39.スラムと暗殺と騎士と属性石
さてこれはどうしたものか。スラムちょっとイベント起きすぎだろう。
こういう時には神殿か騎士だろう、独断と偏見だが。
そういうわけで、左右に一人ずつ抱いて露店街へもどった。伝染性の病気だったら人のいるところに行くのは危険だが、特に咳や嘔吐、皮膚の変化などはない。しいていうならカサカサと乾燥している。
それよりなにより二人ともとても軽い、ヤバイくらいに軽い。どう考えても食べていないのが原因だ。話す気力もないのか、私の胸に寄りかかって相変わらずぐったりしている。
「すまん、子供を拾った。たぶん、空腹で餓死手前だ。どうしたらいい?」
スラムに入るときに声をかけてくれた騎士に声をかける。
でるとこでた猫耳フラグ折ったら今度はロリショタフラグだったんです! しかも初遭遇は折っちゃいけない系!
「スラムの子ですか……、神殿で一時的に預かってくれますが」
困惑したような若い騎士。
微妙な反応だが、ここで騎士にスラムについてどう思っているのか問いただして話し込んでいても仕方がない。礼をいって神殿に向かう。たぶん、神殿の方がこういった対応に慣れているだろう。
ゲームの中とはいえ、ついさっき人を殺した。
そして今、幼い二人をベッドに寝かせ神官と話している。
のんびりするつもりが目まぐるしすぎる気がするのだが、どうなんだ。
「餓死寸前でしたね、いきなり固形物や栄養価が高いものを食べさせなかったのも正解です。食べていない人にいきなり食べさせるとお腹を壊して余計体力を奪われますからね」
目尻にシワのある年配のエカテリーナという女性神官が言う。
神殿と作りもまったく違ったので同じ神殿の管轄と気がつかなかったが、神殿の西隣りに兵舎のような長方形の孤児たちが過ごす棟がある。二階に三段ベッド六人部屋の狭い部屋が十二部屋並び、一階には風呂と食堂、幼い子が遊ぶ部屋、他に神殿で信徒に売る蝋燭などを作る作業部屋がある。
作業部屋では年かさの孤児たちが蝋燭を作ったり、そのほか神殿で販売するちょっとしたものを作ったりしているそうだ。
午前中は一般教養的お勉強、午後は前述の蝋燭作りなどの神殿への奉仕か、冒険者ギルドや商業ギルドから依頼のくる、清掃や届け物のお使いなどの冒険者が受けないような簡便な依頼を受ける。また一定の年齢になるか、幼くとも本人にその気があれば協力してくれる工房での技能の習得に当てられている。
「この街にいる獣人は大抵がお隣の大陸から逃げてきた方々です。隣の大陸に住む魔族はかろうじて人族と敵対してはいませんが、友好的ではありません。獣人に至っては奴隷紋という魔法で支配し、使役しているようです」
何も持たずに身一つで逃げてきた、ということだろう。
「幸い比較的この街は豊かですが、よその方を大勢支えられるほどでもありません。獣人の方々は力と体力に優れた方が多く、元手のかからない冒険者になることが多いのですが、貧困ゆえか無理をされる方が多く命を落とされる方も他の種族より多いんです」
具体的には金につられて身の丈に合わない魔物に挑んだり、他のパーティーの盾として雇われて一番の危険を引き受けるなど。そして冒険にでられない幼い子が残る、と。
ところでエカテリーナさん、真面目な話をしている間中、私が寄進したシルをいじるのやめてください。その一点を除けば、話し方も穏やかだし、連れ込んだ二人の子供に向ける眼差しも慈愛に満ちている。
だがその一点が割と致命的なんだが。大丈夫なのこの神殿?
「こちらで過ごせるのは十二歳まで、それまでに手に職をつけるかどこかに貰われるか。神殿も他の孤児達を受け入れなければならない関係上、十二になったら自立のめどが立っていなくとも出て行っていただくことになります。これは寄進を増やしていただいても変わりません。子供に不公平感を与えるのは先々よくありませんので」
その言葉でむしろほっとした!! シル次第で優遇しますよ!! て言われたら不安になるわ!
