90.獣の話
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何があったんだろうと思いつつ拙い話に評価ブックマークありがとうございます。
バハムートは小さくともバハムートだということが分かった。
漆黒のヒドラさんは胸に大穴開けられてそのまま光の粒に。さらばレアボス!
バハムートはご機嫌で戻ってきて、どうだ! というように完全に固まっている三人の前でダラダラと垂れる血をそのままにふんぞり返っている。
「ああ、せっかく磨いたのにまた血まみれに……」
「「「そこか!?」」」
三人に突っ込まれる。
「ああ、すまん。スプラッタだな」
『浄化』をかける。いや、だからそこなのかよ、などと聞こえてくるがデカイままのバハムートと対峙したことのある身としては落ち着いて考えれば特に意外な結果でもない。
「あっ、お前、また傷が開いてるだろうが! ただでさえ泥水だらけなところなのに」
本竜はご機嫌だが、やはり本調子ではなかった様子。
またもMPが無くなるまで回復をかけ、さらにMP回復薬を飲んでかけ。だがしかし焼け石に水。
「お前が強いのは分かってるから、傷がちゃんとふさがるまでおとなしくしていろ」
『蒼月の露』に強制送還、今度は素直に帰還した。
「ホムラ」
バハムートがおとなしく『蒼月の露』に入ったところでガシッと肩に腕をかけてくるガラハド。
「はい?」
「ちょーっと、もうちょっとお話し合いしようかぁ〜?」
ああ、他の二人もいい笑顔。転移の登録をしがてら安全地帯に連れ込まれる私。
「で? あの小さな竜はあのバハムートなのか?」
「たぶんそのバハムートだ」
有名なんだなバハムート。
「なんでそんなもんを連れて……いや、ヴェルスだったな」
「ああ、いきなりバハムートの前に放り込まれて暫く睨み合う羽目になった」
ヴェルスだからで済んでしまうのはちょっと便利だ。私が何かしたわけでもなし、ヴェルスだからとしか言えないんだが。
「ホムラは噓は言っていないが、必要なことも抜けてるな」
イーグルが沈痛な面持ちで額を押さえているのだが、私のせいなのだろうか。
「【鑑定】しても道理でレベルさえ見えないはずだわ。アシャの仮面みたいに隠蔽かなにかしてるのかと思ってたけど、素でレベルが高くて見えなかったのね」
カミラも若干お疲れ気味、回復かけた方がいいかな?
「封印が緩んでいる、と言っていたな」
「全体的に解けかかってるらしいな」
「……白き獣の封印が解けているかわかるか?」
「ばっちり解けてるな」
答えると3人が顔を見合わせる。
「ホムラ、ぶっちゃけるとオレ達はカンブリア帝国にある国の騎士だ」
ガラハドが一度小さく息をついて真顔で話し始める。
……カンブリア帝国知らないんだが知らないと言い出せない、いつになく真面目な雰囲気!
