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6.宿と露店

 門でギルドカードを提示し、街の中に入ってようやく緊張がとけた。


 街はモンスターが跋扈する世界なためか、高い壁で囲まれ南と東西の三つの門からしか出入りができない。北側には領主館と、騎士の家屋があるため門はない。南門から入るとすぐログインした時の噴水広場だ。夕方には大門は閉められ、以降は小さな脇門からの出入りとなる。夜間は荷馬車などの出入りは出来ず、身分証を提示した人のみが出入りできる。


 大門の開閉は神殿の鳴らす時の鐘でわかる、リズムを刻んで数回鳴らされる朝昼夕の"刻の鐘"と、その前に鳴らされる"捨鐘(すてがね)"。捨鐘を聞いて行動に移せば刻の鐘に間に合う寸法だ。真夜中にも捨鐘無しで一度だけ鳴らされる。

 一日の長さは二十四時間で一緒だが、時間の長さは日の出日の入りを基準にしているらしく、ちょっとずれている。


 広場は昼間ほどではないが人が多く、何処からか弦楽器の音が聞こえる。ファンタジー世界だしこれがリュートとか竪琴の音だろうか?

 家路を急ぐ住人(NPC)も多く混じっているようだ、ひとり者ぽい人について行ったら穴場な店に着かないかな?


「宿はギルドの道挟んで隣だけど夕飯どうする? 宿に食堂あるけど飯の予約はしてないぜ」

戦闘ではあんななのにこういう予定の段取は得意なレオ。

「食堂のぞいてみて、混んでたら焼き串買った露店通り行こうか」

宿に行く途中、噴水広場の東側に見つけたレストランの外まで続く行列を横目にお茶漬が提案する。


 宿の食堂も満杯だった。ついでに泊まる方も満杯らしく、宿のカウンターで冒険者ギルドの簡易宿泊施設を案内しているのが耳に入った。

 痛みなどに代表される不快な感覚は大幅にパーセンテージが下げてあるとはいえ、これだけ感覚が再現されているのを考えると宿は良いところに泊まりたい。具体的に言うと風呂がない、仕切りがない、の簡易宿泊施設は遠慮したい。


「予約してあって良かった、レオ有難う!」

「素晴らしい」

「ありがとうでし」

「ありがと、よかったよかった」

「サンキュー!」

「わははははは! バッチリだぜ!」

思わず感謝の言葉を述べれば他のメンツも口々にレオに礼を言う。



 とりあえずカウンターで明日以降もそのまま泊まる旨を伝えて、食べ物を求めて外へ出る。ログアウトが宿屋推奨のせいか宿泊者が一度『泊まって宿屋の外に出る』ということをしない限り部屋に次の予約を入れることはないようだ。少なくとも一定時間経過し、EP不足通り越して神殿ゆきになるまでの期間は安泰だそうだ。ログインしたら他人が同じベッドにいたとか事故というより事件だしな。


 住人に異邦人(プレイヤー)の宿泊が嫌がられないかちょっと心配になったが、神殿行き(HPゼロ)になるとベッドの上に宿泊料+αが残されるそうで、宿屋の損にはならないそうだ。

 寝ている間はEPの減りは緩やかになるのだが、空腹なままログアウトするとEPの次はMPが、MPの次はHPが減り始めるので危険極まりない。長期間ログインしない場合、ログインして出る場所は戦闘不能になった時と同じく神殿だ。


 ギルドと宿屋の間の通りを百メートルほど歩くとギルドの簡易宿泊施設が右手に見えてきた。お茶漬たちの話によるとこの裏手に露店通りがあるそうだ。細い路地に入ってゆくと人のざわめきが聞こえてくる。そこはまるで祭りの縁日状態だった。


「はぐれたらここ集合ということでいいか?」

「「おー!!」」

「わかったでし」

「レオと菊姫は踏まれるなよ~」

「はぐれないようにする努力はしようぜ」

路地に踏み込む前に迷子防止ならぬ迷子前提解決策を決める私。手つなぎイベントなど六人では起きようがない、というか男だらけの絵面になるわ!!


 とりあえずEPがやばいので何か食べよう。匂いをかいだらEPゲージが減った気がしたぞ。

露店には食べ物屋を中心に小さな雑貨屋なども混じっている。屋外で食べる前提のちょっとした食べ物を扱う店と食材を扱う店とが入り混じって路地の左右にひしめき合っている。


 うん、さっそくはぐれた!!! レオとシンはどんどん先にゆき、お茶漬と菊姫は色の着いた飴で花なんかを作っている露店を見ていたかとおもったら見えなくなっていた。六人一緒に行動は早々に諦めて一緒にいたペテロとおいしそうなものを探す。昼間来たときに見たパンに肉を挟んでくれる店が気になっているということなので人とぶつからないようにしながらその店を探す。


 たどり着いたその店は、パンに野菜を挟む店になっていた。


 いつもより売れた上に具材に肉増しを希望する客が多く、肉がなくなってしまったとのこと。今鉄板でジュウジュウとよい音を立てている肉は、並んでいる人の分で終わりだそうだ。住人の店に売り切れがあるとは予想外。


「悪ぃな、また来てくれ!」

「うーん、残念」

早々に諦めるペテロ。

「あれだ、野菜挟んでくれ。あと鉄板で私が持ってる肉、焼かせてくれ」

隣でペテロが何を言いだすんだコイツ、みたいな顔しているけど気にせん!

