63.迷宮都市散歩
早起きしてログイン!
と、行きたいところだったが布団の魔力に負けました。眼は覚めたのだが布団と別れがたくベッドでごろごろしてしまった。まあ、誰と待ち合わせしているわけでもなし、いいだろう。
迷宮都市。
西にある迷宮に近い一の郭には老舗が、一の郭の東には比較的新しい街の二の郭が、南はターカント公国の国主の居城がある。高台や水辺に建っているわけでも尖塔があるわけでもないので地味に見えるが城郭と合わせて機能性は申し分なさそうだ。北は西と同じく岩肌がむき出しの絶壁。
ターカント公国は首都バロンの名をとって迷宮都市国家バロンとも呼ばれる。なぜならこの国にはバロンしか街がない。迷宮があって、冒険者が訪れ、冒険者相手の商人が住み着き、バロンと呼ばれた、国となったのはその後だ。水気の乏しい固い大地は作物を実らせず、迷宮だけで成り立っている国なのだ。
一の郭の狭い道をそぞろ歩くと薬屋、魔法薬屋、魔法石屋、興味をそそる店が並んでいるが、主だった店はギルドなどから紹介があるかランクA以上でないと、一見様お断り、慇懃無礼に追い返される。
地図を埋めるために路地を歩いたが、路地から見る分には、なかなかいい風景がたくさんあり楽しい。
迷宮の真ん前の冒険者ギルドや宿屋のあたりは一度区画整理をしたのか整然としているが、少し離れた場所はまっすぐ見通せるような路地はなく、入り組んだ作りになっている。アップダウンも激しく、慣れるまではどこに出るのか予測がつかない。
昔からの住人の居住区もあるのだが、路地を歩いていたはずが気がつくと誰かの家の屋根を歩く羽目になることもある。ちょっとした冒険だ。
二の郭は大通り沿いに宿、武器、防具、薬屋と迷宮に潜るために必要な店が並び、その裏に宝石、鉱石、薬草屋などの素材系販売買取の店が並ぶ。こちらは計画的に作られたらしく、通りも真っ直ぐで広く、平に整地されている。わかりやすくはあるが、ちょっとつまらない。
昨日、二回目を潜る前に来た修理屋に寄り装備の修理を済まし、服屋という名の布製の防具屋で魔法使い用のローブと剣士用のコート、ズボンなどを、革製品屋で普段の冒険で履くブーツを新調する。
この世界は下着から鎧まで全て買えるし、相応の防御力を求めることも出来る。ただし、特殊効果などは重ね着するとそのほとんどが効果を打ち消し合うし、防御力100の鎧の下に防御力10の服を着ていても防御力110に加算されるわけではないのであまり意味はない。
私の持つもので例外は、残念女神のパンツくらいか。いや、あれも単品で穿いた方が効果が突き抜けてたな。穿かないけど。
魔法石屋と鉱石屋で装飾のレベル上げ用に手頃なものを購入。買取もしているとのことなので迷宮内に採掘ポイントがあるのだろう。
ここにも商業ギルドはあるが、何軒かの老舗から代表者を決め、運営をしている。露店など一時的かもしくは細々と商売をするぶんには寛容だが、きちんとした店を持ち本格的に商売を始めようとするとかなり手厳しい制裁まがいの歓迎にあうそうだ。自分たちのパイは渡さないというところか。ジアースの商業ギルドとは大分毛色が違う。
さてそんなこんなで只今迷宮地下二層にいます、ホムラです。
どうせログアウトしなければならないのでデスペナなんて怖くない! と思って思い切って来てみたが、デスペナの前に痛いのが怖い罠。
『アシャ白炎の仮面』、『月影の刀剣』、購入したばかりの黒いコート、『技巧の手袋』、『疾風のブーツ』、――この格好でビクビクしながら暗いダンジョンを進む私は、傍目からみるとかなり滑稽で怪しい人物に仕上がっている自信がある。
まあ本当に私が恐れているのは後遺症が残って意識はあるけれど動かせない、動けない系なので致命的と思える怪我も魔法で治せるこの世界では開き直ってしまえば問題なさそうなのだが、それにはもうちょっと経験が要りそうなので迷宮に来た次第。
ところで【痛覚解放】したところ不快な感覚も再現されるようになったが、服も汚れるようになった。それでも現実世界よりは汚れにくくはあるのだが。