……あれ? でもエカテリーナがシルをいじっていない状態で、穏やかに神殿の為にもなりますし、とかいわれたらむしろ安心してほいほい出していたかもしれん。子供に対する罪悪感軽減のためにも。
もしやエカテリーナは無駄な罪悪感を抱かせないために……
ってそんなわけないな。
すごくいい笑顔でシルの入った袋に頬ずりしているし。
子供二人を神官に託し神殿を後に、住宅街の目立たない建物の扉を再び開ける。
影から光、そして影へのような何か。
そういえば、依頼の確認はギルドカードでできるものなのだろうか。
「おう、依頼を終えたな?」
薄暗い部屋の中、最初に会った中肉中背の男が声をかけてくる。
「ああ、ついさっき」
今更だがこの男がギルドマスターでいいのだろうか、なんとなく直接聞いても教えてくれない予感がするが。
「これは暗殺者ギルドからの報酬だ」
シルの入った袋を投げてよこす。
どうやら依頼達成の確認はすでに済んでいる様子。
受け取ると所持金が5万シル増えた。人の値段としてはだいぶ安いが、ゴミの値段としては高い。判断が難しいが、まあ、暗殺でもらった金はそのまま神殿に寄付として突っ込もう。地産地消地域還元。
「で、初依頼達成記念にスキルやるから二つ選びな」
【毒薬調合】【毒魔法】【呪術】【暗器】【影潜り】【幻影の刃】【パラライズクロー】【幻術】【糸】
ペテロがとったのは【影潜り】か。【暗器】もとってそうだな。
「他でも取れっけど別職で取るより効果が高いぜ。掟を破ると消えちまうがな」
そうだった、粗相すると暗殺者でとったスキルは消えるんだった。
【毒魔法】気になるな。でも魔法使いやってればいつかは取得できるスキルなのか。
【影潜り】も他でどうやって取得するかさっぱりだが、『シャドウ』で代行できる気もする。
【暗器】は……あとで工房借りて作ってみれば取れそうだしな。
【呪術】まであるのか。【呪術】で暗殺って、対抗してこの世界にも陰陽師ありそうだな。いやもっと西洋的呪いなのか?
【幻影の刃】は【幻影の刀】の短剣版のようだ。短剣は使わないのでこれはスルー。
【パラライズクロー】は爪スキル。爪特化いるのか?
【幻術】は幻を見せるスキル、【糸】は武器スキルだ。
「そういえば、今回は暗殺対象の情報も依頼者もはっきり教えられたが、次回からもその情報は開示されるのか?」
私のイメージではよっぽど凄腕でない限り、依頼者が誰か実行犯にはバラさないのが安全だと思うのだが。
「いんや。初依頼は特別、バラしてもいいおキレイな依頼を持ってきてる。今後も殺る対象者の情報はだすが、依頼者と何故殺るかはださねぇ」
ああ、やっぱり。
「では【幻術】と【糸】で」
影潜りと呪術も欲しいがここはこの二つで。
幻術も呪術も街中で使える。暗殺者でもらえるスキルは、まあ、そういうことなのだろう。武器スキルの中でもものによっては街中で使えるものもあるようだ、というかある。
今までにない系統のスキルで、【糸】はLv.1が『聞き耳』で効果が「糸を伸ばして声を拾う」だったのでとってみた。
うん、もしスキル消えても普通の戦闘に影響しないものを選びたい。【隠蔽】が消えるのはすでに困るが。
「わかった、受け取れ。あと新しい依頼な」
ギルドカードのような薄い板を受け取ると触れた途端消えた。
《スキル【幻術】を習得しました》
《スキル【糸】を習得しました》
「依頼はここで読んで燃やしてけ」
渡された依頼に目を通す。
依頼書は燃やしてもクエスト一覧に残るかと思いきや、きっちり消えるので覚えなくてはならない。これからすぐ暗殺しにいくならともかく、ついででクリアできるときには忘れてそうだ。
「ああ、そういえば。依頼以外のスキルやギルドの場所を同業者と話しても平気か?」
「スキルの話はある程度ならかまわねぇ、ギルドの場所はやめとけ」
「了解」
ある程度というのが厄介だ。まあ、ペテロが話した程度のことなら大丈夫なのだろう。
暗殺者ギルドをでる。
閉めた扉に今まで気がつかなかった図形を見つけた。入るときは落書き程度にしか思っていなかったが、よく見ると意図をもって書かれた図形に見える。暗殺者ギルドのマークを暗号化したものなのだろう、たぶん。
同じ街並みに混じっているのが信じられないくらいギルドの中は雰囲気が違う。【隠蔽】や【気配希釈】、もしくはその上位のスキルなのか、目視して意識できる人数と気配の数が違う。見た目と実際が乖離しているような気がするのだ。
ギルドを後に、陽の下にでて若干緊張していた自分をようやく自覚する。
ルビーベリージュースを口にしながらゆっくり歩く。
早く気分を変えて騎士の訓練を受けるとしよう。今日はその後、夜まで生産して、休憩を挟んでファイナを解放しに行こう。ロイたちが解放するのを待って馬車で行こうかと思っていたが、今なら走れば1日あればつくだろう。
本日はリブの相手でした。
堅実な剣を使うというリブは私の太刀筋を矯正してくれた。
……素振りは最初にやろうぜ? なぜ今なんだ。
速さよりも正確に打ち降ろし止めるのを繰り返し、型でもゆっくりぶれないように。どう考えても最初にやることだと思うのだが。まさか次は筋トレさせられるんじゃないだろうなおい。
リブと並んでゆっくり型をなぞる。太極拳みたいだな。
ゆっくり手を並行に動かしたり踏み出したりするのはなかなか筋力を使う。
手がぶれないように。
切っ先が揺れないように。
剣を振るう。
狭かった視界がだんだん広がってゆくとともに無心になってくる。
手の動きも足の運びももう意識の外だ。
空気と一体になったような感覚に陥った。
自分がゆっくりと動いているのか、時間がゆっくりと流れているのか。
不思議な感覚だ。
なかなかいい。
日課にしようかと考慮するくらいには。
そして終了後、やはりお約束でお茶を飲んでいるところにリブが来たわけだが。
「ゆっくり型を遣うのはなかなか体勢維持が大変だな」
「……」
うん、無口だね。指導の間もほとんど話さなかったものな。
何で来た!
