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新しいゲーム始めました。~使命もないのに最強です?~  作者: じゃがバター


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80.依頼

 さて、騎獣は南だと教えられたので探しに行くことにする。

 方向違いなので一度、首都アルスナに戻ってから南下したほうが早い。


 どうせ転移するならファガットに行ってナヴァイ・グランデのガルガノスに装備品を依頼しに行って、ファストの店の状況を確認してからにしよう。方向はわかったものの騎獣は見つけるのに時間がかかるかもしれんので先にわかっている用事を済ませることにする。



 ファガットは相変わらず赤や黄色の原色の花が白い塀の上から漏れ出し、燦々と照りつける太陽が白い街に濃い陰影を落としている。照り返しが眩しい。

 観光で浮かれているときや、元気な時ならいいが、これはこれで鬱陶しい光景だと思ってしまうのは私がひねくれてるんだろうか。頼むからせめて木陰をくれ。

 この風景になぜだかヴェルスを思い出し、胸元の石を手にすくう。青い石は特に変わった様子はない、バハムートはまだ回復しないのだろう。



 ガルガノスの家の前に着くと、身なりのいい男性が家の前で扉の向こうに声をかけている。何だろうかと思ったが、小脇に革張りの書類を挟んだケースを抱えているのでガルガノスの取引相手なのだろう。


「ガルガノスさん、出てきてください〜いるのはわかってるんです」

借金取りじゃないだろうなおい。

「気分が乗らないからって勘弁してくださいよ〜話だけでも聞いてください。条件のいい依頼ですよ」

よかった、取引相手であっていた。


「失礼、ガルガノスは在宅なのか?」

「居ますがガルガノスさんは酒を買いに出る以外出てきませんよ」

不審そうな顔で見てくる男。まあ、私も先ほど借金取りかと思ったのでおあいこだろう。


「ああ、知ってる」

男の方を向いてそう言うと、私も扉に向かって声をかける。

「ガルガノス、火酒持ってきたぞ!」

「無駄ですよ、私もこれで五日間通っていますが……」

男の言葉の途中で中からバタバタと音がして扉が開く。


「おう! 久しぶりだな」

「ああ」

簡単に出てきたガルガノスにあっけにとられる男を尻目に家に入る。


「おっと、パスト! 明日出直しな! 依頼の話を聞いてやる」

「え、受けてくれるんですか!?」

驚いたようにガルガノスを見る男、パスト。

「聞いて気に入ったらな。まあオメェは嫌な依頼を持ち込んだこたぁねぇからよ。だから今日は帰りな、ワシはこれから酒盛りだ!」

そう言うと、うきうきと私を招き入れる。


 彼にとって酒とはアルコール度数が高く、そして泡の刺激のあるもの。この辺りで販売している酒は薄く、物足りないどころか水より多少マシ程度、だそうだ。依頼を受ける条件に故郷のドワーフの作る酒を要求したこともあったそうだが、道中の劣化などでなかなか難しかったらしい。その点前回私の出した火酒は及第点だったらしく、気に入ったようだ。


「え、人嫌いなのに……」

「人は好かんが私の持ってくる酒は好きなんだろう」

茫然と呟くパストと呼ばれた男に言い置くと、私もガルガノスについて家に入った。



「おう! おう! 酒だ酒だ」

ガルガノスがその腹回りの倍は飲むことを知っているので火酒は樽で出した。樽を渡すとガルガノスは机に乗せて下のほうに(のみ)のようなもので一気に穴を穿ち特大のジョッキに受けるとこぼすこともなく器用に穴に合う小さな木の杭でふさぐ。


「で? なんだ? また手習いか?」

一杯やって落ち着いたのかジョッキを片手に聞いてくる。髭に泡を付けた姿は幸せそうだ。


 ドワーフは人とは違い、味覚に関して塩味と肉の味しか判別がつかないらしく、酒以外の一番のご馳走は塩を振って焼いた肉、らしい。代わりに人と比べ物にならんくらい、酒と塩と肉については味の差に敏感だそうな。さすがにプレイヤーがプレイするドワーフは味覚が人と同じなことを祈る。