現実世界では汚れを気にして絶対着ない! という理由で真っ白な引きずる丈のローブやらコートやらを着ていたのだが小まめに【生活魔法】の『汚れ落とし』やら『清潔』をかけねば薄汚れてしまう。で、思い切って黒にしたのだがここに来てから気がついた、埃はむしろ白いね、という。
ハイゴブリンは【痛覚解放】をしていなければ怖い敵ではない。
冷静に、攻撃を受ける前に倒して行く。
物理攻撃は見切り、いなし、受け流す。
問題は魔法と、単発を多数打つタイプでなく継続攻撃タイプの範囲攻撃だ。
痛いのを回避するため、色々やった結果、魔法は相克の属性、火だったら水を、木だったら金の魔法をぶつけると相殺されることが判明。魔法同士がぶつかった地点で爆発を起こす組み合わせもあったが、ソロなので気にしない。発動した魔法を瞬時に見分けて迎撃せんと相殺しそこなったり、爆発する組み合わせで消し去るどころか、すぐそばで大爆発させてダメージ倍など散々やらかしたが問題ない。
喜んだところで【範囲魔法】がきて泣いたが問題ない。
近接で戦っている今は【無詠唱】万歳! だし、パーティーで戦っているときは敵と距離があるハズなのでもっと余裕を持って対応できるハズ。今は魔法同士の相殺を練習中なのでやっていないが、単体魔法は剣で切り飛ばせるし、なんて思っていたら。
《適正レベルより上の敵からの魔法を500回連続で相殺したことによりスキル【魔法相殺】を取得しました》
このスキルの効果で敵の魔法詠唱中に属性を見分けることができるようになり、火に木のような相生関係の魔法、でなければ相殺できるようになった。ただし同じ属性魔法で迎え撃つほうが弱いと相殺するハズが益々威力を上げてしまうし、火に水のように属性的に強くても放った魔法の差が大きければ飲み込まれてしまう。要するに、自分の魔法より強い敵の魔法はどうしようもない。
魔法同士は置いておいて、物理攻撃ぶつけて無効化できるようになった! 具体的に言うと魔法が斬れる! 今すでに『月影の刀剣』で斬れるんだけどね!
ちょっと楽しい。
称号と仮面の効果なのか慣れなのか、痛さでミスをすることなく進めている。そして【神聖魔法】の『回復』に気力回復が付いていることに【痛覚解放】する前はまさかこんなに助けられるとは思っておらんかった。
神聖魔法もレベル20で無事『ディスペル』を覚えたので、また他の魔法のレベル上げも暇なときにしよう。
『そういうわけで白、ちょっと慣れてきたのでお願いします』
『第一声が意味がわからんことが多いのじゃが』
『まあ、痛みに負けずに回復する自信が持てたのでな』
『普通は自信がないときにこそ喚ぶものではないのかの?』
『がんばってブラッシングしてさらに柔らかくなった毛皮に傷を残すなんてことはできん』
『お主の優先順位はおかしいぞ。あとダンジョンで撫で回すのはやめるのじゃ!』
『嫌です。今ここで癒しが必要なのだ』
この柔らかな手触りよ。至福。
あ、【気配察知】常時していますのでご心配なく。戦闘以外の時はさらに【糸】での探索もしている。
モフるだけモフッて、うっとりしていた白が正気に戻ってガブガブと何箇所か噛まれるなどあったが、順調に進軍。
順調すぎてボス前だ。
本日三回目のオーク戦。
トン、と地面を踏んで飛ぶ。
黒いコートの裾が風をはらんで広がる。
跳躍はオークの背を楽々と超えるほど高く。
飛び越えざま肩口を斬って回転し、優雅に弧を描いて音も立てずに着地する。
黒い羽根が広がって薄れる。
黒耀の防御魔法をかけた直後に飛び発動エフェクトが消える前に済ませた先制攻撃。
『見事なもんじゃの』
私のあとに次いでオークの横を駆け抜けた白が言う。
オークの斧を受けきることも、受け流すことも私の筋力では無理だ。
だが部位破壊なら?
できると踏んだ。
斧を取り落とし、腕をだらりと下げたオークは、白に触れられて痺れている。
『おや、痺れるなら部位破壊いらんかったか』
言いながら斬撃を叩き込んで行く。
『いや、我の力はまだまだじゃ。このデカブツは長く止めておけん』
その言葉通り憤怒のオークが動き始める。利き手が動かないため、もう片方の腕をやたらめったら振り回し太い足で暴れまわる。
「『薔薇の檻』」
無詠唱が可能とはいえ、パーティーの時は仲間に何をするか自分の行動を知らせるために魔法名を口にする。
では一人の時に魔法名を口にするのは?
