40.資料室と宿屋の鹿肉
ギルドの資料室にお邪魔してます。
「君、本当よく篭るね。他はほぼ立ち読みだよ」
「戦ってるか生産してるか本を読んでるしかしてない気はするな」
「僕と会話もしてる」
戦い6:生産0.5:読書3:人との会話0.5みたいな比率だが。
他の冒険者は何をしているのだろう。ペテロは暗殺に勤しみ、レオは釣りのためにあちこち駆け回り、お茶漬は効率よく金を儲けているのだろう。その辺は大変想像しやすいのだが。
暗殺者ギルドで情報開示はないと言われて、自分で下調べするなり表情も仕草も変わらんようなギルマス(推定)の雰囲気から情報を読み取るなりしないといかんようだ、と考えつつ、扉を見て。
そこに暗号とも言えない暗号をみた。
情報を読み取ろうと意識して視ないとただの落書き。たぶん、情報を見落とすなという軽い警告。
暗号解読の参考になるものはないかとアルに頼むと、よく使われるものからマニアックなものまで取り揃えてくれた。
他の新米冒険者は大体が敵の弱点と分布、薬草類の外見の確認で終わるそうな。中には私と同じように長居するのもたまにはいるらしい。あとパーティーで来て騒いで出禁が何組か。個人的にはここに出禁って辛いんじゃないかと思うのだが、どうなのか。アルの話を聞いていると利用率高くなさそうだが。まあ、他の街のギルドの資料室を使えば済む話か。
暗号はパズルのようで面白いが、「暗号と気づく」のがまず大変だ。
暗号だけ抜き出した本を読む分にはいいが、果たして日常生活の中でこれらを見かけて暗号と気づくだろうか。まあ、暗殺者ギルドの依頼達成は機会があったら程度なのだが。
知力は高くなっているはずなのだが、知力の他に閃きがなければ解けないものもある。特に親しいもの同士で作ったと思われる暗号はキーとなる共通の何かがわからなければ解けない場合がほとんどだ。これ、暗号解く人ってすごいな。
途中、下の食堂に夕食を食べに行くから部屋を空けるというアルを見送って資料を読みふける。覚えられそうにない法則は書写。読み終えた資料が積み上がり、暗号の法則や注意点を写した数が五枚目に達する頃、【暗号解読】のスキルを得た。本当にいろんなスキルがあるよな。
ただし【暗号解読】は【回避】や【体術】の頭脳版らしく、ひらめきやすくはなるようだが基本自分の知識に左右される、のか? ということで引き続きアルの置いていた資料を読み漁る。
このまま夜中まで資料室にこもろうとしたが、アルが戻ったところで今日は鹿のロースだ! と気が付いて慌てて宿屋に帰る。
鹿肉はロースト、シチュー、赤ワイン煮になっていた。
おかみさんと旦那、両方とも料理上手だが、肉料理は旦那の方が上手い。おかみさんは卵料理が火加減絶妙。手の空いた日は夫婦で食べ歩きしてるらしい、いいなぁ。
半日煮込んだという赤ワイン煮を頼むと、宿屋の親父が礼を言ってくる。
「あんたのおかげで今日はみんな旨いもんにありつけた」
夕食を予約している客も追加で二皿三皿と食べている状態だそうだ。何よりです。
食堂にいる連中に紹介すると言うのを固辞して空いている席に着く。
程なくして皿に盛り付けられた肉とサラダが来た。
ワイン煮と言っても汁物ではなく、表面を焼いた肉塊を赤ワインで煮込み、取り出し、それを厚切りにして煮汁を整えたソースをかけたものだ。小さな玉ねぎをオーブンで丸のまま焼いたものとキノコのソテー、彩りなのか赤い小さな生のラディッシュが葉付きのまま付け合せになっている。
周りがビールを頼む中、甘さを抑えたジンジャーエールのようなノンアルコールの飲み物を飲む。
料理の評価が5に上がってるよ、親父。
あれか、住人が評価4の軛を離れるのってプレイヤーが素材を持ち込んで生産を依頼することか?
柔らかい。
箸で崩れるほど柔らかい。箸じゃないけど。
鹿肉は脂肪が少ないのでそうしつこくはないが、パンと交互に食べると永久運動だ。最後はパンでソースを拭っていただきました。満足です。
満腹すぎてちょっと風呂に入るのも億劫だが、この世界、アイテム欄から行えば服を脱ぐのも着るのも一瞬なので烏の行水をしてベッドに潜り込む。少し早いがリアル夕食と風呂にしよう。
ところで武器になるような『糸』ってどこに売ってるんだろうね?
