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リタと赤いドラゴン  作者: スプリターン
1章
6/7

半エルフの女

静かに響いていた声が止むと、遠くで反響する「私は何も知らなかった‼︎」と叫ぶ先程の男の声が聞こえた。


「ラキュバス卿。何が言いたくて、あの者をここへ連れて来たのです。」

「薄々は感じておいでだったのでしょう?」

「ラキュバス卿、私に同じ事を2度言わせる気でいるのですか?」


相変わらず、ニタニタと嫌らしい顔つきのラキュバスにイザベラが震える声を隠す様に言い放った。


「そこにいらっしゃる、我が国の第一王子は国王陛下と女王陛下の実の子どもではありません。あの日、女王陛下が第一王子をご出産された日にこの国の王位継承者としてお産まれになったのは、姫君でございます。ですが、姫君は翌日を迎える事なくお亡くなりになられた。」


ラキュバスの発する言葉にイザベラはどんどんと顔色が悪くなってゆく。

それは、後方に立っているリタも同じだった。


「でたらめをっ⁈ あの日私が産んだのはリタです! 王子を産んだと、私は耳にしました⁈」


声を荒げ、椅子から立ち上がったイザベラは真っ青な顔でラキュバスを睨んだ。


「女王陛下は、あの夜から数日間熱にうなされ生死の境を彷徨っておられた。御生れになったお子を抱き上げたのは、意識を戻された翌日でございましょう。」


イザベラはその言葉に声を詰まらせた。

確かにあの夜、イザベラは赤子を見ていなかった。

出血も酷く、難産だった事が原因で数日間酷くうなされていた。

目が覚めた時、イザベラは出産から5日を迎えて漸く、子どもを抱き上げる事が出来たのだ。


「…お亡くなりになった姫君はその後城の地下深く…多くの歴代の国王が眠る場所に埋葬したと聞き及んでおります。そして、姫君が亡くなる事を予言していた者がオルタリアの西におりました。その者は、とあるお方にそれを伝えたのです。その者は白銀の美しい髪と緋色に輝く瞳を持つ…オルド・プラリード様にございました。」


イザベラも、そして謁見の間にいた誰もが息を飲み、凍り付いたようにラキュバスを凝視した。

リタは聞いた事のない名前に自分と同じ名があることに違和感と不安を感じた。


「そんな…私は、あの日……では、私は何を…リタはどうして…」


リタは何が起きているのか、真実とは一体なんの事なのか、戸惑いと不安で歪んだ視界にブツブツと背中を丸めて震える母を写した。

ゆっくりとリタの方を振り返ったイザベラの顔は、白を通り越えもう血の気の失せた土気色に変わっていた。


「わ、私は…リタの……リタは私の……そ、そう…しょ、証拠がっ! 証拠がないではありませんかっ⁈」


イザベラは、震える声で冷徹なラキュバスに食いかかった。

それは、振り絞った威嚇のような様だった。


「…女王陛下、あまりに酷い真実だとは分かっているのです。ですが、このオルタリアで最も王にしてはならない人間の血が混じっているであろう子どもを、世継ぎにしておく訳にはいかないのですよ? ですが、十数年間実の子と信じて育てたのですから、証拠が欲しいのも分かります……あなた様は女の子がお生まれになった時には、ペンダントを渡したいと、乳母に預けた様ですね。それも、希少なアオイライトの宝石で作ったものです。裏には、丁寧にあなたのサインまで彫っていたとか……その乳母はとうの昔に葬られていたわけですから、その者からの真実は聞き出せませんがね。」


ラキュバスはそこまで早口に言い切ると、懐からシルクで包まれた赤子の拳程の大きさの何かを取り出した。

その大きさに、イザベラは目をギョッと見開きパクパクと口を数回開けてから、ハッとした様に近くの臣下にそれを持ってくる様視線を送った。


臣下は、赤いクッションを敷いた盆の上にそれの重みを感じると、今この場で起きている出来事に恐怖し微かに手元を震わせていた。

だが、イザベラはそんな物の比ではなかった。もう、手が震えているのか、体全体が震えているのか分からない程にぶるぶるとせわしなく動く手元で目の前に現れた唯一の物的真実をゆっくりと露わにしていく。


紐を解くより遅く、ゆっくりとシルクを退けていく。

最初に見えたのは、くすんだ金色の細い鎖。

次に同じくくすんだ金色の留め金。

天井の窓から入る日光に照らされて、青く透き通った宝石は沢山の色を放って変わらずに輝いている。

最後のシルクを端をめくるまでもなかった。その宝石は、イザベラが王であるジョシュアから王妃となった日に初めて貰った品だった。


「それは、先日…真相を確かめるため元老院のパディッシュ様と地下に眠る王家の棺から発見したものです。中には赤子の骨とそれが入っていたのです。」


当初は、預けた乳母が宝石とともに姿をくらましたと耳にしていたが、もしラキュバスの言っていた事が本当なら乳母はあの時イザベラの願いを叶えた事になる。

これが、本当にイザベラのものであれば…の話だったが。


イザベラは、もう迷う事もなくスルリと最後のシルクを宝石から退けた。

現れた宝石は眩く輝き、手放した頃と変わらぬ存在を持ってそこに現れた。

目に溜まった涙を落とさな様、瞬きをしないままに、イザベラは宝石を手に取り裏返した。

くすんだ金色の台座にはしっかりとイザベラの名前と、『愛しい我が子へ』の文字が刻まれ、埃とチリを浴びて黒く浮かび上がっていた。


イザベラは前のめりに体を崩して、宝石を胸に抱いた。

丸めた背中が大きく震えているのを見て、リタが母親に手を伸ばした。


リタは確かに父親に似ている。

だが、瓜二つと言う程には似ていない。

そしてイザベラに似ている訳でもなかった。

リタの髪は、太陽を浴びて輝く白銀の毛色。

瞳は、ジョシュアより濃い緑。

ジョシュアの耳も人より少し尖っているが、リタのそれは国王よりも尖っている様に見える。

全て、ジョシュアには近いが、イザベラには遠い。


「で、では…リタは! リタは、誰の子だと、言うのです…」

「…国王陛下の弟君でありながら、反逆の罪で打ち首にあったオルド。そして、彼のメイドとして使えていた女の一人で半エルフのミシェルとの間に出来た子です。当時の従者は、あの女の事を良く覚えていましたよ。白金の髪の輝くグリーンの瞳を持つ女だったと…」


ラキュバスは冷めた刺さるような目付きをリタに向け、ゆっくりと言葉を投げると最後にほんの少し口角を上げてニタリと笑って見せた。


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