86.自覚を促される
とりあえず【生活魔法】で汚れを落としスッキリする。
【生活魔法】の『浄化』は便利で、よく使う。あとは気分的に朝起きた時に『浄化』とは別にコップ一杯程度がでる『水』を何度か使って顔を洗うくらいか。
他にも『火おこし』などもあるが温かい食事が持ち運べるので使用頻度は高くない。光源としては『ライト』があるし、そもそも食事時の休憩はしても本格的な野営はそうそうする事がない。
「そうよね〜、ホムラは温かいまま食料を持ち運べるのよね」
「その場で作ることもできるものな」
「冷たい食事にはすぐ飽きるし、体が温まらねぇから干し肉を炙ったり湯を沸かして固形スープを溶いたり、安全が確保されたとこでは焚き火はほぼ必ずするぜ?」
25層の転移部屋で野営の用意をし始めた三人。
木の粉を固めて圧縮した携帯用の固形燃料を出しあっという間に焚き火の支度をした。ブロック状の固形燃料を二つ少し離して並べ、その間に剣の柄で砕きほぐしたもう一つを置き着火。水を張った厚みのある鍋をブロック同士の上に掛け用意完了。
固形燃料は固形のままでは燃えにくく、なかなか火がつかない、砕いた燃料が燃え尽きるころ鍋の土台と成っている二つのブロックがゆっくり燃え出し、さすがに深夜過ぎには消えてしまうものの、ちょうど翌朝くらいまでほんのりと暖かいらしい。
森での野営のときは薪を追加する事もあるそうだ。夏は夏で野外なら青草や杉などの葉で焚き火を覆えば煙が虫除けになると言う。……やっぱり虫はいるのか。
オレンジ色の火が燃えている様はなんとなく癒され落ち着く。
焚き火の周りにマントや隠蔽陣の分厚い布を敷き、野営の準備が完了する。
うん、布団仕様の隠蔽陣が大変出しづらくって戸惑っているうちに私の分も敷いてくれた。ダンジョンでの宿泊経験はないだろうと用意してくれていたものらしい。
とりあえずメインは出すとして、副菜的なものはせっかくだから焚き火で作ろうか。
ガラハドたちは焚き火料理に飽きてるかもしれんが、私はレオの希望で森を横切った時にしか経験がない。とりあえず肉の塊を串に刺し火の上に斜めにかける。ジャガイモを火には直接当たらないような場所に放り込んでおく。――あとでアルミホイル的なものを誰かにたくさん作ってもらおう。
「うわー、六柱の神々全部の【祝福】飛び越して【寵愛】か」
「あとの二柱って失われた神だな?」
「初めて見た時は嫌がりそうだしはっきりしないからスルーしたけど、これだけでも研究対象になりそうよね〜?」
「え、まじで?」
「気づいてなかったのか?」
「月光の女神じゃねーの?」
「属性闇だし、対っぽいヴェルスは光属性だし決定的じゃない?」
「月光が闇属性なのかと思ってた!」
「ホムラが闇の神だって言ってたじゃない」
「あの時はあんまりサラッと言われ過ぎて深く考えなかった」
「サラッとというか、その時点でそんな珍しい神だって知らんかった」
三人が私のステータスを眺めながら色々不穏なことを話しているのに申し開きを述べる。というか研究対象とか面倒すぎる、今後も対外的にはスルーをお願いいたします。
ヴェルナについては古本屋のカディスもなんか反応があれだったしな。
自分の称号がすごいすごいと連発されるのが気恥ずかしく、あまり口を挟まず料理を作る。
本日のメインは生ハムとゴルゴンゾーラのスパゲティ、ガーリックトースト。
火にかかっていた鍋にはベーコンと豆のトマトで味付けしたスープ。
「アシャはクリティカル率アップ、ヴァルはスキルが、ドゥルはレベルが上がりやすくなる。」
「ルシャは生産でイレギュラーが出やすい、料理のイレギュラーってなにかしらね?」
「さあ? ファルは精霊や召喚獣などとの友好度・好意アップ、タシャは精霊や召喚獣などに出会う確率アップぅ?」
「ヴェルス・ヴェルナはそれぞれレアボス、レアドロップ率アップ……もうすでにどうしていいかわからん感じなんだが」
「まあ、神々からの称号だしなぁ」
「その神々からの称号が多すぎだ」
「しかも【寵愛】なんて効果特大じゃねぇか」
「神官や巫女でもおかしいわよ」
「なんで相性悪い同士の神々の【寵愛】が成立してるのかワケワカンねぇし」
驚くのを通り越してげっそりしている様子。
「そんな効果だったのか。飯できたぞ」
「そんな効果だったのよ」
「本人が効果を知らないところがすごいな。鑑定レベル50で見えるようになるよ」
「まだ先が長そうだが頑張ろう」
私もステータスを見せてもらっているが、三人とも鑑定レベルは余裕で50を超えている。
三人とも火の神アシャの【祝福】持ち、イーグルとカミラは水の神ファルの【加護】を持っている。
そしてイーグルとガラハドは【鳳】とか【天】、【龍】、拳士のシンが持っていたのと同じ名のスキルが見える。斬撃属性とか説明が出ている、剣士系もこれなのか!
