57.迷宮都市バロン
迷宮都市バロンの神殿に転移する。
これで登録が成ったので、次回は魔法で転移できる。四万シルは大きいのでうれしい。
迷宮都市の神殿は他の神殿より無骨で、石を切り出してそのまま積んだ、というような印象だ。ファストやアイルで訪れた神殿のような採光のための窓もない。天井が高く、大きな石積みにも負けず広いため壁につけられた蝋燭だけでは光源が賄えず、昼間だというのに暗い。
神像がぐるりと置いてある拝殿は回廊から入った正面に戦いと再生を司る火の神アシャの像があり赤々と篝火が焚かれていた。迷宮都市は当然のごとく冒険者が多いので一番信仰を集めているのがアシャなのだろう。
拝殿の入り口で売っていた蝋燭を神像の数だけ買い、神像の足元に捧げてゆく。
一回一回止まって祈るなんて真似はせんが、まあ蝋燭の出処を考えると最小限くらいは買おうかなと。迷宮都市の神殿も孤児が作ってるとは限らんが。
誰かが先に捧げた蝋燭から火をもらい、神像の足元に蝋燭を置いて行く。アシャの像に蝋燭を捧げた時だった。
目を上げると正面にいたビキニ姿の偉丈夫と目があった。
さっきまで居なかったよな?
篝火と蝋燭の光源がそこだけ明るくし、他の場所はむしろ闇を濃くしているというのに陰影を作るはずの顔がはっきり見える。顔だけでなくその見事な赤銅色の肉体美も見えるわけだが。背はガラハドよりもさらに高い。そして見たことのある気がするブーメランパンツ。
うん、マッチョはマッチョだがボディビルダー系ではなく使っている実用的な筋肉だ。しかもバランスがいい、水泳選手の筋肉を増したらこうなるだろうか。
だがしかし! 美術品ならともかく動くパンイチ筋肉を眺める趣味はない!
私、パンイチ遭遇率高くないか?! 気のせいか!? レオのせい!?
心の中が修羅場のままパンイチ男から目をそらし、そっと拝殿から出るべく体の向きを変えようとする。
「おい、人間!」
全力で見ないふりしてたのに話しかけられた!!
「変態反対!」
言い捨てて出口に走る。全力なのになぜか一向に近づけない出口。
「誰が変態だ」
肩甲骨の間の服を掴まれ持ち上げられる。変態に捕まった!
吊るされているのにひきつれなどは感じない、どちらかというと浮かされているようだ。
「我は火の神アシャ、お前に聞きたいことがある」
変態なのに神だった。
「とりあえず服を着ろ。裸の男と一対一で相対する趣味はない。そしてパンイチで初対面の相手の前に現れるのは普通に変態だ」
「む……」
私の訴えが通ったらしく、アシャはローブを羽織ってくれた。意思の疎通が出来てなによりだ。
まあ、その下はパンイチなんだが。
「火の神アシャが一体私に何を聞きたい?」
「お前は水の神ファルを知っているな?」
そう言って紅い瞳を向けてくる。
「ざ……水の神ファルには泉で会って祝福をもらっている」
あやうく残念女神と言ってしまいそうだった。
「ファルがお前の裸に執着している」
意外な事実というか予想できた事実というか頭痛が痛いかんじで床に崩れ落ちる私。
「あンの残念女神〜〜〜ッまだ諦めてなかったのかッ」
「まあ、ファルが男の肉体を見たがるのはいつものことなので構わんのだが」
「構え! 是正しろ!」
「問題は何故お前に執着するかだ。筋肉ならば私の方が付いているはずだ。何故ファルはお前の裸を見たがる? 何が違う? 脱げ!」
「脱がんわ! 大体何故ファルの趣味を貴方が気にするんだ?」
「私もファルに執着されたい」
……神々の間にも恋愛感情ってあるのか。
「もしかしてさっき裸だったのはファルに見せるために常時あの格好なのか……?」
「そうだ」
「…………」
「最初は喜んで胸筋に触れたりしてくれたのだがな」
