95.帰還
ただいま一の郭の宿屋で一風呂浴びたところ。
迷宮から出るとちょうど日が昇り始めたところだった。
部屋を取るとそのまま食堂で食事をすませ、現在に至る。泊まる必要はないのだが、風呂を使うためには宿を取るしかない。『浄化』はかけているので気分的な問題だが。
ガラハドに風呂上がりのビールをねだられ、部屋で酒盛りが始まっている。
私に手伝ってもらった礼だと言われて、また道中で出た属性石や、宝石の類をもらった。素材全部やると言われたのだがそれは辞退した。雫は私に出た分と合わせて三つでたが、予備も含めて二つで十分とのことでそのまま一つは私のものに。
「男のこともあるし、雫の受け渡しに妨害があるかもしれないから、一応ことが無事に済むまでは売らないでおいてくれると助かる」
「了解」
「ホムラが持ってりゃ安全そうだしな」
「万が一、あの短時間であの男が誰かに情報を送っていたとしても仮面を取ってしまえば追えなくなるしね」
そういうことである。
そしてファル・ファーシのレアドロップ『幻想の種』も練金系じゃね? というガラハドから貰って二つになった。種というからには植えてみたいのだが、あいにく植えられる場所を持っていない。早く家を持ちたい気もするが、もう少し場所を見て回りたい。クランハウスが先になるかな?
「結局あの男はなんだったんだ?」
「オレら絡みなのは間違いねぇな」
「あれは下っ端な気がするし、国に戻ったら少し調べてみるよ」
「そういえばホムラはよくあれを見て平気だったわね?」
「ああ……、まあ遠かったし。敵みたいだったしな」
ゲーム思考と完全に切り替わっていたのかグロいな〜程度の感想でむしろ食い終えた後の無表情なファル・ファーシが笑って見えたところのほうが印象深かった。これが親しくしている住人だったら違ったのだろうが。たぶん。
「いやあ、誘った時は適正レベルより20レベル以上違うとこだしホムラもオレたちもかなりキツイことになる覚悟してたのに、予想外だったわ」
ニコニコとビールを飲むガラハド。
「ホムラの状態異常耐性尋常じゃなかったわね〜」
「装備やらでMIDがそのレベルで見かける聖法使いくらいに上がってる上、【ヴェルナの守り】やら耐性アップもあるから異常耐性に限れば、あの場所の"聖法使い"の適正レベルに届いている気がするな」
「耐性系スキル持ってないんだが」
0に0%かけても0じゃないのか?
「スキルほどじゃないけどMIDの高さで耐性系は底上げされるわよ」
「それにしても道中サキュバス出なくて本当に良かった」
床にあぐらをかいてビールをあおるガラハド。
「ああ、将来高レベルがどうとか言ってた気がするが、先の階層じゃなくて道中に出るのか?」
「31から39階層彷徨ってんだよ。フィールドボスみたいなもんだな」
「普通は滅多に遭わないのよ? 遭わないんだけれどもホムラの称号を見て、実際立て続けにレアボスに当たったら不安でいっぱいになったわ」
「ホムラが『魅了』にかかったら大惨事だからな」
「薬で治るんじゃないのか?」
「サキュバスの使う『魅了』は二種類あって、かかるとサキュバス側について味方を攻撃してくるタイプと見境なく襲ってくるタイプがあるのよ。……後者は攻撃じゃなくてね」
女淫魔からしてHな方面か。男淫魔もいるのかね。
「普通は男どもしか魅了されねーし、カミラが薬をばらまいて正気に戻ったとこ逃げればいいんだが。もともと気まぐれでこっちが攻撃いれなけりゃ『魅了』をかけるだけかけて去ってくこともあるような魔物だし。ただホムラがかかって襲ってきたら色々こう、回避ができない大惨事になりそうでな……」
【房中術】さんのことか!
「とりあえずホムラは、私たちの心の安寧のために機会があれば【魅了耐性】取得をお願いする。【混乱耐性】のほうはまあ混乱からくるスキル乱射で例のスキルが発動する確率は低めだと思うが……」
【房中術】さんのことですね!
はっきり言われないが、【房中術】がかなりトラウマになっている様子。
やっといてなんだが、私の耐性が100%というか魅了無効にならんと安心できない気配が漂っている。
「スキルリストには上がってきてるんだが、スキルポイント使用してここで【魅了耐性】とるのと、【魔法陣製作】とって、さっさと憑依防止アイテム作るのとどっちがいい?」
「「…………【魔法陣製作】で」」
男どもがすごい苦渋の決断みたいな顔して【魔法陣製作】を押してきた。
「実際ファル・ファーシで状態異常起こさないんだから、冷静に確率考えたらそうよね」
カミラは二人より冷静だ。
まあ、魔法陣はおまけで憑依よけだけなら練金で作ったまま宝飾でアクセサリーに仕立てればいいんだが、言わないでおこう。
【魔法陣製作】って見本の魔法陣の本がないとダメだろうか。
「そういえばホムラ、その仮面なんだけど、"仮面を被った状態で自分から名乗る"・"着脱を見せる"の二つをしなければ平気よ。私たちが"ホムラ"と呼んでもたぶん周りには"貴方"とか"貴様"とか、レンガードを名乗ったりしてそう認識のある相手には"レンガード"と勝手に変換されるはずよ」
「おや、便利」
「神器だし」
パンツ神、さすが私が必要なものをくれると言っただけある。痒いところに手が届いている!!
雫を依頼元に届けた後また三、四日したら憑依防止のアイテムを渡すために会うことを約束し、ガラハド達と別れた。
切っていたクラン会話をオンにする。
ホムラ:やあやあ?
