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イライラしがちな俺。

 ガタンゴトンッガタンゴトンッ



 何時もと何一つ変わらない電車の中。

 席に座りながら俯き、何も考えず、イヤホンから流れてくる音楽に只々集中する。

 そんないつも通りの、登校時間だ。


 俺の周囲からは、別のクラスにいる奴らの傍迷惑な世間話が聴こえてくる。

 全く、電車の中だってのに。礼儀を知らんのかこいつらは。

 少しは静かにしたらどうなんだ。


 「なぁ聞いたか?昨日学校の裏の森ん中で、()()()がついに出たらしいぜ?」

 「出たって…何がだよ。」

 「そりゃお前決まってんだろ、『ビッグフット』だよ!前から出るって噂されてたろ?」

 「あぁあれか!え、マジで出たの?」

 「間違いねぇ、陸上部の奴からランニング中に見たってLINE(ライン)があったんだよ!」

 「うーんでもさ、写真とか無いと信用できなくね?」

 「写真なんか無くたっていいだろ!これで俺は確信したぜ、学校の裏には絶対『ビッグフット』が棲んでんだ!」

 

 そんな会話が、イヤホン越しに耳に入ってくる。

 あぁうるさい。早くこの電車から俺を降りさせてくれ。

 何が「ビッグフット」だ。そんなの本当にいたらとっくに捕獲されて剥製にされてるだろ。

 それにここ日本だぞ。「ビッグフット」って外国に出てくる奴じゃないのか。

 そもそも学校の裏って…。



 と、心の中で愚痴を吐いている内にようやく目的の駅に着いた。

 さぁ、早く学校に向かおう。


 いつも通りの、学校が始まる。



 * * * * *



 「おはようっ須崎!」

 「…あぁ、おはよう。」

 「おはよう、須崎君!」

 「…おはよう。」


 学校に向けて歩いている途中で、何人かの奴に挨拶されながら追い越された。

 皆朝から元気だな。こっちはそんな早歩きする気にもなれん。

 そんな、無性にイライラしながら悠々と学校に向かっている俺。


 俺の名前は「須崎征輝(すざきゆきてる)」。16才。高2。

 ちょっと人よりストレスを抱え込みがちな、何処にでも居るごく普通の高校生――を目指している。

 髪は短くて黒く、瞳は焦げ茶色。背丈も約170cmと一般的なステータス。

 特に差障って何か特徴があるわけでもない、普通の学生だ。

 

 俺の「手」に宿る面倒な「力」がある以外、は。


 別にこの「力」があるからと言って何も当り障りないし、この力を周りに言いふらし自慢するつもりもない。

 そもそもそんな自慢できるほど「チート」染みた力でもないし。

 どちらかと言うと、今すぐにでも()()()()ような邪魔な能力だし。

 使い方と状況次第では便利な能力でもあるが…。

 でもやはり、高校生活を送っていく上では非常に厄介だ。

 何とか制御できない物か…。


 と、物事を考えていた矢先。


 

 「――うわぁ!危ないっ!」


 俺がボーっとしながら歩き、小さな十字路に差し掛かった時。

 横から、操縦不能になったであろう自転車が俺に向かって突進してきた。

 きっと何処かの段差を降りた時の衝撃で、勢い余って体勢を崩したのだろう。

 今の距離から考えて、これは避けられそうにない。

 

 「――はぁ…。」


 俺はやれやれと言う感じで、仕方なく。

 自分の「手」を、首に持っていった。




 ――ガシャン!!!


