92.ふたたび休憩
「スキル石が出ねぇ!」
ガラハドが叫ぶ。
戦闘は滞りなく済んだが、目当てのものが出なかった。
「一人につき『良き標のペンダント』って、一度だけ出るレアのようだな……」
「妖精の丘やエルフの森などの迷いの呪いのかかったエリアの標となるって。これ、なんか聞いたことがあるんだけど」
「ゲイネス侯爵家の家宝じゃね?」
「"良き"がつくのは、エリア内で採取採掘場所を指し示すおまけの部分かな」
「家宝超えちゃったの、そう」
視線を横に流すカミラ。
「そんなエリアがあるんだな」
「エルフの迷いの森は有名よ」
杖のための良い木材が採れ、薬の材料も豊富なため迷いの森に入るものが後を絶たないらしいが、欲を出して外が見える範囲よりエルフの許可無く分け入ると戻ってこられるのは奇跡に近いらしい。
隣の大陸だそうなので行動の範囲外である。
「と、いうか、三つ目のレアなんじゃね、コレ」
「それとも状態異常耐性のスキル石が実は一つのレアとして扱われてるかだな」
「あんまし情報ねぇ中で判断されてっからなぁ。ホムラすまん!」
「いや、私は前にも言った通り道中の属性石で満足してる」
ソロ討伐報酬も目白押しだし、一体何の不満があるというのか。
なのに三人から道中ででた属性石全部もらってしまった。あと妖精の胡椒と唐辛子。どう考えても多いので今回出た以外のものも渡されている気がする。
「ところで、ボス戦の最中に白を喚び出し可能になったみたいなんだが、喚べなかったのは不可抗力って証言をお願いします……」
「ぶっ!」
「初めて見るボスで余裕がなかった、で、白は信じるかな?」
「余裕そうに見えたものね〜、ふふ」
「いやいや、これから休憩だし、次に喚んだほうが長くいられるし」
掛け合いをしながら転移部屋に移動する。
予定よりも大分早く35層についてしまったがここで野営する予定は変わらず。
なにせ30層のボスはバハムートのおかげでほぼ出会い頭で決着がついてしまったし、31層から状態異常の連続で精神的に疲れるはずが、あっさり通過な上に、精神的疲れも神聖魔法の回復でHPの回復とともに霧散してしまうのだ。
昼夜の感覚がないので、しっかり睡眠をとってたっぷり休んだら出発の予定だ。
そういうわけでまずは食事。
食前酒にこれくらいならいいだろうと小さなグラスで白ワイン。
皮をパリッと身はふっくらな虎鱒の香草焼き。
ロイたちと一緒に行ったアライアンス推奨ダンジョンで拾ったキノコを使ったベーコンとキノコのクリームパスタ。肉好き向けにベーコンは多めに、ルシャからもらった塩のおかげでベーコンや魚の塩焼きとかしょっぱいものは特に美味しくできるしな!
メインがクリームパスタなのでスープはあっさりと玉ねぎのコンソメスープ。
いろいろなベビーリーフを混ぜて、ニンニクを効かせたとろりとしたドレッシングにクルトンをたっぷり散らしたサラダ。
「パスタおいしい〜シアワセ」
「オレ、普段肉の方が好きなんだけど、この魚塩加減が絶妙だな!うまい!」
「川魚ならともかく、海の魚は大抵塩漬けか乾燥させたやつしか食べる機会がないしな。ここで食べられるとは思わなかった」
「ガラハド、もったいないけど手をつける前に魚は半分持ってって。食べきれないわ」
「餌付けか餌付けなのか」
「称号持ちなのを知っている上で抗えない」
「ホムラに胃袋つかまれちゃったわ〜」
好評なようで何より。
だが塩に頼りすぎないようにしないといかんな、入れ過ぎ注意だ。
料理の反省点を心に書き留める。
コンソメには『妖精の胡椒』を早速ふってみたがどうだろう? うん、胡椒のかすかな刺激のおかげで、ぼんやりした味じゃなくちゃんと優しい味に引き立ってる。
妖精の『胡椒』も『唐辛子』も、"妖精が悪戯に使う、でも味は保証付"という説明がついていた。
この世界には人間の生活範囲に住んでいる妖精や、人にフレンドリーな妖精もいる。寝ている間に仕事を手伝ってくれたりといいやつっぽいところもあるが、基本いたずら好きで無邪気に何かやらかしてくれるのが妖精というものに対する認識だそうな。
「そう言えば、フェル・ファーシの雫だったかってダウン報酬と言っていなかったか? ダウンさせても出ないことなんてあるのか?」
と疑問に思っていたことを聞く。
「ダメージを与えるだけで普通にダウンしてくれる敵は普通にくれるんだが、なんか手順がいるやつはランダムだな」
「魔物のある部位を攻撃しないでダウンさせる、とか。決まった手順に従って攻撃するとか。ボス以外の敵にも時々あるね」
「レアほど出にくいってほどじゃないはずなんだけれど、今回ちょっとおかしなくらい出ないのよね」
「ギルドにある記録が間違っているのも考慮して、調べ直しもしたんだがどうもな」
「いろいろ知らないことが多いな」
「ホムラはまず、普通を知った方がいいと思うぞ」
「ズレてるわよね」
「ステータスも呼び出せる獣も装備も見せてもらったけど、獣の名前といい、邪神のことといい、まだなんかありそうでオチつかねぇ」
「大丈夫だ、たぶん。ああでも一つ聞きたかったんだが、八柱の神々に連なる神に会ったという話をよく聞くんだが、結構会うものなのか? 一度も会ったことがないんだが」