使い慣れない魔法を自分の中で特定するためだ。さすがに曖昧なイメージでは発動しない。ライトイーグル等は使い慣れてそれこそ瞬時に発動が可能なのだが。
あまり人前で使いたくないこの魔法は地面から蔓薔薇を発生させ敵を絡め取り、白く咲き誇る薔薇が赤く染まるまで敵のHPを吸い取る。ダメージはINTに依存し大ダメージを与えるわけではないが、発動中は行動阻害の効果もある。リキャスト時間が設定されている魔法で連発はできないのだが、状態異常単体であると白の【麻痺】のようにボスや格上の敵に効果が入りにくいのだが、『薔薇の檻』は短めではあるが確実に行動阻害効果がでるので便利だ。――便利であるのだが見た目が使うのをためらわせる。
【木魔法】レベル20の魔法なのでクラウも使えるはずだな、などと思いながら動けないオークに攻撃を叩き込む。
『白、【咆哮】は石柱の影に』
『承知じゃ』
『薔薇の檻』から解放された憤怒のオークが【咆哮】を上げる。
通常攻撃をほとんど発動させないまま【咆哮】が来たということは、時間か与ダメージ量かどちらかで発動なのだろう。憤怒のオークの上げる【咆哮】にビリビリと震える石柱に隠れて次に来る全体スキルもやり過ごす。
『お主、えげつないのぅ』
憤怒のオークが石柱を倒す行動中に今度は膝の部位破壊をしましたが何か?
その場に膝をついて動かないが、すでに回復した――再生に近い?――自由になる両腕を振り回し、斧は風を切ってブンブンと音を立てている。
当たればそれなりのダメージを受けるだろうが、回避不可のスキルを発動されるよりははるかにいい。近づくつもりもないしな。
「『雷光の矢』」
当然チャージして2連。
【光魔法】がレベル25以上ないと、覚えない【雷】レベル25の単体用の魔法。同時に条件【闇魔法】25で『雷雲の檻』という範囲魔法も発現している。
基本属性以外の魔法には神聖魔法の『治癒』と同じく、何か条件を満たさないと覚えないものが存在する。ちなみに最初から範囲指定の魔法は直径二メートルほどがデフォルトの範囲のようで、巻き込めても隣り合った近しい敵くらいのものだが、スキルの【範囲魔法】を重ねて発動することで単体対象の魔法に重ねるよりも当然範囲はぐんと広くなり、ようやく使い勝手が良くなる。
もっとも【範囲魔法】自体レベル25になって漸く使いやすくなってきたのだ、最初は効果範囲は狭いわ、魔法の威力は弱まるわでどうしようもなかった。
【咆哮】をきっちり避けて憤怒のオークの瀕死やHPを半分持って行くようなスキルを潰してしまえば思ったほどきつくない。続けて同じ場所の部位破壊はできなかったがそれでも、腕・二箇所、膝・二箇所の部位破壊を行えばかなり有利に戦闘を進められる。
最初のボスなので戦い方さえわかればこんなものなのかもしれない。もっとも一撃で部位破壊するほどの威力を持つ剣と装備のおかげであるのだが。
《ソロ初討伐称号【防御の備え】を手に入れました》
《ソロ初討伐報酬『散じた髪飾り』を手に入れました》
《お知らせします、迷宮地下5階フロアボス『憤怒のオーク』がソロ討伐されました》
《憤怒のオークの皮×5を手に入れました》
《憤怒のオークの豚肉×4を手に入れました》
《憤怒のオークの胸バンドを手に入れました》
《憤怒のオークの魔石を手に入れました》
《黒鉄×10を手に入れました》
《体力の指輪+3を手に入れました》
『お疲れ様、白』
『フン、危なげなかったのう』
つまらなそうに鼻を鳴らす白。
『三回目なのでな。お茶する時間ありそうか?』
痛みに慣れるためのボスというのもあるんだろうが、憤怒のオークは同時に部位破壊の練習用ボスでもあるのか、と思いながら地上に戻った。
物理攻撃で必殺技みたいなスキルが欲しい。
菊姫や炎王はけっこう派手なのを使っていたのを見て羨ましいと漏らすと、菊姫からまずはスラッシュから頑張れと言われて放置している。私の戦闘スタイルでは一度構えて発動というスラッシュの使い所が難しい。そんな暇があるなら斬ったほうが早い。
称号【防御の備え】は部位破壊をされにくくする。
