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ダンジョンと共に往く  作者: 畔木 鴎
十章 後悔噬臍
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笑ってお別れを

 シュヴァルツヴァルトからモワティエの元へ。

 転移後の俺が見たもの、それは、両手を失い、大量の血を流す彼女の背中だった。すぐ近くにはデピエミックの姿もあったが、彼も腹部から出血しているので何か手を施さないと死んでしまうだろう。

 彼等の周りには守護者が控えているが、そのどれもが身体のどこかに傷を負っている。


 そして、水場が無くなった戦場で、その傷を作ったであろう者が俺達を囲んでいた。


 数えるのも億劫になるほどのスケルトン。

 ボロボロのドレスに身を包んだ、青ざめた皮膚の女性。

 胴が奇妙に膨らんだ、白い皮膚の男性。

 左脚は黒山羊やぎ、腰からは鞭の様な尻尾、背からは光を吸収するような黒い翼が生えた男性。


 見た感じの主な構成はこうだ。各々が手には武器を握り、包囲網を少しずつ狭めて来る。

 スケルトンがカラカラと音を出し、それに呼応するかのように武器が打ち鳴らされる。


 「取り敢えずポーションを使え。効果は保証する」

 「すまない。私はいいからモワティエに先に使ってくれたまえ」


 守護者に抱えられながらそう告げるデピエミック。確かに彼女方が重症だが、デピエミックの方も動けないだろう。ポーションは結構な数を持って来ている。無理せずに使うといい。


 「すまないな・・・」

 「気にするな。非常時だ」


 そうだよ。どうして不死者のダンジョン1人にここまで押される。水場が無くなっているからダンジョンマスターの1人は倒している筈だ。空に関しては色が変わっていないので分からないが、押される要素は無かった。

 ん?空・・・?


 「竜はどうした。姿が見えないが」

 「ダンジョンに隠してある。彼等が死んでしまってはどうしようもない」

 「無理に話さなくてもいいぞ。まずは傷を塞いでからだ」


 口の端から血を垂れ流しながら答えるモワティエにそう告げる。

 彼女の守護者がポーションで治療しているものの、遅々として傷が塞がらない。

 仕方ない。相手も待ってくれないし時間稼ぎをするしかないな。


 「離れてろよ・・・、って動けないか。『熱き魂バーニング・ソウル』」


 レイピアの様に細い長剣を2本取り出し、炎の鎧を持つ。

 今回は更に・・・


 「『神憑り』」


 そう唱えるのと同時に、[死]の集団へと突っ込む。

 赤く染め上がった双剣をはさみのように構え、敵を切り払いつつ魔法を唱える。

 この際MPの事は考えない。好きなだけ暴れさせてもらうぞ。


 「『象徴の神具アトリビュート』」


 リアスと出会った場所。神の表徴ひょうちょうを表す言葉を冠した魔法。

 俺の身体からマグマの様な色をした鎖が幾数と放たれ、敵を貫き、瞬く間に溶かしていく。


 順調に数を減らしていっていると、急に身体の動きが悪くなった。中空に立ち腕を動かしてみると、確かに重く感じる。

 何か掛けられた?デバフか・・・。

 こんなことが出来そうなのはボロボロのドレスを着た女性の守護者だろうか。よく見てみれば何か口を歌っているみたいだ。俺の偏見だったんだが、外れなくてよかった。

 未だ姿を見せる『神具の象徴アトリビュート』に優先的に女を狙わせ、戦場の様子を眺める。


 マグマの鎖によって確実に数は減っていると思うのだが、それを実感するにはまだ時間が掛かりそうだ。

 スケルトンはだいぶ数を減らしたと思うんだがな。


 (御主人!後ろから来てるよ!)

 「悪魔みたいな奴か・・・、面倒な」


 ディアの声に振り返ってみれば、黒い翼が生えた守護者が剣を構えながら隊列を組んでいた。

 まずはこいつ等を倒して制空権を得る!


 双剣から十手に持ち替え、悪魔の様な守護者の群れを迎え撃つ。

 数が多いので1体1体丁寧に処理できないのが難点だな。そして何より問題なのが、悪魔が単体でも強い事だ。


 フランメによってダメージを少なくし、ディアが死角を補う。

 それでも数の暴力の前にはかなわない。『神具の象徴アトリビュート』も合わせても処理が追い付かない。


 いや、いくらなんでも多すぎないか。既に100は余裕で倒している。


 「エバノ!倒した奴が復活してる!」


 地上からモワティエの声が聞こえる。

 どういう事だ。復活?

 まともに打ち合うのを諦め、叩き潰す様に十手を振るう。これで少し余裕が出来たか・・・。


 チラリと頭部が酷く陥没した悪魔の様子を覗いてみれば、アイツ等は再生をしているようだった。

 1度死んでしまえば『再生』は発動しない。ならアレはなんだ。俺が知らない技能の効果か?

 クソッ!検証なんてしてる時間なんて無いっていうのに!!


 1度復活した悪魔をもう1度殺す。

 2、3、4、・・・7! 7回だ!それ以上は復活しない!!


 ほったらかしにしていた地上もそろそろ抑えるのが限界だろう。増援を呼ぶしかないか。

 あー、行動が遅い。俺は何やってんだか。


 (今動ける守護者は来てくれ!危なくなったら直ぐに帰れよ!!)