やばい、スキルリストに出すだけ出すべく努力しよう。どうやって出すんだろう? とりあえず放置していた『スラッシュ』を使ってみるか。考えつつ食事を配る。
「このスパゲティうまいな。熱いうちだ」
ガラハドが豪快に食っているが下品には見えない、むしろうまそうに食っているのにつられて食欲がわく。
イーグルもカミラも食べ方が綺麗だ、どこぞの騎士だろうとは思うのだが、騎士なだけでなく生まれも貴族とかそんな感じなんだろうか。
どこぞのというか、きっとアーサー王がいるんだろうな、とは思うのだが。
パチパチと音を立てて脂が肉から滴る。焚き火にかざして焼いていた串を取り、肉の塊から焼けた部分を削いで塩を振って食べる。ついでに串にトマトやらチーズやら色々なものを刺して焚き火で焼く。特にじっくり焼いた野菜は甘味が増して美味しい。スペインでパプリカは一時間以上焼けとか言っていたか。
削いだ肉はそのまま食うのもよし、ガーリックトーストに乗せて食うのもよし。
思い思いに焼き串を手にとりながら再びスキル談義。
もう片方の手にはコーヒー、私は紅茶。
ダンジョンの中なせいかガラハドも酒とは口にしないが、呑まない私が思う、ここは酒じゃないのかと。
叱られそうだから出さないが。そのうちもっと気楽な旅をこの三人としてみたいものだ。
「しばらくピクリともしなかったスキルレベルが上がった原因はこれか」
「称号は周りにも影響するものが多いわよね」
「普通は複数魔法を取ってもレベルを上げきれないのにこの数を平均的に上げられるなんてすごいわね。称号があったとしてもよ?」
「ああ、そういえば。シーサーペントの場所ありがとう。あれでスキルレベル上げたんだ」
「あの面倒なの相手にしたの!?」
「経験値は少なめだし、攻撃力は弱いし、でも体力はやたらあってスキル上げにはいい相手だったぞ?」
「斬新な考え方だなおい」
カミラの問いにお得なところを答えればガラハドがツッコミをいれてくる。いいと思うのだが……。
「こう、早くから祝福持ちだっただけあってステータス値も凄いというかオカシイ」
「えっ?」
「「「え?」」」
「ステータス値は特化してるヤツラとそう変わらないんじゃないのか?」
お茶漬がレベル30で体力特化100、レベル35あたりで112くらいまでいく予想だとか言っていたのを聞いた気がするが。
「ホムラ君? 普通は特化するとその特化したものだけ突出するんだよ?」
「選んだ一つのほかは全部20以下とかザラだからな?」
「そのレベルで120超えが混じっていて50、いいえ40以上がいくつもあるって異常よ?」
「その前に複合職で特化レベルの値ってオカシイからな?」
……あれ?
