでも縋りつけ。骨を拾ってやることは出来ないだろうが、無駄死になんかでは無く、成功の人柱になるのだ。嬉しいに決まっているだろ?


 「では行こうか」


 どこかエバノを思わせる様な雰囲気の彼女の号令に合わせ、鎧たちが足並みを揃えて光を放つ方陣へと向かう。光を放つ漁船に群がる小魚の様に隙間なく、波打つ荒波の様に地面を揺らしながら、光を反射する水面の様に鎧に光を反射させながら。命無き騎士たちの行進は止まらない。

 続いては方陣へ向かうのはアサルト。元から空色である彼だが、『金属体』によって甲殻が変質しているために空色の甲殻に更に空の色を映している。一度空に上がれば一瞬のうちに溶け込んでしまいそうだ。彼の背にはスナイプアーマーとシーゼンが立ち、風を裂きながら方陣を見据える。はためく白と黒の袴は死神を連想させる。髪の隙間から覗く千里眼には何が見えているのか。

 アサルトの尻尾を追って鼻息荒く歩を進める、麒麟と20頭の馬。その背に跨るのは同一の衣装に身を包んだ守護者。かもめが創ってからダンジョンの正装となった衣装だ。

 麒麟に乗っているのはギフト。そして、馬に乗っているのは以下の通り。

 マイン、クローフィ、リェース、アクル、ブリッツ、スキアー、シュテル、アン、イン、ユェー、シン、ハイ、リィムが8体。

 見て分かる様に爵位持ちの守護者に、レイの守護者を足した編成になっている。レイの守護者も鴎の装束を着ているのには理由がある。戦いに赴く者の意識を統一し、更なる戦果を期待するのだ。エバノが残した物の1つでもあるために彼女はこの服を守護者に着せた。

 最後は残りの守護者達や天使、またその従者。それぞれが決死の覚悟を抱き、この戦列に加わっている。戦闘の技能を持ってない?武器を握った事がない?いいや、そんなものは一切関係ない。主の為なら誰もが喜んで命を捨てる。それがダンジョンマスターと守護者の関係。信頼関係とはかけ離れたものが本来の関係であり、ようやく本物のダンジョンとして活動をしたと言ってもいい。エバノの死によってそれが発現したというのは悲しいが、それはそれで良かったのかもしれない。

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