とりあえずこちらも無言でお茶を差し出しておいた。ちょっとだけ口角が上がって黙礼してきたので飲みたかったのだろう。
「見事な型だった」
飲み終えると一言を残して離れていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ただいま、生産施設で属性石を練成中。騎士から訓練を受けて生産の流れがデジャブだ。
あれです、無属性石。
引いてダメなら足してみな、でした。『闇』と『光』の属性石を合成したら無属性が完成!
『木』、『火』、『土』、『金』、『水』の属性石を混合してもできそうだし、そちらの方が安上がりだが、試すには五つを混合できるまでの道のりが長そうだ。高いんだよ、『光』と『闇』、『風』。
最初に錬金調合できるのは二つの物質、もしくは魔法。レベル10で三つになった。
相反する性質のものは失敗しやすい。
同じもの、例えば『火属性石』と『火属性石』を合わせると評価が高くなる。評価4だったものが同じものを合わせる度に一つずつ評価が上がる。評価が高くなる度失敗しやすくなる。
錬金は、何かと何かを合わせて新しいものをつくるか、同じものを合わせて評価を上げるかのようだ。
調合や料理は評価1が一番の失敗だが、練金は使ったアイテムが爆発したり、謎の物体Xになったりして使えなくなる。失敗するとアイテムは消失し、手元に残らない。成功する確率は器用さと錬金レベルと運でもって上がるらしい。
最初から錬金できないものはそもそも何も起きない。
そしてもう一つ、イレギュラーと呼ばれる意図したものとは別のものが出来ることがごく稀にあるそうだ。こちらは錬金に限らず、生産で稀にでるらしい。
そういうわけで、たくさんため込んでいたので評価の低い魔石同士を錬金しまくり、評価10を幾つか完成させた。10なら武器強化の成功確率が上がるはず。
同じもの同士の合成は、器用が足りていても7から8に上がる場合と8から9、9から10への強化には低いながら必ずマイナス補正がつき、一定の確率で壊れる。
8から9になるところで壊しまくったりしたが、レベル上げと割り切って錬金し続けた。むしろ9から10への錬金の方が成功し易く感じた不思議。ギャンブル要素の多い生産技能である。
種類の違う物の合成については『技巧の手袋』&『マスターリング』の補正がひどい。大変ありがたいです。
購入した錬成陣には五つの円が五角形に並び、その周りを複雑な文様が囲み繋げている。
魔力を流すと円が三つ輝く。円の中に材料を入れてもう一度魔力を流せば錬金完了だ。最後に流す魔力を火の『エンチャント』にすれば【火属性】がついたアイテムが出来上がり、『無属性石』を置いて『帰還』の魔法を唱えれば『帰還石』が出来上がる。ただし、魔力でなく魔法を流す場合は円を一つ空けておかねばならない。
『無属性石』を作り、『帰還石』を作る。
高ランクの各属性石をつくりながら、武器防具生産の時に使う知力が上がったりする魔石はどうやって作るのかと考える。魔物が落とす魔石に低確率ながらついている場合もあるが、それ以外方法はあるのか。
聖法士のエンチャントだろうな。
クラウの使っていたドルイド魔法にも能力上昇、下降の魔法があったが。とりあえず『無属性石』を沢山作って、お茶漬に付与を込めてもらおう。
その場合、私が最初に魔力を流して陣を起動させ、お茶漬に魔法を使ってもらえばいいのだろうか?
