49.新しい剣
月影の剣のアイテムステータス変更
耐久:【破壊不可】→耐久:100/100【破壊不可】
「待っておったぞ」
ガラハド達と落ち合ってルバの家兼工房を訪れる。迎え入れられて長らく待たせたとの言葉とともに見せられた剣は、破格だった。
「おっさん、ありがとう! 感謝するぜ!」
「ありがとうございます、助かりました」
いい笑顔で受け取っている二人。
「私の剣だけ特性が変わっているのだが」
ガラハドの幅広で肉厚の大剣、イーグルの片手でも両手でも扱える剣。そして私に渡された優美な曲線を持った刀剣。
「おぬしは剣でフェルファーシを倒しに行くわけではないんだろう? 幻想系を斬る能力の代わりに汎用性の高い他の能力を引き出した」
フェルファーシって幻想生物なのか。物理が通じないという話の流れからレイスやら幽霊系を想像していた。
『月影の刀剣』
製作 : 神匠ルバ・スピリツォ
R a n k : 65 評価:10
攻 撃 力 : 659 耐久:100/100【破壊不可】
付 与 : 【攻撃力大アップ】【DEX大アップ】
【闇の精霊の加護】
素材特性:【装備ランク制限解除】【譲渡不可】
【精神攻撃を斬る】【魔法を斬る】
【斬魔成長】
月光石を用いて打たれた刀剣。神匠ルバの打ったホムラのための剣。
評価10の効果により刀剣系スキル1.1倍。
ちなみに今持っているルバにもらった剣はRank22、攻撃力229。
今委託で見た武器の最高ランクはRank30、攻撃力300前後。ルバに一本目をもらったちょっと前までは良くても攻撃力100前後だったのを考えれば生産職の方々の進歩はすごいのだが。
装備ランクはRank5まではレベル制限なしでどの職でも装備でき、Rank9までは適正スキル持ち、メイン・サブどちらかが適正職ならレベル制限なし、以降レベル10でRank10、11でRank11、と言う具合に装備できるランクが増えてゆく。適正スキルのみの場合はRank19で装備制限がかかる。Rank20以降は適正職のみが扱える。
私は本来ならRank32までしか装備できない。いや、装備は出来るが能力が大幅に低下、酷いと反射ダメージをくらう。装備ランク制限解除様々である。
ガラハドとイーグルの剣の素材特性には『幻想系への物理有効』『幻想系へのダメージ倍加』が付いている。当然装備ランク制限解除は付いておらず、代わりに『月齢呼応』という満月に近いほど能力が高くなる効果がついていた。
私の方の『斬魔成長』は何かと思えば、休憩でリセットされるが、魔物を斬った数だけ攻撃力がアップ、長期戦に向いた効果だ。【破壊不可】は有難いことに基礎値が減ることはなく、破損値が落ちて斬れ味が落ちることはあっても、壊れてロストすることはない。この辺りの敵よりだいぶランクが高いので、破損値も減りにくいはずだ。100/100、破損値/基礎値だ。
ああ、【隠蔽】のレベルを上げないと。
「正直私には不相応だと思うが、感謝する」
何せ私のための剣だ遠慮などしないで受け取るとルバが満足そうに笑った。
その後は宴会だ。
机のあるこの場所で始めるのかと思っていたら奥にある絨毯敷きのソファとローテーブルのある部屋に案内される。
「毎回床に転がる男がいるからな」
「はっはっ! 酒はほどほどにしとけよ、イーグル」
「お前だ」
鳩尾に肘鉄一つ。
それを横目で見ながらテーブルの上に料理を並べてゆく。
鳥の唐揚げ、フィッシュ&チップス、いかリング。青葉鰹のタタキ、コガネ鯵フライ、鯵の造り(山葵がないので生姜)、カプレーゼ、ピザ、ローストビーフ、テイルスープ。
「凄いな」
「まだまだあるから沢山食べてくれ」
冷えた黒ビール、ウィスキー、そして日本酒。
「ルバ、口に合うかわからんが剣の礼に飲んでくれ」
他の酒はテーブルに並べ、日本酒はルバに手渡す。あと何故かできていた火酒。
ちなみに評価10で純米大吟醸(生)が出来た。生って出来立てってことかね? 酒はよく分からん。辛口甘口があるようだが、自分で飲んでもどっちも酒だ! としか思わんので……後で造り方の違いを調べておこう。いつかまた米が手に入った時のために。今あるのはご飯にするのでダメです。
火酒は、火をつけると燃えるところから、ウォッカやらブランデー、焼酎などのアルコール分が多い蒸留酒のことだと思っていたのだが、なんかビールのアルコール度数が高いのができて『火酒』と名前が付いていた。いや、これも燃えそうだし火酒で正しいのか。
「おお、これはまた……」
「なんだなんだ? それも酒か?」
興味を示したガラハドに注いでやるルバ。
「透明? 飲んだことのない酒だな」
「あら私にも」
カミラとイーグルも試飲。
「何かしら、メロン? 桃? 香りがフルーティーだわ」
「オレはこっちの火酒がいいな」
「ルバへの礼だぞ、遠慮しろ」
「かまわんよ、私はこっちの方が気に入った」
ルバは日本酒、ガラハドは火酒、イーグルは冷えた黒ビール、カミラはワインが好みと判明。ルバより酒弱いのに大丈夫なんだろうかガラハド。
「ホムラは美味い飯と酒を飲み食いさせてくれたし、ルバが採算度外視して精霊のレベル上げして付与つけてくれたおかげで、よっぽどヘマしねぇ限りフェルファーシからダウンは確実に取れるだろうし、明日から気合い入れて迷宮潜るぞ〜〜〜〜」
『月光石』の礼やら言いつつ、ガラハドが旨そうに飲んでいる。
「さて夕食時だし、私は酒は飲まんから食うかな」
酒談義で盛り上がり出した三人を尻目に取りいだしたるは牛丼!!!!
