70.神殿巡り
魔法都市アイル。
『ティガルの星屑』を手に入れるために来たのだが未だ明るい。採れる場所に星降る丘なんて名前が付いているからには行くのは夜の方がいいだろう。
なので前回おざなりになってしまった神殿巡りと残りの時間は図書館で過ごす事にした。
転移で出たタシャの神殿に詣で、白を呼び出し、時計回りに参拝して行きながら、移動中に買い食いや見慣れないものを扱う店を覗いてそぞろ歩く。
途中モスギルド長から連絡が入ったがスルー。観光中に面倒な用事はいらない。
神殿を一巡すれば観光客向けの主な場所は大体通る。ただ前回のクリスティーナとの出会いでこの王都では本当に格式高い施設は大通りには面さず、人の少ない閑静な場所にあるのを知っている。
大通りにある店は大きな店が多いが、まあ観光客向けの店なのだろう。落ち着いてゆっくりするというよりは、店の大きさにお財布事情的に入るのを躊躇う人はいるだろうが、基本的にオープンで煌びやかで心が浮き立つような造りだ。
一見さんお断りでも、じーさんの卸屋は大通りにも中通りにも面していたが流石にあのひっきりなしの荷馬車の量では当然だろう。そもそも性質が違う。
ところで角を曲がったり、神殿から出るタイミングで人とぶつかりそうになるのはこれは 【アシャのチラリ指南役】の効果なのか? その割に男の割合も半々なんだが?
男は華麗に避けて女性は一応転びそうなら支えるなりして回避。なんだか若干納得がいかなくて大きくなった白をもふりたい要望を伝えて却下された。
各神殿には見上げるほど大きな白亜の神像がある。
タシャの神殿には長い豊かな髭にローブを纏い本を開く叡智の老人。
アシャの神殿には戦装束に身を包み剣を持つ偉丈夫。
ヴァルの神殿には薄物を纏った空を見る解放の美女。
ドゥルの神殿にはストールを纏いその手から大地に種を落とす小柄な老女。
ルシャの神殿には大きな槌を持ちはにかむような笑顔を見せる繊細な少年の像と ――
「確保してきたよ」
笑顔のルシャが坐た。
いや、ルシャだけでなく前回会った農夫姿のドゥルも隣にいるんだが、ちょっと待って貴方が手に持って引きずっているように見えるのってタシャじゃないのか?
あれ? 気のせい?
ん? 確保ってそういう意味か?
え? 私のせい?
「すまん、どう反応していいか困るんだが」
「諦めろ。理詰めでかかるとタシャのようになるぞ」
ドゥルが私を見てからタシャに視線を送って助言してくれる。助言なのかあやしいが。
「おぬし、本当に神々とどういう関係なのか我に教えてくれぬか?」
白が呆れたようにジト目でみてくる。
私のせいじゃないと思います!
「タシャとドゥルがいれば大体のものは作れるんだよね? とりあえずカレーは食べたいな♪」
笑顔で要求を伝えてくるルシャ。語尾に音符がついているのがわかるような弾んだ声だ。
タシャの同意を得ているようには見えないのだがどうなのか。
「濃厚でホップの苦味の強い濃色ビール、日本酒でいいか?」
「辛めで」
諦めて手伝ってくれているタシャが言う、確か前回日本酒を気に入っていたはずだ。
「了解、甘口辛口両方作る」
ドゥルが今回は肉も用意してくれていたのでタシャ用に干し肉ジャーキーも作れた。
出された肉は鶏肉が灯火鳥と蜜花鳥、豚が火豚と鬼角豚、ほかに牛となんとドラゴンの肉!