タシャが他の奴に【浄化】を込めてもらえば問題ないと言っていたが、もしや「浄化の使える錬金術師に込めてもらえ」の略だろうか。
またもやシルがあるのをいいことに生産レベル上げ。
素材ランクが低くて15辺りから上がりづらかった調合も錬金で試しに合成した薬草×2と水から出来た『回復草』を素材にしたら20まで上がった。できたのはHPポーションEX。ハイポーションじゃないのかとおもいつつ同じようにMPポーションEXを作り、活性薬EXをそれぞれ製作。
戦闘職のレベルが30いっているので生産も行くと思うのだが、20あたりで上がりにくくなった。
料理が一番最初に取得したにもかかわらず伸び悩んでいたが、鹿肉だけでなく放置気味だった熊肉を大量に煮込に変えることで上げた。うん、今までほぼファスト周辺の素材だったからな、一番こまめに作ってるんだが。
熊肉の煮込みは名前の割に食べれば温まるし美味しい。だがしかし、今この世界は初夏に向かう季節。
どうしよう、スラムで炊き出しでもするか?需要のない料理を作るのは何か釈然としない気分になる。薬は平気なのだが。
ちなみに熊肉の煮込みは腕力3%アップがついていた。評価10は委託販売につっこんでおいてもいいかもしれない。そのほか酒やら何やら販売物の仕込みを終え、EP回復に自分用の食事を作る。
ナルンで手に入れた山菜を天ぷらに。
塩をつけて食べる。ほろ苦い春の味だ。揚げたて熱々サクサク幸せだ!
採取以外でも取れる素材は今の所ランク2固定のようだ。これもあまり料理のレベルが上がらない理由だろう。何でだ、美味しいのに!
そして全力で見ないふりをしていた得意錬金。
【ALL】【制限解除】
こう……、メイン職業が錬金でないと扱えない素材とかも解禁だそうです。どっちも【タシャの弟子】の効果だ。
えー、【魔法使いの弟子】はございませんか〜?
□ □ □ □ □
・増・
スキル
【幻術】【糸】
得意錬金
【ALL】【制限解除】
□ □ □ □ □
ホムラ Lv.32
Rank D
職業 魔法剣士 薬士(暗殺者)
HP 1057
MP 1335
STR 44
VIT 24
INT 71
MID 20
DEX 26
AGI 45
LUK 25
NPCP 【ガラハド】【-】
称号
■一般
【交流者】【廻る力】【謎を解き明かす者】
【経済の立役者】【孤高の冒険者】【九死に一生】
【賢者】【優雅なる者】
■神々の祝福
【タシャの祝福】【ヴァルの寵愛】
【ヴェルナの祝福】
■神々からの称号
【タシャの弟子】【神々の時】
■スレイヤー系
【リザードスレイヤー】【バグスレイヤー】
【ビーストスレイヤー】【ゲルスレイヤー】
【バードスレイヤー】
【ドラゴンスレイヤー】
■マスターリング
【剣王】【賢王】
スキル(3SP)
■魔術・魔法
【木魔法Lv.7】 【火魔術Lv.7】【土魔術Lv.7】
【金魔術Lv.7】 【水魔術Lv.7】【☆風魔法Lv.8】
【☆雷魔法Lv.12】【光魔術Lv.16】【☆闇魔法Lv.21】
【☆空魔法Lv.10】【時魔術Lv.2】【ドルイド魔法Lv.1】
■治癒術・聖法
【回復Lv.6】
【幻術Lv.1】
■魔法系その他
【マジックシールド】【重ねがけ】
【☆範囲魔法Lv.2】【☆行動詠唱】
【☆詠唱短縮Lv.4】
■剣術
【剣術Lv.21】【スラッシュ】
【刀Lv.19】【☆一閃Lv.6】
【☆幻影ノ刀Lv.7】【☆見切りLv.6】
■暗器
【糸Lv.1】
■召喚
【白Lv.1】
■精霊術
水の精霊【ルーファLv.3】
闇の精霊【黒耀Lv.4】
■才能系
【体術】【回避】
■移動行動等
【☆運び】【跳躍】【☆滞空】【☆空翔け】
■生産
【調合Lv.15】【錬金調合Lv.16】【料理Lv.8】
■収集
【採取】【採掘】
■鑑定・隠蔽
【道具薬品鑑定Lv.8】【植物食物鑑定Lv.6】
【動物魔物鑑定Lv.7】【スキル鑑定Lv.5】
【武器防具鑑定Lv.7】【看破】
【気配察知Lv.20】【気配希釈Lv.18】【隠蔽Lv.9】
■強化
【腕力強化Lv.4】【知力強化Lv.4】【精神強化Lv.5】
【器用強化Lv.4】【俊敏強化Lv.5】
【剣術強化Lv.4】【魔術強化Lv.4】
■耐性
【酔い耐性】
■その他
【HP自然回復】【MP自然回復】【暗視】
【地図】【念話】
【装備チェンジ】【☆武器保持Lv.1】
【生活魔法】【☆誘引】
【盗み防止Lv.21】【罠解除】
【開錠】【アンロック】
☆は初取得、イベント特典などで強化されているもの