米と醤油と純米大吟醸という名の調理酒のおかげで本日手に入れたバラ肉が素敵に変身。
「ホムラ、それはなんだ?」
「私の夕食だ」
「ホムラ君、なんという食べ物なんだ?」
「……牛丼だ」
ガラハドが聞いてきたのを皮切りにカミラが傍にぴったり座って私の肘に手をかけてしなだれ、イーグルが爽やかな笑顔で聞いてきた。それを笑って見ているルバ。
カミラに胸が当たってますと言いたいところだが「当ててるのよ」とか「わざとよ」とか「そう?」とか返ってきそうなので言えません。
くっ、外人(?)らしく大人しくパンをかじっていればいいものを!
すぐに私の牛丼は四人の腹のなかに消えていったのだった、ひどい。
もっとよこせというガラハドをすき焼きでごまかしている現在。調理酒の量も心配なのだが、代わりに白ワインつっこんじゃだめかね?
途中肉の争奪戦になったので最終的には焼肉と相成りました。
鰹のタタキはルバに好評で、鯵のお造りはガラハドに嫌がられながらカミラとイーグルに好評だった。ガラハド曰く、「豚の丸焼きは平気だけど、魚の目が怖い!」だそうで。大男がぎゃあぎゃあ騒ぎながら目をそらしていた。次は刺身かなめろうにしてやろう。
豚がいるのか、じゃあ手に入れたらロースカツを投入だ。
そんなことを思いながらピザを口に運ぶ。早く米を自由に使いたい、フソウにはもち米なんかもあるんだろうか。
「ホムラ君、米は手に入りづらいのか?」
「見たことねぇしな〜」
「ああ、幸運にも魔法都市アイルで少量手に入れられたんだが、元は細々と交易があるフソウという国のものだそうだ」
「フソウ、聞いたことないわね〜」
「島国な上、だいぶ辺鄙なところにあるらしいからな」
「あら、国を移動できるようになったの?」
「ああ、おかげさまでCランクだ」
そうだった、ルバから剣をもらい三人にボスに連れて行ってもらったから最速でCランクになれたのだ。
「そうだな、四人がいなかったらまだこの国から出られなくて、米も手に入れてなかったな」
反省してそっとカレーを差し出す。
はい、なんか酔っ払いのカレー争奪戦が始まりました。
うん、カレーは飲み物なのに一皿ってひどいよな。
私は現実世界で現在作り置きのカレー三昧なので作ってみたものの牛丼ほどの執着は今はない。でも米がないから出せませんという態度で追加は出さぬ! あ、カレーうどん作ればよかったのかと本日のリアル夕食メニューを思い出して気がつく。
暴れて酔いが回ったガラハドが予定通り絨毯に転がり、バカなことをやったとイーグルとカミラが肩で息をし、ルバが苦笑いをしている。
「そういえば、星降る丘かシーサーペントの出る場所を知らんか?」
「あらぁ、片思いでもしてるの?」
よっぱらったカミラが抱きついてくる。
胸もあれだが裾が乱れてますよ!!