……自分の持っている調理道具では解体できなかった罠よ。あれかルバに包丁を作ってもらうしかないのかこれ。折れた包丁を持って思わずしばし固まる。
「ああ、僕は料理はわからないけど、道具の方はなんとでもなるよ」
固まっている私に気づいたルシャが一式作って貸し出してくれた。職人の神ルシャ作の贅沢調理セット、包丁、鍋、フライパンその他。
「本当だ、全然違う。前のも美味しいと思ったけど、どこがどう違うかはうまく言えないけど美味しい」
ルシャのリクエストのグリーンカレー。
ドゥルの野菜を使った料理はやっぱり味の力強さも繊細さも違う。山椒を効かせた麻婆豆腐、唐辛子をまぶした灯火鳥の丸揚げなども作ったが、最初のグリーンカレーが至高らしい。
「ほうほう、この冷奴とやらはいいな」
ドゥルは豆腐料理と麺類を好むことが判明、またパスタだが。蕎麦、うどんは作ろうかと思ったが出汁が海産物という壁があるのに気づいた。あとでラーメンの作り方も調べておかねば……。一度作れば基本はレシピとして記録されるので二回目からは覚えていなくても作れるため、ログインする前にせっせと作り方を調べて一品ずつ地味にレシピを増やしている。工夫して旨く出来たのを上書きしてもいい。
アイスバインと骨つき肉の入ったポトフをタシャが気に入ったようで一安心。さすがに乾き物だけでは寂しいしな。というか肉好きなのか。
私は私で野菜が使い放題なのでサラダやら漬物やらやりたい放題やった。醤油と味噌は持って帰ってもいいですか?
そしてあれです、ドラゴンステーキ!
これは私の欲望の産物、ドラゴンといえばステーキでしょう! なんとなくだが! 赤肉の部分は分厚く。サシの入った霜降りの部分は山葵を添えて。
表面をこんがりと焼いた赤肉は六センチはある分厚さなので、外はこんがり切れば中はミディアムレアだ。噛めば肉汁が溢れ出す、味もさることながら肉食ってる!! という実感が素晴らしく。
対して霜降り肉はどこまでも柔らかく、脂が甘くそれでいて口に残ることがない。脂が口に残るかと思って山葵を添えたのだが不要なようだ。
白が種まで真っ赤な苺を堪能している横で肉にうっとりする私。
山葵は山葵で単体で食べても予想外に美味かった。付け合わせにした焼いただけの玉ねぎもやたら美味いし、ドゥルの野菜は相変わらず反則だ。
「日本酒もいいけど、僕は濃いほうのビールがいいな」
「む、この緑茶とやらはいいな。我は酒よりこちらがいい」
「儂は農作業の後はビール、食事と飲む分には日本酒がいいの」
ビールを飲みながらルシャが言えば、タシャが緑茶の香りを嗅ぎながら言い、冷奴をつまみながらドゥルが言う。薬味は茗荷に生姜、万能ネギに胡麻と色々用意してある。
こう、世の中には『鍛冶の神』、『泉の神』『石畳の神』と聞いただけで多種多様な神々がいそうなのに私は上位神の給仕をしていていいのだろうか。美味いものを食えるし文句はないのだが何かが違う気がしてしょうがない。
「そなた漸く迷宮に入ったか」
「ああ、まだ10層だがな」
「何の話?」
ドゥルの問いに答えればルシャがなんのことか聞いてくる。
「前回、迷宮の下層で早く肉を調達できるようになれと勧められたのでそのことだ」
「ああ、正直、料理も食材もよくわからないけど、今のドラゴンステーキ基準で行くと美味しそうな肉がいっぱいいるね」
固有名詞が肉になっていますがいったいどんな魔物がいるんですか……?
「今回は適当に持ってきたんじゃが本人がモノを知って選んだほうがいいじゃろうからの」
「食材ハンターか私は」
「"食材ハンター"いいね!」
転げるように笑い手を打ってよろこぶルシャ。
「気まぐれなヴァルと気難しいタシャが寵愛を与えたっていうからどんな生き物かと思えばなかなかいいね」
生き物ってなんだ生き物って。一見フレンドリーに見えて真っ黒だろう貴様。
「人の好き嫌いはルシャのほうがありそうだがな」
「ふふ」