リアル世界で紅茶を入れて、伸びをする。
メールをチェックしたらレオから「サーのボス行こうぜ〜釣りのリベンジに門開けたいw」とのメールとそれに返事をするシン達の一斉送信メールが入っていた。
ダンジョンに行く前に死に戻ったあれか。何釣ってるのか知らんが、次は海釣りでセカンなんだろうな。現実時間二十一時にサーで待ち合わせというのにOKメールを出して夕食にする。
カレーの作り置きだ。作っておきさえすれば皿一つで事足りるし早くていい。
風呂に入って再びログイン。
宿で起きて、食堂で鹿肉のシチューを食べると外に出た。
鹿肉のワイン煮込みのソースに加工されなかった汁は、シチューが煮詰まり過ぎないようシチュー鍋に継ぎ足されているらしい。薄まったり味にムラが出なくていいな。
現実世界と異世界とで食ってばかりいる気がする。
神殿経由でフォスに移動する際、昨日の神官を訪ねて熊シチューを孤児院で食べて余ったらスラムで炊き出しでもしてくれと大量に押し付ける。ついでのように遠回しに、いや、ストレートにお布施を要求された。追剝ぎ神官め。
昨日の子供達は意識がしっかりしたらしい。会っていったら喜ぶと言われたが固辞して転移門をくぐる。
フラグは折りますよ?
自分で言うのもなんだが昔から仕組まれたようなキャラとのイベントよりも新しい世界を見たり戦闘が好きなのだ。ペテロの言うことには、すでに住人の幼女をターゲットとしてフラグを立ててハーレム目指してるプレイヤーも存在するそうだ。
ハーレムするにはパーティーカードは一枚なきがするがその辺はスルーなのだろうか。色々謎だがとりあえず、ペテロと迷子幼女との進展を聞いておいた。
なお本人はあれから会っていない! と強硬に主張。
フォスに出ると生憎の雨だった。
霧雨のような雨で視界が悪い上に、傘が意味をなさない。この世界に傘があるかは知らんが。
コートをローブに着替えてフードをかぶる。宿の夕食時間を優先したために出発は真っ暗な中となった。
夜目は効くが雨のせいか【気配察知】がしづらい。
戦闘は避けてファイナにつくことを優先にするつもりが敵を引っ掛けまくる。魔力察知とか他の敵探索系の能力も取るべきだろうか。
『シャドウ』はかけていたのだが、数が多すぎる。目視し慎重に行けば避けて通ることができるのだが、時間が掛かるため、もう避けようとせずに走って出会い頭に斬り捨てていっている。【運び】のおかげかぬかるんでいるが足元は気にならない。
ジャッカロープという鹿の角を持つ兎が繁殖している。角が大変邪魔そうなのだがどうなのか。仲間を呼ぶ系なので手早く倒す。
でこぼことした地形に、穴に半分埋まった兎、うっかりすると踏みそうだ。
……レベル上げにいいかもしれない、地図にメモメモ。
【狐火】を使ってくる二尾の狐というモンスターがでた。この狐は『シャドウ』を見破って、【狐火】を投げてくる。そのうち九尾の狐が登場しそうだな。そしてもしやこの平野は狐が兎を獲る生態系ができているのだろうか。
尻尾を見て白をもふりたくなるが、この雨で呼び出すわけにもいかない。
放ってきた【狐火】を斬ってそのまま距離を詰め二尾の狐を倒す。
ジャッカロープよりも分布は少ない気がするが、『シャドウ』を見破り多少距離があっても【狐火】を飛ばしてくるため戦闘回数は多くなった。そのまま走れば振り切れる気はするが攻撃してきたならば倒すのが主義だ。
結果、ジャッカロープの角・毛皮・胸肉、二尾の狐の毛皮・牙・尻尾がアイテムポーチにたまってゆく。
アイテムポーチは新しくしたし、生産物は委託販売に突っ込んできたので荷物には大分余裕がある。
《お知らせします。炎王他五名によってファイナの街が解放されました》
あれ、解放された。
まあロイたちのパーティーは全員そろっていないようなので、平日昼間に全員揃っているパーティーに追いつかれた感じか。
木立を抜け、広い川を渡ると首都が見えてきた。ファイナの城は他よりも小高い丘に海を向いて建っている。
首都ファイナは海の街だ。二本の川に挟まれた広い中州のような場所に立地し、ファイナは城に城壁はあるが、街の周囲には壁の代わりに広い川と海が街を囲み自然の守りとなっている。川から引き入れた広い運河が街の中を流れ、小型船が行き来している。後ろに見える海には港に入る手続き待ちなのか数隻の帆船が停泊している。
今は垂れこめる雲と雨のせいで鈍色の海だが、晴れていれば素晴らしい風景だったろう。
誰かが海は空の色を映しているから青い! とか言っていたが同意してやってもいい気分だ。なにせここはファンタジー世界だから。
地球のように地形で海が荒いとか赤道に近いから暑いとかはもちろんあるが、それを上書きするどこそこには火の精霊がいるから暑い、風属性のエンシェントドラゴンがいるから海が荒れるというのが平気である。地形も気候も比較的穏やかなこの人間の大陸にはナルン山脈のどこかに水属性の古竜がいる伝説がある。
陸路から入れる門はフォスから北へと続く街道の終わりとなる南門と、隣国アイルへ続く道へ出る東門の二箇所。北と西は海へと面した港。
城は北西向いて建てられており、ファイナの街の正面玄関は海だ。
昔は南西からセカンに続く街道があったそうだが、セカンもまた港を持つ海に面した街であるため、運輸や人の行き来に船が使われ、今はろくすっぽ手入れをされず獣道と化している。セカンからファイナへ移動する場合、小型の帆船に乗り海から城を正面に見ながら入港することになる。
街道を外れた場所を走ってきたが街道へと戻り南門を目指す。
灰色で覆われた空のせいで暗いが、とっくに夜が明けている。すでに解放状態であるため、ギルドカードを見せるだけで門での面倒な手続きや足止めもない。
「すまんが、冒険者ギルドの場所を教えてもらえるか?」
「ああ、そこの掘割の左側二番の渡しに乗れば終点だ」
水路を案内された!
