45.泉の精
泉から出てきたのはお約束通り見目麗しいたおやかな女性、だが子供。
子供なのにたおやかに見える不思議。見た目通りではないだろう年齢のなせる技か。
だがしかし、笑顔で右に金のレオの精巧な彫像(?)、左に銀のそれをぶら下げている。持っているものがあれなのに無駄に神々しい。それが定番の金と銀どちらを落としたのか聞いてきている。
ところで友人の精巧な彫像なんぞ欲しくないのは私だけか? 銀はまだともかく、金色の等身大。しかも金銀で違うボディビルのポージングしてやがる。どこに飾るんだ?
金って重いはずなのによく片手で持てるな。メッキか? あと彫像(?)の首根っこ掴んで確認しろとばかりに差し出してくるの止めてください。
「どっちも違う。もっと普通だ、たぶん」
一瞬普通ってなんだ? と思ってしまい言い淀む。
『正直者には普通のレオに、金のレオ、銀のレオも差し上げましょう』
「金銀はいらな……」
『今度泉に落とすのはもっと背の高い筋肉のついた方にしてね。貴方がこれを履いて入ってもいいわよ?』
泉の精がプラプラさせているのは紫色の布切れ。
「貴様がブーメランパンツの犯人か!」
『ふふ、貴方に祝福を』
叫ぶ私をよそに、たおやかで花が周りにほころびそうな笑顔を残して泉に溶けるように消えていった。
後には泉の前に残された金のレオ、銀のレオ、その足元に倒れ伏すレオの姿と、何故か紫色の布切れを握っている私の姿があった。
そんな中、称号獲得のアナウンスが流れる。
《称号【ファルの祝福】を手に入れました》
《【水魔術】が【水魔法】に変化しました》
《スキル【氷魔術】を取得しました》
いろいろ待て。
あれが水の神なの?
泉の精じゃなくて?
ちょっと、この布切れ【譲渡不可】【破棄不可】の効果がついてるのだが?
うん、耐久値の表示もないな。
当然のごとく評価10の神器だし。
私のきている装備合わせたより三倍以上防御力高いんだが?
【装備制限解除】と【魅了】もついてるね。
真の効果は目視した場合という制限つきね。
何を魅了するんだ?
これ履いて泉に入ればもう一度ファルに会えるの?
うん、【全気候耐性】もついてるね。
そんな気遣いされても履かんわッッツ!!!!!!!!!!!
泉に叩きつけようとしたが静電気でくっついたように手から離れない。手を振っても落ちない。右手に持っていたものを左手でつまむと簡単につまめて離れる。手を離しても今度は左手の指にまとわりついてとれない。
【破棄不可】は持ち主から3メートル以上離れたらアイテムポーチに戻るんではなかったか? 何故だ。
わかった。
静電気なら水につければ離れるだろうと、紫の布切れごと泉に手首まで突っ込む。
やっぱり離れな……
「きゃ〜さっそく着てくれたのね〜!!」
ざぶんという音とともにした黄色い声に目をやると目をキラキラさせたファルと目があった。
さっきまで突き返す気満々だったが、間髪入れずの再登場に気まずいのと驚いたので固まる私。
「同じエリアで逢ってもノーカンなんだから!」
「なにがだ」
「履いてない人には寵愛なんてしてあげないんだから!」
「人を露出狂みたいに言うな!」
「露出したっていいじゃない!」
「必要ないのに脱がんわ!」
だめだこの女神。
幼女というか少女というか迷う微妙な外見。
髪は柔らかく波打つごく薄い水色。
濡れたようにも見える白い肌。
華奢な手足。
喋り出すと残念女神。
「もう、しょうがないわね〜。とりあえず肉をよこしなさい」
「どんな脈絡だ」
「貴方、風のと木のと飲み会したでしょう? 私は肉が好きよ。食べるのも見るのも」
残念女神が残念な事を言っているが、これはあれか【神々の時】の効果か?
私、神々に会うたび食物ねだられるのか?
まあ、一応神様の頼みだし。
ということでチョッタイの肉の塩釜焼きを出した。自分で肉好きだと言っているのでダイレクトに肉! という感じのものをセレクトしてみた。
「なになに? 割るの? 私にやらせて!」
やりたいという残念女神に麺棒を渡す、木槌は買い忘れたが別に麺棒でも擂り粉木でもいいよな。中身が魚な場合はナイフで丁寧に外しますよ?
