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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十一章 捲土重来
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常闇の中

 エバノ――畔木 鴎――が死んでから、シュヴァルツヴァルトには全ての光が届かなくなっていた。

 これは、ダンジョンマスターを失ったダンジョンとしてありえない事だ。

 脳が死んでしまえば人間は動けないように、ダンジョンマスターを失ったダンジョンというのは動くことは出来ない筈なのだ。ダンジョンが機能していなければこのような芸当は到底成しえない。


 当然、シュヴァルツヴァルトに滞在していた人々は混乱した。だがそれも次第に落ち着いて行く事になる。光が無くとも、全ての守護者はダンジョンの何処に何があるのかが分かる。彼等によってシュヴァルツヴァルトの外へと連れ出された人々は、何が起こったのも知らされないままに最寄りの街へと移って行った。


 エバノ亡き後、レイは彼のダンジョンを自分のダンジョンに取り入れようとしたのだが、それはあっけなく失敗に終わった。それによってシュヴァルツヴァルトに居る者は2つの意見出した。


 1つは、エバノが生きている説。

 もう1つは、ダンジョンかもめが統合を拒否をしているという説。


 だが、エバノは既に死んでいる。その事はエバノの死を見届けたガブリエナが1番知っているし、嘘をつく理由も無い。

 守護者が総出で彼の死体を取り返そうと必死の攻勢をかけた事でどうにか回収することは出来ていたものの、この事によって守護者はエバノの死体を1度は見ているのだ。『回復魔法』によって死体の損傷自体は回復させることが出来たが、ついぞ彼が目を覚ますことは無かった。


 そうなるともう1つしかないだろう。

 かもめが統合を拒んでいるのだ。疑問を1つ残し、一旦、それが守護者の共通見解となった。

 疑問とは、次に述べることだ。

 『人剣一体』、『相互成長』によってエバノと間接的に繋がっていたアイリードは、守護者としての役目を終えたかのようにただの剣として死んだ彼の手の中に納まっていた。それなら、『人宮一体』でエバノと繋がっていたかもめはどうなのかと言う話しになってくる。だからこその一旦であり、疑問でもあった。


 エバノの死体はレイが水晶墓地に収めることになった。

 火を灯しても明かりは生まれず、暗闇の中での寂しい葬式であった。巨大な水晶の1つが真ん中から割れ、エバノを包み込んでまた1つの水晶へと戻る。ダンジョンに光があれば、それはさぞ美しく見るモノを魅了したであろう。

 彼の死体の安置が終わり、全員が墓地から姿を消すと、かもめが墓地の構造を独りでに変えていく。

 平坦だった水晶墓地がある『四階層』には、仕切りが立ち、落とし穴や罠が張り巡らされた迷路へと姿を変えた。何人なんぴとも侵入することを許さない、常闇の迷宮だ。


 遺言通りにグラキエス教国にはアサルトが飛び、一緒に行動したギフトがエバノの死と、そらへと向かうダンジョンマスターの事を報告した。

 これによって各地に居た天使が教国へと招集され、今後の対策を練り始めた。


 □


 ここでは対策会議を行っている天使達に焦点を当てて説明していこう。


 場所はグラキエス教国、首都二ーにある城の中。エバノも使った事がある会議室だ。

 部屋に置かれた円卓に腰掛けているのは7人。それは、智天使 ルーチェ・クルイローを始めとした天使達だった。


 「主天使が死んだって言うのは信じられる情報でしょうか」


 まず声を上げたのは、茶の短髪をした女性。十二単を連想させる衣装に身を包み、真剣な表情で口を開いていた。

 今の彼女は陸地に居るために普通の人間の見た目と変わらないが、水に入ればその姿を人魚へと豹変させる事だろう。

 彼女の階級は『力天使』。9ある天使の階級の、上から数えて5番目の位置に居る天使だ。


 「えぇ、現にシュヴァルツヴァルトは闇に覆われているみたいです。信用していいかと」


 そう答えるのはルーチェ。彼女の表情は普段と1mmも違わず、エバノが死んだ事について何1つ思っていない事が伺える。

 あくまでも彼女にとって大切なのは神の反応であり、天使の生死では無い。そういう非常な1面を持たなければこの星で生きていくのは難しい。日々誰かが死ぬのだ。いちいち気にしていては限りがない。