「片思い?」
「『星降る丘』は好きな人と行って流星を見ることができたら恋人になれるっていうデートスポットよ」
「……それは誘ってついてきてる時点で恋人になれるんじゃ?」
「そこは言わないお約束よ」
「今現在意中の人はおらんが、場所はどこだ?」
「あらじゃあ私がホムラを連れて行こうかしら。場所は魔法都市アイルから東南東に二キロくらいかしらね、あの側では森が開けてる場所はそこだけだからすぐわかると思うわ。ふふ」
「シーサーペントはファガットの南西の突端、そこの入江に出るかな。ただあれはお勧めできないな」
「強いのか?」
「攻撃力はそう高くないが、防御がな。魔法も物理も大して効かない上に通常ドロップも良くない。労力の割に得るものが少ない。増えすぎるとファガットダコが食い尽くされて漁師を襲うようになるので一年に一度、ギルドから討伐依頼が出るんだが」
シーサーペントの討伐はCランクからBランクへの昇格の条件の一つだそうで、毎年多くの冒険者が参加する。いつもの年より大量発生した場合はBランクへも参加を促したり、国からAランク冒険者に依頼がでることもあるそうだ。Cになるまでは国の移動が制限され、B以上になるとギルドの招集に答えなくてはいけなくなる。断ることもできるが、正当な理由なく断りすぎるとランクを落とされる。
しばらくCランクでいようと思います、面倒そうです。
「了解、ありがとう」
攻撃力が高くないなら長時間戦うことを覚悟して地道にやればいつかは倒せるだろう。どうやらタシャに教わった憑依を防ぐ錬金レシピの材料が浄化以外はなんとかなりそうだ。
まあ、本当にイベントのフラグなのか判然としないが備えあれば憂いなし、だ。パートナーカードを交換した住人にくらいは憑依防止アイテムを配りたい。
あ、アクセサリー生産スキルをなんとかせねば。
「そういえばルバ、採算度外視って金は大丈夫なのか?」
「ああ、この三人からむしり取ったから心配するな。ただ他の生産職がそろって使ってるらしく市場に銀が少なくてな、鍛冶家業休んでる間に銀の使用に新しい技術でも開発されたのか気になってる。溶媒扱いでほんの少し使うこともあるし道中で銀が出たら売ってくれ」
それはあれです、生産職のレベル上げに使う素材がちょうど銀だっただけだと思います。ほぼ一斉にレベル上げを始めたせいで作るものがかぶるんです、すみません。
「ああ、銀といえば」
家具テロしようと思っていたが破格な剣をもらったことだしルバに進呈しよう。アイテムポーチからレオの銀の像を出す。
「鋳溶かして使ってくれ」
「ぶっ!」
ガラハドがポージングした銀色に輝くレオの像をみて吹き出し、そのまま笑い転げる。
「ホムラ君?」
「どんなセンスしてるの貴方」
「いや、私の趣味では決してない!!!」
レオを泉に蹴り飛ばして泉の女神にあった話をした。
「ちょっと、貴方ファルにも会ったの?」
「神ってそんなに愉快な感じなのか? 私の知っている神と違うんだが」
私も思っていたのと違って困惑してます。
「ビキニパンツの像wwwwwwwwww」
ガラハドが笑い上戸になってしまっている。
そんな中、ルバが難しい顔をして像を眺めている。
もしや、レオの裸に興味がおありですか?
「これは、普通の銀ではない」
「はい?」
「『水竜銀』と呼ばれる珍しい高価な金属だ。こんなにまとまった量はオレも初めて見た」
「えー……」
そんな珍しい金属でこれ作っちゃったのかあの残念女神。
「流石女神からの賜り物?」
イーグルも困惑している様子だし、ガラハドは話を聞いているのかいないのか笑い続けている。
「おそらく金色のほうは『水竜金』ではないかな」
「そう聞くとこの像も神々しく、……見えないわ〜」
見えない方が普通だと思います。
この像を鑑定なんかしていなかったが見てみると神器とか文字が見える。「鋳溶かして武器に使用できるが、普通の炉では溶かすことはできない」とか書いてある。
「銀のほうは武器に、金の方は防具に使用される」
そう言いながら真剣な表情でレオの肩のあたりを撫で回すルバ。貴重な金属だと聞いていなければ変態を疑うところ。
そっとレオに金色レオは防具作るのに向いた貴重な金属だぞーとメール。そういえば月光石加工したんだよな、レオも生産で素材ランク無視の称号を持っていそうだ。
「剣の代価に収めてくれ」
「もらいすぎだ」
「かといって、私が持っていてもその像のままだしな」
肩をすくめて応じる。
ずっと銀のレオから目を離さないし、加工したいんだろう?
「他に加工できそうな者も知らん。遠慮せずに持ってけ」
まだまだ宴会を続けるらしいガラハドたちと、泊まって行けというルバに別れを告げて宿に向かう。これからリアルでも寝るからな、泊まっていったら数日転がったままだ。
こちらもあちらも零時近く、早起きしてログインするかな。
明日で休みが終わる。
楽しもう。