68.迷宮10層
VIT 26は伊達じゃない。
今までの道中の敵の全体攻撃といえば魔法、これは職業柄お茶漬の聖法士には及ばないが耐性がある。物理は投擲や射撃攻撃は別として、前衛と同じ全体攻撃をくらっても、敵から離れた距離に応じてダメージが軽減されていた。
ルシャとの邂逅の後、みんなと合流し依頼の薬を渡し5層へ転移。
10層のボス目指して始めたわけだが……
6層はさすがに憤怒のオークのようにでかくないが、人から比べれば1.3、4倍ありそうなオークが棍棒を持って出迎えてくれた。7層に進むと格闘持ちオークが混じり始め、全体攻撃をしてくるようになったのだが、その全体攻撃が距離に関係なくダメージがくる。
オークが四匹から六匹、集団で現れては、一度ためる動作をして同じ物理の全体をかけてくる。オーク一体の攻撃ならばそう痛くはないのだが集団でやられるとひどい。
「すまん、真面目に痛い。黒耀使っていいか?」
痛みに慣れるため、ボス以外にしばらく使用禁止令が出ている。
「ダメ。安心してください、僕なんて21です」
「オレ30。魔拳士で体力あがんねぇけど、ステ振りでふってる」
「13、キツイ!」
「ちょっ……」
「え」
「ひでぇ!」
「僕らのパーティー、VIT低いね」
「かわりに火力があるけどホムラの黒耀ないと必ず当たる大ダメージで壊滅しそう」
「ボスいくときは待ってるでし」
菊姫のVITが58、STRとVITにほぼ均等振りだそうだが、こちらもエルフという種族と途中シーフを経由しているために一般的な戦士と比べて低い。黒耀と全員が全体回復の精霊持ちなおかげで最前線にこれている。
ちなみにペテロ・お茶漬のレベルは32、ほかは31だ。シーサーペント狩りとか闘牛無双などアホなことをやっている間に追い越してしまった。
「レベル30のドワーフ・男性・剣士から戦士へ転職、ステ振りVITオンリーでVIT 100だそうです」
「種族と性別と職か〜」
「戦士はSTRのほうが高いんだけどね」
「後からきつくなりそうだけど、身内でやる分には好きなように育てていいだろ」
「わたち、一番高いステはVITとSTRの58でし」
「私今、AGI 63です。」
「速いなぁおい」
「器用にも振ってるし特化じゃないんだけどね、器用よりヴァルの加護分上がってるかんじかな」
「LUKのぞいて一番低いステ聞いていい?」
「STR・VIT・MIDが 13ですよ」
「なんというかお茶漬除いて全員攻撃特化という赤裸々な事実」
ナイフ・短刀系は力よりも素早さと器用さが武器にのるのだ。
ペテロは器用と素早さに毎回一ずつほぼ等分に振ったそうな。
種族、性別でも初期ステータスは違うので本当はせめて種族にあったステータスを伸ばして行くのが能力が上がりやすいと聞く。エルフ・女性な菊姫は初期ステに逆らって育てていると言っていいだろう。
「まあ、後半苦労するかもだけど身内でやる分にはいいんじゃね」
「毎度!」
「どっちにしろほぼこのメンツとしかやらないでし」
「安心のネタプレイ」
種族や性別を能力で選ばない人々。お茶漬を除くだが。私? 私は安定の人族です。とても平均。
「お茶漬、回復ご苦労!」
そう声をかければ
「ホムラは薬じゃんじゃんおねがいします」
こう返ってきた。
「しまった! いつもはお茶漬か白子の役目なのに」
「諦めて」
毎度生産よりなプレイをする白子もまたゲーム仲間だが今は別ゲームに行っている。――ゾンビ・ザ・ダッシュとかゲームタイトル言っておったがいったいどんなゲームなのか。『異世界』より数日早く出たVRゲームだと聞いている。リアル体験よりなゲームでゾンビは嫌だ。
