74.倉庫
朝日が差す頃、菊姫たちはログアウト。
「海に昇る朝日を期待してたのにねぇじゃねぇか!!! ねみぃ!!!」
と、レオが言い残して浜辺でログアウトしとったが大丈夫なのかあれ。
ログアウトした場所もさることながらファストの西門から出てセカンに来たこと忘れとるのかヤツは。
そんなレオとシンは料理の礼にと大量の魚介類をくれていった。
ペテロは市場での買い物の代金を持ってくれたし、お茶漬は野菜。菊姫は羽根枕をくれた。
あれか、隠蔽陣で作った布団に添えて野外で安眠しろということか。
お茶漬とペテロは荷物整理しつつ委託販売に出し、少し生産するというのでファストに転移で送る。
「来るときも送って貰えば良かった」
「魔法で転移したらお茶漬ももれなくついてくるだろう」
「ああ、なるほど」
「反省したから置いてかないでね?」
さて、騎獣探しの前に店舗の様子を見に行こう。
うまくいけばもう建築士兼大工のトリンが来ているはずだ。こちらの活動時間は基本朝日とともに始まり日の入りとともに終わる商売が多い。
「おはよう」
「おはようございます」
期待通り勤勉なトリンはもう来ていた。こちらの店舗の方はほとんど家具を入れるまでになっていた。スキルすごいな。
「もうほとんど出来てるんだな」
「倉庫の話も聞きました、こちらの裏口は壁にせずにお待ちしていましたがどうしますか?」
見ると奥の壁、裏口の扉の跡があった周辺だけが手付かずだ。そういえば壁にしてしまう予定だった。
「裏の倉庫と行き来できるようにしたいから裏口をつけてくれ」
「はい、いっそ壁同士つなげてしまいますか?」
「んー……」
倉庫だっただけあって店舗より広い。残念ながら傷みが激しく完全建て替えだが。どうせならと、倉庫側を少し削って裏庭を作ってもらうことにした。この街には騎士の修練所のほかは気兼ねなく剣を振るえる場所がないからだ。さすがに広場や道端では剣を振り回せない。
裏庭? 中庭? は日陰で水はけが悪くなりそうだったので暗渠を頼む。
「暗渠より、水をよく吸うケイジュを植えたら如何ですか? 丈夫ですし手入れもいりません。育ちが極端に遅い木で大きくなると困る場所によく植えられる木です」
「そんな木があるのか。庭で運動したいんだが邪魔にならんか?」
「幹はどんなに育っても女性の足程度にしかなりません。ただ根が地中一メートル前後から網目状に広がるので、そこまで根が届くような他の植物は植えられなくなりますが」
「ならばそれで頼む」
方針が決まった途端、控えていた従業員の方々が作業を一斉に始めた。あっという間に改めて裏口が切られ、漆喰が塗られ、扉をつける木枠が組まれてゆく。
「倉庫のほうは簡単そうですね」
すでに土地の図面は出来上がっており、私が希望を言いトリンがそこに書き加えてゆく。定規を使わず真っ直ぐ正確な図面ができてゆく。縮尺も合っていそうだが、スキルなのか職人技なのかどちらなのだろう。
「地下倉庫も簡単なのか、本当にすごいな」
「これでも商業ギルドから直接依頼がくるくらいにはスキル持ちを揃えていますから。古い商家や民家は尊ばれるので基本構造を変えるのはおすすめしませんが、裏の倉庫には歴史も何もないですからね。残すもの残さないものを考えなくて済む分、気も楽です」
スキルもすごいがそういう従業員を揃えているトリンも凄い。本人もいろいろスキルを持っていそうだ。
1階 :カウンターと酒棚だけの店舗