 そしてその自転車が俺の身体に思い切りぶつかり。

 自転車を漕いでいた人諸共、地面にバタリと倒れてしまった。


 「いててて、だ、大丈夫ですか!?お怪我はありませんか!?」

 「……俺は別に。貴方こそ怪我ないですか。」

 「は、はい、大丈夫です…。」

 「…そうですか、では。」


 と、俺にぶつかって来た人を若干冷たくあしらって、その場を速やかに立ち去った。

 今のは俺は悪くない。ぶつかって来た方が悪い。

 全く、朝から機嫌の悪くなるようなことばかりだ。

 今日は厄日かな。

 そんな事を考えつつ、イライラしながら足速に学校へと向かった。



 ちなみに、今の接触事故。

 俺は全くもって「無傷」だ。

 制服のズボンに自転車のタイヤ痕が付いた以外、外傷はない。

 痛みも全く感じなかった。


 それも当然の事。

 先の瞬間、俺は「絶対に傷つかない体」になっていたから。


 そう、これこそが。

 俺の「手」に宿る、面倒な「力」の正体だ。



 * * * * *



 「きり~つ。れい。ちゃくせ~き。」


 腑抜けた挨拶と共に、一時限目が始まった。

 いつも通りの朝を迎えるはずが…なんでこうイライラせねばならんのだ。

 全く持って不愉快だ。このままじゃ近いうちにイライラでハゲてしまう。

 そのイライラも全てこの「手」のせいだ。


 あぁ、黒板にもうあんなに文字が並んでいる。早く写さないと。

 俺は苛立ちながらも、懸命に黒板の文字をノートに書き写していく。

 と思ったが、苛立ちのせいで早速書き間違えてしまった。


 「……はぁ。」


 小さくため息をつきながら、仕方なく間違えた文字に「斜線」を引いた。

 「消しゴム」では、消さない。

 いや…消せないから。


 今の俺には、こうする以外に間違いを訂正する方法がないのだ。

 何せ「普通の消しゴム」が俺には使()()()()からだ。

 それもこれも全部、俺の「手」が原因。



 「絶対的現状維持能力(レギュレート)」。



 俺は「手」に宿るこの面倒な「力」を、そう呼んでいる。

 

 簡単にこの「力」の事を説明すると。

 俺が何かに「手」で触れている間は、その触れている物体はいかなる「圧力」や「温度変化」によって、その現在の形状や性質が一切変化しなくなる、と言う能力だ。

 要は俺が「手」で触れている物は、絶対()()()()()()。と俺は解釈している。


 登校中に自転車に追突されたが、あの時俺は「首」に触れていた。

 あの瞬間だけ、俺は「絶対に怪我しない体」になっていたのだ。

 もし自転車でなく、車に追突されていたとしても俺はきっと無傷で生還しただろう。

 そんな、ある意味便利な能力でもある。


 だがこの能力は、日常生活を生きていく上では致命的な能力なのだ。

 先の通り、俺は「普通の消しゴム」が使えない。直接手に持って使うような消しゴムが俺には使用できないのだ。

 なぜなら、俺が手に持った消しゴムは俺の「手」によって「絶対に擦り減らなくなる」からだ。

 いくら間違えた箇所に消しゴムを押し当てても、消しカスは出ないわ文字が霞むわで全く効果なし。

 消しゴムの表面が黒く艶やかになるだけで終わるのだ。


 そう、これも「絶対的現状維持能力(レギュレート)」のせい。


 手に持った消しゴムが「現状を維持」しようと「摩擦」を無視しカスを出さなくなる為、黒鉛を剥がし取る本来の役割を放棄し只の「擦り減らない白いゴムの塊」に成り下がってしまうのだ。

 その為、俺が文字を消すためには「ホルダー式消しゴム」のような、直接消しゴムには触れない物を使用する他ない。

 「ホルダー式消しゴム」なら、俺の「手」の力が消しゴム周囲の「外郭」にのみ発動し、消しゴム本体には力が働かない為何苦渋なく使用できる。

 今日の今朝までは、俺もそれを持っていた。のだが……。


 その肝心の「ホルダー式消しゴム」君が今朝未明、俺の姉の手によって()()されてしまったのだ。

 本人に動機はなく、「力加減を誤った、ゴメンね征輝♡」との供述を示していた。

 くそが、あれが無いと俺は文字を消せないのに…!

 姉め、家に帰ったら只じゃ置かない。


 ちなみにこの「ホルダー式理論」は「シャーペン」でも同じ原理が通用するらしく、黒鉛の「芯」にまでは力が働かないので「シャーペン」なら自由に文字を書くことが出来る。

 「えんぴつ」の場合はアウトで、やはり一切文字を書くことが出来ない。

 

 とまぁ、複雑な「能力」が俺の手には宿っている訳だ。

 ちなみにこの「力」の制御方法は解らない。常に俺の手に発動し続けているようだ。

 そのため、日常の至る所でこの能力が邪魔になってくる。


 たとえば――。



 * * * * *



 「なぁ須崎、購買いこうぜ~。」

 「…パス。」

 「あぁ?なんだよツレナイなぁ。」

 「悪いな。俺は弁当あるからいいんだ。」

 「そう言わずに行こうぜ~なぁ~。」

 「……はぁ。解った行くよ。その代わり俺は何も買わねぇからな。」


 昼休み。

 購買に向かって昼食を買いに行く生徒が目立つ、何とも騒がしい時間帯だ。

 今友人にも誘われた、その購買と言う場所。

 安価な飲み物やパンを売ってくれる、高校生の憩いの場だろう。

 だがそこは、俺にとっては全く無意味な場所だ。


 まず、「パン」。

 俺はパンが食えない。

 勿論嫌いだからと言う意味ではない。俺にとっては、食すのが非常に難しい食べ物だからだ。

 そう、俺の「絶対的現状維持能力(レギュレート)」は食事の邪魔すらしてくるのだ。

 

