61.迷宮2回目
「わたちはお風呂いくでし!」
「はいはい、いってらしゃい」
「次、僕ね」
宿代を払って部屋を取ったのは私と菊姫、お茶漬、三人で一部屋だ。
部屋に向かう菊姫と別れて食堂に向かうと、ロイたちがいた。ついでに見慣れないメンツも。
「おう! 来たか」
「やあ」
ロイに軽く手を上げて答え、クラウを見る。誰ですこの人たち。
「お帰りなさい〜」
「おかえりなさいー」
ペテロを出迎えまとわりつく二人。
「さすがロリキラー」
シンが呟いた。
「こちら炎王さん、迷宮に初めて足を踏み入れた方です」
クラウが隣のテーブルにいた赤髪の男を紹介する。
「あちらのパーティーの代表で一緒に攻略方法聴きたいそうなの〜いいかしら〜?」
「炎王だ、よろしく頼む」
背は低めだががっしりした体型の少年と青年の中間くらいの外見年齢、燃えるような赤い髪はライオンのタテガミのように広がり腰の辺りまである。"炎"という名前がよく似合う男だ。
「攻略法……」
「攻略法?」
攻略法と言われて心当たりがなかった私。シンも不審顔。
「まさかのノープラン!?」
ロイが驚く。
「ボスは普通に石柱に隠れながらやったし、足の速い人が遠い石に行くくらいか?」
ゲームに慣れている人ならプランと言うほどではないような。
「いや、道中とか、薬盗んでくるのの対策とかどうした?」
お互い自己紹介をしてテーブルを寄せて席に着く。
炎王のパーティーメンバーは話が聞こえる隣のテーブルにいるが、話自体には加わらない様だ。自己紹介されたが覚えていられる自信がない罠よ。
「僕と盾の菊姫がまず【痛覚解放】してない」
「おっと、前提からしてダメだわ」
暁が言う。
「ただ【痛覚解放】してないとナズルっていう細かいのが集ってきて動けなくなるから、鬱陶しいからこれから僕と菊姫も解放しに行くよ」
お茶漬が説明する。
「盾の【痛覚解放】してないなら参考にならないぜ」
すごい炎王がブスッとしてる。態度悪いぞ。
「回復役は【痛覚解放】した人に対して、今までは回復しなかったようなHPの減り具合でも痛みが消えるから最初のうちはすぐに回復して、あとは回復するまでの時間をちょっとずつ長くして痛みに慣らさせてくといいかな。でも大きなダメージ一度に食らった時はなるべく早く回復」
……後半、回復がなかなか来なかったのって敵が強くなって菊姫の回復に忙しかったんじゃなくてわざとだったのかあれ? 後から知る新事実。
「ゴブリンの盗賊はどうしたんですか? 私たちは薬が無くてロイの回復が間に合わなくなって気絶させてしまったんですが」
「あー、ゴメン。そっちはホムラが【盗み防止】持ってたからホムラに回復薬全部持っててもらっただけ」
「まあ、盗み防止なくても素早さが高いと盗まれづらいみたいだし。その人に持っててもらったら?」
「あと、『生命活性薬』飲んでおくとすごい気が楽だった!」
お茶漬の説明にペテロが補足し、レオがもう一つアドバイスする。
「ああ、ちょっとでも回復すると痛みが少し軽減されて楽になった気になるな。あと回復が来ないんじゃないかという不安が取れる」
「生命活性か。迷宮都市の薬屋にも売ってたな、たいして回復しないが役に立つなら試してみるか」
腕を組んで眉間に皺を寄せて考える炎王、キャラ年齢若いのに立派な縦じわが。
「やっぱり痛みには徐々に慣れていかないとダメですよね〜」
シラユリがコーヒーカップを包むように持ちながら残念そうに言う。
「あんたらアタッカーだけとはいえよく痛みに耐えてボスまでいけたな」
「どS二人に言われて仕方なく!」
「誰がSでしか!」