古生代のカンブリア紀、あの海の中にワケのわからん生物がいっぱいな。いや元は地名か。
ではなくて、確か魔法都市の東に小国が点在し、その北東にカルドモス山脈に沿って帝国が一つあるのは知っている。フソウの場所を聞いたときに、結構きな臭いから避けとけよ、と食材卸しのじーさんに注意を受けた。その帝国だろうか。大小二十八カ国だったかを支配してるだとかなんだとか。
「アイルと山で争ってるところか?」
カルドモス山脈の端を越えてフソウに行くルートはアイルの国土内のはずだが、アイル領内にかかる山脈の端から良質な宝石の鉱脈が見つかった途端、カルドモス山脈は我が領土だ! と主張し始めたそうだ。アイルと帝国の間には小国がひしめき、直接のお隣でさえないらしいが。
こう、まだ転移門で行ける範囲を冒険しきっていないので行動どころか意識の範囲外なんだが。
「不本意ながらそうだ」
「めんどくせぇことに巻き込みそうだから政治方面の詳しいことは避けるけど、今の帝国は『白き獣』に乗っ取られかかってるかもしんねぇんだ」
「それはない」
引き続き真面目な顔で話そうとするガラハドにツッコミを入れる。
「そう、きっぱり言い切られてもな。アシャが獣を封じた扉にはヒビが入ってるって話だし、偉大なる魔法使いがそう予測してるんだ、結構当たるぞ?」
「ない、ない」
手を振って否定し、白を呼び出す。
「なんじゃ、また戦闘ではないのか」
現れてすぐ不本意そうな白の前足の下に手を通し、持ち上げてガラハドたちの方に向ける。
「こちらヴァルに封じられていた『白き獣ハスファーン』の白さんです」
「なんじゃ?」
三人がまた固まった。
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「こう、そろそろツッこむのに疲れてきたんだが」
しばらくしてガラハドが再起動したかと思えば胡座をかいた膝を握りしめ頭を垂れて疲れた様子。イーグルも膝に肘をつけて組んだ手を額に当てているし、カミラはため息を隠さない。ヴェルスも登場した時ちらっと言っていた気がしたがスルーしたのか。
「なんじゃいったい」
「なんか白がハスファーンなことでぐったりしているみたいだぞ」
「違う! いや、違わないが、どっちかつーと原因はもう終わりだろうと思ったそばから予想外な案件がでてくるホムラだ!!!!」
ガラハドが顔を上げて抗議してくる。
「しかし、この『白』は名前も違うようだし、バハムートと違ってレベルも見えるようだが?」
気を取り直したイーグルが確認してくる。
「我は精霊獣じゃ。力を奪われるは存在を奪われるも同意よ、レベルも下がるわ」
またやらかしたのかお主、みたいな顔で私を見てから白が話し始める。
「我は彼の竜と違って元々精霊界寄りの存在じゃ。我の種族は、本来は月の下でしかこちらの世界に現れられぬ。昔は自由にこちらに在れるほど我も力があったものじゃが、永の封印と、境界修復へと流すための力の消失で弱体化しておるのは否めんの。『白』は此奴が我をこちらに呼び出すためにつけた仮の名じゃ」
そう言えば出会った時に白は精霊に近しい存在だとか言っていたか。
精霊界のモノも条件が揃えば、物質界に出てこられる。例えば、花の精霊なら花の咲くそばに、水の精霊なら水辺に。白の種族はミスティフと言って月光を浴びられる間だけ物質界に出ることができるそうな。また力をつければ条件が揃わずとも物質界に自由に出ることが可能で、過去の白にはその力があったようだ。
逆に歳経た竜は物質界から精霊界へ行けるようになるという。バハムートも当然行ける存在なわけだが、あちらでも暴れて有名だったらしい。
何をやってたんだバハムート。
あ、なんかご機嫌で飛んでて障害物そのまま吹っ飛ばしてる絵面が浮かんだ。
「比べて彼の竜はあれでも物質界の世界の存在ゆえ、存在そのもので穴に蓋をしたのであろうよ。気の遠くなる長き封印の中で、境界の綻びを繕うのに力を流すことに最後まで合意もせなんだと聞く、代わりに血を流す事になったんじゃろ」
「弱ってはいるがレベルが下がるような弱り方じゃないと?」
「そうじゃ。もっともあっちはあっちで肉体の回復に大分かかるじゃろうがの」