もうすっかり今日の夕食は肉挟みパンなんだ。肉はあるんだ肉は、生肉だけど。



「おー肉持ってるのか! 肉は好きに焼いていいから、持ってる肉なんでもいいから売ってくれねぇか?」

買取交渉きた! だが相場がわからない!! いや、受けているギルドの依頼がトビウサギの肉×6で90シル、暴れニワトリの肉×4で80シルだ。それぞれ15シルと20シルだな。メニューから受けている依頼を確認して単価計算をする。電卓が欲しい。

 ああ、だがしかしトビウサギ依頼で六つ肉がいるのに八つしかもってない!


「暴れニワトリでよければ51出せるぞ」

「上等!」

ちょっと色をつけてくれたらしく1,071シルで引き取ってもらえた。向こうから言い出した適正価格+αに安心して暴れドゥドゥの肉26と角ウサギの肉100も引き取ってもらった。こちらは3,776シルになった。ペテロの肉も引き取ってもらい、露店のオッサンはこれでまだ商売ができるとホクホクだった。一つの肉から三つ料理ができるらしい。


「じゃあ焼き方教えるから焼いてみな」

並んでいた客がはけて、改めて販売の準備をしながらおっさんが言う。

「有難う、ところで名前はなんて?」

「おう、オレか? オレはジョスってんだ。いつもここで露店出してるからひいきにしてくれ! 肉の買取もするぜ?」

そう言って笑うのはギルドにトビウサギの肉で依頼だしてた人だった。依頼よりも1シルおまけしてくれたのか。


 アイテムポーチからチョトツの肉を出す。

「ホムラ、チョトツの肉? じゃあ私は角ウサギの肉出すから半分にしないかい?」

「いいね! どっちも食べてみたい」


 改めて開店のための準備をするジョスのおっさんのアドバイスを受けながら二人で肉を焼く。

 肉の脂の弾ける音と、その脂の焼ける匂いが凶悪に食欲を刺激する。隣ではジョスが暴れニワトリの肉を蒸し焼きに、こっちはこっちで水をかけて蓋をするまでに派手に湯気が上がっていて旨そうだ。


 そうこうしている内に肉が焼け、ジョスに渡されたパンに好きなように野菜と肉を挟んでいく。聞いといて忘れていたけど三つできた! チョトツの肉は脂と肉汁が野菜にからんで大変旨そうです。持ちやすいように紙に乗せて完成!

 ペテロの角ウサギの肉は表面がカリカリに焼けていて見た目からも違った美味しさを想像させてくれる。


 一つペテロと交換して、ついでにジョスから暴れニワトリとドゥドゥのパンを三つずつ買い、一種類ずつペテロに渡す。昼間の焼き串のお礼だ。アイテムポーチに入れておけば出来たてがだせるのは昼間知った。一番美味しいウチにいそいで仕舞う。ニワトリは20シル、ドゥドゥは25シル、5シル追加で肉が追加できるそうだ。パンと野菜代はおまけしてくれた。

 肉が焼きあがるとまた混んできたジョスの店から退散して、道の端によって二人でかぶりつく。


 むちゃくちゃ美味しかった!!!!!



 その後はその場で搾ってくれるジュース屋でベリーのジュースを買い、飲みながら店を冷やかし、時々明日用と言い訳しながら食欲をそそる物をついつい購入。ペテロも買ってたし。

 屋台系は現実世界でも気づけば使用した金が結構な額になっている、気をつけよう。


 お茶が欲しいけれど茶葉そのものを扱う店しか見つけられず、茶葉を買う代わりに一杯試飲させてもらった。ビール呑んでる男が隣にいるしな!

 食べ終わると包装紙や食器はくすんだ光の粒になって消えてゆく。不思議な感じがするが便利だ。EPが100%だと食べることができないので【気配察知】をしながら、さらに通りにいるプレイヤーを【鑑定】しまくったのはいい思い出。おかげで【気配察知】はそのままだったけれど【動物魔物鑑定】はレベルが上がった。


「本が売ってるよ。パターン的に掘り出し物なんじゃない?」

周りの露店よりさらに狭い店で何に使うのか判然としないものが敷物の上に置いてあったり、日除けの布を支える頼りない柱から唐辛子をまとめたようなものが下げられている。その中で本だけが本として認識できる。


 売っているのは売る気の無さそうな老人でいかにもな感じだ。他の店は呼び込みや注文で騒がしく声がしているのに客に声もかけずに本を読んでいる。売り物じゃないのか? 店の前にはこの店の客ではない者が立ち話やどこかの露天で買ったらしいものを立ち食いしている始末。


「よく見つけたな~」

どこもかしこも混んでいるので店の前に多少空間はあるものの立ち話中の人に埋もれて日よけの布しかみえない。

「忍びですから」

笑顔で言うペテロ。

「弓使いはどこへいった!」


 とりあえず人の隙間を縫って店の前に行く、店の老人は気がついてこちらを一瞥したがまた本に視線をもどしてしまった。手ごわそうである。

「こんにちは、この本が見たいんだがいいか?」

日本人的スマイルを浮かべてチャレンジ。

 老人はため息をついてこちらを見た。感じが悪いぞ。


「よそ者に売る気はないんだ、他の店にいきな」

テンプレ的お断りが来た。

「確かにこの街に住んでいるとはいえませんが、一応ギルド登録はしたんですよ」

ペテロ強い!