 『神饌の塩』をふって焼いただけのオーク豚肉にえらいこと感動されて微妙な気分になった。『神饌の塩』はルシャからもらった塩の小瓶に入っているのだが、使っても一向に減る気配がない便利アイテムだ。ガルガノスが感動しているのは料理でも肉でもなく『神饌の塩(コレ)』になんだろうな。


 『神饌の塩』は昨晩の宴会で一応確認して、自由に使っていいとのことだったので使ったが、この料理だけでレベル上がって驚いた。ちょうど上がるところだったのかもしれんが。

 神々のおかげで高ランクな素材も扱えるし、【得意料理】のおかげでその不相応なランクの食材を扱ってもほぼ評価5、低くても3がもらえるのだが、スキルをいろいろもらっている手前、早く評価10で神々に食べてもらいたいところ。


 プリンは焼きプリンにして評価を上げた。素材の方の【得意】はだいたい網羅していると思うのだが「蒸す」「冷やす」の調理法は得意でない。評価3は不味い部類だし出すわけにはいかず、作り終えた後にどうしようかとしばし固まった。ほとんどが得意な素材と調理方法がかぶっているため自分でも評価5で固定なつもりになっていた。反省反省。

 例え『技巧の手袋』があっても、ドゥルの用意してくれた食材を調理して高評価を出すのはまだまだ無理だ。真面目に料理を上げねば。


 そういえばドゥルは畑の片手間、牛と鶏を飼い始めたそうだ。肉用ではなく乳と卵のためだ。宴会に連れてきて「さあ絞れ!」と乳牛を指差された時はどうして良いかわからんかったが。



「うむ、篭手とブーツの作り方を見せてくれんか?」

脱線した思考を戻してガルガノスの問いに希望を伝える。


「篭手とブーツ? ワシの作るのは宝飾品だ。国王の鎧(おかざり)なら作ったことがあるが冒険者が実践で使うには不向きだぞ? はっきり言ってワシのは機能美止まり、能力の付加は既存の魔法石から引き出してやるのが精いっぱいってとこだ。あんたらが求めるような防御力は叶えられねぇ」


「以前、杖の握りやペーパーナイフなんかを見せてもらった時、どこからどう見ても隙のない綺麗な細工なのに使いやすさの面でも秀でていたからな。それでいい」


 改めて頼むと、皮の本格的加工は守備範囲外ということで金属の篭手と鉄靴の作り方を教えてくれた。普通こんな短時間で覚えられるような技術ではないはずだが、スキル万歳というやつだ。ただスキルが発現しても取得しなかったら地道にコツコツ現実世界と同じ覚え方をせねばならない。まだ見ぬ【結界魔法】とどっちを優先するべきか。あ、【魔法陣】もだ。


 前回と同じくガルガノスが酒を飲みながら似合わぬ丁寧さで指導してくれた上、以前作った時に集めた資料の中から篭手(ガントレット)鉄靴(サバトン)すね当て(グリーヴ)の構造図解の本をくれた。篭手の五本指がガントレット、指部分が二つに分かれたのはミトン。ミトンって鍋つかみのことかと思っておったらこの鎧の部位も含めて二股手袋全般のことなのか。


「教えておいてなんだが、なんで篭手と鉄靴なんだ? 篭手を作るくらいなら胸当のほうが簡単だぞ?」

「教えを乞うておいて隠し事もなんだから話すが、黙っていてくれるか?」

「? おう、口は堅いぞ。そもそも話すような付き合いのある相手はここにはいねぇ」


 不相応なコートをもらったこと。

 コートと比べたら劣るが能力的によい手袋とブーツは持っていること。ただ、コートのデザインとちぐはぐなものなこと。手に入れた装備と同じ外見に変えるスキルがあるので、コートに合うデザインのものを手に入れたいこと。