ちょっと再び頭痛が痛いです。こんな時に使うにはいい表現だな、頭痛が痛い。使いたくないけど。
「私が執着されたのは脱がなかったからだと思うぞ」
「ファルの前でも脱がなかったのか?」
「脱いどらん。思うに隠されているから見たいんだろう、貴方も普段は隠している方がいいと思うぞ。見せるなら小出しに鎖骨を見せるとか少しだけ胸を見せるとか」
太ももと言いそうになってそれはスカート穿いた女性だと思いとどまる。今のアシャの格好なら足も余裕で見えるだろうが。
「ふむ、そういえばお前は随分と着込んでいるな?」
いやローブもコートも冒険者なら一般的な格好だと思うのだが。詰襟だからか? なんで私は神を相手にチラリズムを説いているんだろう。
あからさまな性的アプローチよりも、何かの拍子に見えてしまう下着や素肌がいいと思います。
最終的には全部見たいけど。自分だけが見ているという独占欲。見たいだけでなく触りた……いや、私の性癖はどうでもいい。
アシャがいかに自然にチラリするかを実践しようとするので、それは戻って鏡の前でやってくれと願う。
「ふむ、そうしよう」
「貴方なら均整のとれた体と筋肉だし、ちゃんと服を着ていればファルも見たがると思うぞ。最終的にはファルに脱がせてもらえ」
なんだか文章がおかしい気がするがだんだん投げやりになってきてもしょうがないと思う次第。
「世話になった。礼に我が祝福とお前に役立つものをやろう」
アシャは上機嫌だ。火酒を土産に持たせて丁重にお帰りいただいた。頼むから私に恋愛相談持ってくるな。
《称号【アシャの祝福】を手に入れました》
《【火魔術】が【火魔法】に変化しました》
《称号【アシャのチラリ指南役】を手に入れました》
《スキル【灼熱魔法】を取得しました》
《『アシャ白炎の仮面』を取得しました》
待て。
なんだ、チラリ指南って。
私はどこへ向かってるんだ?
【アシャのチラリ指南役】
火神アシャの相談に乗ったことで取得した称号。
チラリやポロリの場面に遭遇する。
時にはラッキースケベも?
ファルの祝福以上を持つ場合、好感度が上がる
補正がつく。
説明を読んでまた床に突っ伏したくなった。
神々は私をどうしたいんだこれ。
なんとも言えない気持ちで立ち尽くしていると転移してきたお茶漬からどこにいるのかとクラン会話が届く。わかりやすく神殿の出口に移動する旨伝えながら歩き出す。
クラン会話はオンにしっ放しなので、全員で転移してきたことが分かっている。揃っている理由は、三人が三人ともシンとレオの所持金を心配してファストの転移門で二人が来るのを待っていたから。結果から言って心配は的中していた。
転移するためのシルはお茶漬が貸したようだ、みんなで新しいフィールドを見たいしな。
迷宮都市の迷宮は公式な入り口は一つ。
時々フロアの造りが変わり、基本的に出現する敵はかわらないがそれまでのマップが役に立たなくなる。変わらないのはボスフロアのみで、ボスを倒した部屋ごとに先達の冒険者が設けた休憩地点があり、転移で迷宮の入り口に戻ることができる。
また、一度休憩地点の転移陣を起動すれば、入り口からそこに転移することができる。何層かごとにルートが枝分かれしてゆき、最下層に到達したものはまだいない。
階層が同じでもルートによって難易度が違う場合がある。現在の到達記録は64層『炎の巨人ルート』まで。ただし、隠密などで敵を避け探索した結果であって実際の攻略記録は60層まで。
他に『ドラゴンルート』、『フェンリルルート』が深部に存在する。『ドラゴンルート』と『フェンリルルート』は神託の結果判明したルートであり実際に確認したものはいない。