菊 姫:おそいでし!!!!
レ オ:わはははははは
シ ン:疲れた!
お茶漬:死んだ!
ホムラ:何をした何を。
シ ン:レオについて行ったらトレインしまくって、どうしようもなくなったところでバロンのエリアボスに会って一か八か飛び込んだら死亡。
お茶漬:ひどかった。
ホムラ:レオの道案内とか勇気あるな。
菊 姫:お薬売って欲しいでし!
シ ン:俺も俺も!
お茶漬:僕も同じく
レ オ:同じく!!
ホムラ:材料よこせ。もしくは店買い。
お茶漬:OK、OK
レ オ:金がねぇ!!!
菊 姫:なんでそんなに貧乏なんでし!
シ ン:なんでだろうなあ(遠い目
お茶漬:ジアース以外の国に委託販売端末ついたはず。せめてそこで買ってあげて?
シ ン:マジで!?
ホムラ:どこだ?
お茶漬:生産所だったかな?
ボスやるのに邪魔で自分のこと以外のワールドアナウンス、途中でメニューの確認のみに設定変えたんだった。攻略に出かける時に切って終わると戻すのだが時々戻し忘れる。
生産系の称号アナウンスはもともとメニュー確認のみにしてたんだが、この間確認した時エリアスがなんか獲得してたな。
生産の称号は主に特定の生産依頼を初達成するともらえるらしく、依頼は多種多彩。もらえる称号もほぼ名前だけのものから効果の大きいものまで色々だ。小さな称号を積んで住人の中で有名になると指名依頼でわりと大きな称号を貰えたりもするそうだ。
そのせいか、称号は【趣味の工作】から【駆け出し職人】に変わったりと、出世魚のように変化してゆくものも多いと聞く。
まあ、暇な時にアナウンス関連は流し見しよう。
二の郭にある生産所で一時間後、私が生産を終えたころ合流することになって移動する。他のメンツは寝るには少し早いが死亡ペナルティで生産も戦闘も難しいので街中で済むお使いクエストなどをやっているようだ。
生産所に着くと委託端末の場所を聞き、HP・MPの各回復薬、活性薬の材料を購入してゆく。
ホムラ:今更だがHP・MPの各回復薬と活性薬でいいんだよな?
菊 姫:OKでし。
シ ン:あ、毒消しも頼む
レ オ:オレもオレも
お茶漬:僕、転移石も十個お願い。属性石、後渡しでいい?
ホムラ:いいぞそれにしても何で店売り価格より、高く売ってるんだろう
お茶漬:NPCの店で売ってる相場を知らない人を引っ掛けるトラップ。
レ オ:倉庫がゴミでいっぱいで入らないんで相場より高く置いて倉庫代わり。
シ ン:微妙に高く置いとくと小金が手にはいる。
菊 姫:せこいでし!!!
ゴミをため込むなよ。
と、言いたいところだが私も色々放り込んだままだ。ストレージの魔法便利です。
薬草などは住人の店より安いものを購入、ついでに属性石の安めのものと、ヤグヤックル産の器用さの指輪がまた結構出ているので高すぎるのを残して片っ端から購入。これ、あれか、魔法陣+治癒士系の付与でできるんだろうか。宝石の相性もありそうだな。
高品質な薬草なども売りに出されていたので高いのか安いのかわからんままに幾つか購入。そろそろ回復薬も回復量を上げておきたいところ。できるのは高回復薬とかだろうか。
無属性石の販売を見つけて私以外も作れるんだな〜とちょっと前に思っていたのだが、今はすでに一定時間ステータス強化用の力の石やら体力の石、攻撃用のファイアニードルの石やらが委託販売に並んでいる。無属性石は汎用性が高い、多種多彩だ。
ただ攻撃魔法に関してはレベル10までの石しかないようで、調べてみると11以上の魔法は宝石に込めてあった。
紅水晶とルビーにレベル20のファイアソードが込められたものが販売されていた。素材のランク的に紅水晶<ルビーなので素材ランクが上がるほど色々込められるようになったり、その宝石に対してレベルの低い魔法なら込めやすいなどがあるのだろう。
販売されているものを見ていると宝石の色によって込められる魔法の種類が違う傾向もわかる。
色々増えていて楽しい。惜しむらくは無属性石がまだ高いため、無属性石を使ったものは必然的にすべて高い。無属性石の材料に闇と光の属性石使うのがネック。練金レベルが上がって六つの素材を合成できるようになれば火風土金水木を合成してもできそうなのだがまだそこに至るまではかかりそうだ。
幻想ルートでは各属性石が落ちるし、闇と光の属性石も手に入りやすい。攻略が進むのが先か生産職が頑張るのが先か、どちらにしろそのうち供給が足りて値も落ち着くだろう。
調薬の生産施設を一時間借りて、せっせと生産。
新しいものを作るわけでもない依頼品はすぐに終了。
そして予想通りの『高HP回復薬』。とりあえず半分をさらに高生命活性薬へ変える。
高品質な薬草2に水2で高HP回復薬。
高HP回復薬4本と血清で高生命活性薬。生命活性薬の時より必要本数がそっと1本増えた。
MPの方は材料なんだろう? "高品質ななんとか"だと思うのだがそれらしいものがない。
まあ、MP活性薬だけで十分な現在なのだが。
あれ、私はもしや転移でジアースに戻って、自分の店舗行った方が生産設備揃ってる? 転移で移動すれば時間もかからなかったような。
二の郭の生産所で待ち合わせをし、生産を始めて中途半端に時間を使った今からでは遅いが。
 