「珍しいスキルをもっとるな。しかし、わざわざ自分で作るのか?」

「なかなか難しそうだが、違う装備に外見だけ転用するのは製作者に悪い気がしてな。スキルの説明をして頼み込んだら了承してくれるかもしれんが、スキルのことをバラすのもいろいろ頼まれごとをしそうで面倒でな。作ってもらうのにコートを見せるのもはばかられるし、人に頼むのは自分でやってみてからにした。デザインの型出しというか見本だけ作っている職人でもいればいいんだがあいにく思い当たらん」


 あとはデザインの合うドロップ品があるなら敵とドロップするまで戦うとかか。

 ちなみに手袋を篭手に変えるのはグリフィンの篭手で選択が出たので大丈夫そうだ、キャンセルしたので実際には変えていないのだが。手袋をコートに置き換えることはできなかったので装備部位単位での置き換えなのだろう。


「ワシが作ってやろうか?」

「いいのか? 外見(そとみ)だけ借りるようなものだぞ?」

「作るからにはそのコートとやらを見せてくれるんだろう?」

「見たら作ってもらうぞ?」

「おうよ」


『タシャ白葉しらはの帽子』

『ヴェルナ白夜(びゃくや)の衣』

『ファル白流(はくりゅう)の下着』

の三つを装備する。

 手袋がないのは兎も角、素足なのはちょっと間抜けだ。

 あ、ズボンは何時も穿いている白いズボンを穿いています。


 白流の下着(アンダー)以外は%での割増だ、なので私のレベルと他の装備が上がるほど効果が大きくなる。今でもマスターリングのおかげで破格だ。マスターリングの倍という表記はどうやら素のステータスに乗算されるようだ。

 物理防御が心配だが、気のせいでなければ、バハムートを上から着ることができる。着るというか覆われるというか微妙なところだが。もしかしたら三柱の神はそれを見越してこの装備をよこしたのかもしれない。こちらの確認はバハムートが元気になってからだ。

 それまではまあ、戦闘中は避ける方向で。


「これはまた……」

ガルガノスは装備を見るなり黙ってしまった。


 水竜銀(すいりゅうぎん)のレオを見ていたルバの目に似ている。

 着ている私は大変落ち着かない。


「ふむ、コートのようだが、動かなければローブのようにも見えるな」

「白い月の色」

「反射して光る色は月明かりに照らされた雪の色」

「流れる裾は重くも軽くもなく」

「帽子に浮かぶ模様は白き葉白き枝」


 ずっとブツブツ言いながら私の、いや、コートと帽子の周りを腹を空かせた熊のようにぐるぐる回っている。ドワーフのガルガノスは背丈が私の胸より下しかないので圧迫感はないのだが、いつコートの裾をつかんでくるのか? みたいな妙な緊張感を感じる。


「差し色は葉を受けて緑にするか……、もう一つの月を受けて金色にするか……、髪の色を受けて青紫を使うか……」

「いや、ここに色が入るのは無粋か」

「ならば素材の違いで別な白を」

あ、すまん。このスキル色は自由に変えられる。と、言える雰囲気でもなく。

 ちなみにコートと帽子、下着の色は変えられない。名前に白を冠する『神器』ゆえに。アンダーだけ黒に変えたかったのだが、残念。


 そういえば鎧はヴェルスに白へ変えられてしまったが、バハムートそのものも黒から白になってしまったのだろうか。黒竜かっこよかったんだが。


 そういえばルバが市場に銀が少ないと嘆いていたが、今はどうなのだろう? ティガルの星屑を掘った時に出た銀を届けに行くか。


 そういえば杖もそろそろ出来上がる気がする……


 そういえばギルドの資料室や古本屋にも行きたい……


 そういえば……


 一生懸命によそ事考えてぐるぐる回っていたガルガノスから意識をそらしていたが、どうやら見る作業は終わったらしく、今度は立ち止まってぶつぶつつぶやいている。


 私はお役御免だろうか。


「ガルガノスもういいか?」


 返事がない。

 何度か呼びかけたが返事がなかったので火酒を二樽おいてそっとガルガノスの家を出た。明日打ち合わせだといっていた中継ぎらしき男は果たして話を聞いてもらえるのだろうか。




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結局火酒3樽かあ 太っ腹
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