「与える神々の相性なのか、もらう本人の資質なのか、例えばタシャの祝福持ちはアシャの祝福を受けられないって説明したわね」
「聞いた気がするな」
「主なる神々の祝福持ちに眷属たる下位の神々が祝福なんて渡せるわけないだろ」
「下位の神々の祝福持ちに上位の神々が祝福を与える話は聞くが」
「え、では私は石畳の神に会えないのか?!」
「「「なぜ石畳!?」」」
夜は紅茶とコーヒーを飲みながらカミラに魔法の基本的考え方の講義を受けた。
紅茶:私・イーグル、コーヒー:ガラハド・カミラ。イーグルはどちらでもいいようで私に付き合ってくれている感がある。ガラハドは酒! がないならまあコーヒーとのこと。カミラはコーヒー。
魔法には物質界に影響を与えるものとエーテル界と呼ばれるところに影響を与えるものと二種類あるそうで。見えないけれどエーテル界は物質界とほぼぴったり重なっているらしい。
魔法はエーテル界での事象が物質界に見えているだけで、生活魔法の『着火』など種類によっては物質界に影響を与える種類もあるにはあるが、基本敵のエーテル体へのダメージを与えているそうな。なのでファイアボールの魔法を放っても、強い意志で物質界への干渉を望まない限り普通地面が焦げたり木が焼けたりしないそうだ。
逆に物理攻撃は物質界での事象、エーテル体、肉体どちらが傷ついてもダメージを負うが、どちらかが頑健だったり、存在そのものがどちらかに偏っていて、もともと少ない側に攻撃を受けてもたいしたダメージにならない。
ウィルオウィスプはほぼエーテル界の存在なので物理攻撃が効かない、ルバが作ったようにエーテル界にも干渉する素材を使用した武器などで攻撃するなら別だが。
あと、星幽体というエーテルと肉体を繋ぐものがあるそうで、基本ここに感情だの記憶などがあるらしい。
白はエーテル体が弱っていて、バハムートは肉体が弱っているというのがちょっとだけ腑に落ちる。
一応、そんな設定なんだなこの世界などと思いつつどこで話に影響がでてくるかわからんので真面目に聞くワタクシ。カミラもそう言われているだけで正しいかはわかっていないと言っておったし。
なにせ露店で買ったサンドイッチの包み紙とか普通に消える世界なんだ、覚えていることに意味はあるだろうが、深く考える必要はないだろう。フィーリングで生きてゆくほうが幸せそうだ。
「くつろぐ用に絨毯とクッションを仕入れるかな」
「いやいや?」
「ダンジョンでこれ以上くつろぐ気なの?」
「どこまで快適にする気だ」
【超克の迷宮討伐者】は"超克"部分で『高揚』がパーティーにつくおまけがあって、本来の効果は”迷宮内のレアドロップ率上昇”だった。
ブラックヒドラからの称号【漆黒の探索者】。
効果は迷宮内の隠し扉・宝箱・階段の位置がわかること。具体的に言うとマッピングされていない黒一色の地図に階段マークや光点が表示されている。迷路状になっていることが多い為、場所がわかっても壁に阻まれすぐにそこにつけるわけではないが大変便利だ。
このおかげで35層の分岐階段はすぐに見つかった。ちなみに分岐は五つ。"漆黒"の部分は隠し扉の部分にかかるんだろうか。
『復活の宝珠』は珍しく消耗品でアライアンスを含めパーティーメンバー全員をフルステータスで復活させられる。
妖精から手に入れた【惑わぬ者】は『標のペンダント』と似たような効果。ただエーテル体でも安心!とか書いてあるのでそのうち幽体離脱ステージとかあるのかと不安にさせられた罠。
その場合装備は持って行けるのだろうか……。神々からもらった装備は大丈夫そうな気がすると考えたところで、その場合コートを着た下半身が裸というね、むしろ素っ裸のほうがマシな気がすることに気がついた。
『妖精の手袋』は器用さと知力を上げる練金向けの装備だった。活用できそうな物で何より。でも今はズボンが欲しい。
胡椒と唐辛子は欲しいので周回したいところだが、ソロの場合、外周にいる犬への攻撃はどうするべきか。真ん中に陣取って妖精と戦いつつ、吠え始めたら魔法が届く位置まで移動して、で大丈夫かな?妖精たちから同時に攻撃を受けることになるが。
ほぼ状態異常と魔法が主体のボスと道中なのでソロでもなんとかなる気がしてきている私がいる。
あ、状態異常で思い出した。
『鉱物好物の腕輪』の採取版を期待して耐性が取れたらトレントだったか、フィールドボスを探そうと思っていたんだった。
メニューから討伐履歴を見るとすでにフォスのグロートレントのソロ討伐はされていた。
ジアースのフィールドボスのソロ討伐がアキラ君で埋まってるんだがソロなのかパーシバル達を連れているのか。
まあ、仕方ない。忘れてたし。
効果が継続HP回復の『生命の蕾』もソロの時とパーティーの時とどっちのアクセサリーに組み込むかも決めずに放置している。他にもいろいろ放置しているのをなんとかしたいところ。
さて一旦ログアウト。
現実時間の経過はそれほどでもないようだがこれはガラハド達といるせいでイベント中扱いなのか迷宮の特性なのか微妙なところ。
住人と一緒に行動している時にログアウト時間が来ても困るので助かるが。