「本人無自覚!」
うわぁ〜って顔をガラハドがしている。
「私たちは『魔法剣士』だって知ってるから行動を見ていればおかしなところに気がつくけれど、『魔法使い』だと思われているならそんなに動く事はないし、周りに気がつかれないのかもしれないな」
「そう『魔法使い』と『聖法士』の特化は多いわね」
確かに近接職と比べて守ってくれる『盾』がいるなら特化もしやすい。特に固定パーティーでは『盾』『魔法』『回復』の特化は多い。比べて近接職は長所に振りつつもAGIなど他にもある程度振らなければ不都合が出てきてしまうため特化型を選ぶ人は少ない。
「オレもかなり初期の頃にアシャの【祝福】持ちになれてSTRが勝手に上がるから戦士としては攻撃力重視型だけど、他のも鍛えてる。それでもINTは捨ててるし、MIDもそう高かねぇぞ」
「私もガラハドほど早くはないけど、アシャの【祝福】とファルの【加護】を持っている。レベル差があるから比べにくいかもしれないけど、ホムラ君のはどう考えてもおかしいからね?」
「そもそも主となる神の【寵愛】全部持ちっておかしいから。与える神々の相性なのか、もらう本人の資質なのか、例えばタシャの【祝福】持ちはアシャの【祝福】を受けられないって言われるくらいなの」
「えー……」
「えー、じゃなくっておかしいからな?」
「ちょっと自覚しようか?」
「同レベル帯なら【鑑定】できるでしょ? 比べて自覚したほうがいいわよ?」
だめ押しをしてくる三人。
広場など人の多いところでスキルレベルを上げるために流し鑑定はしていたのだが、あまり見るのは悪いかと思ったのといちいち見ているとレベル上げにならんので人のステータスは読まずにスルーしていた。あとで何人か確認させてもらおう。
「称号もスキルもそうだけど神聖魔法の回復も聞いたことがなかったし、魔法の内容も油断ならないわ〜」
「ホムラ君は使命はなんだ? 実はすでに人の【使命】を手伝っているところなので一緒にその使命を果たすことはできそうにないが、できることは協力させてもらうよ」
「おうよ、今現在も俺たちのほうにつきあわせてるしな」
「ちょっとこのレベルの神々の【寵愛】持ちの【使命】ってどんなのが出てくるかこわいんだけど、ね。遠慮せず言って?」
次々に協力を申し出てくれる。ないんだが【使命】。
「言えないような【使命】なら言わなくてもいい」
「そそ、内容を言わずにコレコレしてほしいってな、それでいい」
微妙な顔をしてたら伏せねばならないような【使命】と勘違いされた様子。
「【使命】は無いから気にしなくていいぞ」
「それだけ【寵愛】やら持っていて『使命持ち』じゃないのか?」
「しいて言うなら『食材を狩れ』かな?」
「いやいや?」
「おかしいからな?」
「違うわよね?」
正直に申し述べたら否定された!
「神と会った時に特別なことを依頼されて【使命】がいつも脳裏や夢に出てくるとか、ある日突然神の啓示が来るとかなかったのか?」
「ない」
無いが……
「神の啓示ってメールが来るのか?」
「いきなり庶民的だなおい」
「庶民というか……現実的というか」
「神の啓示っていったら普通神殿で神の声が聞こえるとか、夢で神と会うとかその類でしょ?」
「ではやはり使命は受けていないな」
「……ちなみにメールできた内容ってなんなの?」
「次回あった時にぷりんを作れ?」
「それ【使命】じゃないから」
「単なる頼みごとじゃねぇか」
「ホムラ君、会話がずれているよ? 神々の話なんだが……」
イーグルが何か可哀想なものを見る目で諭してきたが、ずれてないよ!
ずれてるのは会話じゃなくて神々だよ!!!!!!!!!!!!!!!
少なくとも私の責任じゃない!!!!!!!!!!!!!!
「まあ、本人がないというならそれはそれでいいが……」
「まあ、世は事もなし! ってことで」
「【寵愛】フルコンプなんて封印されし獣の復活とか邪神が現れたとかそんなレベルかと思ったわよ」
「あ、獣は全部封印緩んでるそうだし、邪神の胎動もあるとか言っとったぞ」
「ぶっ!!!」
「ちょっ……!!」
「一大事じゃないの!!!」
 