まあ、今現在嫌なんですがね。
「ぎゃー! もう汁が飛ぶのはイヤでし!」
「次回はタワーシールドで全身隠すんだ!」
「スキル持ちオークの方がマシだ!」
8層で格闘持ちだらけになったかと思うと9層は斜め上にいってゾンビが混じり始めた。
「確かに8層は全体攻撃だらけでイヤになったがこれは聞いてないぞ!」
大声で文句を言いながらゾンビを焼いて行く。
「覚悟ができないうちに遭遇するのが冒険の醍醐味だぜ!」
「ちょ!待って焼かないで!やばい臭いするから!」
ゾンビといえば焼き払って浄化だろうと思ったが、思いの外肉が焼ける臭いが空気の凝る洞窟内に。
一応、魔法の炎なので酸素的なものはカナリアを放って確認しなくても安心だ。
「なんでオークは平気でこいつらだけこんな臭うんだ!」
「運営の嫌がらせ?」
「いいんだ、私は近づかない」
ライトイーグルの方に変更したらダメージ的にもいい具合のようだ。
「僕も近づきませんよ」
「【投擲】レベル上がっててよかった」
そう言いつつペテロが風を纏わせたナイフを連続で当てている。
「ん? 魔法ついてる?」
「そそ。INT高くないから主に付与に特化しようかと」
魔法使い系の付与は武器に魔法の属性効果を乗せる、シンが使う炎を纏った拳などだ。一方、聖法系の付与は人にかけてSTRやVITなど能力を上げるのが主だ。
早くから付与を使っていたシンには職業に付与士が現れており、魔法にも職業に『付与士があること』を条件に火魔術レベル25で『ハイエンチャント』が出たそうな。私は火レベル25では何も覚えなかったが、雷魔法レベル25で『雷光の矢』と『雷雲の檻』を覚えている、条件は【風魔法】と他にそれぞれ【光魔法(魔術)】・【闇魔法】がレベル25になっていることだった。
とりあえずあれだ、エンチャントするのもいいけどその前に普通に魔法をぶっ放す方向の私には『ハイエンチャント』が出ることがあるか謎だ。
「付与って結構MP使わない? いくつよ?」
「1017、ちなみにHPは935」
お茶漬の問いにペテロが答える。
パーティーだと位置取りの関係で後衛に収まっているが私のほうがHPが高い。AGIが高い密偵のペテロとレオはそもそも攻撃を避けるのが前提の職だ。
「いいなあ!」
「普通に魔法使うより楽しい!」
「 ! そういえばレオ、回復使えるよね?」
「おう! 使えるぞ。忘れてたが!!」
お茶漬の問いにレオが元気よく答える。
「おいまて、憤怒のオークで離れた場所でくらって、私とお茶漬に回復頼まなかったか?」
「だから忘れてた! 今言われるまで!!!!! わはははは」
「何のために取ったんでしか」
まあ通常営業です。
ゾンビにぎゃあぎゃあ言いながら(主に菊姫とシンとレオが)進めて行くとボス部屋への階段を見つけた。
敵以外の特記事項といえば9層には銅の採掘ポイントがあったことくらいか。宝箱もあったが中身は5層までとそう変わらず、普通に外の店で購入できる回復薬が主だ。薬の手持ちが少ないならありがたい中身なのかもしれない。
採掘ポイントは【ルシャの目】のお陰でなんとなく採掘ポイントのある方向がわかる上、ポイントはうっすら光っており見落とすことがない。一応出やすい地形というのはあるもので、それを覚えて観察すれば見分けられるのだが、戦いながら移動して地形を見てありそうなところを試しに掘ってみる、という作業をしなくていいのは楽だ。
また階段で飯を食っている。
雑貨屋でトレイを買った、自分の分だけ!