割るのが楽しいのでわざわざこの形状で持ち歩いていた甲斐があったが、予想外の塩釜割り希望者である。レオかシンを想定してたんだがな。
外側の卵白と塩で固められた覆いをぱこぱこと割ると肉の塊が出てくる。残念女神にどれくらい切り取るか希望を聞いて、さらに軽く炙る。脂がパチパチとはねる。
ついでにインゲンと輪切りにした玉ねぎを焼いて付け合わせにし、よだれが垂れそうになっている残念女神に差し出した。
美味しそうに食っているのに食欲を刺激され、私もチョッタイの肉を切り分けて食べた。肉を口いっぱいにほおばる残念女神を見ながら思う。
「水の神なのに何故肉好き」
「魚は毎日見てるし、懐いてくるのを食べたい?」
「了解、納得した」
「美味しく食べて欲しいとは思うけれど、自分で食べようとは思わないわね〜」
「あ、そこの彫像一号には【神の大漁旗】っていう称号あげといたけど、貴方にも適当につけるわよ。釣りも裁縫ももってないみたいだし、弓も使わないし。見せてもらえなかったけど別にお肉はもらっちゃったから称号はあげるけど、かろうじて聖法関係ね〜」
食後にオレンジジュースを飲みつつ残念女神が言う。
彫像一号に突っ込めばいいのか大漁旗に突っ込めばいいのか、自分がダメだしされてるところに突っ込めばいいのか逡巡している間にファルはご馳走様と言って消えていった。
《称号【ファルの聖者】を手に入れました》
《【氷魔術】が【氷魔法】に変化しました》
《【神聖魔法】を取得しました》
《【回復】は効果の高い【神聖魔法】に統合されました》
またアナウンス来た!
「ぬお〜っ! アナウンスキター! なんだこれ〜!」
ファルが消えるとレオが起き出し、彫像を見て騒ぎ出す。パンイチで。
「あれだ、お前が寝ている間に水の神ファルが来てたぞ。称号確認して見てみろ」
「おお?」
私も確認。
【ファルの祝福】
これは順当、水系の威力と精神が上がる。相変わらずそれ以外の効果はまだ見えない。
【ファルの聖者】
聖法系の効果上昇と範囲増大。また土の神【ドゥルの祝福】以上を持つ場合、病気を癒すことができるようになる。
【氷魔法】は字面の通り、Lv.1の魔法は『氷の針』
【神聖魔法】はLv.1『回復』生命と気力を回復する。
【回復】わざわざHP減らして上げたりしてたんだが、【回復】として単独でレベルがないところを見ると回復量は精神依存だけであるらしい。
代わりに多少回復量が多いらしいし、やる気も回復するっぽいが。
私のMIDいくつだと思ってるんだ! 驚きの19だぞ!
マスターリング込みでも28だ!INTの半分いかないんだぞ!
ってそこで持ち物に布切れが増えてることに気づく。
紫に続いて金と銀のブーメランパンツが。
当然のように【破棄不可】がついた三枚のそれは、初期装備のアイテムポーチの一番上に収納されていた。うん、初期装備なら耐久ないから壊れて荷物ばらまく心配もないしな。
あの残念女神!!!!!!!!
だが金も銀も【譲渡不可】がついていなかった。紫と同じく能力は高い、ただし、目視できるようにしておかないと効果は大幅に落ち、【魅了】に至っては目視できないとまったく効果がないが。金銀のほうが泉アイテムなためか効果は高め。
これパンイチでドラゴンに挑めとかそういうネタ装備なのか……?
いや、履かないぞ?
金銀は配布用?
誰に配れと……。
「おおお、スキルすげー釣り三昧だ〜!」
スキルの確認を終えたレオが声をあげる。
「どんな効果なんだ?」
「んとな、称号【ファルの祝福】と【神の大漁旗】、スキルが【おさかなごはん】だな。大漁旗は魚が集まりやすいって! 【おさかなごはん】は扱える釣り餌ランクMP消費で上がるって」
「もう本職釣り師でいいんじゃないのか貴様は」
呆れて言う私、人のこと言えんきもするが。
レオは私よりもらったスキルが一つ少ないようだ。スキルも称号も神々が適当に授けているんだろうか。謎すぎる。いや、まあ意識がないままイベントが進んでいてもらえているのがおかしいのか?