「よく見とるな。コイツはヴァルのように気まぐれで、タシャのように気難しい上、我儘じゃ。前回そなたに会うのにかなり強引に縁をつけた様子じゃしな」
「ひとところにとどまらないヴァルが短期間に数度会うのも珍しいし、お堅いタシャが寵愛を授けるのなんて滅多にない。ドゥルだって守る方じゃなく攻撃職に祝福するなんて珍しいじゃない? 僕が気になるのもしょうがないよ。それに食事は美味しかったからね」
そう言ってグラスを弾くと真顔になる。
「そなたは僕の興を惹く、そなたはそなたの王であれ。金のように冷静、確実であれ。束縛や支配は無いと知れ」
以前、ヴァルやタシャから聞いたものと似た言葉を告げ終えると姿が消えてゆく。
「やれやれ、ほんに珍しい」
「儂に珍しいと言っておきながら、ヤツこそ職人以外に【祝福】を与えるなんぞ聞いた事がない。ましてや【寵愛】とはな」
え。二回会えば自動的に【寵愛】じゃないのか? いや、そもそも普通は逢えないのか。
「顔には出さんが、"むやみに壊すやから"と思ってか冒険者を避けとるからの。だが奴の範疇外の造り出す者というのも珍しいのだろう」
「まあ、儂も美味いもんは食いたいからの」
「まさかそなたも与えるつもりか?」
「それも面白かろうよ」
ドゥルがタシャにニヤリと笑って告げる。
「そなたは儂の心にかなう、そなたはそなたの王であれ。大地のように揺らぐことなかれ。束縛や支配は無いと知れ」
ドゥルの姿が消える。
この言葉が寵愛を与えるときに告げる祝詞のようなものなのだろうか。
「どうしたらいいんだこれ」
余った料理はルシャとともに全部消えた。だがルシャの用意してくれた塩――彼の司るものからしてたぶん元は岩塩――と、ドゥルの苺が手元に残っている。
「もらっておけ。そなたとそなたの獣にだろう」
「遠慮せんぞ私は」
そそくさと仕舞い込んで代わりにとっておいた日本酒を出す。
「ちょっと神々頼りなお返しで申し訳ないが、【冥結界石】の礼だ。どうにか作る見通しがたった、この国に来たのも『ティガルの星屑』が目的だ。出来たわけじゃないがいつ礼が言えるかわからんので今言っておく。ありがとう」
「妙なところで律儀よの」
少し驚いたようにタシャが笑う。
「すでに【寵愛】を与えておいてなんだが、過去【寵愛】と【使命】はだいたい表裏一体なのだ」
「【使命】……」
「どこぞの邪神を滅してこいなどというのが多いな。もちろんヴァルのようにただ気にいっただけで【寵愛】を与えるものもおるが、複数の神からの【寵愛】を受けてこれといって使命がないのも珍しい」
「もしや強いて言うなら私の使命は食材集め……」
白が私の膝の上でため息をついた。
「ドゥルではないが美味いものが食えるのはうれしいな。そうだな、迷宮に行くならこれをやろう」
タシャが手を横に振ると、その軌跡に合わせて杖が現れた。
「これは鍵じゃ、我は迷宮の始まりに関わっておらんから、そう深い場所ではなかったはずだが、怪しいと思うところで使ってみるがいい、きっとそなたなら御せよう」
「なんだ?」
杖を受け取ると私の疑問に軽く笑っただけで答えはなかった。
「まあ、そなたはそなたらしくあれ。どうやら他の神々もそなたとのやりとりを楽しんでいる」
そう告げて最後にタシャが消えた。
《称号【ルシャの祝福】が【ルシャの寵愛】に変化しました》
《称号【ドゥルの祝福】が【ドゥルの寵愛】に変化しました》
《称号【ルシャの下準備】を手に入れました》
《称号【ドゥルの指先】を手に入れました》
《スキル【植物成長】を取得しました》
《『ルシャの調理道具』を取得しました》
《『迷宮の鍵』を取得しました》
称号【ルシャの下準備】はあらゆる素材を加工できる状態にする、ルシャが持ち込んだ塩が使えたのはこれのおかげな気配。
称号【ドゥルの指先】あらゆる植物が良い状態で育成できる、もう自分で育てろってことだろうか。畑って買えるのか?