これはガラハドが酔いつぶれた後に、ほろ酔いというにはちょっと怪しいイーグルが、カミラに絡まれる私に話してくれたことだ。
「迷宮変動のタイミングはその層に到達した人数とも、他に法則性はないとも言われているけれど、必ず変動する条件がある。それはボス部屋以外に恒久的な休憩所を設けようとすることだ。だから安易に永続的な結界の設置をしてはいけない」
時間で効果が切れるものなどはOKの模様。その前に【結界】、当然持っとらん。あれか、魔法都市アイルに行って結界習うのか。
話を聞きながらそんなことを思ったのを思い出した。
気づけば神殿の入り口でお茶漬が手を振っていた。
「すまん、待たせたか?」
「また参拝してたんでし?」
「うむ」
「あ、そういえば俺、とうとう【星】とったぜ!」
「おお、おめおめ」
シンは神殿の謎をようやく解いたらしい。ようやくと言ってもそれにかかりきりになっていたわけではないので実質そんなにかかってはいないと思うが。
神殿から外に出て冒険者ギルドへ。
迷宮の入り口は都市の奥にある岩肌がむき出しになった断崖に口を開けてある。高い壁で囲まれ、国やギルドの発令する大討伐などが行われる時以外、正面の門は開かず、壁の中へは向かって左にある冒険者ギルドの建物を通るか、右にある騎士の詰所を通るかしなければ行けないようになっている。
通常王城や神殿などが中心となり発展してゆく都市だが、ここでは迷宮が中心だ。
迷宮の入り口に冒険者ギルドをはじめとして神殿や宿屋、武具屋、薬屋などが集まっている。迷宮の入り口に近いほど老舗なのだ。
ただし、それら初期に営業を始めたものは老舗ではあるが、店舗が小さく現在訪れる多くの冒険者たちを受け入れるにはキャパが不足しており、旧市街地の壁の外にできた、広く整備された新市街地に支店を出している。通常の業務はそちらで、旧市街地にある店では特別な客と特別な商品を扱う。
旧市街地は一の郭、新市街地は二の郭と呼ばれ、旧市街地に店を出したり住むことは一種のステータスであるらしい。なんでわざわざ狭いところにひしめきあって、と思わんでもないが一の郭のほうが見た目趣があっていい感じだったのでちょっと納得した。
狭い路地は歩いていて楽しい。
「宿で休憩とろうか?」
「あー、どんくらいかかるかわかんねぇし、一回リセットしとくか」
「でしねぇ」
「なんか半端な時間だけど調整しよっか」
「おー。トイレ行きたかったから丁度いい! アラーム初めて聞いた!」
「ちょっ! 強制食らう手前じゃない」
「とっととトイレへ行け!」
一応、強制ログアウトまで現実世界で五分ある。
こちらの時間で四十分ほどの間に安全を確保して自主的にログアウトをしないと、戦闘中でも問答無用で落とされる。
レオをログアウトさせるため、慌てて一の郭の宿屋に飛び込むと部屋を取りログアウト。
古色蒼然、趣があってなかなかいい宿屋なのにもったいない。
『アシャ白炎の仮面』は顔の上半分を隠す白い仮面で、眺めていると炎を映しているかのような表面に揺らめくものが見え、時々仮面から白い炎が現れ散る。熱くはないのだがちょっとびっくりする。
特殊効果は認識阻害、戦闘における自分と仲間の鼓舞と高揚、敵の畏怖。自分と仲間のSTR・VIT・AGIが3%上昇、敵のSTR・MID・DEXが3%下がり、他の同系統のスキルや食事などの効果と重複してかかる。
認識阻害は声を聞こうが顔の半分が見えていようが、この仮面をつけている間はつける前と同一人物とは思われない。同一人物と認識されるのは、目の前で仮面を着脱するか、仮面をかぶった状態で自分から名乗るかのどちらか。
アシャは私に役立つものと言った。
これはソロの時かぶれということですね!