「はん、冒険者なんぞすぐにどっかへいっちまうんだろ? せめて一人でも知り合い作ってから出直すんだな」

あれ? これはフラグ?

「私は住人(ガラハド)と知り合いですが」

証明するようにギルドカードを見せる。20分くらい話しただけの知り合いだがな。いっそジョスとの付き合いのほうが長いくらいだ。


「ふん」

鼻を鳴らして胡散臭げにカードと私を見てくる。胡散臭いのは店主のほうだと思うのだが。

「ここにあるのは売れない」

ダメか。


「立ち食いのやつらに汚されるんで売り物はひっこめちまったんでな。ワシは東門近くの路地裏で古本屋を開いておるからたどり着けたら売ってやろう」

もっとも、休むことも多いがな、と老人は言う。

「はい、有難うございます」

礼を言ってその場を離れる。


「これはNPCのパトカもらってから進めるクエなのか、残念」

「みんながログインしてないときにでも探してみるかな。場所がわかったら教えるよ」


 他に私が調合の道具を買ったり、ペテロがここでは珍しいらしい片刃の短刀っぽいナイフを買ったり、私が果物を買ったり、ペテロがまたビールを買ったり、私がお茶を淹れるために調理用の水を買ったり。ちょっと危険な空間だ。財布的に。ついでにアイテムポーチがやばい。

 ティーポットやらは噴水広場の武器屋防具屋の裏手の小売店か露店街に売ってるのを教えて貰った。武器や防具、道具を扱う露店の集まりだとのこと。治安が良くない地域が近いから気を付けろと気遣われた。



 そぞろ歩いているとメールが入る。開けなくてもこれは集合場所に戻ってこいメールだと見当がつく、ペテロにも来てるし。



 集合場所には菊姫以外が揃っていた。菊姫を待ちながら食べたものの話をする。どうやらレオもジョスの店が気になっていたらしく、直行して売切れと言われ仕方なくシンと他の店で買い食いしたらしい。


「でももう一回通ったらやってたんで無事ゲットしたぜ!!」

得意満面なレオに微妙な顔になる私と肩を震わすペテロ。笑えばいいと思うよ?

めぐりめぐって私とペテロの肉はレオとシンの胃袋に収まったらしい。


「そう言えばギルド寄って依頼受けて帰ろう、明日は出る時また混んでそうだし」

「あー、私報告もある」

「オレも!」

お茶漬の言葉にペテロとレオが答える。

「あの混んでる中に入れたの?」

「ホムラが半分以上追っ払ったからな!」

「人聞きの悪い……」


 話しているうちに菊姫も戻り、明日の分の依頼を受けることに異存はなくギルドへみんなで移動した。忘れないうちにと菊姫にベリージュースと果物を渡す。別にいいのに、といいながら受け取ってくれた。

 アイテムポーチがあると、荷物になるとか気にしなくていいのが素晴らしい。そして既に容量がヤバイ。


 ギルドに着くと私とペテロ、レオは依頼の報告をしにカウンターに向かう。夜とは思えないほどの人だかりで食堂もいっぱいだ。

「あれ、常時依頼暴れニワトリだから、みんなも報告出来るんじゃないか?」

途中で気がついて声をかける。

 結局依頼人に話を聞くパターンでなければその場で受けてその場で報告ができることが判明した。中には依頼を受けないとドロップしないなど受けないと条件を満たせないものもあったが、低ランクは特に事後報告オッケイな傾向がつよいようだ。受諾金も無い。そういう訳で依頼の報告と受注をギルドの受付を通すことなく繰り返す。


 これも混雑対策なのかね? 少なくともEランクの依頼はギルドでの買い取りと依頼料が大体同じで面倒なのでうっぱらってしまいたかったのだが、お茶漬にギルドランクのことを言われて面倒でも受けては報告を繰り返した。

 端数はギルドの買取で売り払い、アイテムポーチが大分すっきりした! 薬草系と錬金に使うかもと思った牙・角とチョトツ&角ウサギの肉以外は大処分した!!


 依頼を100回達成してEランクに上がった。次にDに上がるのに1000回達成がノルマだそうだ。遠い。

 ちなみに常時依頼は何回報告してもカウントは1だった。納品数3とかの依頼の魔物が乱獲の憂き目に遭いそうな予感がする……


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