46.戦闘
【黒耀】を飛ばして
レオに『シャドウ』をかける。
本日は剣でなく以前使用していた杖を装備し、杖二本持ち。
ボスはデカイので剣でも構わないのだが、パーティーが近接職ばかりになってしまうので、遠距離な魔法攻撃担当で落ち着いている。
道中の普通サイズの敵でお互いの攻撃が当たったり危険な上、ボスでもお茶漬に「全員に気を配るのが面倒だし、敵の複数攻撃あったら団子になってると全員くらうから止めろ」と言われたので。
魔法剣士の意味は一体……。
私が「魔法」と「剣士」みたいになってるのもいかんのだが。
普通は剣で戦いつつ補助的に魔法をぶちこむらしい、あと剣に魔法をエンチャントして魔法剣とか。しかも剣士派生が多いそうな。
初期はまだなんとかなるが魔術士派生だとHPと体力と力や素早さの問題でだいたい諦めて他職につくか、魔法メインに戦って、うっかりタゲ取ってしまった時に剣で対処するくらいだそうで、それも杖術の方が武器替えがないので使い勝手がいいらしい。
そういえば剣士始めた頃、菊姫とのHPの差に気が遠くなったような記憶が。魔法剣士になってSTRも上がるようにはなったが、今もきっと菊姫の半分以下しかない気がする。ソロ討伐の装備がなかったら私も挫折していたかもしれん。
今は【見切り】もあるしHPが低くても、それこそ食らわなければ問題がない、と言えるが。
つらつら自分の現状を考えながら、『シャドウ』と攻撃魔法を使って行く。
「ホムラのそれはダブルスキルの亜種になるの?」
「たぶん?」
お茶漬が聞いてくるのに答える。
「カルマが双剣士で両方でスキル使ってたけど、手放しで浮いてるって初めて見たわ」
……!
「そういえば、杖が二本なら腕も二本だな」
「おい!」
両方持てば良かったのか。『シャドウ』だから問題ないが。
「いやまて、効果が下がらないの利き手だけだったこれ」
そう、森でペテロといたとき実験して左で握っても浮いてるだけの杖と効果がかわらなかった。残念。
ガラハドとやった時にはあまり感じなかったが、サークルモスは物理防御力が高く、通常攻撃がほぼ通らない。スキルはセーフのようである。
二回とも魔法押しな私には関係ないのだが、少し離れたところで落ち着いてみるとダメージの差が顕著だ。もっとも近接の三人もそのことには気づいていて……いや、いなくてもスキル一辺倒だったなレオとシン。菊姫は気づいていて、最初のほうは入れていた通常攻撃を使うのをやめていた。
サークルモスが酸を吐いてくる。
貴様だったのか『中和剤』必要なの! ダメージの他に鎧が腐食して防御力が下がるバッドステータス。受けたのは菊姫だ、『中和剤』を投げつけ酸の効果を解消した直後に特大攻撃。
「ありがとでし」
「あぶね〜」
すぐさまお茶漬が回復を飛ばしている。
「固いな〜、あ、菊姫の防御切れてる、【黒耀】いける?」
「再召喚までもうちょっとかかる」
「結構かかるね、効果高いし技のレベル高い?」
「いや、精霊のランクが私に分不相応」
【行動詠唱】があるので動きながら魔法が使えるのだが、菊姫が止めてくれているので避ける必要もなく、魔法の合間に側にいるお茶漬と話している。側とはいっても一緒に攻撃を食らわないようにある程度は離れているが。
動かないと鈍るきがしないでもないが、のんびり話しながら戦うのもこれはこれで楽しい。近接組は奇声をあげながら殴る蹴る切り上げるをしているが。
「うをおおお!! こっちのスキル回しのほうが火力いく!!!」
シンは勤勉に火力が上がるスキル回しを研究している模様。
「おお、いいなぁ」
「いいなと思うならレオも他の技使うでし!」
「わはははは! ポージングすると輝くスキルとかとったからもうスキルポイントねぇ!」