「え〜っ!僕の分ないの?」
「好みに合うのを自分で見繕え。買おうと思ったが、手にとって人様専用盆なぞなんで持ち歩かなきゃならんのか哀しくなった」
お茶漬以外にもブーブー言われたがそれくらい自分で用意御願いします。
ペテロがすでに用意していて、この会話の間にしれっと盆を差しだしてきたのはさすがと言おうかなんと言おうか。
本日はピッツァフリッタ、ブループのテールスープ、ドゥドゥの唐揚げ、オレンジジュースと紅茶orコーヒー。早く炭酸飲料作れるようになりたい。
ピッツァフリッタは小ぶりのピザを半分に畳んで揚げただけのものだ。表面はサクサクの食感でその後にモチッとした歯ごたえ、あふれ出すチーズ、チーズはたっぷりで後はトマトにハムだ。今回は唐揚げをつけたのでシンプルにしたが、中にゆで卵や大きめに切ったベーコンを入れたりするともっとボリュームがでる。テールスープは洋風にしてジャガイモ人参玉葱とトロトロになるまで煮込んだ。
「ぬあああうまいいいい」
「いいから騒ぐな」
レオが口から手までチーズを伸ばしたまま叫ぶ。器用だなおい。
「おいしいでし。中身チーズだけでもいいでし」
シンは唐揚げに夢中だ。
「そういえばテールスープってどうやって作った?」
「ブループのテールを作り置きの適当コンソメで煮込んだだけだが」
「いやいや、テールはどこで手に入れた」
「ああ、ブループとシープル倒しまくったら部位がドロップするようになって、さらに続けたら内臓系もドロップするようになった」
「雑談板の白い人ってホムラか!」
「白い人……まあ格好は白いが。欲しいなら内臓……は、今ないから肉の部位やるぞ」
言いかけて綺麗さっぱり未調理分はエカテリーナに押し付けたのを思い出した。
「生はいらん」
「調理済みをプリーズ」
「ステーキステーキ!」
シンが参戦してくる。
「あ、内臓から硝石作れないかな?」
「ちょっといきなりサラッと物騒なこと言い出した人がいるよ」
誰が言い出したかは言わずもがな。お茶漬がどんびいているが、爽やかにひどいのがペテロの通常営業ですよ! あと硝石=火薬の材料にピンと来ない他三人が置いてけぼりだ。相変わらずの騒がしさでボス前の休憩を過ごす。
《お知らせします。迷宮地下10階フロアボス『三匹のオーク』が炎王他5名によって討伐されました》
「おっと!」
「あら」
「先越されたでし!」
「残念、ちょっとのんびりしすぎた」
「まあ、しかたねぇ」
「またオークか」
それぞれ残念がる友人たち。そんな中私が気になるのは、
「三匹のこ……豚……?」
「わははははは! 肉再び!」
「てか、三匹って道中のアレ考えると嫌な予感しかしねぇ」
「うわ。やっぱり三匹いる」
食い終えてボス部屋です。
「ゾンビよりいいでし!!」
「とりあえず赤いオークの肩から部位破壊で」
「了解」
中に入ると憤怒のオークのボス部屋と似たような部屋で、中央に黒ずんだ赤・青・緑のオークがいた。憤怒のオークより一回り小さいかもしれないが三匹だ。
「うわあああああっ☆$%’)”#$っ!!!」
「ちょ! 痛い痛い痛い! 来い!『ルラン』」
「んぎゃああああああああっ」
「っ回復! 回復! 回復!」
赤いオークが倒れる寸前大ダメージ、ほとんど間をおかず青いオークからも大ダメージが。レオの叫びは後半言葉ではなくなっていた。
ペテロは冷静に水の精霊を呼び出し全体回復。お茶漬が焦って回復を叫んでいるが、慌てているせいでよくイメージができていないのか何度か失敗している。それでもペテロの水の精霊『ルラン』お茶漬の回復でバーの半分以上は回復したが青オークの攻撃でまた削られる。
何せ痛いし、順調に赤オークを倒せたからよけいにこの事態は予想外だ。