門から広場をまっすぐ行くとそのまま陸路で街中へと入る堀を渡る橋がある。
その橋の右側に二番の渡しはあった。渡しへと降りる石段を三段ほど降りると船頭の乗った六人乗りの船が舫ってあった。朝早いせいか住人の客がいる様子もなく、冒険者の姿も見えない、貸切だ。ああ、六人乗りってフルパーティー用か。
「冒険者ギルドへ行く便でいいか?」
「おぅ、直通になるがいいか?」
「ああ、よろしく頼む」
船酔いは怖いが私には【酔い耐性】という強い味方があるのだ。
船に乗り込む。雨で座席が――座席といっても板が渡してあるだけだが――濡れている。まあ仕方がないと座ろうとすると船頭が声をかけながら何かを投げてくる。何かと思ったら毛皮だ。
「それ尻の下に敷いてくれ」
毛皮を出したらしい箱を閉めながらそう勧めてくる。
うむ、尻が濡れるのは私も嫌だ。ローブは多少水を弾くようにできているのか中まではしみていない。が、座って濡れた面に押し付けていたら尻だけ水が浸みる気が。立ち上がった時に尻だけ服の色が変わった姿も遠慮したい。有り難く使わせていただく。
「ありがとう」
毛皮を敷いて腰を落ち着けると船頭がオールで軽く桟橋をついて離岸する。
生憎の雨ではあるが、石積みされた運河の中から見る風景は物珍しくて退屈しない。ベネチアみたいなものなのだろうか? 行ったことないが。
どこかで仮面を買うべきだろうか。いや、ベネチア的なあれでなにでなく、顔を隠す的な目的で。この小舟でもそうだが『シャドウ』がきれる場面は多々有るし。今早急に必要な気がする。
何故なら黒百合がゴンドラに乗っているのを目撃した。
水路と水路をつなぐ場所を通った時に、隣の水路にチャーターなのか白いゴンドラに白いパラソル、フリルが付いていたしパラソルで間違っていないと思うが、それの下にクッションに埋もれて男たちに囲まれた黒百合を見たのだ。
しかもなんか溢れた男が二艘目に乗って並走してた。そっちはそっちで男船になってて嫌なかんじだった。逆ハーレム? 作るの早くないか?
見つかったら絡まれそうなので観光するつもりだったが、ギルドで用事を済ませたらとっとと神殿に行こうと思う。逆方向に進んでいたようなのでしばらくは平気だと思うが。
王都というだけあって広い街だ、だがしかし冒険者ギルド・神殿と必ずかぶる目的地というものがある。
今度は炎王だったか? に街の解放先にされてぷりぷりしてそうだしな。
顔を隠すものが本気で欲しいが、仮面つけても体格やら髪型でわかってしまう気がするのだが、世の中の顔丸出しの魔法少女などはどうやって身バレを防いでいるのだろう。
「神殿はどっちの方角にあるか教えてくれないか?」
「神殿か、ほれ、城があそこだ」
船頭が水路の進行方向を指して言う。
主要な水路は城の方向からほぼ放射状に伸びているそうで、広い水路を行くときは城を正面にしているか、背中にしているかのどちらかになることが多い。もちろん、城まで直接繋がっている水路は少ないが。放射状に伸びた水路同士をつなぐ太い水路はカタツムリのように城の側から渦を巻き、城から遠くなる程間隔が広がる。あとの細い水路は貴族や大きな商家が自分の都合のいいように引いた結果らしい。
許可制になっている水路引きは城から遠いほど許可がおりやすいそうだ。
水路をゆく小舟は雨だというのに多くみかける。客が自分たちで傘をさしていたり、ゴンドラ自体に傘が付いていたりする。それでも結構濡れると思うのだが、気にしないのだろうか。
「城から見て南が冒険者ギルド、東に神殿がある。ギルドから神殿に行くなら陸の道のほうに出て、正面の水路の三番に乗りな。あとここの住人は水路のことを「道」と言うことがあるから迷子になんねぇように気をつけなよ」
「ありがとう、他に聞いておいたほうがいい情報はあるか?」
「そうだな、俺ならロブスター侯爵家には近づかないね」
開発者は腹が減っていたのだろうか……何人めだよ食物の名前!