「あれ? 白、ヴァルがお前が今も大人しく力を境界に送ってるとかいってなかったか? 弱ってってしまうのか?」
「だから戦闘に連れて行けと言っておるのじゃ。封印が解けた今、存在が消えるまで力を送る気はないが、まあ、自分で開けた穴じゃからの」
責任もって塞ぐ方向だという。
「境界とやらが破れるのはやっぱり危ないの?」
カミラが聞いてくる。
「それぞれの世界に自由に行き来できてしまうようになるしの、界が崩れるんじゃろう。いや、界が崩れる前に邪神が出てくるのが先かの」
「大事じゃねぇかよ」
「バハムートが抜けた穴は平気なの?」
「さあ? 我としては封印をされ直しておるのかと思っておったがここにおるようだしな。……暫く自由にさせて血が戻るのを待ってからまた戻すのやもしれんが、神々の考えることはわからぬの」
「もらったものは戻さないぞ」
断固として戻さんからな。
「ホムラ? もう国や世界に関わるレベルの言い忘れはないよな?」
「言い忘れ……そうだ、邪神と関係あるか知らんが、過去にあった邪神教絡みの事件で"人の中身が別の何かと入れ替わっていた"というのがあって、友人知人に憑依を防ぐ【冥結界石】というのを使ったアクセサリーを作ろうと思ってるんだが、何がいい? 指輪とかイヤーカフスとか」
ついでにリクエストを聞いておこう。
「イヤーカフスで。情報が多すぎてオレにはもう考えられない」
「着けっぱなしにしないと怖いわね、指輪でお願い」
「私もイヤーカフスで。できれば幾つかもらえると嬉しい」
「だな、これが終わったら材料集めしてくるから頼みたい」
シーサーペント結魂石
星降る丘で取れるティガルの星屑
光のエンチャント、浄化
材料を聞かれて答える。
「シーサーペントの場所を聞いて来たのはこのためか」
「シーサーペントはキツイな〜」
「あ、『結魂石』はとりあえずいい。百以上ある。『ティガルの星屑』が無いんだが三人とも採掘は持っておらんかったよな? 店で見かけたら確保してくれ。ちなみに私は星降る丘はデートスポットで城門の出入りの時の視線が痛くて通う心が折れた」
「ちょっ、あの面倒なシーサーペントはよくて、なんで門番の視線がダメなんだよ!」
「あの生暖かい視線を受けてみろ! 嫌にもなるわ! 住人用九つ取れたから私的にはもういいんだ!」
たとえプレイヤーが憑依されても一時的なものだろうしな。住人分だけでいいだろう。
「ホムラの友人が思いの外少ないな。その中に選ばれたと思っていいのかな?」
「あら、じゃあ星降る丘でデートしましょうか」
「まてまて、オレが言うのもなんだが邪神関係の話だよな? なんでこんなグダグダなんだ」
ガラハドは思いの外真面目だな?
「諦めるほうがいいぞ。これがずれとるのはもうしょうがないのじゃ」
「白、ひどい」
しょうがないので話を戻す。
「あとガラハド達に関係ありそうなのは、称号的にアシャの気配が強い地域のようだし、アシャの封じる獣なら白じゃなくて『雷獣鵺』だってことか?」
「そうじゃの、主なる神八柱がそれぞれ一体ずつ封印し、火の神アシャの担当は鵺だったの。もっとも我の封印されし後から捕まったものは知らんがの」
「アシャの封じる獣、雷獣『鵺』、ヴァルの封じる獣白き獣『ハスファーン』、ドゥルの封じる獣狂った人形『ハーメル』、ルシャの封じる獣傾国九尾『クズノハ』、ファルの封じる獣毒の鳥『シレーネ』、タシャの封じる獣終わりの蛇『クルルカン』、ヴェルスの封じる獣かつての竜王『バハムート』、ヴェルナの封じる獣永遠の少女『アリス』、だな」
はい、絶賛メニュー画面頼りです。一回聞いただけじゃ覚えないよ。
「どこからその話を手にいれたの? そこまではっきりとは古い文献を漁っても出ていなかったわ」
「封じられた獣の名前もバハムートとハスファーン、クズノハ、ハーメルしか伝わっていないぞ? どこの国が秘匿していた?」
交互に聞いてくるのに正直に返す。
「封じた神から直聞き」
三人とも今日は固まりすぎじゃないですかね?
流れからいってその可能性のほうが高いだろうに。
いや、普通は低いからおかしいのか?
とりあえず三人が固まる度、白をモフッて手触りを楽しむのだった。