いつの間にか近づいていた風呂上がりの菊姫がシンの脇腹に拳を入れる。肝臓えぐるやつだ。
「ぎゃー!! 痛いっ!」
悲鳴を上げて腹を抱いて机に突っ伏すシン。
「おや、【痛覚解放】すると宿屋でも攻撃有効?」
「いだだだだだだ」
そのシンを抓って痛いか確かめるお茶漬。
どうやらスキルは使えないが普通に殴ったりする分には痛みを感じる様子。そして若干引き気味の炎王やロイたち。すまんすまん。
「じゃあ僕はお風呂いってきます」
「いってら〜」
シンをつねるだけつねってあとは放置で風呂へ行くお茶漬。安心してください、現実世界ではここまでじゃないです。
でもゲームでは通常営業なので気にしたら負けです。
「このちっちぇのが盾かよ。解放に耐えられるように見えねぇぜ」
「痛いの嫌だけどやってみるでしよ」
そんなに嫌だったのかナズル。私も蚊に大量にたかられるくらいなら痛い方を我慢するのを取るが。
「良さげな称号とれたしな」
シンが口を滑らせた。
☆ ☆ ☆ ☆
「よろしく頼むぜ。オレは炎王、攻撃系の戦士だ」
「自分は盾寄りの戦士で大地であります、宜しくお願いするであります」
フルフェイスに近い兜をかぶっているので顔がわからんが、顎から想像する限りがっしりしている盾さん。
「弓のクルルにゃー、よろしくにゃ!」
こっちは猫耳ベビーフェイスの少年、髪の色はクリーム色で毛先と耳、尻尾の先だけ赤。
「あたしは武闘家ギルヴァイツア、ギルってよんでねん」
真っ赤なチャイナに黒いズボンにごついナックルを装備した背が最大だと思われる赤い髪を後ろに流したオネェさま。話さなければ野性的な印象の男前に見えるんだが。
「聖法士のお茶漬です、よろしく〜」
「魔法剣士、ホムラです、よろしく」
お茶漬がスルーしたので私もなんとなくスルーして挨拶をする。
はい、三パーティーシャッフル探索です。
菊姫が盾のパーティーは回復A、アタッカーにレオ、シン、モミジ、魔法使いB。
大地が盾のパーティーは回復にお茶漬、アタッカーに戦士炎王、私、弓のクルル、武闘家ギルヴァイツア。
ロイが盾のパーティーは回復にシラユリに、アタッカーにペテロ、カエデ、クラウ、暁。
ABは仮名だ。
パーティー組んで改めて自己紹介したメンツならともかく、食堂で会ったきりの炎王のパーティーメンバーは覚えきってなかった。たぶん大地も食堂では兜を脱いでいたと思うのだが、いまだにカエデモミジ見分けが怪しい私の認識能力をなめるな。まあだがきっと大地の髪もきっと赤いんだろうな、たぶん他も炎王のメンバーは赤かった気がする、その程度の認識だ。
そして隠蔽レベル30でスキルのレベルが変えられるようになったので慌てて変えた。
生産ごと消し去っていたのだが、料理と調薬はロイたちにはばれているし、得意料理は無難なものを残して非表示、得意錬金が空欄でもおかしくないように錬金レベル1に。剣術のレベルを大幅に下げて魔法使いがメインですよ〜という顔をすることにした。
プレイヤー同士なら偽装したこの情報を見られること自体がそうそうないだろう、【鑑定】レベルが高くとも、ギルドカードに載せた情報くらいしか出ないハズだ。
そういうわけで再び迷宮。
薬屋で購入した薬の類を私が全て預かり、『生命活性薬』が切れるたびに預かっていた薬を各人に渡し、ボス前で全てを返す方式。覚えていられんので薬屋で調達する時点で数は同じ数に揃えてもらった。
アイテムを預かるにあたってパトカの交換も済ませた。
またハイゴブリンの全体攻撃を受けに来ているとんだドM集団が三つ。