 俺の声が守護者各位に伝わる。少し遅れてマントに描かれた方陣が輝き、守護者が姿を現す。

 最初に姿を見せたのはクローフィ。そして、アクルをはじめとした魔法職が続いて出て来る。


 「まずは女からだ!デバフに気を付けろよ!!」


 炎や水、雷と氷が地上に居る敵を薙ぎ払い、風が埃を飛ばす。土で簡易拠点を造って一旦間が空く。


 悪魔の剣を十手でへし折り、反対側で顔を突く。

 陥没したのを確認する間もなく次の悪魔が後ろから襲い掛かって来た。


 「クソがっ」


 反応できずに右の肩口を鎧越しに切られた。傷は無いが、しっかりと衝撃は伝わってくる。

 振り向きざまに薙ぎ払いをかけるも、後ろへと後退され、俺に隙が出来る。それを逃してくれる悪魔ではなく、3体が背後から切り付ける。さっきので攻撃が効かないと判断したのか、今度は『神憑り』で生えた翼を切られた。飛んでいるからフランメで覆えないのを狙われた形だ。


 不思議と痛みは無かったが、翼の制御が効かずに血を撒き散らしながら地上へと墜落していく。


 「なんとか制御を・・・・・・、ッ!こんのクソ悪魔がぁー!」


 下手な姿勢で着地しないように姿勢制御を試みるものの、そのどれもが悪魔によってことごとく邪魔されてしまう。

 悪魔の剣を弾くうちに随分と離されたか・・・?落ちた場所が分からないな。ただ1つだけ言えるのは、悪魔や白い男、青白い女に囲まれているという事。


 「・・・」


 まず最初に俺に向かって来たのは白い男。口を半開きにして走ってくる彼等に恐怖を覚えながら、十手から双剣に取り返る。

 気が付けば『象徴の神具(アトリビュート)』はいつの間にか消えていた。この状況では詠唱の時間すら与えてくれないだろう。


 「ハアァァァ――――!!」


 せめて見える範囲だけでも打ち取る!

 相手の攻撃を受け止めようともしないで、手当たり次第に剣を突き刺しては横に引きちぎっていく。これで少しは視界も広がるだろうと思っていたのだが、俺の思惑とは逆に視界は狭くなってしまった。

 何事かと目を動かせば、倒したはずの白い男が風船の様に膨らんでいた。それも1体や2体では無くて、俺が倒した者全てがそうなっている。風船は地面に固定されているのか、身体も満足に動かすことは出来ない。

 その間に女の呪詛の声が響き、更に、俺の身体をその場に縛り付ける。


 「フランメ!」


 俺自身が動けないので苦肉の策として指示を出す。フランメが指示を受けて身体をハリネズミの様に変化させ、風船を破壊。果たして風船の中から出てきたのは、白い皮膚を所々に残したスケルトン。

 こうなると十手の方がやりやすいんだがな。フランメの熱を耐えているディアには悪いが、俺を中心に範囲魔法を唱える。


 「『火炎竜巻フレイム・トルネード』、『金属片ピース・オブ・メタル』」(まだ耐えれるか!?)

 (御主人!これ以上は流石に無理だよ!)

 (・・・仕方ない、魔法が晴れたらフランメと一緒に離れるんだ)


 ディアの方から色々と言われるが、意図的に念話を切って魔法が晴れるのを待つ。ココで引かないと一緒に死んでしまうだろう。言う事を聞かないディアはフランメに任せて、俺と一緒に残ってもらうアイリードに念話を入れる。


 (すまないな。一緒に逃がしてやれればいいんだが)

 (父と共に死ねると言うのなら、それは私にとって本望です。どこまでもご一緒いたしましょう)


 ごめんな、でも、お前がフランメの熱に耐えられるかは分からないんだ。


 そして、ユックリと感傷に浸る時間も貰えないまま、無常にも炎の竜巻が姿を消した。

 これから向かうのは死地だ!行くぞ―――


 「今だ!フランメ、しっかりとディアを届けてくれよ!!」


 掌にアイリードを出し、静かに、しっかりと握り直す。鎧の役割をしていたフランメがディアを剥ぎ取り、人型に姿を変えて走り出す。


 軽くなった肩を抑えて気合を入れ直せば、再び俺のターンが始まる。

 MPはまだ余裕があるか。・・・最後なんだ盛大にやらせてもらうぞ。


 「『破魔の十矢アポロン』」


 眼前に現れるたのは、光を集めたかのような白い矢が10本。そのどれもが太く大きい。

 殆んどのMPを込めたんだ。これである程度は減ってくれよ・・・。


 言葉を発さなくとも意思1つで飛んでいく10の矢。限界など無いかのように勢いを衰えること無く各々が突き進み、敵を穿つ。

 この星に居る10の種族。そこから持って来て名付けられた矢は、どこまでも飛んでいく。


 「死ぬときは死ぬもんだ」


 矢を見送ってふと振り向いてみると、ガブリエナがフランメの傍に来ていた。

 あぁ、これで一先ずは安心かな?


 ・・・レイごめんな。別れが急すぎたよな。


 守護者閣員へ告げる。

 今すぐこの戦場から離脱すること。それからルーチェに報告もしといてくれ。このままだと分が悪いが何もしないよりかはマシだろう。


 「シュヴァルツヴァルトはこの戦場から身を引く」


 これでゲートも切れた。さて、死んで来るか。





 倒しても倒しても死なない守護者。流石は『不死者のダンジョン』ってか。洒落にならねぇよ。

 幾数の剣が皮膚を切り裂いて刺さっていくのを感じながら、俺の翼は散って行った。

 アドレナリンが出ているのか痛みは無く、ただ寒さだけを覚えていた。

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