休憩室とミニキッチン。裏口と
階段のあるホール(一応鍵付き)
素材倉庫
2階 :醸造設備
地下1階:酒蔵
酒蔵が地下なイメージがあるのは私だけだろうか。そして三階が何にするか決まらん罠、配置としてはレストランがしっくり来るのだが生憎その気はさらさらない。接客も経営も面倒すぎる。とりあえず倉庫にしてここも原材料置き場かな。材料は商業ギルドから買うことになっている。
その後、サーで店舗に入れるカウンターやら棚やらを作る工房をトリンに紹介してもらい色は元の柱と合わせた少しツヤのある濃い茶色、シンプル、以上希望を伝え丸投げして終了。一階は家具を一つずつ選ぶより統一感がでていいだろう。
三階の自室予定の場所の家具はどうしようかと考えて、自室予定といっても今の宿屋が楽で飯もうまいし出る気がない自分に気づく。いつかは気に入った場所に自分の家を造る予定だしファストの拠点はあの宿屋でもう落ち着いてしまっているのだ。
屋根裏部屋風なのとベッドから星の見える天窓は魅力的だが、きっと数回泊まって宿に戻る自分が予想できる。とりあえず宿がいっぱいだった時のためにベッドと飯を食うためのテーブル椅子だけお願いした。
生産設備のほうは図面と希望を伝えて商業ギルドに高い設備を揃えてもらう手はずだ。なにせ賃料かからなくなったし、転移陣とストレージなどの魔法具は商業ギルド持ちになったし、錬金屋の店舗の生産設備の金くらい商業ギルドに落とさんとさすがに悪い気がする。
明日ログインしたらもうできていそうな勢いだ。他の店舗もチラチラ大工の手が入っているのが見えた。
私はアシャの仮面かぶって怪しさ全開な格好で店舗の出来を見に行っている。初対面の時に完全スルーだったトリンを凄いと思っていたが、冒険者が眼帯姿だったりマスカレード調の仮面を被っていたりと気がつけばありきたりだったというか、なんというか。異邦人の中で流行っているとでも思われているのだろうか。
アシャの仮面は目の部分はくり抜かれておらず、通常なら目隠しされたようになるはずが支障なく見える。プレイヤーメイドの眼帯も同じだろうか? こちらはつけたことがないのでわからない。
というか、隣がエリアスの店っぽいのだがどういう反応をしたらいいのか。隣との壁ぶち抜いて「やあやあこんにちはお隣です!」とかやったらウケるだろうか。やらないが。
それにしても最初の流れではジアースには一店舗制限とか言っていたはずだが、他国へ転移する冒険者が増えそうな傾向に慌てたのか生産者に示される条件が緩んできた気がする。もっとも将来はこんなこともできますよーと案内しておいてほんの一握りの実績だけニンジンとしてぶら下げるべきじゃなかろうな、とかひねくれて疑う私がいる。
どちらにしろ本職生産な方々も一店舗だけで満足な気がする。欲しがるのは職業商人な人くらいだろうか。とりあえず私をそっち方面の広告塔に使うことはないだろうからよしとする。
そんなことを思いながらアイルに来ている。
図書館にも惹かれるのだが、本日はまだ戦闘をしていないので戦闘目的の騎獣探しだ。いや、違う、騎獣目的の戦闘だ。
都市結界の中の敵が弱いのはわかっていたので、いやちがう、きっと騎獣がいるなら外だろうと走って首都アルスナから北北東の方角にあるアルバルの街に行き、利用はできないが転移門を解放、ついでにアルバルの街の主神であるタシャの拝殿に詣でた。