その中に自分も入っている不思議。現実世界では絶対こんな痛みなど受けないからこそチャレンジしたくなるのだろうか。
「うををををっ!行くぞッ!」
「ハァッ!!」
「行くにゃ〜」
はすに構えて見えたのに戦闘は熱い男、炎王。大地だけ淡々と仕事こなしてるな。現実世界でうんぬんよりこれノリの世界ですね、わかりました。嫌いじゃないです。
私がお茶漬を回復して、痛みが消えたお茶漬が全員を回復する形をとっている現在。
私ももちろん痛いのだが、お茶漬は【痛覚解放】したばかりで慣れていない、痛みを我慢して動くべきは私だろう。
ここはやせ我慢をする。
「我、生殺与奪の権利を得たり!」
高笑いしてみながらお茶漬に回復薬をぶつける私。思い切りぶつけるのも楽しい私はSの素質があるのだろうか、悩む。
「本来それは僕の役! 返してもらうから! 絶対返してもらうから!」
「あんたらいつもそんななのか?」
戦闘中小芝居やってたら炎王に呆れられた。待て、じゃあ貴様の熱血は素なのか。
「通常営業です」
「諦めて」
「……まあ、連携しっかりしてるしかまわねぇけどよ」
私とお茶漬の言葉に諦めたらしい炎王。
「こんな痛いのに笑っちゃってダメにゃ〜」
「傷が開くわん」
「まとめて回復しますよ、お茶漬が」
「そこは僕なのね」
笑えるメンタルの持ち主たちでよかった。
もちろん痛みに戦闘が滞る場面もあるがお互い二回目なので特に問題なく進む。『ルーファ』で全体回復を入れながら火と風、光の魔法縛りで戦闘をしている現在。
なぜなら風呂に入り損ねたから。
他のメンツを待たせて入る気満々だった風呂だが、三パーティー合同の流れで、他の二パーティー十二人を待たせる勇気のなかった私。
このうっそり湿気っぽい洞窟に風と火と光を! という気分で使っていたら炎王に「その三属性をメインで使うのか、ハルナと対極だな」などと勝手に納得されたために他の属性も同じくらいだと言い出し辛いし、マスターリングのおかげで普通より威力が高いのでこの三属性に特化しましたみたいな顔をして使っている。ハルナはきっと菊姫のパーティーにいった魔法使いのことだろう。
そして無事ボス前。
「薬返却するぞ」
「おう、感謝する」
「あら? これじゃ預けた数だわ。途中あたしたちを回復するのに幾つか使ったんじゃない?」
「それは別に預かってなくてもしたことだ」
痛みに耐えながら使う様子が、なかなか難儀そうだったので、結局私が薬を投げて回復していた。
「前半結構回復されたのにゃー」
「まあ、痛みになれるまではお互いにな」
などと恩着せがましく言ってみたがすみません、フラスコみたいな薬瓶をぶん投げて当てるのが楽しくなっただけです。つい、【投擲】とってしまったくらいには。大分前にスキルリストに出ていたのでスキルポイントは2で済んだ。
「ちょっとホムラさん、やばい他のメンツが真面目に飯食ってる」
「あ。手遅れだ」
道中もそんな感じはしたのだ。うちのパーティーのように階段で止まってのんびり飯を食うこともぜず、歩きながら時々飲み食いしているメンツを見て。
ボス前だからと階段に座って休憩を取っているわけだが、他のメンツはその職業にあった飯を各自食ってる。しかも串焼きやら移動しながら飲み食いできる露店で売っているような形状のものを。対する私とお茶漬はステータスアップ効果をまるっと無視してカレーうどん。
匂うからだろう、他のメンツもすでにこっちを見てる。
「もっとTPOを考えて!」
「すすりながら言うのやめろ。同罪だ」
「だってここ、うすら寒くてカレーうどん美味しい」
「やっぱり菊姫が言うようにお盆は必要だな」
「後で雑貨屋覗こう」