「あれスキルポイント使うスキルだったのか! というかスキルだったのか!!」
驚愕の事実におもわず近接同士で話していた会話にツッコミをいれる私。
「わははははは!」
「まあ、なんだ。『シャドウ』がんばれ」
呆然としていると少し間をおいてお茶漬が私に言った。
まだもう少し『シャドウ』係のようです。他に何取ったんだレオよ。【氷結の刃】……はスキルレベルが上がっとらんのか。
『シャドウ』に強さの段階などないので以前使っていた杖でレオに飛ばすだけで、握った今の主力の杖で攻撃魔法を放っている。
なかなかいい具合だ、ペテロはもう『シャドウ』要らずで不意打ちできるし、レオももう必要としなくなるだろうと思っていたのだが、この具合ならまだ『シャドウ』係をやってやってもいい。
【武器保持】微妙と思っててすまんかった。どんなスキルも使い方次第だな。
「うをう!」
「きゃー!」
「あぶね!」
「すまぬ!!」
あれです、無理だろうなと思いながら実験的に右手の主力のほうで例の順番で魔法を使っていたら【廻る力】が発動してタゲを取ってしまった。
「使うなら使うって予告してほしいでし!」
菊姫に叱られ、お茶漬に回復をもらって謝るハメに。【黒耀】の防御が有効だったので大した惨事にはならなかったのだが、戦線がずれるし迷惑をかけてしまった。
だが【武器保持】むちゃくちゃ使えるスキルではないか。
二本の杖で両方【廻る力】を使えば、【廻る力】のダブルがけができる。普通のダブルスキルだと、同じ時間内で効果が高いまま二回【廻る力】が発動できるわけだが、一回目と二回目の間に間が空くことになる。例え効果が片方低くても一度に放てるのってロマンじゃないか?
「グリフィンの『力の小手』、火力上がっていいね。早く僕も聖法士のいい装備ほしい」
グリフィンの『力の小手』を改造に出そうとした私です、すみません。
「火力は上がったでしけど、防御上がってないから黒耀だっけ? あれは助かったでし」
「菊姫も【グランドスラッシュ】とかいうの威力すごかったな」
「【スラッシュ】からの派生で発動する前にタメがあるやつでし。タメるほど強いでしよ」
アクシデントも起こしたが、五人でも概ね余裕で倒せた。
ダンジョンもフォスのボスもやってレベルもスキルレベルも上がっているからパーティ戦なら余裕な模様。
戦利品はこちら。
サークルモスの甲殻×4
サークルモスの胸当
ルビー×10
素早さの指輪
「ぎゃーちょっと気持ち悪いでし!」
「なんとも言えない虫っぽさ」
「うへぇ」
「うは、着たくねぇ」
そうだろうそうだろうと心の中で頷く。
「胸当て、露店だしてる防具屋が見た目綺麗にしてくれるぞ。能力も少し上がるから加工してもらったらどうだ?」
「ほうほう?」
「店主はエリアスという女性だが、まあまだ冒険者の露店少ないから行けばすぐわかると思うぞ」
胸当てはエリアスに売ろう。装備してみた四人を見ながら改めて思う。
そしてルビーはサークルモスからだったか。錬金でルビー同士合成するのを後で試してみよう。
「サー解放後はどうする? セカンも開けたいんだが」
「移動に時間かかるからまた馬車放置で明日かなあ? 走法取ってるなら別だけど」
「オレ持ってるぜ!」
「あてちも持ってるでし」
「持ってるな」
「あら全員持ってるのか」
「すまん、俺持ってない」
セカンを開けたいと言ったシンが持っていないオチ。
「よし!」
お茶漬が気合をいれる。
なんだろうと思って注目すると
「走れーーーーっ!!!」
「わははははは!」
いきなり走り出したお茶漬について行くレオ、そして追い越した。
「走ってシンに走法覚えさせようということか」
「行くでしよ!」
「って、追いつけねーよ!!!」