明日の移動の拠点となる宿を探しておいて、昼を食い街の外に。
なぜこの方向を選んだかというと、こちらの先にある海と隔てるように大陸の端を縁取るカルドモス山脈にフソウへの道があるのだ。まだ見ぬ米の産地。
目と口の異様に大きい猿のような魔物、木々を目で追いきれないほどの速さで跳び、動きを止めたかと思うと火の球を吐くエイル。
慣れないと厄介だが、目で追うことをやめ、跳ぶ軌跡の予測をし剣を振るうことを覚えるとだいぶ楽になった。常に【気配察知】を行い、マップの敵がどう襲ってくるかを予測し、動く。予測が難しい時には【誘引】を使用してエイルの移動方向を限定し、軌道を読みやすくする。
二時間、三時間、そのうち軌跡の予測を立てずとも、気配を感じた方向を斬ることで倒せるようになった。もっとも疾風のブーツで素早さが上がっているからこそ対応ができているのだろう。
カルドモス山脈に向かうにつれ、足元が柔らかい土から岩混じりの硬い物に変わってゆく。それにつれて土に潜りそこなった木の根が地表を這いさらに足元を悪くしている。苔むした岩、土を見つけられなかったシダの生えた木、ファンタジックで好みの風景だ。
取れててよかった【運び】のスキル、おかげで足場の悪さは気にならない。現実世界だったらいくら好みの風景でも一時間、二時間で歩くのは音を上げている。
《範囲攻撃スキルを使わず適正レベルより上の素早い敵を500匹連続で倒したことにより、スキル【心眼】を手に入れました。》
【心眼】は広範囲な索敵である【気配察知】の戦闘特化版みたいなものだった。性能は【気配察知】と経験に左右される。また、【気配察知】ではごまかされてしまう【潜伏】や【忍び足】【気配希釈】などの隠蔽発動中のモノも見つけられる。
剣の名人が屋根裏に潜んだ忍者を見つけられるようなスキルと理解した私は悪くない。
日が落ちて薄暗くなるころには力むこともなくなり、採掘や採取などをしながら進む。【伐採】もサーで取得した人がいるらしいが、あいにく私は持っていないので周りにある中々な枝ぶりの木に伐採ポイントがあるのか無いのか分からない。
本日も空には雲もなく、木々の梢から星々と二つの月がのぞく。
それにしても騎獣か、休憩所を作る結界がないと遠方の探索は難しい気がする。私が道無き道を行くのが好きなだけだが、街道沿いに戻ってログアウトしたとしても完全に魔物に襲われないとは言い切れない。
ガラハド達にメールして場所を聞こうかとも思ったが、迷宮の中は届かないしな。確か出たら連絡をくれると言っていたのでまだ探索中なのだろう。
明日行けば休みなのでもう少し探索して、騎獣の姿を見なければ本日は大人しく街に戻ろうかと思っていると怪しげな祠を発見。
入り口は木の根に半ば覆われておりなかなかに古そうだ。入るかどうか少々悩む、ここに入ってしまうと『帰還』の呪文を使った時にアルバルの街ではなく、この祠の入り口前、つまり今立っている場所に戻されるようにたぶんなる。
面倒、面倒なのだがもしかして騎獣がこのような祠で行われるクエストで手に入れる物だったら? ガラハドたちの話の具合だと可能性は少ないがないとも言い切れない。
「白さんや」
「だから何故、戦闘以外で呼ぶのじゃ」
「いや、この祠どう思う?」
「怪しいわ!」
「端的なご意見ありがとう。じゃあ入るか」
「何故そうなる?」
「景気付けだ」
迷った時は進む! だが、気分次第では退く!