 「余もその情報が真実であると証言させて貰おうか」


 ルーチェの意見を後押しするのは、白百合(しらゆり)色の全身鎧を身に着けた騎士。片手を上げてそう告げるのと同時に、鎧が擦れてガチャガチャと音が鳴る。

 彼の名前はビアンコ。以前モワティエを乗せて空を飛んでいた竜が『人化』したのが彼であり、上から3番目の天使である『座天使』の地位についている。


 「さて、これからの事についてですが・・・。今回の件のダンジョンマスターを殺すのは当然として、話すとすれば、敵を倒すのにどれ程の戦力が必要なのか、でしょうか」


 話し進めるのは森人(エルフ)の青年。種族特有の整った顔立ちに、尖った長い耳。見た目に合わない程の時間を過ごした人物である。

 彼は獣の皮を加工して作られた服を着ており、時おり風に吹かれて毛が揺れる。

 天使の階級は『能天使』。6番目の天使だ。


 能天使(エルフ)が話しの議題に持ち出したのは、敵を殲滅するのに必要な戦力の数。

 ここに居る天使だけで倒せるのか、各々が何人か連れてくるのか、天使が居るとは知らない表の世界の人間をも巻き込むのか。それを決めたいのだろう。


 「主天使の守護者、我々と精鋭を集めれば倒す事は出来ようぞ」

 「それじゃあ、何故に主天使は死んだんか」


 自信満々に答えたビアンコにドワーフが質問をした。

 彼はレクタングル国王のワイアット・ウィル・キャメロン・レクタングルの様な混血ではなく、純血のドワーフであった。

 剃られた頭に豊かな髭をした彼の階級は『天使』。最下位ではあるが、その発言権は大きい。なぜなら、純血のドワーフは皆が皆『天使』であるからだ。今居る人物は代表に過ぎない。

 純血のドワーフが作る武器は国宝とされる事も多く、その腕は確かである。

 両脚をどっかりと円卓に乗せたその姿を誰も咎められる事は無く、彼の質問にビアンコが返す。


 「主天使は優秀なダンジョンマスターであったが、傲慢な部分があった。今回の敗因はそこよ」

 「なるほどの」


 かつてギフトがエバノに進言した彼の弱点。ビアンコはその事に気づいていた。

 エバノが単騎駆けなどせずに最初から全力で挑んでいれば結果も変わっていたのは間違いない。『不死者のダンジョン』を勝手に侮り、勝手に死んだ。ただそれだけの事だ。


 「お二方、話しが少しズレてますよ。・・・・・・各国の混乱は権天使フェーデに任せる形ですか?」

 「私はそれで構いませんよ」


 話しの流れを修正したのは小人ホビット

 発言した彼の身長は120cm程だろうか。足裏の皮は厚く、毛が生えているために裸足だ。黄土色のもじゃもじゃした髪で、朗らかな顔をしている。エルフには劣るが、彼もまた尖った耳をしていた。


 ホビットは周囲を見渡して自身に視線が集まったのを確認し、人間の指導者を監視する立場にある『権天使フェーデ』へと投げた。フェーデもこういった場面は何度か経験したことがあるために淀みない返事を返した。

 今回の一件はあくまでの裏で片付ける案件のために盛大に動くことは無いが、念のために予防線を張っておくに越したことはない。


 「簡単には決まりましたかね?それでは各々が役に立つと思う人物を連れてシュヴァルツヴァルトまで行くように」


 ルーチェは思い出したかのように「食事はアチラで出ると思います」と付け足すと会議を閉じた。


 この会議に参加したのは、7天使6種族。

 空席の階級は『熾天使』と『主天使』。

 天使が居ない種族は『亜人』と『獣人』。この2種族がハブられているのにはちゃんとした理由があるのだが、ここでソレを語るのはやめておこう。

役割    種族 天使  上からの順位


 罪と罰  人間 智天使 2番目

 魂と時間 獣人

繁殖と自然 亜人

暴力と破壊 竜  座天使 3番目

知性と理性 森人エルフ 能天使 6番目

生命と自由 人魚 力天使 5番目

想像と創造 山人ドワーフ  天使 9番目

平和と食事 小人ホビット 大天使 8番目

この世の理 妖精 権天使 7番目


         主天使 4番目

         熾天使 1番目

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