あっという間に見えなくなっているお茶漬とレオ。
「あ、戻ってきたでし」
「っ、なんでお茶漬は星散らしてるんだ」
「うっわ」
思わず立ち止まってまじまじと見る。
「レオはなんか汚っこいでし」
「え、あれ走るとでんの?」
「うん、まあ似たような距離走ってると思うし、シンもすぐ取れると思うぞ。どんな効果背負うか知らんが」
「愉快なのだといいでしね」
私はただの淡く光る蛍の群れっぽい何かでよかったと切実に思う。ハートや星、ましてや砂埃とかじゃなくってよかった。
「ペテロのはなんかまがまがしい効果だったが格好よかったぞ」
「効果、選びてぇんだが」
困惑しているシン。
「おい、早く走ろうぜ」
もどってきたレオが足踏みしながらシンに言う。
「いや、走法取れてないんだからシン追いつけないだろう」
「普通に走るでしよ」
「あとその星はなんだ」
「うふ、いいでしょ☆」
菊姫のエフェクトはデージーのでかいのが飛び散るようなエフェクトだった。ちまちま走る後ろに花が開いては飛び散ってゆく。
「こう、レオと並走しているとなかなかシュール」
「寄らないでほしいでし」
素直な感想を述べたら菊姫がレオから距離をとった。
「と、このように走り方にも個性が出ます。ついでにエフェクトは走ってなくても出せます」
星を振りまきながらお茶漬が説明する。フレームがハートのサングラスとか似合いそうだ、胡散臭い。
ちなみに私も先ほど走らされた。
普通でつまらないとか言われました。
「えー、じゃあ俺はちょっとアクロバティックに走ってみようかな」
「ホムラのよりも大胆にお願いします」
滞空かかってるのであれだが、確かに私の走り方はアクロバティックなのでそこは否定しない。浮くのが楽しかったんだからしかたない。
「今から走り方って変えられるんでし?」
「なんか積み重ねじゃなくて、走ったある一定距離の時使ってた走り方が採用されるらしいよ? 僕はダンジョン攻略後に割とすぐ出たし、シンもそろそろでるハズ」
「相変わらずいろいろ情報仕入れてるでしね〜、掲示板怖いでし」
「残念、これはカルマに聞いたオチ」
どうせ走るならと、サーを登録して転移門を使い、ファストへ移動、現在セカンに向かって走っている。
走法を発動せず並走しながらシンが走るのを見ているプレイ。無駄に半ひねりとかいれとるが、そんなので走ったら愉快なだけだと思うぞ。
最終的には身を低くして足だけ動かして走るのを繰り返して走法を取得、エフェクトはちょっと狼の幻影のようなものがうっすらかぶって見えてかなりかっこいい。
「いいな! カッコイイ!!」
「うん、見た中で一番いい」
「もふもふでし」
「バック走かなんかで取ればよかったのに!」
「はっはっは!羨ましいかね君たち」
お茶漬がなんか呪いの言葉を吐くのを自慢げに受け流すシン。正直ちょっと狼のエフェクトは羨ましい。
「まとまりのないパーティーでし!」
全員揃って走ったらもうね、ひどい。
「かろうじて菊姫の花とお茶漬の星が少女漫画みたいにキラキラして合って、る?」
「ホムラの青い蛍みてぇなのは誰にでも……レオ以外には合うと思うぞ」
レオの砂埃エフェクトにマッチしてたら泣くわ! 出たエフェクト残ってたらレオの通った後は竜巻の後の葉の端切れや小枝やらが散乱する道路みたいじゃないか。
「これにペテロの黒いまがまがしいとウワサのが混ざるんですね?」
「ひどい」
「いやなパーティーでし」
「これ、クランで揃えてとるとことかありそうだよな」
「ああ、同じエフェクトで走ったら派手なのもかっこいいのも壮観だろうね」
「狼の群れでみたいぜ!」
……サーにいたマッチョのハートエフェクトは揃いでとったのだろうか……、思い出しちゃったよ!!! くそ!