□ □ □ □ □
・増・
称号
【アシャの祝福】
【アシャのチラリ指南役】
スキル
【火魔術】→【火魔法】
【灼熱魔法】
□ □ □ □ □
ホムラ Lv.33
Rank C
クラン Zodiac
職業 魔法剣士 薬士(暗殺者)
HP 1108
MP 1406
STR 47
VIT 25
INT 84
MID 32
DEX 27
AGI 52
LUK 37
NPCP 【ガラハド】【-】
称号
■一般
【交流者】【廻る力】【謎を解き明かす者】
【経済の立役者】【孤高の冒険者】【九死に一生】
【賢者】【優雅なる者】【世界を翔ける者】
■神々の祝福
【アシャの祝福】【ヴァルの寵愛】
【ドゥルの祝福】【ファルの祝福】
【タシャの寵愛】【ヴェルナの祝福】
■神々からの称号
【アシャのチラリ指南役】
【ドゥルの大地】
【ファルの聖者】
【タシャの弟子】【タシャの魔導】
【神々の時】
■スレイヤー系
【リザードスレイヤー】【バグスレイヤー】
【ビーストスレイヤー】【ゲルスレイヤー】
【バードスレイヤー】
【ドラゴンスレイヤー】
■マスターリング
【剣王】【賢王】
スキル(1SP)
■魔術・魔法
【木魔法Lv.26】 【火魔法Lv.25】【土魔法Lv.25】
【金魔術Lv.25】 【水魔法Lv.26】【☆風魔法Lv.25】
【光魔術Lv.19】【☆闇魔法Lv.25】
【☆雷魔法Lv.26】【灼熱魔法Lv.1】【☆氷魔法Lv.22】
【☆重魔法Lv.20】【☆空魔法Lv.21】
【☆時魔法Lv.20】【ドルイド魔法Lv.21】
■治癒術・聖法
【神聖魔法Lv.21】
【幻術Lv.1】
■魔法系その他
【マジックシールド】【重ねがけ】
【☆範囲魔法Lv.20】【☆攻撃回復・魔力Lv.9】
【☆魔法・効Lv.11】
【☆行動詠唱】【☆無詠唱】
【☆魔法チャージLv.7】
■剣術
【剣術Lv.28】【スラッシュ】
【刀Lv.27】【☆一閃Lv.24】
【☆幻影ノ刀Lv.19】
■暗器
【糸Lv.16】
■物理系その他
【☆見切りLv.27】
【物理・効Lv.6】
■防御系
【☆堅固なる地の盾】
■召喚
【白Lv.11】
■精霊術
水の精霊【ルーファLv.9】
闇の精霊【黒耀Lv.18】
■才能系
【体術】【回避】【剣の道】
【暗号解読】
■移動行動等
【☆運び】【跳躍】【☆滞空】【☆空翔け】
■生産
【調合Lv.19】【錬金調合Lv.18】
【料理Lv.18】【宝飾Lv.1】
■収集
【採取】【採掘】
■鑑定・隠蔽
【鑑定Lv.22】【看破】
【気配察知Lv.31】【気配希釈Lv.31】【隠蔽Lv.27】
■強化
【腕力強化Lv.5】【知力強化Lv.6】【精神強化Lv.6】
【器用強化Lv.6】【俊敏強化Lv.5】
【剣術強化Lv.5】【魔術強化Lv.6】
■耐性
【酔い耐性】
■その他
【HP自然回復】【MP自然回復】【暗視】
【地図】【念話】【☆房中術】
【装備チェンジ】【☆武器保持Lv.21】
【生活魔法】【☆誘引】
【盗み防止Lv.21】【罠解除】
【開錠】【アンロック】
☆は初取得、イベント特典などで強化されているもの
 