調理道具をそのままもらってしまった。
神器な調理道具って、この包丁もしかして私の『月影の剣』より強いんじゃあるまいな。
塩は『神饌の塩』だし苺は『神饌の苺』だし。
タシャの言うとおりに苺は白に。
「よいのかの?」
そう確認を取ってくるがすでに苺に手をかけて嬉しそうだ。
「白の食いっぷりがよくってくれたんだろうたぶん」
どうやら白は苺が好きらしく、宴会の間かなりの量の苺を消費していた。以前もルビーベリーを気に入ってたようだしな。
「あ、種だけ少しくれ」
【ドゥルの指先】をもらったからには種やら苗やら注意して集めよう。
潰さないように幾つか種を切り取り仕方ないといった風情の白に返す。苺を食べた白は幸運と素早さが上がったそうだ。
そしてもらった称号もスキルもお前は料理を作れとプッシュしている。前回はドゥルに迷宮探索に役立つようにと【堅固なる地の盾】をもらったし。
『迷宮の鍵』は杖に見えるが鍵らしい、武器としてのステータスはないようだ。隠し部屋の鍵ででもあるのだろうか。
「おぬしの交流関係と行動様式はどうなっておるのじゃ」
呆れたような白の声が神殿に響く。
□ □ □ □ □
・増・
称号
【ドゥルの祝福】→【ドゥルの寵愛】
【ルシャの祝福】→【ルシャの寵愛】
【ドゥルの指先】【ルシャの下準備】
スキル
【植物成長】
□ □ □ □ □
ホムラ Lv.34
Rank C
クラン Zodiac
職業 魔法剣士 薬士(暗殺者)
HP 1162
MP 1485
STR 50
VIT 29
INT 101
MID 34
DEX 33
AGI 60
LUK 39
※神々の【寵愛】で繰り上がったものがあります。
NPCP 【ガラハド】【-】
称号
■一般
【交流者】【廻る力】【謎を解き明かす者】
【経済の立役者】【孤高の冒険者】【九死に一生】
【賢者】【優雅なる者】【世界を翔ける者】
【痛覚解放者】【超克の迷宮討伐者】
【防御の備え】
■神々の祝福
【アシャの祝福】【ヴァルの寵愛】
【ドゥルの寵愛】【ルシャの寵愛】
【ファルの祝福】【タシャの寵愛】
【ヴェルナの祝福】
■神々からの称号
【アシャのチラリ指南役】
【ドゥルの大地】【ドゥルの指先】
【ルシャの目】【ルシャの下準備】
【ファルの聖者】
【タシャの弟子】【タシャの魔導】
【神々の時】
■スレイヤー系
【リザードスレイヤー】【バグスレイヤー】
【ビーストスレイヤー】【ゲルスレイヤー】
【バードスレイヤー】
【ドラゴンスレイヤー】
■マスターリング
【剣王】【賢王】
スキル(1SP)
■魔術・魔法
【木魔法Lv.28】【火魔法Lv.30】【土魔法Lv.28】
【金魔法Lv.27】【水魔法Lv.27】【☆風魔法Lv.29】
【光魔術Lv.27】【☆闇魔法Lv.28】
【☆雷魔法Lv.28】【灼熱魔法Lv.9】【☆氷魔法Lv.22】
【☆重魔法Lv.21】【☆空魔法Lv.23】【☆時魔法Lv.21】
【ドルイド魔法Lv.22】【☆錬金魔法Lv.1】
■治癒術・聖法
【神聖魔法Lv.22】
【幻術Lv.1】
■魔法系その他
【マジックシールド】【重ねがけ】
【☆範囲魔法Lv.25】【☆攻撃回復・魔力Lv.21】
【☆魔法・効Lv.19】
【☆行動詠唱】【☆無詠唱】
【☆魔法チャージLv.12】
■剣術
【剣術Lv.29】【スラッシュ】
【刀Lv.29】【☆一閃Lv.24】
【☆幻影ノ刀Lv.19】
■暗器
【糸Lv.25】
■物理系その他
【投擲Lv.6】
【☆見切りLv.27】
【物理・効Lv.10】
■防御系
【☆堅固なる地の盾】
■戦闘系その他
【☆魔法相殺】【☆武器保持Lv.25】
■召喚
【白Lv.14】
■精霊術
水の精霊【ルーファLv.19】
闇の精霊【黒耀Lv.23】
■才能系
【体術】【回避】【剣の道】
【暗号解読】
■移動行動等
【☆運び】【跳躍】【☆滞空】【☆空翔け】
■生産
【調合Lv.22】【錬金調合Lv.27】
【料理Lv.25】【宝飾Lv.11】
■生産系その他
【☆ルシャの指先】【☆植物成長】
■収集
【採取】【採掘】
■鑑定・隠蔽
【鑑定Lv.33】【看破】
【気配察知Lv.36】【気配希釈Lv.36】【隠蔽Lv.33】
■強化
【腕力強化Lv.7】【知力強化Lv.9】【精神強化Lv.7】
【器用強化Lv.8】【俊敏強化Lv.7】
【剣術強化Lv.7】【魔術強化Lv.9】
■耐性
【酔い耐性】【痛み耐性】
■その他
【HP自然回復】【MP自然回復】
【暗視】【地図】【念話】【☆房中術】
【装備チェンジ】
【生活魔法】【☆誘引】
【盗み防止Lv.24】【罠解除】
【開錠】【アンロック】
☆は初取得、イベント特典などで強化されているもの