「あ、あと【氷結の刃】、当てると凍傷にして5秒間スキル止めるって」
「そっちがメインじゃないのか……」
もらってるじゃないか!
【おさかなごはん】はなんとも間の抜けた名前のスキルではあるが、私の持つ【タシャの弟子】と似た効果のようだ。私の持つ称号の方が錬成の得意に『ALL』がつく上、扱うランク無視のぶっ壊れ称号だが。スキルより称号のほうが効果が高い。というかまあ、目の前で教えを乞うたのと寝ていて取得したのが同じだと反応に困るが。そもそもファルは魚釣りしそうにないしな。
だが神からもらった称号・スキルは、強力・便利だ。【氷結の刃】もきっとぶっこわれスキルなんだろう。
あれ、じゃあ【時魔術】や【神聖魔法】は強力なのか。【木魔法】と【時魔術】から派生した【ドルイド】共々ほとんど手をつけていなかった。神々に遭って魔術から魔法に変わったスキルも通常よりダメージが多い。積極的に使ってゆかねば。
「なあなあ」
「なんだ?」
考え事をしているとレオに呼ばれた。
「ブーメラン、服の下に着れた!」
「貴様、あれ着たままなのか」
赤ブーメランを履いた男レオ。
やめろレオの服の下なぞ想像したくない。
「股間が硬くなったぜぇ〜っ!」
レオが下品なギャグを飛ばしたところで本日何度目かの蹴りを入れる。
効果が落ちるとはいえ、普通の下着よりはそりゃ防御力高いだろう。装備した状態で確認したことがないのでどの程度能力が落ちるのかわからんが。
ざぶんと大きな音を立てて再びレオが泉に沈んでいったが、幸いなのかなんなのか今度は何も現れなかった。以前のゲームではハリセン持ってたんだがな。この世界にあるだろうか? 手に入るまでは蹴りで行くしかないだろう。
金のレオと銀のレオは一体ずつ分けて、私が銀のレオをもらった。
なんでかって?
ハウスができたらお茶漬かシンの部屋に留守の間に飾ってやろうかと思ってな! まだ先の話だがログインしてびっくりするがいい!
うはーっはっはっ!
未来の家具テロ計画を練っているところで全員揃ったようなので途中で合流してボス討伐へと向かうことに。
そういえばペテロも【ファルの祝福】を持っていたよな? あれはどうやって手に入れたのだろうか、やっぱりブーメラ……いや、友人の下着事情を想像するのはやめよう。自分にダメージがくる。
ボスのいる森に入る手前の街道でお茶漬たちと合流し、森の中を進む。ペテロは仕事で留守だ、後で別に討伐に付き合おう。
メンツが揃うと話題はクランの話になった。もうすでにお茶漬がギルドや神殿に条件を聞きに行ってくれたらしく、どこでも基本料金三十万シルでクランを登録、メンバーを増やすごとに一人につき十万シル。六人で登録すると全部で九十万シルかかることになる。
「一人あたり十五万シルですね」
「そんな金ねぇ」
「同じくない!」
獣コンビが悲鳴をあげる。
「レオはともかくシンは『月光石』を売った金とかどうしたんだ?」
レオは鍛冶で使ってしまったと言ってたがシンは売ったと記憶している。
「博打に使ってすっからかんよ」
「アホでし」
「トイチで貸そうか?」
博打なんかするとこあるのかと思っていると、端的な菊姫の感想とお茶漬の高レートな貸付案が。
「どこで登録する?」
「職業と生産はみんなバラバラだから却下だな。入るなら個別で」
「領主と神殿もめんどくさそうでしよ?」
「冒険者か商業かな」
「そういえば馬車移動放置しにきたとき荷物整理に冒険者ギルドよったら、さっそくクラン登録してた奴らいたわ」
「早いでしね〜」
「まあこれは特に効果半減とかペナ無いと思うから掲示板でどっちがいいか情報ひろっときます」
「おー、あんがと〜」
「礼はいいから金貯めて。ホムラはペテロに希望聞いといて〜」
「了解」
後でメール入れておこう。
「オレ、正式に工房にこないかっていわれてんだけど、所属ってことになんのかな?」
「なるんじゃないか?」
「レオは個人所属、鍛冶にするんでし? どっかに釣りギルドとかあるんじゃないでしか?」
「序盤であるんならセカンとか? 海あるし?」
「うーん、とりあえず釣りあるか探してみっかな」
「アナウンスでも所属をしなくても組織の信頼を得れば同等の待遇が〜とか言っていたろう。いざとなったら頑張れ」
そういう自分は何にしよう?