ファストを越え、セカンに入った。
《お知らせします。セカンのフィールドボス『ゴブリンキング』がアキラによってソロ討伐されました》
おっと、アキラ君。
もうソロいけるのか、それとも私と同じく住人の冒険者とパトカ交換したか。
「あら、またソロ討伐」
「今度は名前出てるな」
「前と同じ人かね?」
違います。
「名前出すの大胆だな」
「いいじゃないヒーローで」
「まあレオのアナウンス流れるのは楽しませてもらってるが」
「同じエリアでしね〜」
「会うかもね」
ファストの見覚えのある敵は無視してきたがセカンの敵は戦ったことがないから戦闘しようぜ! ということになりセカンに入ってからは進路上にいた魔物は狩っている。今回、ちゃんと街道を行っているのでそれほど遭遇回数は多くないが。
通りがかりに斬って捨ててゆきたい何かなのだが、菊姫の盾スキルを上げるために一度受けてもらってから倒す。みんなも一撃必殺状態なので敵が二匹以下の時は攻撃はせずに黒耀をかけてレベル上げに努めてみる。
紫色の雲がたなびき、黄色い月が沈み太陽が出るまでの寸の間、白い月がひときわ輝く。
綺麗だ。
「腹減ったああああああ!! ごはんんん」
「朝飯だ!」
約二名の叫びで台無しなわけだが。
「ホムラ、金払うから食事なんかくれ」
「あったかいのがいいでし」
他の二名もダメでした。
「ごめん、食料余分にもってたら分けてくれないか」
いきなり話しかけられて、振り返れば真っ赤な短髪で中背、どっかのアニメのヒーローみたいな外見の少年と青年の狭間のような男と、その後ろに背の高い如何にも騎士! という感じのオレンジの髪の男、回復役です! という感じの黒髪の女性がいた。後ろの二人は装備が白で統一されていて雰囲気も上品だ。
「あ、ちゃんと支払うし、来るとき狩ったシープシープの肉と皮もあげるよ」
誰やねん。
「まず名乗ろうぜ〜!」
「ごめん、オレはアキラだ!」
「あ、さっきのアナウンスの!」
レオの問いに返ってきた名前はソロ討伐の人だった。じゃあ後ろの二人はこの世界の住人か。
「討伐おめでとう、すごいでしね」
「肉だけくれれば皮も金もいい。料理はなんでもいいか?」
「ああ、好き嫌いはないんだ! でもオレもあったかいものがいいな」
「そちらの二人は?」
「パーシバルだ。手数をかけてすまない、私も好き嫌いはない」
柴 犬 ド リ ル 。
あれか、ガラハドの知り合いか。
円卓の騎士か。
聞きたいがダメだ、ご近所の同じ名前の柴犬思い出す。しかも昨日ネットで柴犬ドリル特集みたばっかりだ! なんで柴犬色の髪してるんだ! やばい、気を抜くと笑う。
「エイミです。私も好き嫌いはありません」
「ではグラタンと鹿のシチュー、ルビーベリーのタルトと紅茶を」
笑わないようにしながらアキラに品物を渡して肉をもらう。ガラハドの知り合いなら『帰還石』を持ってそうなものだが街に戻って食えないのだろうか。
「ありがとう! 声を聞いたらオレもあったかいものが食べたくなっちゃって」
欲望を抑えられないタイプだった。直情的で思いついたことに突っ走りそうな性格してそうだな。
「じゃあ!」
パーシバルが使った『帰還石』で三人が消えてゆく。
やっぱり街にもどれたんじゃないか、レストランであったかいもの食べればいいのに。まさか食物の話を聞いて条件反射か?
「おお?」
「ワープ移動できるのか! いいなあ」
「あ、『帰還石』ならいくつかあるから分けるぞ」
来るときはシンのために走ったからな。
柴犬ドリルは検索してみてくだされ。