「って、緑からもくる緑からもっ!!!!」
「誘爆かなんかかよ!」
シンの声にそちらを見ると、緑のオークが腰を落としブルブルしていて、明らかに攻撃する力を溜めている。
「ぎゃあっ!! くるでし!『ルディ』」
「……っ! 【堅固なる地の盾】!」
阿鼻叫喚だ。
青からの攻撃でHPが六分の一いや七分の一に。お茶漬とペテロなんて目を凝らさないと残りバーが見えないレベルだ。そこから菊姫の水の精霊『ルディ』、お茶漬の回復でまた盛り返したが、同じ量のダメージが来るならそれでは間に合わない。
慌てて【堅固なる地の盾】を出す。
風圧が左右、頭上を抜けて行く、間に合ったらしい。
「この盾、次はダメージ半分は通すぞ、防御が落ちて次三分の二、四分の三。それが終わったら、リキャストのせいで実質この戦闘中はもう使えんからな!」
叫ぶように伝える。
「十分!」
「青腕から! また構えてる!」
「ヒイッ」
「【回復】!」
青色オークに『ライトイーグル』を放つ。ペテロ達も同じ腕を狙って総攻撃して部位破壊を起こさせ敵の攻撃を止める。
「今度はまた緑でし!」
「うがあああっ!」
緑オークに近い位置にいたシンが悲鳴とも雄叫びともつかぬ声をあげて緑オークの腕を攻撃、それに合わせて私たちも。腕の部位破壊に残った腕を振り回し暴れる青を菊姫が抑えている。
その菊姫が抜けた分と攻撃に移るまで間が少しあったせいか緑の部位破壊に失敗、全体攻撃を受けてしまう。【堅固なる地の盾】のお陰で半分は防いだが青の攻撃も受けていた菊姫のHPがまずい。
「この攻撃しかして来ないのかよ!」
「リキャ終わった、次受ける。【黒耀】『闇の翼』」
【黒耀】が覚えているスキルの効果は全体防御と単体用の防御だ。さすがの上位精霊で【黒耀】の防御があるとだいぶ楽になる。ちなみに当然のように後から覚えた単体用防御スキルのほうが効果が高い。
精霊は最大四つのスキルを覚える。レベルアップによって三つスキルを覚え、残りの一つは精霊のレベルが50を超えた後、能力追加の『精霊石』を使って覚える。幸い水の精霊【ルーファ】を手に入れた時、『精霊石』は同時に手に入れている。このままいけば【黒耀】に使うことになるだろう。
回復をお茶漬だけで済ませアタッカー全員で攻撃を出来れば部位破壊が間に合うのだが、アタッカーの誰かが回復や、今の私のように別の行動をとると間に合わない。
回復も微妙にお茶漬だけでは菊姫のHPが全快にならない場合があるのでしょうがない。今回も私が【黒耀】を使った分、ダメージ量が足りず部位破壊し損なうのは確実で、私の宣言と同時に攻撃を控えてそれぞれ回復行動をとった。
ギリギリなHPを何度見たことか。
《長男オークの藁×4を手に入れました》
《次男のオークの木×3を手に入れました》
《末っ子のオークのレンガ×3を手に入れました》
《兄弟オークの魔石を手に入れました》
《楢×10を手に入れました》
《防毒の首飾り+2を手に入れました》
「ぜーはー」
「はーはーぜーぜー」
「疲れた」
「きつかったでし」
「どう考えても倒す順番があるか、同時に倒すボス」
「うん。赤倒した後、同じ行動しかしない上、殺しにかかってたよね」
「赤倒した直後のあれ、ホムラの使った【堅固なる地の盾】ないパーティー詰む」
「水の精霊がなくても詰む気がする」
「木材とレンガはともかく藁はどうすんだこれ」
「どれが長男なんだ?」
「知らんがな」
疲れているせいか会話がちょっと噛み合わない。
【堅固なる地の盾】はリキャストが三十分、現実時間でなので実質戦闘に使えるのは一度だけだ。
ところでオークだから楢なのだろうか。樫じゃないところにマニアックさを感じる。