 「手」に触れている物の「形状」を絶対維持するこの能力は、「パン」等の食べ物の「形状」すらも当然維持してしまう。

 つまり、俺が手に持った「パン」はその瞬間から「絶対に()()()()()()パン」に成ってしまうのだ。

 そんな状態の「パン」を口に運んでみようものなら…想像を絶する痛々しい運命が俺の「歯」に訪れるだろう。

 俺が幼少期の頃に、それが原因で「乳歯」をほぼ全て失う破目になったのは今でも記憶に新しい。

 なので、俺がこの購買で売っている「パン」を食すには、不恰好だが「箸」で摘んで食べるしかない。

 「ホルダー式理論」と同じで、「箸」等を経由して食事する場合には至って差支えなく食事を取る事が出来る。

 だがそんな面倒な事をしてまでパンを食べようとは当然思わないし、あえてそんな事にチャレンジする必要もない。

 つまりこの購買に俺が足を運ぶ必要はほぼ無いのだが…。

 

 「須崎、お前マジで何にも買わねぇの?」

 「あぁ。」

 「飲み物もか?」

 「あぁ。水筒持ってきてるしな。」

 「へぇ~。」


 まぁ友達の(よしみ)だ。付き合ってやるしかない。

 俺としては早く教室に戻って弁当にありつきたい所だが。


 と、若干イライラしながら友人の帰りを待っていると。



 「ねぇティーたん、何買う?」

 「う~ん…そうだな~どうしよかな~。」


 俺が同級生の中で一番()()()()()女子が購買にやって来た。

 あぁ全く、声を聴くだけでもイライラしてしまいそうだ。


 あいつの名前は「茶藤(さとう)ひばり」。

 世間手でいう「ゆるふわ系女子」だ。友人からは「ひばりさん」「ティーたん」と呼ばれているらしい。

 なぜ「ティーたん」と呼ばれているかは知らない。きっと名前の「茶」から取ったんだろう。


 黒い艶やかな長髪に明るい茶色の瞳が特徴で、いつも舌足らずな口調振りで性格に芯がなく、話しかければ必ず笑顔で返事するような、誰とでも気兼ねなく話せる社交的な性格と言っていいだろう。

 交友関係も幅広い人気者で、男子受けもいい。男の中には彼女の「ファンクラブ」なるものを設立する馬鹿もいるらしい。

 そんな絶大な人気を誇る彼女だが。

 俺は知っている。ああいうタイプの女子には絶対「裏」があるんだ。きっとあのふわふわした性格も実は演技で、誰からも好かれる存在になるために業と「ゆるふわ系女子」を装っているに違いない。

 俺はそう言うタイプの人間が大嫌いだ。見ているだけでも腹が立つ。

 ああいう奴にはなるべく関わらない方が無難だろう。


 などと考えながら、その茶藤ひばりを遠くから睨みつけていると。

 その視線を察知したのか、奴がくるりと俺の方に向き直って。

 まるでお嬢様かの如く、にこにこと笑いながらお上品にも小さく手を振って来た。


 あぁ?何のつもりだ。俺を挑発してるのか。

 ふん。お前と取り合うくらいなら何も無い廊下を眺めている方がよっぽどマシだ。

 俺は彼女と目が合うや否や、フンっとそっぽを向いた。

 手を振るなら他の男子に振ってやれ。大変喜ぶだろうよ。


 「おう須崎、待たせたな!」

 「…あぁやっと帰ったか。よし、教室に帰るぞ。」

 「……お、おいどうした、何か機嫌悪くないか?」

 「気のせいだ。さぁ行くぞ。」

 「まさか…俺に気を立てたんじゃないよな?」

 「安心しろ。少し待ったくらいで気が立つほど俺は短気じゃない。」

 「だよな!あぁ良かった!」

 「……。」

 

 と言っても、イライラしているのは事実だ。

 すまんな。イライラを溜め込みやすいタイプなんだ。

 それに、「嫌な奴」と目が合ってしまったせいで尚更腹が立っている。

 やはり今日は厄日だな。


 俺は胸に重い怒りを溜め込んだまま、ずかずかと教室に戻った。

 さぁ昼飯だ。さっさと食べてさっさと授業をすませてさっさと帰ろう。


 イライラする日は、そそくさと家に帰るのが一番だ。

 いつも通り、何もせずに、何も考えずに帰る。

 

 それが、俺の日常だ。

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