「がんばー」
「五人で大丈夫かね?」
「昼間カルマ達とやったけど余裕だったから平気でしょう」
クランハウスは幾らだろうとか話しているうちにボス前に着いた。
お茶漬は昼間、だいたいリアル友人らしいカルマと攻略よりのパーティーに入っていることが多い。この世界にもカルマは来ている、たぶんごくたまにメンツがたらん時には私も呼び出されるだろう。
さて二回目のサークルモスだ。
あ、道中の戦闘で【魔法陣製作】がスキル取得リストにでましたよ!
あと【伐採】、『枇杷』の枝払ったからか。
□ □ □ □ □
・増・
【ファルの祝福】【ファルの聖者】
スキル
【水魔術】→【水魔法】
【氷魔法】【神聖魔法】
□ □ □ □ □
ホムラ Lv.32
Rank C
職業 魔法剣士 薬士(暗殺者)
HP 1057
MP 1335
STR 44
VIT 24
INT 71
MID 20
DEX 26
AGI 45
LUK 25
NPCP 【ガラハド】【-】
称号
■一般
【交流者】【廻る力】【謎を解き明かす者】
【経済の立役者】【孤高の冒険者】【九死に一生】
【賢者】【優雅なる者】【世界を翔ける者】
■神々の祝福
【タシャの祝福】【ヴァルの寵愛】
【ファルの祝福】【ヴェルナの祝福】
■神々からの称号
【タシャの弟子】【ファルの聖者】
【神々の時】
■スレイヤー系
【リザードスレイヤー】【バグスレイヤー】
【ビーストスレイヤー】【ゲルスレイヤー】
【バードスレイヤー】
【ドラゴンスレイヤー】
■マスターリング
【剣王】【賢王】
スキル(3SP)
■魔術・魔法
【木魔法Lv.7】 【火魔術Lv.7】【土魔術Lv.7】
【金魔術Lv.7】 【水魔法Lv.7】【☆風魔法Lv.8】
【光魔術Lv.16】【☆闇魔法Lv.21】
【☆雷魔法Lv.12】【☆氷魔法Lv.1】
【☆空魔法Lv.10】【時魔術Lv.2】【ドルイド魔法Lv.1】
■治癒術・聖法
【神聖魔法Lv.1】
【幻術Lv.1】
■魔法系その他
【マジックシールド】【重ねがけ】
【☆範囲魔法Lv.3】【☆行動詠唱】
【☆詠唱短縮Lv.6】
■剣術
【剣術Lv.22】【スラッシュ】
【刀Lv.21】【☆一閃Lv.9】
【☆幻影ノ刀Lv.9】【☆見切りLv.11】
■暗器
【糸Lv.1】
■召喚
【白Lv.1】
■精霊術
水の精霊【ルーファLv.3】
闇の精霊【黒耀Lv.4】
■才能系
【体術】【回避】【暗号解読】
■移動行動等
【☆運び】【跳躍】【☆滞空】【☆空翔け】
■生産
【調合Lv.15】【錬金調合Lv.17】【料理Lv.10】
■収集
【採取】【採掘】【伐採】
■鑑定・隠蔽
【道具薬品鑑定Lv.12】【植物食物鑑定Lv.10】
【動物魔物鑑定Lv.10】【スキル鑑定Lv.7】
【武器防具鑑定Lv.7】【看破】
【気配察知Lv.21】【気配希釈Lv.19】【隠蔽Lv.11】
■強化
【腕力強化Lv.4】【知力強化Lv.5】【精神強化Lv.5】
【器用強化Lv.5】【俊敏強化Lv.5】
【剣術強化Lv.5】【魔術強化Lv.4】
■耐性
【酔い耐性】
■その他
【HP自然回復】【MP自然回復】【暗視】
【地図】【念話】
【装備チェンジ】【☆武器保持Lv.3】
【生活魔法】【☆誘引】
【盗み防止Lv.21】【罠解除】
【開錠】【アンロック】
☆は初取得、イベント特典などで強化されているもの
 