「いや、ステータス足りるなら飯くらい自由に食ってもらっていいが」
炎王が凄く複雑そうな顔をしている。
「いい匂いにゃ〜」
「ここは確かに少々冷えるであります」
おっと大地が口を開くの珍しい、低くていい声だ、口調が自衛官みたいだが。
「【痛覚解放】する前は気にならなかったのよねぇ」
「よければ食うか?」
「ぜひににゃー!」
カレーうどんは好評のようです。
□ □ □ □ □
・増・
スキル
【投擲】
□ □ □ □ □
ホムラ Lv.34
Rank C
クラン Zodiac
職業 魔法剣士 薬士(暗殺者)
HP 1161
MP 1484
STR 50
VIT 26
INT 100
MID 34
DEX 30
AGI 60
LUK 39
NPCP 【ガラハド】【-】
称号
■一般
【交流者】【廻る力】【謎を解き明かす者】
【経済の立役者】【孤高の冒険者】【九死に一生】
【賢者】【優雅なる者】【世界を翔ける者】
【痛覚解放者】【超克の迷宮討伐者】
■神々の祝福
【アシャの祝福】【ヴァルの寵愛】
【ドゥルの祝福】【ファルの祝福】
【タシャの寵愛】【ヴェルナの祝福】
■神々からの称号
【アシャのチラリ指南役】
【ドゥルの大地】
【ファルの聖者】
【タシャの弟子】【タシャの魔導】
【神々の時】
■スレイヤー系
【リザードスレイヤー】【バグスレイヤー】
【ビーストスレイヤー】【ゲルスレイヤー】
【バードスレイヤー】
【ドラゴンスレイヤー】
■マスターリング
【剣王】【賢王】
スキル(1SP)
■魔術・魔法
【木魔法Lv.27】 【火魔法Lv.29】【土魔法Lv.28】
【金魔術Lv.27】 【水魔法Lv.27】【☆風魔法Lv.28】
【光魔術Lv.24】【☆闇魔法Lv.28】
【☆雷魔法Lv.27】【灼熱魔法Lv.2】【☆氷魔法Lv.22】
【☆重魔法Lv.21】【☆空魔法Lv.23】
【☆時魔法Lv.21】【ドルイド魔法Lv.22】
■治癒術・聖法
【神聖魔法Lv.21】
【幻術Lv.1】
■魔法系その他
【マジックシールド】【重ねがけ】
【☆範囲魔法Lv.24】【☆攻撃回復・魔力Lv.17】
【☆魔法・効Lv.16】
【☆行動詠唱】【☆無詠唱】
【☆魔法チャージLv.12】
■剣術
【剣術Lv.28】【スラッシュ】
【刀Lv.27】【☆一閃Lv.24】
【☆幻影ノ刀Lv.19】
■暗器
【糸Lv.20】
■物理系その他
【投擲Lv.1】
【☆見切りLv.27】
【物理・効Lv.7】
■防御系
【☆堅固なる地の盾】
■召喚
【白Lv.11】
■精霊術
水の精霊【ルーファLv.16】
闇の精霊【黒耀Lv.21】
■才能系
【体術】【回避】【剣の道】
【暗号解読】
■移動行動等
【☆運び】【跳躍】【☆滞空】【☆空翔け】
■生産
【調合Lv.19】【錬金調合Lv.18】
【料理Lv.18】【宝飾Lv.1】
■収集
【採取】【採掘】
■鑑定・隠蔽
【鑑定Lv.27】【看破】
【気配察知Lv.34】【気配希釈Lv.34】【隠蔽Lv.30】
■強化
【腕力強化Lv.5】【知力強化Lv.7】【精神強化Lv.6】
【器用強化Lv.6】【俊敏強化Lv.6】
【剣術強化Lv.5】【魔術強化Lv.7】
■耐性
【酔い耐性】【痛み耐性】
■その他
【HP自然回復】【MP自然回復】
【暗視】【地図】【念話】【☆房中術】
【装備チェンジ】【☆武器保持Lv.24】
【生活魔法】【☆誘引】
【盗み防止Lv.24】【罠解除】
【開錠】【アンロック】
☆は初取得、イベント特典などで強化されているもの