私は白とともに祠の入り口をくぐった。
狭い洞窟のような通路を通り入り口から遠ざかるほど周囲の壁がうっすらと光るようになる。通路はほんの少し下り坂になっており今の所敵は出ない。
結構な距離を歩き地下帝国にでも続くんじゃないかと思い始めた時、通路を塞ぐ扉が見えた。
「再び怪しい扉だ」
白を撫でていた手を止めて話しかける。
「この扉には結界の文様が刻んであるの、条件を満たさねば開くまい」
扉には樹の枝とも孔雀の羽とも見える模様が刻んであり、中央にやや大きな円、その円を囲むようにある六本の木の枝の先、あるいは羽の先も円になっている。
「条件ってなんだろうな? この円に宝珠をはめ込むとかベタな仕掛けか?」
ここでも結界が登場、【結界】のスキルを取れば何か読み解くことができるようになるのだろうか。宝珠をはめ込むにしては円の部分は窪んでもおらず平だ。そう思いながら扉に触れると円の部分が次々光り扉が縦に割れる。まあ、横に割れられても困るが。
「うっかり開きました」
「なんでじゃ……」
□ □ □ □ □
・増・
スキル
【心眼】
□ □ □ □ □
ホムラ Lv.34
Rank C
クラン Zodiac
職業 魔法剣士 薬士(暗殺者)
HP 1162
MP 1485
STR 50
VIT 29
INT 101
MID 34
DEX 33
AGI 60
LUK 39
※神々の【寵愛】で繰り上がったものがあります。
NPCP 【ガラハド】【-】
称号
■一般
【交流者】【廻る力】【謎を解き明かす者】
【経済の立役者】【孤高の冒険者】【九死に一生】
【賢者】【優雅なる者】【世界を翔ける者】
【痛覚解放者】【超克の迷宮討伐者】
【防御の備え】【餌付けする者】
■神々の祝福
【アシャの祝福】【ヴァルの寵愛】
【ドゥルの寵愛】【ルシャの寵愛】
【ファルの祝福】【タシャの寵愛】
【ヴェルナの祝福】
■神々からの称号
【アシャのチラリ指南役】
【ドゥルの大地】【ドゥルの指先】
【ルシャの目】【ルシャの下準備】
【ファルの聖者】
【タシャの弟子】【タシャの魔導】
【神々の時】
■スレイヤー系
【リザードスレイヤー】【バグスレイヤー】
【ビーストスレイヤー】【ゲルスレイヤー】
【バードスレイヤー】
【ドラゴンスレイヤー】
■マスターリング
【剣王】【賢王】
スキル(1SP)
■魔術・魔法
【木魔法Lv.28】【火魔法Lv.30】【土魔法Lv.28】
【金魔法Lv.27】【水魔法Lv.27】【☆風魔法Lv.29】
【光魔術Lv.27】【☆闇魔法Lv.28】
【☆雷魔法Lv.28】【灼熱魔法Lv.9】【☆氷魔法Lv.22】
【☆重魔法Lv.21】【☆空魔法Lv.23】【☆時魔法Lv.21】
【ドルイド魔法Lv.22】【☆錬金魔法Lv.6】
■治癒術・聖法
【神聖魔法Lv.23】
【幻術Lv.1】
■魔法系その他
【マジックシールド】【重ねがけ】
【☆範囲魔法Lv.25】
【☆魔法・効Lv.19】
【☆行動詠唱】【☆無詠唱】
【☆魔法チャージLv.12】
■剣術
【剣術Lv.30】【スラッシュ】
【刀Lv.30】【☆一閃Lv.24】
【☆幻影ノ刀Lv.19】
■暗器
【糸Lv.29】
■物理系その他
【投擲Lv.6】
【☆見切りLv.28】
【物理・効Lv.13】
■防御系
【☆堅固なる地の盾】
■戦闘系その他
【☆魔法相殺】【☆武器保持Lv.25】
【☆攻撃回復・魔力Lv.21】【☆心眼】
■召喚
【白Lv.14】
■精霊術
水の精霊【ルーファLv.19】
闇の精霊【黒耀Lv.24】
■才能系
【体術】【回避】【剣の道】
【暗号解読】
■移動行動等
【☆運び】【跳躍】【☆滞空】【☆空翔け】
■生産
【調合Lv.23】【錬金調合Lv.30】
【料理Lv.28】【宝飾Lv.15】
■生産系その他
【☆ルシャの指先】【☆植物成長】
■収集
【採取】【採掘】
■鑑定・隠蔽
【鑑定Lv.38】【看破】
【気配察知Lv.38】【気配希釈Lv.37】【隠蔽Lv.37】
■強化
【腕力強化Lv.7】【知力強化Lv.9】【精神強化Lv.7】
【器用強化Lv.8】【俊敏強化Lv.8】
【剣術強化Lv.8】【魔術強化Lv.9】
■耐性
【酔い耐性】【痛み耐性】
■その他
【HP自然回復】【MP自然回復】
【暗視】【地図】【念話】【☆房中術】
【装備チェンジ】
【生活魔法】【☆誘引】
【盗み防止Lv.24】【罠解除】
【開錠】【アンロック】
☆は初取得、イベント特典などで強化されているもの