「着いたぞ。お代はそこの籠に頼む」
ロクでもないことを本気で考えていたら着いたようだ。500シルを籠に入れて礼を言って降りる。
冷静に考えれば、馬車と比べてものすごく割高だと感じてもいいのだがゲームらしく進めば進むほどシルが貯まってゆくせいか高いと感じない。私の場合は所持金に進み具合は関係ないが。
船が着いたのはなんというかギルドの建物の裏口、玄関ステップに直づけみたいな。裏口にしては広く、
ファストのギルドの正面より広い。雨のためか扉は閉まっている。
扉を開ける前にローブを軽くふるって水を飛ばす。っと、ここで【生活魔法】の『乾燥』です。便利。
フードを目深にかぶりなおして扉を開ける。
まあ、プレイヤーは居なかったわけだが。街が解放されて、馬車開通直後に乗ってもまだ着いていないはずだし、たまたまファイナの周辺にいた者しか入れないタイミングだ。
さて用事をすませよう。
□ □ □ □ □
・増・
スキル
【暗号解読】
□ □ □ □ □
ホムラ Lv.32
Rank D
職業 魔法剣士 薬士(暗殺者)
HP 1057
MP 1335
STR 44
VIT 24
INT 71
MID 20
DEX 26
AGI 45
LUK 25
NPCP 【ガラハド】【-】
称号
■一般
【交流者】【廻る力】【謎を解き明かす者】
【経済の立役者】【孤高の冒険者】【九死に一生】
【賢者】【優雅なる者】
■神々の祝福
【タシャの祝福】【ヴァルの寵愛】
【ヴェルナの祝福】
■神々からの称号
【タシャの弟子】【神々の時】
■スレイヤー系
【リザードスレイヤー】【バグスレイヤー】
【ビーストスレイヤー】【ゲルスレイヤー】
【バードスレイヤー】
【ドラゴンスレイヤー】
■マスターリング
【剣王】【賢王】
スキル(3SP)
■魔術・魔法
【木魔法Lv.7】 【火魔術Lv.7】【土魔術Lv.7】
【金魔術Lv.7】 【水魔術Lv.7】【☆風魔法Lv.8】
【☆雷魔法Lv.12】【光魔術Lv.16】【☆闇魔法Lv.21】
【☆空魔法Lv.10】【時魔術Lv.2】【ドルイド魔法Lv.1】
■治癒術・聖法
【回復Lv.6】
【幻術Lv.1】
■魔法系その他
【マジックシールド】【重ねがけ】
【☆範囲魔法Lv.2】【☆行動詠唱】
【☆詠唱短縮Lv.4】
■剣術
【剣術Lv.22】【スラッシュ】
【刀Lv.21】【☆一閃Lv.9】
【☆幻影ノ刀Lv.9】【☆見切りLv.9】
■暗器
【糸Lv.1】
■召喚
【白Lv.1】
■精霊術
水の精霊【ルーファLv.3】
闇の精霊【黒耀Lv.4】
■才能系
【体術】【回避】【暗号解読】
■移動行動等
【☆運び】【跳躍】【☆滞空】【☆空翔け】
■生産
【調合Lv.15】【錬金調合Lv.16】【料理Lv.8】
■収集
【採取】【採掘】
■鑑定・隠蔽
【道具薬品鑑定Lv.8】【植物食物鑑定Lv.6】
【動物魔物鑑定Lv.8】【スキル鑑定Lv.6】
【武器防具鑑定Lv.7】【看破】
【気配察知Lv.21】【気配希釈Lv.19】【隠蔽Lv.10】
■強化
【腕力強化Lv.4】【知力強化Lv.4】【精神強化Lv.5】
【器用強化Lv.4】【俊敏強化Lv.5】
【剣術強化Lv.5】【魔術強化Lv.4】
■耐性
【酔い耐性】
■その他
【HP自然回復】【MP自然回復】【暗視】
【地図】【念話】
【装備チェンジ】【☆武器保持Lv.3】
【生活魔法】【☆誘引】
【盗み防止Lv.21】【罠解除】
【開錠】【アンロック】
☆は初取得、イベント特典などで強化されているもの




