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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十一章 捲土重来
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黒い森での動き

 グラキエス教国で会議が行われている一方、闇に支配されたシュヴァルツヴァルトでも守護者会議が行われていた。

 長方形の机には、レイと爵位持ちの守護者達が腰をかける。


 「マスターが死んでからの状況を説明します」


 始まったのは現状の確認。『人宮一体』を持っているギフトがその音頭を取るのは半ば当然の事だった。


 「まず、シュヴァルツヴァルト。正確には、マスターのダンジョンのみが光を失いました。これは見たら分かりますよね」

 「・・・えぇ」


 ブリッツがユックリと相槌を打つ。魔法職では無い彼はエバノの呼びかけに答える事が出来ずに、歯痒い思いをしていた。

 何か自分に出来ることはないだろうか、と必死なのである。


 「次に、『謁見の間』及び『二階層』に飾られていた旗が無くなっています。マスターが居なくなった為だと思いますが真偽のほどは分かりません」


 シュヴァルツヴァルトにおいて、旗が置かれていたのは2つの場所のみ。ギフトが言ったように、『謁見の間』と『二階層』だ。

 『二階層』の旗は部外者が『三階層』に降りるために創られたものだったのだが、エバノが死んでからはその縛りも無くなっている。


 「マスターを安置した『水晶墓地』もまた姿が変わっています。守護者でも無傷では再奥に行く事はできないでしょう。『人宮一体』も弾かれましたし、何か意味があるものと思います」


 ギフトの『人宮一体』もまた制限が掛かっている。元から制限付きで付与された技能であったものの、そんなものダンジョンが許可すれば何処にでも行く事が可能だったのだ。

 しかしそうもいかなくなった。『水晶墓地』だけでなく、ほかの階層にも行けないのだ。今の彼女が飛べるのは、証で決められたように城の辺りだけになっている。


 「私が確認しているのはこれだけです。他に何かありましたら報告をお願いします」


 彼女の声にこたえる者はいない。それを確認すれば、次の議題へと移る。


 「モワティエ様とデピエミック様についてですが、今はどうしていらっしゃいますか」

 「私のダンジョンの方で過ごして貰ってます。光がありますから・・・」


 次第に声が小さくなっていくレイに、他の守護者達も目を瞑る。


 レイのダンジョンには光がある。だが、彼女の心の光は消えた。エバノは彼女にとって太陽であったのだ。

 何も分からないままに戦い、もう少しで死んでしまうという場面で助けられた。それから彼と子供を作る事になるのだが、当時の彼女には思惑があった。「ついて行けば死なない」。自分が死なないのならばそれでいいと思っていた。

 しかしそれも変わっていく事になる。エバノが見せてくれる世界はレイを魅了し、それは彼への好意に変化した。マナフライに頼んで夜の小川に何度通った事か。彼女自身でも数えきれないだろう。

 短い間ではあったものの、彼と過ごした時間は大切な宝物である。


 「あの人達には私の方から言っておきます。もう少しすれば天使が来るのでしょう?今日の本題はこの事だと思ってたんですけど」

 「・・・その通りです。ではよろしくお願いします」


 誰も口を開けなくなっていたところへレイが続けて言葉を紡ぎ、それにギフトが頷く。


 これで守護者会議は終わり。

 はたして、主を失った守護者に出来る事はあるのだろうか。各々が胸に思いを秘めながらそれぞれの守護位置へと帰って行く。



 守護者会議も終わり、誰も居ない筈の会議室。そこには3人の守護者が居た。

 初期に創られた人型の守護者、ギフト、マイン、クローフィだ。


 「マスターが居ない今、私達でシュヴァルツヴァルトを回す必要があります」


 やはり場を仕切るのはギフト。

 だが、残る2名は彼女の意見に反対の様だ。


 「レイ様が居るのですから任せればいいのでは?」

 「否定するわけではありませんが私も同じ考えです」


 両名の意見は、レイが居るのだから自分たちが出しゃばる必要は無いというもの。

 しかしギフトはそれでは納得しない。


 「こう言ってはなんですけど、レイ様ではシュヴァルツヴァルトを纏めることは出来ません。ダンジョンマスターの能力としても平凡そのものです」

 「それ以上は不敬ですよ?分かってます?エバノ様が死んで焦るのは分かります。でも急ぐのと焦るのとは違うでしょう?」

 「・・・分かっています。そもそも、・・・いえ、失言でした。忘れて下さい」


 クローフィに諭されたギフトが最後に言いかけたのは何だったのか。それは想像に容易い。

 彼女はこう言いたいのだ。「そもそもクローフィがマスターを助けていればよかった」と。

 ギフトもまた魔法職では無い。ブリッツがそうであったように、彼女も居残り組の中に居た。


 「ギフトは休んだ方がいいですね。疲れてるんですよ」


 そう声をかけるのはマイン。彼女もダンジョンに残っていたために、エバノの支援に行ったメンバーに言いたい事はある。

 にもかかわらず彼女が落ち着いているのは、エバノが守護者を創る時に込められた思いに関係している。そして何より、エバノから「お前は何があっても死ぬことは許さない」と言われているのが大きい。自分が先に死ねなかったのは惜しいものの、現状については概ね受け入れている。


 ギフトがしばらくは大人しくすると言ったことで3人も会議室を後にした。


 □


 水晶墓地に1人の男性が脚を踏み入れた。一旦入ればどんな者でも無傷では済まない場所であるのだが、その男はスイスイと進んでいく。

 男はエバノの眼前までくると、おもむろに水晶に手をかざした。それだけで水晶は2つに割れ、中に居たエバノが崩れ落ちる。男はソレを優しく受け止めると、自らの胸に腕を突き入れた。鈍い音を立てながら体内を漁る彼は少しして1本の線を取り出した。

 その線は黄緑に似た色に光っていて、暗闇に支配されていたはずのダンジョンを優しく照らす。


 線を心臓近くに押し当て、沈み込ませるように力を掛けていく。それが終わればもう1本取りだし、今度は頭部へと繋げる。


 その時だけは水晶墓地に光が戻っていた。

 光で照らされた男の顔。その顔は畔木かもめそのものだった。

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