アイテムの『散じた髪飾り』はちょっと面白くて細い白銀色の鎖に台座だけが六つついていてそこに好きな宝石をつけられるようになっている。ぶら下がっている台座もごく小さな鈴のように見え、それだけでも不格好には見えず、むしろシンプルで良い。派手にでかい飾りが付いていたらお蔵入りするところだった。
しかし髪飾りとあるがどうやってつけるのかと思えば、説明を見ると左右の耳の上あたりに端をつけて後頭部に垂らすもののようだ。本来は鎖の端にも大きな装飾が付いていたのかもしれないが、今は無く、装備すると仮面にくっついて後ろに垂れた。
うん、何ていうのか知らないがメガネをぶら下げる装飾に似てるな。
思考は『異世界』のことでいっぱいだがこれから仕事なのである。
どんなラスボスよりも優先的に立ち向かわねばならない現実世界のクエストだ。
□ □ □ □ □
・増・
称号
【防御の備え】
スキル
【魔法相殺】
□ □ □ □ □
ホムラ Lv.34
Rank C
クラン Zodiac
職業 魔法剣士 薬士(暗殺者)
HP 1161
MP 1484
STR 50
VIT 26
INT 100
MID 34
DEX 30
AGI 60
LUK 39
NPCP 【ガラハド】【-】
称号
■一般
【交流者】【廻る力】【謎を解き明かす者】
【経済の立役者】【孤高の冒険者】【九死に一生】
【賢者】【優雅なる者】【世界を翔ける者】
【痛覚解放者】【超克の迷宮討伐者】
【防御の備え】
■神々の祝福
【アシャの祝福】【ヴァルの寵愛】
【ドゥルの祝福】【ファルの祝福】
【タシャの寵愛】【ヴェルナの祝福】
■神々からの称号
【アシャのチラリ指南役】
【ドゥルの大地】
【ファルの聖者】
【タシャの弟子】【タシャの魔導】
【神々の時】
■スレイヤー系
【リザードスレイヤー】【バグスレイヤー】
【ビーストスレイヤー】【ゲルスレイヤー】
【バードスレイヤー】
【ドラゴンスレイヤー】
■マスターリング
【剣王】【賢王】
スキル(1SP)
■魔術・魔法
【木魔法Lv.27】【火魔法Lv.30】【土魔法Lv.28】
【金魔術Lv.27】【水魔法Lv.27】【☆風魔法Lv.29】
【光魔術Lv.26】【☆闇魔法Lv.28】
【☆雷魔法Lv.27】【灼熱魔法Lv.6】【☆氷魔法Lv.22】
【☆重魔法Lv.21】【☆空魔法Lv.23】
【☆時魔法Lv.21】【ドルイド魔法Lv.22】
■治癒術・聖法
【神聖魔法Lv.22】
【幻術Lv.1】
■魔法系その他
【マジックシールド】【重ねがけ】
【☆範囲魔法Lv.25】【☆攻撃回復・魔力Lv.19】
【☆魔法・効Lv.16】
【☆行動詠唱】【☆無詠唱】
【☆魔法チャージLv.12】
■剣術
【剣術Lv.28】【スラッシュ】
【刀Lv.29】【☆一閃Lv.24】
【☆幻影ノ刀Lv.19】
■暗器
【糸Lv.25】
■物理系その他
【投擲Lv.4】
【☆見切りLv.27】
【物理・効Lv.7】
■防御系
【☆堅固なる地の盾】
■戦闘系その他
【☆魔法相殺】【☆武器保持Lv.24】
■召喚
【白Lv.12】
■精霊術
水の精霊【ルーファLv.17】
闇の精霊【黒耀Lv.21】
■才能系
【体術】【回避】【剣の道】
【暗号解読】
■移動行動等
【☆運び】【跳躍】【☆滞空】【☆空翔け】
■生産
【調合Lv.19】【錬金調合Lv.18】
【料理Lv.18】【宝飾Lv.1】
■収集
【採取】【採掘】
■鑑定・隠蔽
【鑑定Lv.27】【看破】
【気配察知Lv.34】【気配希釈Lv.34】【隠蔽Lv.30】
■強化
【腕力強化Lv.6】【知力強化Lv.8】【精神強化Lv.7】
【器用強化Lv.7】【俊敏強化Lv.7】
【剣術強化Lv.6】【魔術強化Lv.7】
■耐性
【酔い耐性】【痛み耐性】
■その他
【HP自然回復】【MP自然回復】
【暗視】【地図】【念話】【☆房中術】
【装備チェンジ】
【生活魔法】【☆誘引】
【盗み防止Lv.24】【罠解除】
【開錠】【アンロック】
☆は初取得、イベント特典などで強化されているもの




